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第8話

 照明の作り物めいた明かりと、肩が下がってくるような重くて淀んだ空気のちぐはぐさに違和感を覚えながら階段を上る。


 これは……思っていたよりも大変になるかもしれないね。

 ボクの勘でしかないから、案外サクッと終わる可能性だってあるけどさ。


 一段ずつ、上っていくにつれて重くなっていく空気に敵意すら感じた。

 上りきったころには、つい懐の銃に手を伸ばしてしまったくらいだし。


 きっと、いや、確実に向こうはボクの接近に気づいていて、来るなと拒絶してるんだろうね。

 それを敵意と認識したボクが反応してしまったんだと思う。


「ふぅー……」


 いったん落ち着こう。


 今回の保護対象のひとみさんの能力について、軽く予想でもしてみようか。


 『たくさんの声が聞こえる』って話だよね?


 この言葉から考えられる能力は2パターンある。


 口から出る音としての『声』が聞ける能力。

 頭で思考したり内心で思っていることって意味の心の『声』が聞ける能力。


 どっちも戦闘向きの能力ではないけど、すごいことに違いはないよね。

 たくさんの、ってことはある程度遠い距離の『声』も拾ってるってことかな?


 いきなり能力が発現したから、力の加減ができなくてこんなことになったんだと思う。


 よし、情報の整理もできたしご対面と行こうか。……直接は会わないけどね。


 部屋の場所はすぐに分かった。


 教えてもらった通り、階段を上がってすぐのところにあったし、ドアに『ひとみの部屋』ってプレートがかけられていたからね。


 そのプレートがかけられている、木製のドアをノックする。

 コンコンと軽い音が響くも部屋の主からの反応はない。


 まぁいっか。中にいるのは確実だし。


「初めまして、ボクの名前は立花フレイ。返事はしなくてもいいから少しの間、話を聞いてくれると嬉しいな」


 やっぱり反応はない。物音すらしない。人の気配があるからいることは分かってるんだけどさ。


「さっきお母様から聞いたけど、たくさんの声が聞こえて困ってるんだよね?」


「ボクとあともう一人いるんだけどさ、今日来たのは困ってるひとみさんを助けるためなんだよ」


「嘘だと思うでしょ? こんなわけ分からないこと、どうにかできるはずがないって思うでしょ? それができるんだよ」


「――ボクはキミのお仲間だからね」


 ギシッ……。


 ベッドかな? なにかが軋むような音が聞こえた。良い方か悪い方か分からないけど、心を動かすことはできた。


「ボクは能力者といってね、普通の人にはあるはずがない不思議な力を持ってるんだよ。ひとみさん、キミも不思議なことに悩まされている。その原因はキミが能力者になったことだよ」


「今のキミはまだ能力の調整ができない。だからこんなに苦しんでる。ボクたちについてくれば、その苦しみを取り除くことができるよ。すぐにかは分からないけど、必ずできる。約束するよ」


 すっごい難しいことになるかもしれないけどね。でも、できないわけじゃない。


「ただし、キミが自分で能力を制御できるようになるまではこの家に帰ってこれないと思う」


 生活の中心をこっち側に移してもらうことになるからね。


 ここまで反応は……なし。


 でも階段を上っていた時に感じた、敵意のような重い空気は霧散している。


「今日はここまで。話を聞いてくれてありがとう」


 まさか一日で解決できるなんて思ってないからね。

 今日のところは引き上げて、また来よう。


 体重をかけていた壁から背を離し、階段へと足を向けた。


 そういえばひとみさんて何歳なんだろう? そこを知らないままいろいろと話しちゃったんだけど……。


『待って……!』


 ……え?


『お願いだから……待って』


 なに……これ……?


 頭の中で、自分でなにかを考えるような感覚で他人の声が入ってきてるって言えば良いのかな?


 高いけど、落ち着いて、平坦にも聞こえる静かな声。


 誰の声なのか、分からないけど考えればすぐに答えにたどり着いた。

 帰ろうと思っていたけど、計画変更。もしかしたら今日中になんとかできるかもしれない。

 階段に向いていた体を反転させる。


 待つ。


 次の声を待っているのか、ドアが開くのを待っているのか、それとも別の反応を待っているのかは自分でも分からないけど、とにかく待っている。





 やがて――。


 ガチャリ。


 部屋の鍵が外された。


 ゆっくりとドアが開いていく。


 ドアの陰から淡い水色の髪が覗いた。

 見えていく水色は面積を拡大させていき、やがて肌色も見えるようになった。

 でも、片目だけ出てきた辺りで動きは止まる。

 髪と同じ、水色の瞳が恐る恐るといった様子でボクを見つめてきている。


 顔は半分も見えてないけど、ボクより少し年下な気がする。


「ふふっ、まさか姿を見せてくれるとは思わなかったよ。さっきも言ったけど、ボクはキミを助けに来たんだ。よろしくね」


 オペレーターのナツキはいないし、自分でやるかな。


 代行者No.13、『月蝕(エクリプス)』立花フレイ。これより任務を開始する――なんてね。


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