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異世界機甲 ―重戦車No.VI 孤高の虎―  作者: だん片理
第一章 緒戦―Panzerkampfwagen VI
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第八話:『同等の技術を持つもの』

我々とアリシアは、錬金術師特製の『ガソリン』入りの樽を担ぎ、村に戻って来た。

道中では、運んでいるモノがモノだけに、

屍食鬼との遭遇、戦闘を警戒していたが、杞憂に終わった。



村の門を通り抜けたアリシアに、

待ち構えていた自警団らしき人物が耳打ちをする。

わかりました。すぐに。と返答した後、アリシアがいつもの笑顔でこちらに向き直る。


「村に戻ってきて早速なんですが、

 腕に覚えのある冶金技術者達を中央広間に待たせています。…参りましょう。」


アリシアの後を追い、我々も中央広間に足を進める。

周囲では、相変わらず我々に対する監視と推察が、静かに水面下で行われているようであった。



「…元整備士の所見からして、『虎』は修理出来ると思うか?」


私のすぐ後ろを歩くフィーネに対し、顔を向けることなく口を開き、質問を投げかける。

数秒程して、フィーネの声が返ってくる。


「…すでに察しているとは思いますが、

 虎を完全に修理する事は、本格的な施設が無い以上、不可能です。」


私の『経験と勘』とフィーネの所見は一致していた。

私のそれが正しいかどうか、整備士であるフィーネに確認したのである。

経験や勘だけで物事を判断する事は誤りであるが、それを無視していては話にならない。


「…ですが、起動出来ない原因を特定し、この世界の治金技術で

 『義足』や『代替臓器』を制作できれば、蘇生と延命は十分可能でしょう。」


フィーネが歩みを止めずに、言葉を続ける。


「もっとも、この世界の治金技術で、

 どれ程のものが出来るかはわかりませんが…。」


私はそれに答えず、次の言葉を待った。

今の所、私の勘とフィーネの所見はすべて一致していた。


「原因の特定の足掛かりとなる燃料は手に入りました。

 後は、何所が悪さをしているか、…1つ1つ洗い出すだけです。」


皮肉めいた表情をしているのが、肩越しにも察せられる。

『1つ1つ洗い出す』事がどれほど大変な事か、自身もよく知っているからである。



そのような事に思考を巡らしている内に、村の中央広間に辿り着く。


「ノームの皆さん、お待たせしました。」


アリシアが中央広間の一角に固まっている集団に声を掛けると、

数人の小柄な者達がこちらに集まってくる。

緑色のとんがり帽子と、明るい色どりの生地の服を身に纏っている。

その体に不相応な、大き目のカバンも各々背負ってはいるためか、

余計にその者達を小柄に見せていた。


「……この村の冶金技術者は子供か?」

「子供とはなんじゃ、若いの。」


これが冗談でないのなら、説明を求むという視線を、私は目の前のアリシアに向ける。

「ええと、北方の方は、ノーム種族を見るのは初めてですか?」


アリシアが私と集団の間に立ち、間を取りまとめ、お互いの紹介を始める。

彼女曰く、ノームと言う種族は、人間より長寿な上、手先が器用であり、

特に『技術の取得に傾倒している』とよく言われるそうだ。


というのも、この世界の兵器や装置の多くは、ノームの知識や技術が入っており、

ノーム自身、他の技術を再現し、利用する事に対して喜びを感じているからである。

治金技術も高く、熱処理の技術にも長けている。


「……ノームについて少しは分かって頂けましたか?」

ああ。と私は短い返事を返す。

この世界の常識に思考が徐々に慣れつつあるのを感じる。

慣れたといっても、別に違和感を持たないわけではないが。


「アリシア嬢ちゃんから話は聞いておるよ。若いの、早速見に行こうではないか。」


ふと、ノームと呼ばれた者達の目にどことなく、技術者特有の輝きがあるのを見て取る。

電気駆動式ティーガーや超重戦車等の、

誇大妄想的な兵器を設計した博士と、目の色がよく似ていた。






「おおおおお~!これは…!」

「…喜び過ぎでは?」

「……昨日の今日で戻ってくるとはな。偽装の撤去とガソリンの投入を急げ。」


ノーム達は目を輝かせ、渡した整備マニュアルと実物を交互に見て興奮し、

アリシアと自警団はその様子を見て苦笑い、私はフィーネとザーラに指示に飛ばす。

三者三様の様子であるが、いずれにしても話題はすべて虎に向いている。


整備マニュアルを他者に見せるかについては、悩んだが、

内容については、聞かれた事に答えるだけなので、問題は無いし、

そもそも他者に機密を教える、という事は、自動的にとは言わないまでも、

ある程度の情報が伝播するのはやむを得ない。


ならば、このさい情報の水漏れを我々は気にしない事にした。

優先順位の問題である。仮に漏れたところで、

この世界にティーガーIは一両のみ。共食い整備すら出来ない一品もので、

模倣する事も不可能である。と考えた。



「…このティーガーと言ったか、まるで破城槌のような装甲配置じゃ。」

「前面は分厚く仕上げられておるな。敵中突破を行う運用をしておるのか」

「…しかし、無茶苦茶な乗り物じゃ」


虎の背部の燃料タンクのハッチを開け、どのように樽からガソリンを流し込もうか、

とザーラと考えていた私の意識が、ノームの話している内容に向く。


「無茶苦茶とは、どういう事だ?」

「そりゃあ、分かっておろう。

 鋼鉄の鎧を着こんだ巨大な塊を動かせる動力機関、どんな不整地でも脱輪する事なく動ける走行装置、火薬入りの円錐形砲弾を正確に打ち出す砲尾と点火機構。しかも、燃料があればどこまでも移動が可能という時点で怪物じゃよ。」



一気にまくし立て、いかに凄いか、を力説されるが、

これが当たり前であった我々にとってみれば、そんなことで驚かれても、という感想しか持ちえない。



私は空を見上げる。

太陽は既に頂点に差し掛かり、虎と私に陽射しを打ち付けていた。


「…賭けるしかないか。」


誰に問うまでもなくつぶやき、

ナイフを取り出した私は、『ガソリン』樽に切れ込みを入れ始めた。

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