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stain.  作者: monaka


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1/22

◆ブラックと激甘と太陽神。

 

 俺は佐藤紅茶を愛している。

 砂糖と紅茶が好きとかじゃなくて

 さとうくれさという女を心の底から愛している。

 そもそも俺はコーヒー派だ。

 しかもブラックに限る。

 紅茶はコーヒーを飲む時砂糖とミルクをどばどば入れるのでその点については理解し難い。


 だが、一度カロリーを気にして砂糖やミルクを控えめにしていた事を知っている。

 勿論その努力は二回程度で潰えた。


 コーヒー自体は好きでよく飲むくせに甘く甘くしないと飲めないのだ。

 なんと可愛いのだろう。


 俺は彼女の事なら何でも知っている。

 いつどこで何をしているのかも。



 彼女がその愛らしい顔を一生懸命美顔ローラーでころころやっているところも

 部屋で小説を読んでボロボロ泣いている時も

 学校で嫌な事があって部屋で荒れ狂っている時も

 食事も着替えも入浴も

 いつでも君を見ている。


 君は俺が守ってあげるからね。

 だからいつでもきちんと見ていなければ。

 いつでも監視していなければ。



「お母さん、もしかしてまた目玉焼き?今日で何日連続か覚えてる?」


「わがまま言わないの。もっとちゃんとした朝ごはんが食べたかったら自分で作りなさい。あんたそろそろ料理くらい作れるようにならないといい男捕まえられないわよ?」


「そ、そんな事ないし。実際本気でやる気になれば料理くらいできるし最悪パパみたいな人を捕まえれば料理が不味くても文句言わないもん」


「それどういう意味よ!!」


「べっつにー♪じゃあ行って来ます!」


「ちょっと待ちなさい!お弁当忘れてるわよ」



 紅茶は慌てて履きかけた靴を脱ぎ、台所へ向かうと弁当箱を母親から奪うようにして再び家を飛び出していく。


 確かに少し出発が遅れ気味だ。

 しかしそれは今日に限った事ではなく、大抵の場合ギリギリまで寝ているからなのだが…


 今日の場合はそれに当てはまらない。


 今朝は思いのほか寝起きが良く、普段より十五分は早く起きていた。

 それなのにどうして時間がギリギリになってしまったのかといえば、紅茶の友人の胸が最近大きくなったからだ。


 通っている高校の女友達が発育のよさに困っていた。

 サイズに合う下着がないだの揺れて痛いだのそういう年頃の悩みというやつだ。


 しかしその悩みは恵まれた一部の者のみが感じる事の出来る悩みであり、その悩みは紅茶には無縁の物だった。



 つまり、今朝は起きてからたっぷり二十分弱、寄せて上げるマッサージをしていた。


 俺としては今くらいのサイズでも愛らしくていいと思うのだが女子心としてはそういうわけにはいかないらしく、少しでもサイズを大きくしたいようだった。


 そんな事を気にしているところがまた子供っぽくて可愛い。


 遅刻しそうになりながら慌てて通学路を走る。

 紅茶の足なら十分もかからずに高校へ到着できるだろう。

 家から近い高校にしたのは正解だったと思う。


 遠かったら彼女はきっと遅刻魔になってしまうからだ。

 今ですらギリギリなのに交通機関を使わなければ辿り着けない場所だったなら、完全にアウトだろう。


 それとも有る程度遠い方が気が引き締まってちゃんと早起きするのだろうか?



 …いや、紅茶に限ってそれはない。

 なぜなら、万が一遅刻したところでそれをそこまで気にするタイプではないからだ。


 ならどうしてここまで急いで登校しているのか。


 気にはしない。

 気にはしないが、怒られるのは嫌だ。


 ただそれだけの理由である。



 個人的には、通りに大きな交差点だってあるし路地から自転車などが飛び出してくる事もあるので危ないからあまり走って登校なんてしてほしくはないのだが。


「うわぁっ!!」


 言わんこっちゃ無い。


 紅茶が、細い路地から出てきた自転車と接触して派手に転げ回った。


 絶対に怪我をしている。

 最低でも擦り傷程度は出来てしまっただろう。


 許さぬ。


「だ、大丈夫?ごめん急いでて…」


 慌てた様子で自転車を降り、転がっている紅茶のところまでやってきたのは隣のクラスの山中大樹。

 貴様はいつか殺す。

 俺の紅茶を傷物にした報いを受けよ。



「いったたた…あ、どもども」

 大樹が差し出した手を取り、ゆっくりと立ち上がると、遅刻しそうな事を思い出して慌てて走り出す。


「気にしなくていーからー」


 走りながら、段々と小さくなる大樹に向かって大声で叫ぶ。


 そんな奴の為にその可愛らしい声を張らなくていい。


 ともあれ、紅茶はギリギリで校門の前まで到着した。


 校門の前まで。


 彼女が門の前に到着した時、門の内側に居た今時珍しい全身ジャージ姿で竹刀を持ったいかにもな体育教師の後藤誠二が鬼の形相で門を閉じた。


「あ、あの…後藤先生、まだ時間あるんじゃ…」


「時間ぴったりに門が閉まりきらなければならない。よって、少々前から閉め始める事も止む無し」


 がっしょーん


 紅茶はそのまま門越しに五分程説教を受けてから、ほんの少しだけ開けてもらった門をカニ歩きで通り抜け、無事に登校を遂げる。



 普通目の前まで来てたら入れてやるだろ

 融通の利かない化石教師が。

 時代錯誤も甚だしい。

 こいつもいつか殺す。



 しかも自転車通学だからか山中大樹はギリギリ間に合っていたらしい。

 腹立たしい事この上ない。


 大樹への殺意が増した。

 奴は殺すリストの上位ランカーである。


 通学路上で頻繁に遭遇する上に、無駄に紅茶に話しかけてくる。

 その度に紅茶は人のよさそうな笑みを返し、その小鳥のさえずりのように可愛らしい声をあいつに聞かせてやるのだ。


 思い出すだけでさらに殺意が増していく。



 佐藤紅茶という女は基本頭が悪い。

 なんというか知能指数があまり高くないのだ。


 勉強ができないというのもまぁ、あるのだが、それだけではなく能天気で明るく自由奔放。

 人の好意にも悪意にも気付く事が出来ないしそんな事はどうでもいいというようなタイプである。


 そんな女に恋をすれば俺のように苦労する事になる。


 が、俺は別に理解者がほしい訳じゃない。

 紅茶の事を好きな男は俺だけでいいし、他の男が紅茶に近付くのも会話をするのも、ましては仲良くなる事なんて絶対に許せないのだ。


 独占欲?

 違うね。


 俺は紅茶に悪い虫がつかない様にしているだけだし、紅茶の事が心配なだけなのだ。


 この女はきっと犯罪者が確固たる悪意を持って近付いてきたとしても気付かずにホイホイ騙されてしまうに違いない。


 そういう女なのだ。

 困っている人が居たら率先して助けにいく。

 そのせいで遅刻したり怒られたりしてもそれを理由にはしない。


 そういういい女なのだ。


 そういう素晴らしい所を知っているのは俺だけでいいし

 他の奴が知る必要も無い事である。



 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか最近非常に困った事が起きている。

 最近紅茶がやたらとモテるようになった。


 中学の頃は全然そんな事なかったのに高校に通いだしてからもう四人が紅茶に告白してきている。


 同じクラスの奴だったり、別のクラスの奴だったり先輩だったり、用務員だったり。


 俺がいつも監視していないとこういうアホ共が沸くのだ。

 どこからとも無く涌いてくるのだ。


 害虫は駆除しなくてはいけない。

 害悪は排除しなくてはいけない。


 紅茶が汚れたらどうするんだ。

 あの時みたいに汚されそうになったらどうするんだ。


 だから俺はそんな事になる前に、

 その可能性が生まれた瞬間から相手を排除する事だけを考える。

 紅茶を守る事だけを考える。


 告白してきた四人については一人は登校拒否、もう一人は退学、もう一人は入院中。最後の一人は社会的に抹殺されている。



 俺の努力のおかげで段々と、紅茶に近付く男は酷い目に合うという噂が広まりつつある。


 計算通りだ。



 紅茶はアホだからそんな噂はまったく気にもしてないし恋愛という物にもまだ興味がないから告白されてもあっさり断り、相手に対して慮る気遣いや思うところなども一切無い。


「え?なんで?めんどいじゃん。興味ないからいーや♪」


 大抵この一言で終わる。


 終わるのだが、万が一そこから相手が逆恨みしたりストーカーなどになろうものなら紅茶があぶない。


 危険な思いも怖い思いもさせたくないのだ。

 だから俺がいつも見張っているのは仕方の無い事だし、俺が紅茶を守ってあげなければいけないのである。



 いつまでも綺麗な俺だけの紅茶でいてもらわないとならない。



 そして気をつけなければいけないのは野郎共だけではない。

 女にも注意をしていないと、面倒な事になりかねないのだ。


 女社会というのはドロドロしていてめんどくさいように出来ていて、たとえばクラスの人気者を振ろうものならそいつの事を好きな奴から嫌がらせをうけるようになるし、年増のケバい女教師は紅茶の若さと自由奔放さを妬み、友達だと思っている相手は胸のサイズでマウントを取ろうとしてくる。


 紅茶は常にいろいろな危険に直面している。

 直接的な怪我をしたり、精神的に傷ついたりストレスを感じたり。

 そういう事があってはならない。


 幸いな事に、紅茶はアホなので仮に苛められてもあまり気付かないどころか、明るく女子人気もあるので周りの人間が苛めている張本人を止めに入ったりする。

 きっとストレスというものを感じたとしても次の瞬間には忘れている。

 そういう女なのだ。


 そして直接的に害を及ぼしてきた奴が居たとしても、そいつが謝罪の言葉を述べた瞬間に「おっけー♪」と解決してしまう。


 いったいどうやったら嫌がらせや恨みの気持ちを一瞬で消し去る事ができるのだろう?

 そういう神的な部分が俺を照らしてくれる。

 いつだって紅茶は俺の太陽なのだ。


 彼女のモットーは、常に明るく楽しく生きなきゃ人生勿体無い。


 心底共感する。


 共感はするが理解は出来ない。


 言っている意味は解るし正しいと思う。

 だから仮に理解ができるようになっても納得はできない。


 俺とは真逆の生き物なのだ。



 いくら勉強ができなくても

 いくら察しが悪くても

 いくらアホでも


 俺の中では太陽神なのだ。



 だから、俺は自分の神を守る。



 誰かを殺す事になろうとも。






お読み頂き有難うございます。

この作品は過去に書いたサスペンスミステリ小説です。

「…」が1つだったり、?や!の後のスペースがなかったり不備が多いですがどうかお付き合い下さいませ。


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