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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP098 重篤なる黒歴史

こ、これは!?


掲げた手に顕現されし軍配には、これまでに見たことのない輝きが宿っていた。

どことなく昭和のスパンコール生地を彷彿とさせる、懐かしくも艶やかなピンクの輝きだった。

それだけではない。よく見ると表面には『鶴と亀』という文言も浮かび上がっているジャマイカ!


確か巻物での説明文には『掲げた際に文字が現れたり色が変化することがあるが、様々な要因が考えられる』云々とあったのを記憶しているが…。


本来であれば、鶴は千年、亀は万年などと言って、日本では長寿を象徴するお目出度い生き物たちの筈…だがしかし、先ほどの栗とリスの一件が後味悪く脳裏にこびり付いているためか、どことなく不吉な予感を払拭できない…。


それともアレか?

長寿云々ではなく、懐かしいかな、これより鶴亀算の計算問題でも出題されるのだろうか?

であれば小学生時代に既にマスターしていた連立方程式で楽勝なのだが…。


うーん…。


そんな疑問も冷めやらぬうちに、更に新たな事実が発覚した。

掲げた腕の色が、浅黒いままなのだ!


いつもであれば軍配を掲げた刹那、華麗に変身を遂げる筈だというのに、この腕の色を見るに、どうやら変身せずにエガシラ化した擬態の効果が持続したままらしい。

つまり、上書きされていないのである…。


確かに、これまでに擬態状態から軍配を掲げたことは一度もなかった。

今後は先に擬態を解いてから掲げる必要があるようだ。


しかしながら、あやつら草食系の2体なんぞ、装備など無くともなんら問題ないわっ!


余市は金嚢からギコを引き出すと『トウッ!』と声を発して、竹鶴の寝かされた魔法陣の脇へと飛び降りた。

空中で回転などは取り入れなかったものの、戦隊モノのヒーローが、崖の上での変身を終えて飛び降りるイメージである。


スタッ!


着地もキマッタ…フフフ。

その証拠に、身構えていたシバサブロウも『此奴…やりおるわい』といった苦々しい表情をつくった。


が、そんな表情を見せたのは一瞬だった。

今度はシバサブロウの身体がモフモフと大きく膨張し始めたのである!

白衣は破れ、背中からは大きな翅が左右に広がって行く!


ヒデヨは身の危険を感じているのか、マイマイカブリに襲われたカタツムリのように、貝殻の中に身体を隠して丸まってしまった。

見た目通りの臆病者のようだ。


シバサブロウは翅を羽ばたかせて、宙に浮き始めていた。

これぞ獣人としての能力の真骨頂と言わんばかりのドヤ顔である。


だが余市は動じない!

これまでにも、空を飛ぶ昆虫などは沢山倒してきているのだ。

キリッとした表情で、シバサブロウを下から睨み返した。

そしてギコを構えると、ジャンプ一番で斬り捨てようと一瞬、膝を曲げたのだが、ジャンプする寸前のその体勢のまま、動けなくなってしまったのである。


「ど、どうしたというのだ!?何故、身体が動かない!?」

「ジャジャジャ!貴様は既に我の術中に嵌ったのじゃ!」

「何だとぅ!?」

「周囲を見渡してみるがよい」

「こ…これは?」


見れば、宙に無数の白い埃のようなものが舞っていた。

これはまさか…。


「…鱗粉」

「左様、我が高貴なる鱗粉じゃ。続いて我が姿に刮目(かつもく)するがよい!」


「んなっ!!!何とっ!?」


余市が驚き慄いたのも無理はない!

つい今まで醜い蛾獣人だった筈のシバサブロウの姿は、何と!スク水姿の響たんへと変貌を遂げていたのである!!!

背中からは、先ほどとはまるで違う、天使のような白くて可憐な小さな羽が生えていた。


「ジャジャジャジャジャッ!貴様への冥途の土産じゃて!その疾しい煩悩のまま死ぬがよかろう!」


明らかにコレは幻覚!

勿論、ヤツが響たんを知っている筈もない。恐らくは見る者の潜在意識がそう見せているのだろう。

分かってはいる…分かってはいるのだが、相手が他でもない響の姿となってしまった以上、身体が恐怖で強張ってしまい、相変わらず動けない。

数々の死線を彷徨った過去のトラウマが、この身に豪雪のように積り、四肢の筋肉が馴致されてしまっているのだ。

しかも悔しいかな、ひさかたぶりのスク水を目の当たりにしてか、四肢の硬直とは別の意味で魚肉も自己主張をし始めていた!

これでは、シバサブロウの発言を否定したところで説得力にも欠けるというもの!


そんな弱腰ックな思考を懸命にデリートしようと焦っていると、シバサブロウ、否!響が急降下してきたではないかっ!


しまった!やられる!!!


思わず双眸をギュッと閉じてしまった。

…が、響は余市の横を掠めただけで、衝撃はなかった。

ゆっくりと瞼を開けると、何と、ヒデヨの殻の縁を両手で掴んで浮遊している響の姿がそこにはあった!


ヒデヨは相変わらず丸まったままオブジェと化しているが、スク水の女子に持ち上げられているというだけで、愛らしく見えてきてしまうというのが罠…これはロリヲタの性なのか?

首根っこを親猫に噛まれて丸まって運ばれる仔猫と同レベルの絵になっていたのである。


暫し心を奪われて見とれてしまっている余市を他所に、スク水の響はヒデヨを掴んだまま、螺旋階段の上の方へと羽ばたいていってしまった。


同時に鱗粉の幻覚効果が薄れてきたのか、その響の後ろ姿は徐々にモフモフとした気色の悪い蛾の姿へと戻っていった。


はっと我に返り、一瞬でも心を奪われてしまっていたことに腹が立った。

あの日、炭酸飲料の缶に描かれし芋虫くんに心を奪われ失敗した経験が、まるで糧となっていなかったらしい。


…にしてもシバサブロウの奴、先ほどは冥途の土産がどうとか偉そうに上から宣っていたが、結局はこのオレを恐れて逃げ出したというワケか?

勿論、イサオやタケシ、そして本物のエガシラの安否の確認を優先しつつ、役不足のヒデヨをひとまず避難させたと見ることもできるが、オレに勝つ自信があれば、この場で先にオレに挑んでいた筈だ。


フフ…口ほどにもないわ!


漸く石化から解放された余市は、視線を上空から落として、全裸の竹鶴へと忍び寄った。

一抹の疑念が無かったかと問われれば嘘になる…しかしながら、こうして近付いて見れば見るほど、やはりこの検体は竹鶴に他ならなかった。


呼びかけて起こす前に、今一度、カセイ人である竹鶴のギョニソーを凝視する…。

勿論、オレにそんな薔薇風味の趣味や癖などは微塵もない…微塵もないのだが、惜しい!あまりにも惜しい!

カメラなどでこの動かぬ証拠を、奴の弱みとして後世に亘って保存しておきたい!


気付けば、余市の顔は、竹鶴のツルツルのギョニソーまで20センチという地点にまで迫っていた。

あのマリカとて、この驚くべき事実をまだ知るまい…知っていたなら、マリカの前でオレのことを『皮が伸びる博士』などと愚弄できるワケがないからだ。つまりあいつらの性の進捗は、昭和風味で喩えるならば、せいぜい『B』止まりだったわけだ!


「ナハッ!ナハハハハッ!」


ガッツゥーーンッッ!!!

心地よく笑う余市の後頭部に衝撃が走ったのはこの時であった!!!


「…ンナ…ナ…ナハ?」


その尋常ならざる衝撃によって、余市の顔面はツルツルの竹鶴の股間に鼻からエアバックのようにめり込み、そのお陰で衝撃こそ吸収されたが、それは同時にフニャフニャの芋虫くんを顔面で捻り潰すという、目も当てられない事態をも意味していた!!!


時間にして数秒程度ではあっただろうが、その数秒は恐ろしいほどに長く、スローモーションのように感じられた!

エアバックの衝撃検査のスロー映像の人形になったような気分だった。


荒川の土手でゴルバチョフの香ばしい糞を捻り潰した時と同様の嫌な感触が、今度は竹鶴のツルツルに整備された土手に於いて、奇しくもデジャブのように展開されてしまったのだ!

しかも今回は服の上などからではなく、オブラートに包まれずに顔面の皮膚に直に感じ取れてしまったのである!


どちらのプレイも、獣姦や男色という括りで語るならソドミーなプレイだし、形状もバナナと芋虫のように似てはいる…が、同じソドミーなアブノーマルプレイにしても、今回のプレイは些か精神的ダメージが大き過ぎた。


物理アタックと同時にマインド系にも多大なダメージを負ってしまったのだ!


この先の長い人生(ゲーム)に於いても『いやーあの時はマジで参ったよぉ!』などと笑って話すことの断じて許されぬ終身デバフ風味の特大のトラウマが、ゲームエンドまで刻まれてしまった歴史的瞬間に他ならないのだから…。


フフフ…マリカよ、見ているか?


お前はリアル花火の折りに、オレのギョニソーを見て、まるで芋虫でも発見したかのように大きく後ろに仰け反ってたっけなぁ。オレはなぁ…今、お前の愛する鶴くんの皮に包装された亀頭をだなぁ…頬で感じているんだぜぇ…フフ…フフフ…。


完全に壊れてしまった思考の中で、ぼんやりと思い出したのが、先ほどの鶴と亀の文言である。


…竹鶴の亀頭か。

なるほどね、でもそれなら厳密には、鶴と亀じゃなくて鶴の亀じゃないの?


強い衝撃を受けたにもかかわらず、幸いにも竹鶴は目覚めなかったようだ。

両者の黒歴史とはならず、余市だけの歴史の1ページに深く刻まれることがこれで確定した。


犠牲者はひとりでいい…か。

ふと、登山に於ける竹鶴の哲学にも似たようなものを感じてしまったが、苦笑いを浮かべるようなユトリはなかった。



それから数秒後。

壊れた思考から復旧し、弾かれたように竹鶴から離れた。


顔面で堪能した嫌な感触を必死で消し去ろうと、某怪物くんの如く何度も何度も手で顔を強く擦るが、マインドまで深く抉った衝撃だけに、心の傷までは消えてくれない。


コレはオレの…宮城余市の経験ではない!エガシラの顔で受けた感触なのだからなっ!!

オレは少しも汚れていないし穢れていないっ!!穢れたのはエガシラなんだっ!!!


精神の安寧を懸命に取り戻すべく、自己弁護を繰り返しつつ、後頭部に直撃したモノが何だっかのかと、無意識のうちに周囲にも目を配っていると…。


「命中ううぅぅーーー」


そのモノを発見すると同時に、声が聞こえてきた。

転がっていたヒデヨが、カタツムリの貝殻から頭部をゆっくりと覗かせたのである。


「ジャジャジャジャッ!!」


上空からは、シバサブロウの笑う声が聞こえていた。

この内部の筒状の形状からか、その声はリフレインを伴って、耳だけでなく脳内にまで木霊するようだ。


本来であれば直撃ダメージを受けた後頭部の方を気遣うべきところではあるが、余市は相変わらず顔面の方を擦り続けていた。そして何が起こったのかを漸く理解した。


シバサブロウが、上空から意図的にオレの頭部に狙いを定めて、硬くて重いヒデヨを落としたという古典的な攻撃に!である。


そこで、はっと気付く。

これはつまり、アレじゃないか!?


…古代アテナイ、現代で言うところのアテネの三大悲劇詩人のひとりに数えられる、アイスキュロスという偉大な人物がいた…だが、彼の死因を調べた時、その驚愕かつ壮絶な死に様に、余市は不謹慎にも溜息混じりの無音の笑いを漏らしてしまったことがある…。


ヒゲワシというワシの一種は、捕えた亀の硬い甲羅を割るために、上空から地上の岩に狙いを定めて亀を落とす習性を持っているが、あろうことかアイスキュロスは、そのヒゲワシに頭部を岩と間違えられ亀を落とされ死亡したという肯定し難い伝説が残っているのだ!


奇しくも今の余市の頭はエガシラ化しており、磨製石器のような味を醸し出している。

当時のアイスキュロスの頭部も、今のエガシラのような頭をしていた可能性はないだろうか?

蛾獣人であるシバサブロウがヒゲワシを演じ、カタツムリ獣人のヒデヨが硬い亀を演じたとするならば、今回もオレが演じたのは石とほぼ同義であるところの岩!…今回は演じたという自覚こそまるでないが、とにかくこれで二度目である!

…唯一の大きなイレギュラーは、その岩の下に、もう一匹、柔らかい亀が潜伏していたことぐらいか…?


嫌すぎるっ!!!

これはアイスキュロスの呪いではないのかっ!?


余市は己の頭部を抱えて蹲ってしまったが、再び顔をあげた。


…とするならば、軍配の文言の鶴と亀の亀の方は、亀頭ではなく純粋に亀を意味していたのではあるまいか?

もしや、竹鶴と亀に気を付けるよう警告したものだったのか!?

今回ダメージを受けた頭部は、竹鶴と亀の役割をしたヒデヨに挟まれて受けたものには違いないのだし、文言が鶴の亀ではなく、鶴と亀だったこともこれで辻褄が合うのではないか?


いやいや、その解釈は苦しいだろ!

ヒデヨが亀を演じたというのは、あくまでもアイスキュロスの死因を前提とする限定条件下でのみ認められるものなのだし…流石に軍配を買い被り過ぎだな。


どちらにせよ、重篤なる黒歴史が刻まれてしまった今となっては、亀が竹鶴の亀頭を意味していようが、ヒデヨの役割を指していようが、そんなものは瑣末な謎に過ぎん!



「しかし何という硬い頭よ…ヒデヨをまともに喰らっても割れぬとは…貴様が初めて!」


ヒデヨとの渾身のツープラトンが余市に効かなかったことに対する、敵ながら天晴れ!といったシバサブロウの台詞ではあるが、正直言って少しも嬉しくはない。

それどころか、テメーらの古典的なツープラトンのせいで、目には見えない重篤なダメージをオレは心に受けてしまったのだからなっ!


「ぬおおおおぉぉーーーっ!!!」


喩えようもない怒りの矛先を転がっているヒデヨに定めると、ギコを一気に振り下ろした!


バキイイィィッ!!


「ぐへえぇぇーーーっ!!!」


最後の断末魔の叫び声を上げて、ヒデヨは呆気なく殻ごと潰れ、飛び散った。

あの硬さが自慢のヒデヨをまさかの一撃で屠ったことに対して、余市自身、少し腕が震えていた。

マルペスの元での薪割り修行の成果の賜物かもしれないが、それよりも爆発的な怒りによるところが大きそうだ。


直ぐにギコをヒデヨから引き抜くと、今度は空中で声も立てられずに驚きの表情で固まっているシバサブロウを仕留めにかかる!


「たあぁりゃあぁあぁーーーッ!」


シバサブロウと同じ高さまで大きくジャンプすると、ギコをシバサブロウの心臓目掛けて一気に突き刺す!

ロープの輪の中にギコを正確に突き入れる練習が効いたのか、グサッという確かな感触が、釣り竿の魚信のように柄に伝わった。


ヒデヨのように断末魔の叫びを上げることなくシバサブロウは竹鶴の横に転がった。

まだ息があるのか、苦しそうに余市の方に首を捻って睨むと、


「がはぁ!…はぁはぁ…よもや、こんな若造にこのワシが…ジャジャ…ジャ…」


今際の際に何か言い残すのかと思いきや、そのまま息絶えたようだ。

タケシに比べると他愛もない2体ではあったが、あのツープラトンだけは想定外だったな。


『全敵、殲滅!完全勝利!…余市、体力…』


いつものように脳内でアナウンスが流れた。

レベルが一気に3も上がり、他の数値もタケシを仕留めた時よりも5倍ほど上昇したようだ。

相手が複数体であったことを加味しても、かなり多い。

軍配のあのピンクの輝きが影響したのは間違いないだろう。


ただ、命中力の数値が特に増えたのが腑に落ちない。

確かにシバサブロウの心臓を空中で一突きしたというのはあるが、寧ろシバサブロウのアイスキュロス作戦とも言うべき上空からのオレの頭部への一撃の方が遥かに難易度が高かったんじゃ…。試合に勝って勝負に負けたとまでは言わんが、何なんだ?この気分は…まあ、気にしても仕様がないか。


「冥福祈捧極楽浄土…」


2体を弔うと、例によってクリスタルが現れた。

そして『鼈甲(べっこう)』と『白い粉』を手に入れた。


亀繋がりで鼈甲の方はともかく、白い粉って…小瓶に入って顕現したのには好感が持てるが、何だか犯罪の匂いがするジャマイカ。


それらを金嚢に仕舞うと、頭上を気にしながら再び竹鶴の傍に歩み寄る余市だった。



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