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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP097 俳句に潜んだ豆知識


「ヒデヨに…そしてシバサブロウよ。状況を報告せい」


見上げる2体を偉そうに睥睨しながら、余市は軍部の上官風味の威厳でもって語りかけた。

正直言ってエガシラの口調は知らないが、人相といびきの貫録から察するに、たぶん普段こんな感じであったろうとアタリを付けたのだ。

そして2体の名を口にする際に、敢えてタイムラグを設けた甲斐あって、ノロノロとした口調のカタツムリ獣人がヒデヨで、モフモフとした蛾獣人の方がシバサブロウがであることが判明した。


「あのぉ…先ほどぉーイサオ様にはぁー…」

「そんなことは分かっておる!シバサブロウよ!報告せよ!」


ヒデヨの口調がイライラするので、途中で遮ってシバサブロウに報告するように命じた。


「うむ…此度の検体じゃが、クモやアリ、羽虫や甲虫類、ネズミなどの哺乳類からの抽出エキスには(ことごと)く拒否反応を示しておったのじゃがな…なんと!唯一、カマキリのエキスのみを受け入れよったのじゃ!此の老いぼれの粘り勝ちじゃて!ジャジャジャジャジャ」


シバサブロウめ…年長者だからとはいえ、このエガシラ様に対してタメ口とは生意気な!

それにヤツの独特の笑い声は何だ!?

古風で偉そうな口調とのギャップも手伝って、ひと際、耳障りだ!

ジャジャジャって…ネトゲなどで海外プレイヤー、とりわけスペイン語圏のヤツらが頻繁に打ち込んでいるのを見掛けたものだが、貴様はスパニッシュ産の蛾なのか!?

思わずツッコミそうになるのを必死で堪えながら続ける。


「お主の手柄はさておき、そやつの獣人デビューの状況を訊いておる!」

「…はて?此れは妙なことを…」


しまった!何かマズイことを口走ったか?

シバサブロウはヒデヨと顔を合わせて首を傾げた。そして、


「いつものようにエガシラ様に確認して貰わねば、ワシらでは…」


何だと!?オレが…否、エガシラが、検体の獣人デビューの是非の判断をしていたというのか?


「そ…そうだったな」

「あのぉーところでぇーイサオ様はぁーどこにぃ…?」


ぬぅ…カタツムリがまた要らぬことを!


「イ…イサオは逃亡した造反分子であるタケシを追って、村の外に出ておるわ!」


己のミスを掻き消すかのように語尾を強めて言い切った。

だがこの2体は、付和雷同のイサオのように単純ではなかった。


「タケシがですと!?そんな馬鹿な…エガシラ様に最も寵愛を受けていた、あの忠誠心の塊のようなタケシが!?」


「そ!そうなのだ!恩を仇で返しよったのよ!あのタケシのヤツめがっ!」


必死である!

まさか、タケシがそのような立ち位置の獣人だったとわっ!


シバサブロウとヒデヨは、例によって互いに顔を見合わせているが、納得がいかないような雰囲気だ。素直に上官の言うことには唯々諾々としていれば良いものを…だがこのままではマズイ…一気に畳みかけねば!


「オ…オレがあれほど可愛がってやったというのに!ほ…本当に腹が立つ!」


「…失礼じゃが、エガシラ様」

「な、何だ?」


「我らが合言葉としておる俳句を詠んではくれまいか…?」

「んぐっ!な、何だと!?このオレに向かって…」


だが、シバサブロウはお構いなしに、


(うず)くなら、()まんでみよう…」

「…」


「…如何なされた?句の続きを詠まれよ」


うーむ…。

リズム的には、かつて信長、秀吉、家康のそれぞれの人となりを現すのに詠まれたというあの句を彷彿とさせるが…つまり語呂的には『ホトトギス』がしっくりきそうだ。

だがしかし…意味合い的には『チクビ』の方が馴染みそうジャマイカ?

五七五の文字数に倣うなら『両チクビ』もしくは古風に『乳頭(ちちがしら)』辺りが妥当か?


「さあ、何と何でしたかな?…はっ!」


何と何…だと!?

今のは非情に大きなヒントだぞ!

発した瞬間、シバサブロウもうっかり自らの口を手で塞いだことからもそれは明らかだ!

それにしても『何と何?』と言うからには、疼きを覚えるような摘まめるほどの部位がふたつもあるというのか?


(おもむろ)に服の上から己の両チクビを指で摘まんだ姿勢で静止してしまった。

その姿は、いつかのTVで観た某コメディアンそのものであった。奇遇なことに確かそいつの名も…って、そんなコトはさておき…。


確かにこのようにすればチクビも数的にはふたつではあるのだが…言い回し的には別の異なる部位ということで間違いあるまい。だとすると…。

チクビを摘まんでいた片一方の手を、スルスルと下の方へと緩やかに滑らせていく…。

そしていとも容易くそれを見つける!平常時サイズのカワイイそいつを!


チクビと魚肉を摘まんだ体勢で、頭を再び整理する。

確かに摘めるサイズではある…だが、それはあくまでもオレのギョニソーだから似合う表現なのであって、悔しいかな、一般人的には摘まむよりも握る、という表現の方が適切なのではあるまいか?


「…」


「これはあぁ…豆知識のおぉ…類なのだとぉー、前にぃエガシラ様ぁご自身がぁー、僕にいぃ…教えてぇー…」

「黙っておれ!」


シバサブロウはヒデヨの口を慌てて制した。

流石にこれ以上のヒントはマズイと思ったようだ。


…にしても、豆知識とな?

それだけでは全く分からん!ヒントどころか寧ろ更に悩ませやがる!


ギリシャ神話に於ける、スフィンクスが問うたとされる『朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足、この生き物は何か?』風味の謎かけ要素でもあるのだろうか?

この問いの正解は人間であり、人生を一日に喩えたものだったが、人間でもありカセイ人でもあるオレなら『普段は項垂(うなだ)れて帽子を被っているが、興奮した時にだけ帽子を脱ぐイカ臭い野郎の正体は?』という問いをロリギャル限定で問うてみたい気分だぜ…フフフ。


イカん!イカん!またどうでもいいコトを!

下の頭は摘まんだままで上の頭を大きく左右に振った。


豆知識…豆知識豆知識豆知識…豆!豆!豆!

ん?豆…はっ!!

確か官能小説などに於いて、古くから比喩のひとつとしてクリを豆と表現していなかったか!?

ほーら可愛いオマメちゃんが覗いているよぉ…などと言って!


疼いている主は、男ではなく女ということかっ!?

棒は握るモノだが、豆は摘まむモノ!これは自然の真理ジャマイカ!?


疼くなら、摘まんでみよう…チチとクリ!

コレだっ!!!


欲張りなお嬢さんには、紳士の嗜みとして乳首だけでなくクリも同時に構ってあげねばならぬとも聞く!

両者ともに指で摘まめるし疼く部位でもある!女性の二大性感帯と言っても過言ではない!


本来、豆と栗とは全く似つかぬ別物だが、うっかり栗をカナ変換しようものなら、その刹那、クリとセットで登場した豆は、そのシナジーの恩恵を余すところなく浴びて、女性の陰核の比喩たり得る高みの存在へと昇華することになるのである!


もはや豆知識なのか栗知識なのかすら分からんが、なるほどなるほど言い得て妙とはこのことか?

今後、女性の陰核に対して並々ならぬ拘り(フェチ)を抱き、造詣が深い者に対しては『ほほう、豆知識がかなり豊富でらっしゃる…』などとジェントル風味で感嘆して見せるべきなのか?フフフ…。


何にせよ、クリは淫語の範疇かもしれないが、栗とすれば立派な季語でもあるのだ。

油断していたが、両チクビとしていたのではそもそも俳句が成立しなかったのである。

何故ならチクビは断じて季語ではないからだ!

干し葡萄などと巧みに表現してみても、寒くて縮んだ冬のチクビとして解釈されずに、チクビ保持者の加齢によるものとして片付けられてしまうのが関の山だろう。


オマケ要素としては、チチと栗であれば『チチクリ合う』という昭和臭漂う表現を示唆することにも繋がるということだ。男女が密かに情を交わし合う表現だが、密かに交わすという意味に於いては合言葉としても大きくは外れていないであろう。

かつてエガシラはヒデヨに、クリを豆に喩える豆知識と併せて、乳繰り合うという表現についても得意気に言及していたかもしれない…。


疼くなら摘まんでみようチチと栗…。


語呂的にも意味合い的にもクリアした模範解答ではある。

ではあるが、芸術性を鑑みれば『栗の花』などとした方が、ふつくしいのは否めない。


疼くなら摘まんでみよう栗の花。


ただし栗の花とするなら、ツマムではなくツムとする方が適切だろう。花は摘むものだからだ。

栗の場合にはどちらでも正解だが、栗の花と表現せし時には『摘まんでみよう』は不適切で『摘んでみせよう』などと詠まねばならぬということだ。


疼くなら摘んでみせよう栗の花。


…ふつくしい。

だが敢えて変えない方が淫靡さを深めて味があるというのもまた事実。

何故なら、ここで疼いている対象とは、詠み手や栗の花粉に悩まされている花粉症患者の鼻ではなく、クリの花であるメシベ自身に他ならないと詠ませたいからだ。

勿論、植物のメシベではない…皆まで言わせるな!

自然界の栗の花は、アノ精なる匂いを発しながら幾ら咲き乱れようとも、決して自らが疼いたりはしないのだ。


だが今回、何と何?と問われている以上、悔しいが『チチとクリ』が正解…の筈である!

オレの美学に反して、ふつくしさの欠片もない下品極まりない句だが仕方あるまい。



「…チチと…クリ…だっけか?」


内心では正解をほぼ確信していた余市だったが、古い記憶の引き出しからやっと思い出した風味の演出は忘れない。曲がりなりにも劇団響の一員だ。

チチでもクリでもなく眉間を指で摘まみながら、長考の末に低い声音で答えてみせた。

もしもこのポーズで(ひざまず)いていたなら、神に祈りを捧げるクリちゃん、もとい!クリスチャンそのものであっただろう。


だが、そんな祈るような渾身のパフォーマンスまで披露した彼の耳に、


「何とっ!貴様!何奴じゃ!?」


シバサブロウは叫ぶなり、素早く数歩下がって身構えたのだった。


くうぅ…まさかのハズレかしらんっ!?

チチではなく耳だったとでもいうのか!?

だが耳は男のチクビと同様に、摘まむ部位ではなく甘噛みすべき数少ない部位の筈!ここは譲れん!


「正解はあぁー…栗とぉリスでしたあぁー」


「そそ!そうだったな!思い出したわ!摘まんでみよう栗とリ…」


間抜けなヒデヨの声に咄嗟に追従するも、トゥー・レイト!


「もう遅い!ヒデヨも要らぬことは申すでない!」

「はあぁぁーいぃ」


デッドエンドで万事休す!!



本来ならこんな非常事態となっては、狼狽してしまうのが人の常というものだが、余市は不思議と冷静だった。


取り乱さずに冷静さを保てた理由について、余市自身も薄々は気が付いていた。

それは、合言葉の句がなまじ捻りが少なかったがために、せっかく華麗に推理して導き出したというのに、その句はただ単に『メリークリとリス』バリのオヤジギャグでしかないとでも言うべきか…つまり知的センスがゼロだったことに起因した、一種の落胆にあったのだ…。


そう…落胆。


つまり、全く以って不甲斐ないエガシラの詠んだ下品でしかない句に、少なからず脱力してしまっていたのである…。


勿論、チチと栗でも褒められたものではないが…栗とリスとな?

そうか…そうきたか…。

意味するところは結局、ふたつではなくひとつだったというワケか。

何と何…というヒントを与えられて、逆に煙に巻かれた形である。ひょっとしてシバサブロウも句の真意を理解できていなかったのか?だとしたら滑稽だが…。


確かに、時と場合によってはクリの一点集中の方が疼き解消効果が高いのかもしれない…それは否定しないし、童貞という身分で踏み込むべき領域ではないという分別もあるさ…重々承知している。


だが、そこが問題ではない!


あまりにも露骨過ぎる駄洒落でしかなかったということが解せぬ。

栗はともかくリスの方には豆知識も見出せず、俳句としての美しさも深みもないことが残念でならないのだ!


蓋を開ければ、オヤジなら素直に正解できていたであろう浅はかな合言葉である。

ホトトギスとクリとリスか…フフフ…ノリだけで正解してもおかしくない低レベル。つまり俳句以前に合言葉としても不適切かつ不合格!


これは断じてケアレスミスなどではなく、寧ろオレのレベルがなまじ高かったがために起き得てしまった稀に見るケアフルミス!

ありていに言えば、出題者の知能を買い被り過ぎたことによるインテリジェンスな自滅…。


「フフフ…嗤えよ」


「何だと!?貴様!何者じゃ!?」


例によって、うっかり口に出してしまったようだ。

もう俳句など排棄して切り替えねばならぬ頃合いのようだ!


「そう…オレには美学がある!低レベルなエガシラなんぞではない!寧ろピカソに近い存在!」


エガシラの顔のまま、開き直って言い放った。

狙ってやったものではないが、顔がピカソ化したのは事実だ。正確には竹鶴と角瓶の美的センスが光った作品であって、余市はキャンバスを無断使用されたに過ぎなかったが、細かいことはどうでも良かった。

とにかくエガシラとはレベルが違うということを、ここに宣誓しておきたかったのだ。


「つまりいぃ…本物のぉエガシラ様はあぁ…」

「…イサオやタケシの件も嘘じゃな」


既にエガシラもイサオも始末されたと思ったのか、シバサブロウは余市を強敵と判断したようである。

ヒデヨはほとんどカタツムリ化しているので、その表情を読み取るのは困難だったが、シバサブロウの方の表情がこの上なく険しいものとなったのは見て取れた。


当初の予定では、この2体から色々と聞き出すつもりだったが、こうなっては仕方がない。

ぶっ倒して竹鶴を救出するのみ!


余市は右腕を上げると軍配を念じたのだった。



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