第6話
放課後、任務相談をするために、学生で賑わっているファミレスにナツキと一緒に来ている。
「この中からどの任務を受けたい?」
イチゴのショートケーキをフォークで切り分け、口に運び、幸せそうに頬を緩めているナツキに直球で聞いてみた。
「んー……分からないです!」
そっか。じゃあ、ちょっとめんどくさくなるけど説明するね。
「まず、任務にも種類があって、代行者の使う能力次第で向き不向きがあるんだよ」
「レイ先輩にも難しい任務はあるってことです?」
「そうそう。あ、ボクの能力は話したっけ?」
あまり能力の詳細は知られたくないから話さないようにしてるんだよね。まあ二つ名から予想できるから完全に知られないようにするのは無理なんだけどさ。
「聞いてないです。……そもそも能力についてよく分かってないです」
それでよくバディを組めたね……。
「じゃあそっから説明するよ。能力は大きく分けて二種類に分けられるんだ。先天性能力者と後天性能力者、要は生まれた時から能力者だったか、ある日ふと能力者になるかってことだね」
「ふむふむ。分かりましたです。レイ先輩はどっちです?」
「ボクは後天性能力者だね」
「ある日いきなり力に目覚めたですか」
なんども頷くナツキ。短いポニーテールが揺れている。
その通りなんだけど、その言い方はなんか恥ずかしいよ。
「ちょっと話がそれるけど、なんで天の裁きが任務なんてものをやってるのかは分かるかい?」
「なんか悪い人がたくさんいるからこらしめるためです!」
ずいぶんザックリしてるね。間違いじゃないけどさ。
「能力の存在がまだまだ広まっていないこの世界で、力を使ってこっそりと法律をすり抜ける人たちに裁きを与えるためだよ」
昨日の人狼の能力者たちはだいぶ分かりやすかったけどね。
ちなみに、どんな裁きが降るかは知らない。ボクは悪いことした能力者を捕まえることが仕事だし。
「なるほどです。隠れて悪いことするのはよくないです」
うん、ナツキはそれでいいよ。
「話は戻って、ここにいくつかの任務がある。どれを受けるか選ぶために、ボクの能力とか戦闘スタイルを話すから覚えておいてね? あ、あと他言無用だから」
「絶対忘れないです! あと誰にも言いませんです!」
「オッケー。じゃ、早速。ボクの能力は『一定範囲内での能力の発動を禁止すること』だよ」
「な、なんだってですーー!! 強すぎです! みんな普通の人になっちゃうです!」
ここまで驚くとは思わなかったよ。変身とかしないし、地味だしね。
「ナツキ、落ち着いて。強すぎではないから。ちゃんと欠点もあるんだよ」
「欠点なんてあるです?」
「欠点がない能力なんて存在しないからね。ボクの能力は、一定範囲外には全く意味がないことと、元から発動していた能力に対しては効果がないことが欠点なんだよ」
「そうだったですか」
本当はもっと強い能力だったんだけどね。ボクの力不足のせいでこうなっちゃったんだ……。
「レイ先輩!」
「いきなりなんだい?」
「イチゴ食べて元気だしてくださいです!」
真っ赤なイチゴが刺さったフォークがボクの方に差し出されている。
「えっ!?」
すぐに切り替えるつもりだったのに、その前にナツキにへこんだのを気づかれてるとは思わなかった。
うーん……。
このことはけっこう根が深いし、分かりやすく雰囲気とかに出ちゃったのかな?
後輩に気を遣わせるなんてすごく情けないよね……。
「レイ先輩……」
ナツキの顔が赤くなってた。プルプルとフォークを持つ手も震えている。
あ、ごめん。
ずっとそのままだとツラいよね。
「ありがとう、ナツキ」
お礼を言ってフォークにパクついた。
イチゴのほどよい酸味と、少し付いてた生クリームの甘さが口の中で広がる。
「ふふっ、おいしいね」
「は、はわっ! 元気でたみたいで良かったです! わたし、任務選ぶです!」
ナツキは封筒から出した書類を広げて読み始めた。紙の位置のせいで顔が隠れている。
まだ戦闘スタイルとか話してないんだけど……能力は話したしまあいっか。
冷めちゃった紅茶をゆっくりと飲みながらナツキが任務を決めるのを待つ。
「レイ先輩! わたし、これ受けたいです!」
20分くらい経った頃かな? ナツキが1枚の紙をボクに渡してきた。
これかー。
「理由を聞いてもいいかい?」
「その子は絶対に苦しんでるはずです。助けたいからじゃダメです?」
「オペレーターはいらないかもよ?」
「そしたらレイ先輩にお願いするだけです」
まあそうなるよね。
それにしてもこれかー。
よりによって、あまりボク向きとは言えない種類の任務を選んだね。
ボクは奇襲とか、こっちから襲撃する任務が得意だからね。
「じゃあこれを受けよっか」
「はいです! 頑張るですよー!」
ナツキが笑顔で頑張れるならボクから言うことはなにもないよ。
次の任務は「能力者の保護」に決まった。