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第3話

 月の煌々とした輝きのもと、街灯の微かな明かりを頼りにボクは駆けている。

 ちなみに、手荷物は全部コインロッカーに入れてきた。邪魔だしね。


『脱走者を補足したわ。次の角を曲がって三つ目の信号を左。そのまま直進して二つ目の交差点を右折したら三つ目の――』


 通信機を介して坦々とした文字が耳を素通りしていく。


 オペレーター下手くそすぎなんだけど?


「オペレーター下手くそだね」


『なっ!?』


 あ、つい口に出ちゃった。


『ちょっと立花君、その言い方はどうなのかしら? 仮ではあるけど、私は今の貴方のパートナーなのよ?』


「ごめん。でも他に言い様がなかったししょうがないって」



 そんな一気に言われても覚えてられないし。


『あらそう……。なら自分で追えばいいわ。あとでを泣き言を言わないことね』


 元から一人で追跡するつもりだったから好都合でしかないね。


「分かった。ボクの好きにさせてもらうから」


 さっき言われた方と反対方向に曲がり、路地裏に入る。特に人がいる様子はない。


『脱走者は反対よ?』


 まあ黙って見てなって。


 路地裏から、さらに狭い、建物同士の間に入る。

 軽く地面を蹴り、建物の壁を使って三角跳びの要領で素早く屋上へと跳ね上がった。


『なるほど、上から行くのね』


 正解。


 脱走者は…………いた。


 能力使って変身してるから、移動速度がすごい早いね。見た目もすごいけど。

 頭にピョコッて狼の耳が生えていて、全身は毛でフッサフサ。尻尾も生えてる。あと、体が人間より一回りか二回りでっかくなってる。


『2000メートルは離れてるけど追いつけるのかしら?』


 向こうは一応、人目を避けながら移動してるから余裕で追いつけるよ。


 こっちは時間帯的に人目につかないであろう、建物の上を遠慮せずに跳んでいけるしね。


「大丈夫っ!」


 返事と共に、隣の建物へと跳び移る。

 そのまま屋根の上を走ってはまた跳ぶを繰り返す。

 途中でフェンスがついてる建物もあったけど、高く跳べばなんの問題もない。


『立花君、なんだか忍者みたいね』


「思ったんだけどさ、どこからボクを見てるの?」


『ふふふ、秘密よ』


「バリバリ煩いしヘリかなんかに乗ってるんでしょ?」


『貴方みたいな勘の良い人は嫌いよ』


「え、それ知ってたんだ」


 大丈夫だよね? 撃たれたりしないよね?

 さすがに銃で狙いをつけるとこまでやってるとは思いたくないな……。


『だいぶ近づいてきたわね』


「戦闘になるだろうからしばらく静かにしていてね」


『それくらい分かってるわよ』


「どうだかね。オペレーター下手くそだったし」


『まったくもう! 立花君ったら酷いわ……シクシク』


「はいはい、嘘泣きは上手だよ。今から行くから黙っていてね」


『ええ、貴方に武運を』


 軽口はこれまで。


 脱走者たちの前に先回りして、建物の上から飛び降りた。





「こんばんは。今夜は月がよく見える、良い夜だね」


 挨拶と同時に笑いかけた。


「なっ!? お、お前はっ!」


 銃を五発も撃ち込んだのにピンピンしている人狼の能力者たちのリーダーが盛大に驚く。


「キミたちに選択肢を与えてあげる。ここでボクの指示に従って大人しく戻るか、それとも従わずにボコボコにされて引きずり戻されるか。好きな方を選びなよ」


 できれば後者を選んでほしいなー。ちょっと鬱憤が溜まってるし。


「クソッ、ここまで来たんだ。今さら諦められっかよ! お前ら、今は変身してるからなんとかなるはずだ! 相手は一人だけとか気にするな! 全力で突破してやるぞ!」


「「「「おうっ!」」」」


 うーん……。


 なんか、ボクが悪者みたいなんだけど。


「それがキミたちの答えなんだね? ――ふふっ、残念だよ」


 地を蹴り、同時にブレザーの袖に仕込んでいたナイフを両手に滑らせ、握る。


 左腕を振り、切りつけた。


「笑いながら言っても説得力ねーよ」


 リーダーが長く伸びた爪で受けとめる。


 ボクの対応は彼一人でやって、あとの四人で囲んで攻撃するつもりかな?


 まあ厄介そうなのはリーダーさんだけだしそれが一番良い作戦なのかもしれないね。


「ふっ!」


 後ろに下がると同時に、両手のナイフを左右に投擲。


「この程度!」

「当たんないね」


 残念。


 これ、ワイヤー付きだから追尾できるんだよね。


 お腹と太ももにそれぞれ突き刺さる。


 はい、二人脱落。


 ナイフには強い毒を塗ってあるから数時間は動けないよ。まあ死なないはずだから苦しいのは我慢して。


 ボクとワイヤーの接続を解除。


 もうあれは使わないから邪魔にしかならないしね。


 さて、残りの三人はどうしようか。

 ボクを三角形を描くようにして囲んでるしなー。


「クソォ!」

「このやろっ!」


 そっちから来てくれるなら助かるよ。


「あっ、馬鹿!」


 リーダーが騒ぐも既に遅い。


 女子校生に変装していた時からつけていたブレスレットをちぎり、手を振る。


 短かったブレスレットがグングンと伸びていって、一人を縛り上げた。

 これ、中にワイヤーが仕込んであって、鞭にも紐にもなる優れものなんだよ。


 あとの一人は驚いて固まっちゃった。

 距離を摘め、背後に回り、首裏に手刀を叩き込む。


 あとはリーダーただ一人。


「逃げ切れなくて残念だったね」


「まったくだ」


 頭を狙った回し蹴りを交わし、左手でみぞおちに掌底を打つ。


「カハッ!」


 痛みで前屈みになったところに、頭を押さえて顔面に膝蹴りを数回いれた。


 これは失敗だね。膝が血だらけだよ……。


 あ、変身解けた。


 嘘でしょ……。もう気絶したの?


 はぁ……、とりあえず他の子分たちも気絶させておこ。





「こちら月蝕エクリプス。脱走者の確保に成功したよ」


『確認したわ。お疲れ様』


 ふぁ〜、疲れた。


 早く帰って寝たいね。


『あくび見えてるわよ』


「誰かさんがボクに残業をさせたからね。眠くてしょうがないのさ」


『そ、それは悪いと思ってるけど私にはどうしようもなかったのよ……』


「ごめん、言いすぎた」


『いいの、気にしないでちょうだい。あとはこっちでやっておくから帰っていいわよ』


「ありがとう。じゃあ、また明日」


『ええ、また学校で会いましょう。お礼、楽しみにしてなさい』


 それはいらないから。


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