表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界機甲 ―重戦車No.VI 孤高の虎―  作者: だん片理
第一章 緒戦―Panzerkampfwagen VI
6/14

第六話:対価と監視

我々と自警団は夕暮れ寸前に村に辿り着く。

村の前では複数人の男女が怪訝な表情を浮かべ、私を遠巻きに見つめている。


ミリア村は『虎』から、三十分程度歩いた所にあり、

低い山々に囲まれて、森の間に埋もれているような村であった。


村の建物は手入れが行き届き、こまめに修理されているように見える。

どれも木造の簡単な造りで、壁は質素な漆喰塗りであった。


「とりあえず、旅宿に案内します。錬金術師の店は閉まっているので、明日にでも」

自警団と別れ、アリシアの後について歩く。家々や交差する人々からは

我々についての推察がひっきりなしに聞こえる。



建物の数は、ざっと見たところ二十から三十軒程度であり、

家畜小屋、納屋、雑貨屋らしき建物が所々見える。

賑わっているとは言えないが、

寂れているわけではない。適度な塩梅の村であった。


「…あそこが旅宿です。」

アリシアの指さした方向を見る。


他の建物と大きさは同じだが、二階建てで

建物にかかった看板と文字、『旅宿』と書かれたそれを見て、

私は目的の場所に着いたことを悟る。



「どうぞ。中へ」


少しの間立ち止まっていた私は、扉を開く。

そこには比較的広い吹き抜けの広間があった。階段や柱は簡素な木材で作られており、

床には絨毯のような物が敷かれ、大きな机や長椅子、木箱や樽等が複数置かれており

旅宿としては雑多な印象を抱かせる。


その奥、受付と思われる場所に一人の初老の男性が座っていた。

その男は私達に気づくと、会釈をする。


「…いらっしゃいませ。どうぞこちらへ、お泊りですか?」


男は立ち上がると、表情を取り繕い、いつも通りであろう応対をする。

声は落ち着いており、商売慣れしている様子だ。

他の利用者は見えないが、普段はそこそこ繁盛しているのだろう。



「ええと、一部屋貸してくれないでしょうか…料金は私が払います。」


アリシアがそう切り出すと

男は、大袈裟にかぶりを振って答える。


「いえいえ、、いつもお世話になっている村長の娘さんからお代は取れませんよ。」



そう言うと男は受付の棚から鍵を取り出し、私に手渡す。


「どうぞ。二階の鍵です。奥の階段から上に上がれます。」

「……分かった。」


鍵を受け取った私は、隣に立つアリシアに摯実な面持ちで向き直る。


「…なぜ、ここまでする?」

「……先程の会話にあったように、私は村長の娘です。

 村長は困っている避難民の方々を助けるように言われています。」


アリシアはそう話すと前髪を掻き上げ、

つくろったような笑みを一瞬浮かべた。その目には逡巡の色が見え隠れしている。


「……なるほど。貸しを作っているという事か。」


私は、単刀直入かつ、努めて冷静に言った。

空間の温度が下がり、周囲の緊張が僅かに高まるのを感じる。



アリシアは今までの笑みをふっと消して、真剣な表情でこう言った。

「……ええ、それもあります。

 少しカリウスさん達の力を借りたい事がございまして。」


彼女の『力を借りたい事』という言い回しを使う以上は、

それは特別の意味がある、と言って差し支え無いだろう。


「内容によっては…いいだろう。だが、私は『虎』を先に何とかしたい。」

「わかりました。それでは明日、迎えに来ます。」


屈託のない笑みを浮かべ、一礼をすると、アリシアは入ってきた扉を開け、外に出ようとする。

外の空はより暗くなり、冷えた空気が扉から流れ込んでくる。


「…ああ、すいません。もう一つだけ頼みがあります。」

「なんでしょう?」


フィーネが横合いから唐突に声をはさむ。

アリシアが扉を開けたまま振り返る。


「村で一番の技術者…治金技術をお持ちの方はいらっしゃいますか?」

「うーん。そうですね…。心当たりがありますので、声をかけてみましょう。」


そう言うと、アリシアはペコリと頭を下げ、外へ出て行った。






二階にある宿部屋は期待はしていなかったが、存外に広かった。

十四畳程の広さで、ベッドが四つ。木の床の上に椅子と長机が置かれ

広間の雑多な印象とは反対の質素な印象を受ける。

壁には小さな窓があり、観音開きの扉が取り付けられている。


各々ベッドや椅子に腰を下ろし、荷物の整理や銃の清掃を始める。

私はFG42を長机に下ろすと、背嚢からメンテナンス道具を取り出して

簡単な分解掃除を始める。


「…宿屋の…周囲の路地に…数人の自警団がいる」


ザーラはMG42肩から吊り下げて窓の横に張り付き、

扉を僅かに開け、悟られないように外の様子を伺っている。


「…見張りだろう。私達を監視をしているのだろうな。」


自警団側からすると、

突然自分の庭先に現れ、屍食鬼を圧倒し、あげく鋼鉄の塊の『虎』まで動かそうとしている三人組が

敵となるのか味方となるのか、という部分を見極めるために

監視を行うという行為は極めて正しい。


一応、監視されたところでなんという事も無く、多少不愉快なだけである。

ただ、問題はどの程度情報を漏らしてよいか、である。

どちらに転ぶか分からない状況のため、出来るだけ手の内は隠しておきたい。



「…二人は少し早いが睡眠を。私は念のため、起きて警戒を維持する。」


「了解。車長」

「…了解」



FG42を組み立て直し、メンテナンス道具を背嚢に入れると、

ザーラと交代で場所を入れ替わる。


フィーネとザーラは体をひとしきり布で拭き

携行食料を手早く食べた後、そのままベッドに横になる。

二人はすぐに寝入り、僅かな寝息を立てている。


二人がベッドで寝るのは首都防衛戦から数えて何日ぶりだろうかと

考えつつ、僅かに空いた窓から外を眺める。


空は暗闇に包まれており、夕刻から夜時に時が移っていた。


私はナイフをポケットから取り出し、

夜が明けるまでの時間、各々の武器、装備品の製造元を丁寧に研磨する事にした。



何所から来たのか、情報を抹消するために。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ