第二話 理系の僕はやけに心が落ち着かない。
教室を出て、いつも通り廊下を歩いて靴箱を目指す。
いつも通りと言っても、入学してまだ一ヶ月も経っていないけど。
放課後の校舎は、西陽が眩しく、とても静かだった。
校内が橙色に染まり、まだ肌寒い季節だというのに心は暖かく感じ、頭がぼーっとしてくる。
僕はまだ部活に入っていないから、こんなに遅くまで校舎に残ったことはない。
大抵翔ちゃんとゲーセンなり、カラオケなりどこかへ遊びに行く。
そういえば、一人で帰るのはこれが初めてだなあ。
......なんだか急にそわそわしてきた。
こういうとき、いつもとちょっと違うことをしてみたい気分になる。
この棟は四階まであり、上から三年生、二年生、一年生の教室、一階は図書室や保健室と言ったその他の教室がある。
僕はいつも通る階段より僕の教室に近い方の階段を降りてみた。
ここの階段は、日頃上級生が使うことが多く、なんとなく利用を避けていたため、まだ一度も通ったことがない。
ちょっとワクワクしながら降りていくと、降りた先は靴箱だった。
あまり面白みのある場所ではなかったため、少しがっかりしたが、靴箱に付けられた青い校章を見て、僕はあることに気付いた。
――ここは二年生の靴箱だ。
文学寺高校では、学年がすぐわかるように学年毎に学年カラーなるものが存在する。
一年は黄色。
二年は青。
三年は赤。
シューズや制服につけるバッジなどがこの学年カラーで統一されている。
校舎の玄関口は学年毎に分けられており、いつも使っている一年の靴箱には黄色の校章がある。
そして、ここにある校章は青色。
つまり、ここは二年の靴箱だということだ。
ここのどこかに文学寺先輩の靴箱がある。
いつか渡すなら、先に下見を済ませておくのも悪くないかもしれない。
心の中でそう思い、先輩の靴箱を探し始めた。
「えーと。ぶ、ぶ、ぶ......文学寺。あった、ここだ!」
わりとすぐに見つけることができた。
靴箱に貼られたシールには『文学寺 零華』と書かれている。間違いない、ここが先輩の靴箱だ。
このシールには、生徒がシールに自ら名前を書いている。つまりこの字は、先輩の字だ。
靴箱に貼られたシールをじっと見る。
とても綺麗な字。
名は体を表すとはよく言ったものだ。
僕はその愛おしい名前にそっと優しく触れる。
そうしていると、頭の中で先輩の顔が浮かんできた。
やばい、心臓がドキドキしてきた!
まだ渡す訳でもないのに、今から緊張してどうするんだ!
鞄のポケットからさっき書いていたラブレターを取り出す。
鼓動が一段と早まる。
いつか僕が自分の納得のいくラブレターを書き終えたら、この場所に入れるんだ。
僕の想いを詰め込んだこのラブレターで、きっと先輩と......先輩と......。
「私の靴箱の前で何しているの?」
横を見ると、そこには、遠くからなら見慣れた、近くで見るのは初めての、僕の大好きな人の顔があった。
拙い文章ですが、一人でも楽しんでもらえる方がいれば幸いです。
感想や応援コメントを頂けたら、泣いて喜びます。