第四話 理系の僕は昨日の事が信じられない。
「それって夢か幻覚じゃないのか?」
教室で自分の席に座る僕に、翔ちゃんは訝しげに訊く。
朝礼前に、昨日あった先輩との出来事を話していたのだ。
「いや、僕も最初そうかもしれないと思ったんだけど、今朝、登校中にも先輩に挨拶されたんだよ!」
「仮に本当だとしたら、憧れの先輩とお近づきになれる大チャンスじゃないか?」
「でも先輩、勘違いしてるんだよな〜」
そうなのだ。
昨日、僕の書いたラブレターを読んだ先輩は、事もあろうに、僕がラブレターの書き方を教えて貰いに来たと思い込んでしまっているのだ。
僕がうなだれていると、翔ちゃんは不思議そうに訊く。
「それは置いといて......どうしてお前は、朝からノートパソコンを開いているんだ?」
翔ちゃんの言う通り、僕はノートパソコンを机の上に開いていた。
「何って、《れいか♡ちゃっと》の改良だよ。本物の先輩と話した経験を生かして、よりリアルな《れいか》を造るのは技術者として当然だからね。それに付き合う前の会話も想定しておかないと、昨日みたいなことになりかねない」
翔ちゃんはなぜか苦笑いを浮かべていた。
むしろ用意周到な僕を褒めて欲しいところなのに。
「放課後、また文芸部の部室に来るように、さっき言われたんだ。だから、昼休みまでにプログラムを完成させて、少しでも予行練習しておきたいんだ」
「そ、そうか。まあ、ボロが出ないように頑張れよ」
そう言うと翔ちゃんは、そそくさと自分の席に行ってしまった。
◆
◇
◆
放課後だ。
文芸部の部室に行かなければならない。
少しだけ緊張しているので、一度大きく伸びをする。
大丈夫。
《れいか♡ちゃっと》のアップデートも完了して、ある程度イメージトレーニングはできた。
付き合う前の想定なら、友達と話す感覚だと思えば、気も楽になる。
準備は万端だ。
僕は覚悟を決め、翔ちゃんのところに向かうと、戦場に行く兵士のような面持ちで敬礼をする。
「行ってきます!」
「お、おう。頑張れ!」
心配そうにこちらを見る翔ちゃん。
心配するな。
今の僕に不可能はない。
今こそ敵艦を落とすとき。
さあ、行こう!戦場へ!
そう思う僕の身体は、同じ側の手と足が同時に動くようになっていた。
◆
◇
◆
やっぱりダメかもしれない。
部室の前まで来て、僕はうろたえてしまっていた。
ここまで来て弱気になるなんて、自分のメンタルの弱さが憎い。
これでは兵士は兵士でも、敗残兵......いや、脱走兵だ。
緊張と自責のあまり、右往左往していると、突然、後ろから声を掛けられた。
「君、もしかして千賀君?」
振り返ると、知らない女子生徒がこちらを面白そうに見ていた。
ーー青い校章。
どうやら、二年生のようだ。
「はい、そうですが」
すると、女子生徒が嬉しそうに、顔をパッと輝かせ、こちらを見ていた。
「やっぱり!可愛い子だから、すぐわかっちゃった!さあ、入って。話はよく零華から聞いてるわ」
零華?
先輩の知り合いなのかと考えている内に、いきなり背中を押されて、無理矢理部室に入れられてしまった。
昨日は、焦っていてよく見ていなかったが、落ち着いて見ると、とてもきれいな部室だ。
壁際の本棚には本やファイルがぎっしりと整列されており、部屋の中央には長机が二つ、くっつけて配置されている。
部屋の隅にある手入れされた観葉植物や綺麗に使われているホワイトボード、棚に飾られた数々の表彰状を見るに、文芸部の部員はかなり真面目なことが窺える。
その部屋の中央で、既に先輩が椅子に腰掛けて待っていた。
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