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stain.  作者: monaka


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22/22

◆葡萄酒と緑茶と紅茶と珈琲。

 

 ■恋。


 僕の名前は呑萄酒葡のんどうさかほ

 探偵をやっている。


 佐藤紅茶という少女を取り巻く一連の事件が解決し、事務所は平穏で静かな時間を取り戻していた。


 筈だったのだが。


「ねー葡萄のお姉さん!ごめんなさいなんか高そうなお酒の瓶割っちゃった!」


「あー危ないからオレンジペコは離れていろ。ガラスで手を切ったらどうするんだ。私が片付けるから…いって」


「あぁぁ!緑茶が怪我してるじゃん何やってるのー!これくらい自分でやるから大丈夫だよ!」


 …割られたワインはそこまで高価な物ではなかったからまだいい。


 しかし騒がしい。

 騒がしすぎる。


 こんな筈では…。


 あの事件の後、結局依頼料を払う事が出来なかった紅茶は体で払うからと言って聞かないので体を使って稼げる店にでも放り込んでやろうとしたのだが…縁が、そんな事をしたら仕事の手伝いはしないと言い出した。

 正直今のうちの事務所に経理は必要だ。

 僕だけでは金の管理が無頓着すぎて全部酒に消えていくだろう。

 やむを得ずただ働きさせようとここに連れて来たが毎日騒がしくてかなわん。

 選択を誤った気がする。


 水江さんに報告してそちらからお金を回収するという事は出来ただろう。

 しかし、なんというかこういうのは本人に払わせてなんぼなんじゃないかとか思ってしまったり、今回の事件が思いのほか楽しかった事もあり、あんないい母親から搾り取るのは気が引けたのである。

 紅茶に最初提示した五百なんてもう請求する気はなかった。

 せいぜい百程度で済まそうと。

 だから百万分紅茶をこき使って済ますようにしようと考えたのだが…。

 完全に失敗だった。


 そもそもこの状況でいつか紅茶が辞める時がきたら縁までやめてしまいそうだ。


 もしかしたらこのままこの二人を…

 いや、縁はいい。

 縁だけなら使い物になる。


 しかし、そこに紅茶がくっついてくると二人ともダメになる。

 この状態の二人を抱えて行く事になるのだろうかという一抹の不安は拭えない。


「あ、葡萄のお姉さんが寝てる間に一件新しい依頼があったから受けておいたよー♪」


 なっ、


「なぜ勝手に依頼を受けたりしたんだ!依頼内容とか報酬の額とか…」


「その辺は私がちゃんと聞いてるし報酬額も適正な金額を提示してるよ。勿論成功報酬で」


 …。


「そうか。ならいい」


 とりあえずしばらく様子を見るか。


「あ、調査とか行く時は私も一緒に行くね♪」


 …なぜ紅茶はこんなにノリノリなんだ。


「その間の事務所の管理等は私がやっておくから大丈夫。ただし…紅茶に何かあったらただじゃおかないからな」


 …なんだか最近縁の私に対する態度が冷たくなった気がする。

 恋というのは人を変えてしまうものなのだろうか。


 だとしたら私も恋の一つもする事が出来れば変わる事ができるのか?



 もしそんな事で変わる事が出来るというのであれば、恋愛の一つもしてみてもいいかもしれない。


 勿論、僕の御眼鏡に叶う相手がいるのならば、だが。


 縁に言わせれば僕に釣り合う男性なんて一生かけても一人見つかるかどうか、らしい。


 だったら見つけてやろうじゃないか。

 難しい問題の方が燃えるというものだ。


 万が一の場合…。


 男性である必要は無い。

 あくまでも最終手段だが、縁を見ているとそんな風に思う事がある。


 本当に


 世も末だ。





 ■虫。



 私の名前は芥川縁。

 紅茶からは緑茶というあだ名で呼ばれている。

 最初はなんじゃそりゃと思ったものだが、おそらく縁と緑、芥と茶が似ているからそこから連想したのだろう。


 …そう思っていた。

 しかし、よくよく話を聞いているとどうやらそうではなく、純粋に漢字を勘違いしていたらしい。


 馬鹿である。


 そして、


 可愛いにも程がある。



 そんな風に考えてしまう時点で私は既にどうかしているのだろう。


 彼女は不思議と人を惹きつける魅力がある。

 まるで誘蛾灯に集まる虫のごとく、私を含め大勢が彼女に惹かれて漂ってくるのだ。


 今回の犯人もその虫の一匹。


 ただ、他の有象無象と違い、大きかった。


 私達がせいぜい羽の生えた蟻だとしたら中島は巨大な蛾だった。


 今までは何となくの不安でしかなかったが、今回の事件で嫌という程実感した。


 彼女にはこれからも虫が集まってくる。

 私は運良くこうやって近くに居る権利を得た虫だが、所詮は虫。

 他の連中と変わらない。


 むしろ他の連中よりも真っ黒だ。


 私は紅茶の事が好き。

 友達として、親友として好き。


 …だけどそれ以外の、それ以上のどす黒い感情が自分の中にある事を解っている。

 悲しい事に、自己分析は得意な方なのだ。


 私がこんなにも穢れた虫けらだという事を紅茶には知られたくない。

 何より、それがバレてしまったら傍にいられない。

 私が、傍に居る事に耐えられなくなる。


 …だけど、知られないように自分から距離を置く事もできない臆病者なのだ。


 他の虫共よりも近くに居られるというこの状況に優越感を感じ、それを利用して独占しようとしている汚い虫けら。


 いつも自分の本性を気付かれないようにびくびくしながら、それでも甘い蜜に惹かれてしまう愚かな虫けら。


 眩しい光に引き寄せられた虫の一匹。

 眩しくて見ている事が辛いのに、もっとそばに居たくてなんとか目を細めつつその姿を追いかける醜い虫けら。


 こんな詩的な表現をしたところで美しい話にはならない。

 解ってる。


 私はきっと、一歩間違えば第二の蛾になってしまうだろう。

 それはとてつもなく恐ろしい事だ。


 絶対にそうならないと断言できない。

 それくらい、私の中にある感情は汚らしい。


 彼女は人を惹きつけ

 狂わせてしまう。

 あの呑萄酒葡すらも。

 いや、呑萄酒葡は狂ってはいない。

 むしろ彼女にとってはプラスになるだろう。

 でも、私にはそれすら許せなかった。

 勿論顔に出したりしない。

 いくら、紅茶の影響を受けていいのが私だけだと思っていても、紅茶の色に染まるのは私だけでいいと感じていても、それを表に出してはいけない。

 それを気付かれてしまったら。



 私はもう、生きて行く事などできない。



 確かな事は、

 私にとって紅茶はすべてで

 彼女が居ないと生きている意味がないと断言出来る程に


 私は彼女を愛してしまった。





 ■信。



 私の名前は佐藤紅茶。

 紅茶と書いてくれさ。


 小さな頃の事を思い出してから、昔はこの名前にコンプレックスを感じていた事を思い出した。


 紅茶なんて変な名前だって笑われる事も多かった。

 それを笑わずに奇麗な名前だと褒めてくれたのは近所に住んでいたカナメお兄ちゃん。


 当時お兄ちゃんは私にとってとても大切で、居なくてはならない存在だった。

 だからこそ失った時にそれを受け入れられずに空想上のかなにぃを作り上げてしまったんだろう。


 そしていろいろややこしい事があってそのかなにぃは私の中でもう一人の私として私を見守り続けていてくれた。


 …なんかややこしくなってきた。


 とにかく、かなにぃは私を守っていてくれたんだ。


 本物のかなにぃが生きてて、それがあの中島さんだったって知った時は本当にびっくりした。


 だけど、当のかなにぃ…中島さんがそうだと知った時、私の中でなんの感情も湧き上がらなかった。


 へぇあの中島さんが本物のかなにぃだったんだふーんそーなんだ。


 このくらい。


 私にとってはそんな事よりも、ずっとずっと私の事を見守っていてくれたかなにぃの方が重要で大切で愛おしくて切なくて心強くて何言ってるんだろよくわかんない。


 だけど、そんな感じでとっても大事な事だったんだ。


 あの後私はお金が払えなくて、いろいろ話し合って緑茶の後押しもあって葡萄のお姉さんの事務所で働く事になった。

 雑用係ってやつなんだけどいろいろ備品を壊したりお酒を割ったり迷惑ばかりかけてる。


 少しでも役に立てるようにならなきゃ。


 こんな私を雇ってくれたお姉さんの為にも、そして、こんな私に何故か優しくしてくれてずっと一緒にいてくれる大事な友達の緑茶の為にも、がんばらないと。


 二人は表裏なく私に接してくれるので本当に気が楽で、とても救われている。


 裏があった所で私には見破る力なんてないのだけれど、この二人は信じられる。


 私の事を好きと言ってくれる人はたまにいるけど、きっと本当の私を知ったらすぐに離れて行く程度の人達だし、私の事を何も知らずにそんな事を言うような人達を信じちゃいけないんだっていうのをかなにぃに教えられた。


 もう少し私は危機感っていうのを持った方がいいんだって。


 だから、私が信用するのは緑茶と葡萄のお姉さんだけ。


 二人とも口が悪かったりするしズバズバ物を言う人だけど、だからこそ安心できる。


 本当はもっと人の悪意とか下心ってやつを見抜けるようになれればいいんだけど、私にはどうにもそれが出来そうにないから、最初からこの二人以外は信用しないようにしよーってなった。


 なんだか悲しい生き方なのかもってちょっとだけ感じるけど、逆に言えば心から信用できる人が二人いるのだ。

 あ、勿論お母さんとかは別枠ね。


 それだけ居るって事は幸せなんじゃないかなって思うようになった。


 私には

 信じられる人がいる。

 信じてくれる人がいる。


 それで十分頑張れる気がしてる。


 でも、私だってこのままで変わらずにいる訳にはいかなくて、もっともっと二人の役に立てるように頑張って進化していかなくちゃ。


 縁や葡萄のお姉さんみたいに。


 縁は昔に比べたら違う人みたいに柔らかくなったし、私と仲良くしてくれるようになった。いつも冷静で的確なアドバイスをくれるのもそのままで、彼女のとっつきにくい雰囲気が変わってきたと思う。


 葡萄のお姉さんもそうだ。

 最初はほんとに怖い雰囲気だったけど、今ではなんだかんだ呆れ顔で私の事を受け入れてくれている。


 …諦めてるだけかもしれないけど。


 でも、お姉さんと事件の後喫茶店で話した時、ちょっとびっくりした。

 お姉さんってこんな感じだったんだ。

 ってすごく親近感が湧いたし、もっともっと素敵な人だったんだなって実感した。


 人にはいろんな顔がある。

 私はこの二人には幸せになってもらいたいし、その為に出来る限りの事はしたい。


 だから、私はこの二人に報いるために頑張っていこうって決めた。


 そしてもう一人。


 何よりも


 大好きなかなにぃの為に。


 私は大丈夫だよって所をみせなきゃ。






 そう、思ってた筈なんだけどなぁ。



 なんか、世の中思った通りにはいかない。


 どうしてこうなっちゃうんだろう。


 別にいいけどさ


 いいんだけど


 思ってたのとちょっと違う感じになってしまった。


 うーん。


 どうしたものか。




 ■笑。



 これは事件から一週間後の話。

 あの喫茶店での事。


「メールで話した通り、払えないというのであれば体で払ってもらうしかない」


「緑茶から聞いてるよ。私が探偵事務所で働くっていう話で本当にいいの?自分で言うのもおかしいけど、多分向いてないよ?」


「構わないさ。こちらも当初の予定よりは君に負担を強いてしまったしね。五百万も請求するつもりはない。当分事務所でただ働きだがそれで良ければ」


「うん!私頑張るからね♪」


「…ちょっと心配だが…まぁなるようになるだろう。もし何かあったら縁になんとかさせるから大丈夫だ」


 探偵は難しい顔をしながらも、「君と居ると何かが掴めるかもしれないしな」と呟いた。


 彼女も何か自分の殻を破ろうとしているのだ。


「…ところで、思い出すのも辛いかもしれないが…結局君の中で…今どういう状況になってるんだ?」


「それが…ちょっと面倒な事になってて」


「面倒な事?何か新たなトラブルでも生じたのか?」


「いやぁ…何て言えばいいのかな」



 その時、喫茶店のマスターがテーブルまでやってくる。


「…ご注文は、おきまりですかな?」


「おっと、まだ何も頼んでいなかったな。すまない。グラスワインをもらおうか。紅茶君はどうする?」


「えっと…じゃあアイスコーヒー下さい。あっまいやつ」

「ふざけんなブラックでいいだろうが!」

「ブラックなんて飲めないよ苦いよやめてよ」

「いつまでお子様味覚なんだよそろそろ味覚も成長しやがれ」

「味覚もってなに?どういう事?」

「最近少しは胸も成長してきただろ?体も成長してきてるんだから味覚も…」

「さいってー!お風呂覗いてるの!?」

「覗いてるんじゃねぇよ見守って…」

「うるさいバカー!」

「バカって言う方が馬鹿なんだよ!」

「バカって言わせる方が馬鹿にきまってんじゃんバカバカ!」


「…あ、あの…とりあえずアイスコーヒーをお持ちしますんで、甘さはシロップで調整して下さい」


 マスターが半ば怯えながらカウンターへと消えていく。


「…」


 探偵は目を丸くして口をぽかーんと開けていた。


「えーっと…今、こんな感じです」


「君は…。まったく、君って奴は、本当に見てて飽きないな」


 そう言って探偵は笑った。






最後までお読み頂き有難うございます。

過去作と言う事もあり拙い部分もありますがここまで読んで下さった方に感謝を。


感想や評価など頂けると励みになりますのでよろしくお願いします。





現在毎日更新中の

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もよろしくお願いします。

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