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第7話

 ――ピンポーン


 任務を遂行するため、ある家のインターホンを押した。

 夜に行くのは迷惑になるから、放課後に帰宅せずそのまま訪ねているよ。

 隣にはすごく緊張した様子のナツキが立っている。ソワソワというか、ウズウズというか、とにかく落ち着きがない。


 今回の任務は、この家に住む女の子を保護すること。


 ファミレスで任務を決めた日の夜、マヤに電話したら「やっぱりそれにしたのね」と言われた。

 なんでこっちの行動を読めるのかまったく分からない。マヤはそんな能力もってないはずだし。


『……はい』


 インターホンから聞こえてきた声で我に返る。

 静かで、僅かに警戒心が滲みでている女性の声。


「すみません、ボクは立花フレイと申しま――」


『今開けます!』


 マヤか天の裁き(ジャッジメント)かは分からないけど、連絡を入れておいてくれたみたいだね。

 最後まで言ってないうちに、女性の声は慌てたような声に代わった。そこにさっき感じられた警戒心は微塵もない。むしろ、安堵している様子が窺えるような声だった。


 ガチャッと鍵が開く音が鳴り、扉の向こうから一人の女性が出てくる。


「来てくれてありがとうございます。お入りください」


「お邪魔します」


「お邪魔しますです」


 リビングに通され、座るように言われたソファーにナツキと並んで座った。

 女性は飲み物を出すとか言ってリビングを出ていってる。


「レイ先輩」


「なんだい?」


「今回の任務、大丈夫です?」


 まあ不安になる気持ちは分かるよ。

 あの女性、目の下のクマが酷かったし、ボクたちが制服を着ているのを見たはずなのに学生であることに怪訝そうな表情をすることもなかったからね。

 憔悴しきって、もうどうしたらいいか分からなくなっちゃったんだろうと思うよ。

 今まで、そう多くないけどそんな人を見たことあるから大体分かる。


「ボクがいれば不安になったり緊張したりはしないんじゃなかったのかい?」


 つい先日、ファミレスでナツキ自身が言ったことを笑いながら返す。

 ちょっとイジワルだったかな?


「そうでしたです! レイ先輩がいるから大丈夫ですね!」


 元気になって良かったよ。


 でも、素直すぎるのが心配になってきた。自分で言っておいてなんだけどさ。

 ……将来、詐欺にあわないように気をつけてほしい。


「お待たせしました。すみません、ジュースしかなくて……」


「いえいえ、とんでもないですよ! わざわざありがとうございます」


 リビングに戻ってきた女性がオレンジジュースをテーブルに置きながら、申し訳なさそうに謝ってきた。

 謝る必要はまったくないんだけどね。


 このままだと謝罪と感謝をお互いに繰り返すだけだから、切り上げて本題に入る。

 聞いてるだけのナツキは退屈かもしれないけど我慢してほしい。


「依頼内容は、こちらにお住まいのひとみさんの保護でお間違いないでしょうか?」


「………………はい」


 だいぶ間をおいて返ってきたのは、心の奥から押し出すような重い声。

 本当はこんなことになってほしくなかったんだろうなと容易に推測できた。


「娘を……お願いします」


 悲しい気持ちがボクにまで移りそうになる。


 でもそれは許されない。いや、思う分には自由だけど表に出すのはダメ。心情的な距離が縮まっちゃうからね。

 だからボクは明るく、もしかしたら事務的に見えるかもしれない応答をする。


「お任せください。では早速ですが、ひとみさんの異変を感じた時のお話を聞かせてもらいたいのですがよろしいですか?」


「はい……。様子がおかしいと明らかに感じたのは一週間ほど前です。誰も喋ってないのに、『たくさんの声が聞こえる。怖い。』と言い出しまして。それっきり部屋に閉じこもってます。ご飯もあまり食べてないしもうどうすればいいのか……。娘は、ひとみは大丈夫なんですか!?」


「落ち着いてください。ひとみさんは大丈夫です」


 任務が保護になってるから、今まで通りの生活は難しいだろうけどね。


「すみません……」


「いえ。事情は分かりました。今からひとみさんの部屋をお伺いさせてもらっても?」


「ええ。リビングをでてすぐの階段を上がって左側の一番手前の部屋です」


「ありがとうございます。……じゃあ、ボクは行ってくるからナツキは待っていて」


「分かりましたです!」


 ボク一人で行こうとしたところ、背中に視線が刺さった。まあ当然だよね。


「部屋には入らないので安心してください。さすがに、会ったこともない男が女の子の部屋に入るのはよくないと弁えてますから」


 視線の主である、ひとみさんのお母様が安心することを意識して顔に笑みを張りつけた。


「え、いえそうではなく……。すごく自然な感じでしたのでなんでなのかなと……。あと、男性だったのですか……?」


 なんでよ! ボクちゃんと制服着てるじゃんか! 男用のブレザー着てるよ!


「勘違いさせたなら申し訳ないですが、ボクは男です」


 内心を表に出さないことを意識して乾いた笑みを張りつけた。さっきと同じことをしているのに、笑みの種類はまったく違うものになっている。


「すみません! その……制服が自由な高校の生徒さんだったので男装してらっしゃるのかなと……すみません」


 制服見て、なお女の子と間違えられていたなんて……。

 たしかにうちの高校は制服自由だけどさ。ナツキはブレザーでマヤはセーラー服、ゲッコウは学ラン着てるけどさー……。


「いえいえ。ではひとみさんの部屋に行ってきますね」


「レイ先輩、頑張ってきてくださいです!」


 ありがとう。ナツキの声援で少し荒んだ心が癒されたよ。


 それにしても『たくさんの声が聞こえる』……か。


 ふふっ、どんな能力なのか興味がでてきたよ。


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