第4話
眠い……。
一年間、ほとんど毎日歩いてる通学路が知らない路に見えてくるくらい眠い。
やっぱり昨日の残業でもっと痛めつけておいた方が良かったかな?
でも膝蹴りで気絶したのを見て興ざめしたのも確かだし。
「よう、フレイ」
後ろから声をかけられた。
「ゲッコウじゃん。おはよう」
彼は染夜 月光。
真っ黒な髪に、血がじんわりと滲んだような赤が混ざった黒い瞳をしていて、いつもダルそうな雰囲気を放っているクラスメイト。
前髪は目にかかりそうなくらい長いし、眠そうな目をしているのも、彼のイメージを確かなものにしているんだろうね。
ゲッコウとは高校に入学してから同じクラスってことで知り会った友人だけど、もう親友みたいなものだと思ってる。
不思議と気が合うから一緒にいることが多いんだ。
ボクは月蝕で、彼は月光。
こんな繋がりだけど、なんか感じるものがあるよね。
「お前が俺みたいになってるのは見たことないな」
ゲッコウはあい変わらずスッカスカのエナメルを背中に下げている。
キミは授業すら、ろくに受けずに寝てるもんね。そのくせ試験は高得点とるんだからおかしいと思う。
「ちょっと用事で寝るのが遅くなってね。すっごく眠い」
「一緒に屋上で寝るか? フレイは成績そんな悪くなかったろ」
そうしたいんだけどね……。
「それやったら怒られるからさ……」
「あぁ、例の生徒会長か……」
「うん」
昨日いきなり残業を頼んできたくせに、絶対に許してくれないと思うんだよね。
うちの高校はさ、成績さえよければ好き勝手していいっていう緩い校風なんだよ。制服だって学ランかブレザーで統一されてないくらいだし。
だから成績の良いゲッコウはいつも屋上で寝てる。
ボクも成績に問題あるわけじゃないから好きにしたいんだけど……はぁ……。
「あー、ドンマイ」
「他人事すぎだよ」
「だってそうだし」
「たしかにそうだけど……」
こんな感じでたわいもない会話をしていたら学校に着いた。
さっさと教室に行って、チャイムが鳴るまで寝てよう。
三十分は寝れるな……とか考えながら下駄箱を開いたらパサパサッと手紙が何通か落ちてきた。
「フレイ……また来てるのか。それ、何通目だ? ……プッ」
「笑った? ねぇゲッコウ、今たしかに笑ったよね?」
「気のせいだ。眠すぎて聞き間違えただけだろ」
本当かな〜?
落ちた手紙を拾い、差出人が誰か見るも書いてない。
「これは読まなきゃだな、フレイ君?」
キミ、楽しみすぎじゃないかな?
まあ読まなきゃダメなんだけど。
破り捨てたい衝動を抑え、抑え、全力でねじ伏せて手紙を開いた。
ちなみに眠気は既に霧散してるよ。
『立花フレイちゃんへ
貴女のことが好きです。
俺と付き合ってくれませんか?
放課後、屋上で待ってます。
三年二組 佐藤 祐介』
「…………」
「…………」
よし、捨てよう。
「そいつってサッカー部のイケメンとか騒がれてるやつじゃなかったか?」
「だからなに? ボクは男だからこんなん知らないよ!」
はい、次。
『フレイきゅんへ
君の、夜空のように黒い髪が好きだ。
いつも匂いを嗅いでいたい。
君の、月のような金色の瞳が好きだ。
蔑むように俺を見てほしい。
君の――』
はい、ありえなーい!
「……全部燃やしてくる」
「おう、俺は先に行ってるわ」
はぁ、ボクは男なのに……。
なんで女子からはラブレターが来ないのに男からはこんなに来るのさ……。
「あ、レイ先輩です。おはようございますです!」
「ナツキか。おはよう」
振り向けばブレザーを着たナツキが立っていた。
「ところでレイ先輩はなにしてるんです?」
ナツキは知らなかったんだね。四月はまだ一、二回しかやってないから見たことなくても仕方ないか。
「ラブレターを燃やしてるんだよ」
「ラ、ララ、ラブレター!?」
「しかも男からの」
「お、男ぉーー!?」
ナツキの叫びに合わせてポニーテールが元気よく跳ねている。
朝から元気だねー。
「わたし、意味が分からないです…… 」
大丈夫。ボクもよく分かってないから。
「でも、男から告白されるなんてレイ先輩が可哀想です……」
ありがとね。その言葉、ラブレターを送ってきたやつらに聞かせてやりたいよ。
「ボクが女の子に見えるからこんなことになるんだけどね……」
「あ、じゃあレイ先輩が恋人を作ったら良いと思いますですよ」
そんな人いたら苦労しないよ……。
「なんならわ……」
なんならわ?
「続きは?」
「なんでもないです、気にしないでくださいです!」
そう?
「レイ先輩、ちょっと熱いから私もう行きますです!」
行っちゃった……。
そんなにたき火が熱かったんだ。どおりで顔が赤いと思ったよ。
申し訳ないことしちゃったな。お詫びに今度ご飯奢ろう。
「よし、全部燃えたし教室行くかな」
結局、なんならわってなんだったんだろう……?