境界 【月夜譚No.19】
神社の清浄な空気を吸い込むと、煤けた心が洗われるような感じがする。だからなのだろう。何かがあるとここに来たくなるのは。
少女はうんと背伸びをして、真っ直ぐに伸びる参道を進んだ。石畳の道の両脇には玉砂利が敷き詰められ、更にその向こう側に鎮守の杜が茂っている。静かな境内に響くのは、風の音と鳥の鳴き声。神と人との境界にある神社は、ともすれば自然と人との境界にもなり得る。
手水舎で身を清め、学生鞄から出した五円玉を賽銭箱に投げ入れる。二礼の後に柏手を二度打つと、思いの外清涼な響きが境内を渡った。暫く目を瞑ってから視線を上げ、一礼。
「……よし」
一つ頷いて、制服のスカートを翻す。
これで、明日友人に謝る勇気が湧いてきた。沈んだ気持ちも、ささくれ立った言葉も、まだ胸の中にある。けれど、明日が来ればそれも良い思い出になるだろう。
鳥居の向こうに沈んでいく夕陽を眺めながら、少女はそっと微笑んだ。