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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP096 タケツル

イサオは既に展望空間にタケシが居ないことを確認して、村の外へと飛び立った頃だろう。


竹鶴を救出するなら今しかない!


残るはヒデヨとシバサブロウの2体だが…。

フフッ…ヤツらなんぞは、あの屈強な体躯と凶暴な鋏を頭部に生やした武闘派のイサオに比べれば、研究職に就いている理工系の貧弱系であって草食系の筈!恐るるに足らずじゃ!


とは言え、いきなり斬り捨てたのでは、余りにも思慮に欠け、賢いアクションとは言い難い。

ここは殺る前に色々と情報を聞き出しておくのがベターだろう。

擬態し直して鼻の下の髭も消したことだし、今度こそ完璧に近いシンクロ率でエガシラ化できている筈だ。


浅黒いスキンヘッドは青い明滅を受けて鉛玉のように鈍い光を宿していたが、実際には隠れ笠を被った状態からの擬態であるため、適温適湿は保てている。よって頭皮に汗などは掻いていなかった。

そんな生を感じさせない不気味なオブジェは、さながら磨き抜かれた磨製石器のようでもある。



さっきはイサオが居たためにあまり下の方まで行けなかったが、今度は違う。

静かな足取りで深く深く進んで行く。


こうして渦状の螺旋をグルグルと回っていると、ふと、この異世界に転送されし時に味わった排水溝に吸い込まれていく陰毛感覚がフラッシュバックしてしまう…抗いようもなかったあの時の恐怖に比べれば、今は自ら能動的に歩いているのだから、スピードから景色に至るまで、まるで勝手が異なる筈なのに不思議である。

ひょっとしたら、ちょっとしたトラウマとして深層心理にこびり付いてしまったのかもしれない…。


そんな思いに耽っていると、いつの間にか魔法陣まで直線距離にして10メートル足らずの所に接近していた。



ヒデヨとシバサブロウは作業に集中していた。

この偽エガシラの接近には全く気付いていない様子だ。

話し掛ける前に、魔法陣の上に寝かされている人物について改めて観察してみる…。流石にこの至近距離からの俯瞰であれば、もはや光や煤煙も問題にはならなかった。擬態してもデビルアイの能力は健在なのだ。


うぬぅ…間違いない。


あの(やじり)のように尖った鋭角な顎のラインなどは…まさに竹鶴ならでは!

眼鏡を外して瞼も閉じてはいるものの、貴重な検体として食糧(エサ)を与えられていたのか、角瓶の時のように衰弱もしていないため、その面影はかつてのそれを維持しており、見間違えようがなかった。


だが冷静によく見てみると、額の上部からは細い一対の触覚が生えていたし、左腕は完全に鎌へと変化を遂げ、鋭い棘が沢山隆起していた…。


つまり竹鶴は、ほぼほぼカマキリ獣人としてデビューを遂げてしまっていたのだった!


遅かったか…。


あのマッドサイエンティストのようなオーラを纏っていた竹鶴が、その印象とは裏腹にクランケのように裸で寝かされて、白衣の獣人2体によって改造されてしまったのである。

こんな円形の魔法陣の上で改造されてしまうなんて、否が応でも某初代仮面ライダーの改造シーンとナレーションがオープニング曲と共に脳内に鳴り響いてしまうジャマイカ!

唯一の異なる点は、竹鶴はライダーではなく、敵役である怪人カマキリ男にされてしまったということだ!


先ほどのイサオたちの会話の内容から、事前にある程度の予想はしていたとは言え、目の前のこの非現実的なリアルは余りにも恐ろしい!…筈なのだが、余市は不思議と冷静だった。


取り乱さずに冷静さを保てた理由について、余市自身も薄々は気が付いていた。

それは、もともと竹鶴がなまじカマキリ風味のマスクであったがために、せっかく華麗に獣人デビューを果たしたというのに、その姿はただ単に竹鶴のDNAが色濃く強調された超竹鶴でしかないとでも言うべきか…つまり視覚的インパクトが想定内だったことに起因した、一種の落胆にあったのだ…。


そう…落胆。


つまり、全く以って不謹慎極まりないが、少なからず期待していた自分が居たのである…。

もっと白状するなら、内緒でワクワクすらしていたのだ!


それがどうだ?

パッと見、大きな変化と言えそうなのは、左腕の鎌と額の一対の触覚、それと脚の膝から爪先までが跗節(ふせつ)化したことくらいである。体型も元とそんなに違っていないし手足が6本に増えたわけでもない。

仰向けではあるが背面に前翅(ぜんし)のようなものも見当たらず、アレでは飛翔どころか滑空すらできないであろう…。腹部もタケシのようには腹節化しておらず、胴体はほとんど人間のまんまだ。

勿論、まだ変体過程の途中である可能性もあるが、四肢と頭部の先端にしか大きな変体が見られないとは…。


勿論『助けたい!人道的にも助けねばならぬ!』という理性的な気持ちもあったさ…でもその裏で、竹鶴の変貌した姿に期待してしまう正直な自分が存在していたのもまた事実なのだ。

そのふたつの気持ちが、ジキルとハイドのように先ほどから胸の内で葛藤していたのだ。


恐ろしい境遇に置かれた友人に向かって、こんな感情を抱いてしまう自分が嫌で仕方がないが、言い訳をさせて貰うなら、竹鶴は角瓶に比べると今回の旅に於けるリアル友情値のバロメータ上昇が乏しかったのも事実なのだ。


振り返れば高校時代…。


角瓶はオレのことを顎で使うようなところはあったが、体育会系らしくサバサバとしていたし、必要以上に絡んで来ることもなかった。廊下で唐突にプロレス技を掛けられたり、近くのコンビニまで走らされたり、掃除を押し付けられたりといった、所謂、ガテン系の物理的ダメージに特化したものばかりだった。つまりそれらは、その一時一時の我慢で終わる質のものだったため、後腐れなく気分の切り替えも容易で、精神的な苦痛はそれほど大きくはなかったのだ。

今回の旅ではリアル友情を育み、励まされたことも幾度かあったし、生まれて初めてブロマンス風味の感情の片鱗すら味わったと記憶している…。


対して竹鶴は、高校時代ジメジメとオレをネタにして楽しんでいたし、ねちっこく執拗に絡んでも来ていた。物理攻撃こそ少なかったものの、下品で恥ずかしい捏造工作は当たり前で、クラスメイトからの離間工作や分断工作、とりわけリアル女子への邪悪な洗脳工作によるオレのイメージダウンは秀逸かつ甚大で、それらによって創り上げられしオレの人格は人間失格レベルであり、年間を通して慢性的に効果の持続する性質の悪いものだった。つまり精神的にかなり堪えるものだったのだ。

今回、諭吉を恵んでくれたり松坂牛を馳走になったりと、物的援助こそ多々受けたが、過去に蓄積されたそれら負の感情は根雪のように溶けずに鬱積したままで、プラマイゼロのフラットになるまでには至らなかったのである。


しかし、こうして竹鶴の不甲斐ない獣人デビューの批評(レビュー)をひと通り終えた今、先行していたハイド風味の感情は必然的に薄れてしまった。後はもう理性的かつ人道的なジキルの精神でもってヤツを救出せねばなるまい…。


そんな義務的感情で、惰性混じりの一歩を踏み出そうとした時である。


余市は最後に竹鶴の身体を軽く撫でるように見渡したのだが、彼のデビルアイによる視線が仰向けの竹鶴の股間を通過しようとした刹那、ピタリと停止したのだった。


…獣人デビューする過程で消滅したのか、それとも獣人どもに剃毛されたのか、はたまた日頃から己で処理していたのかは知る由もないが、とにかく竹鶴のそこはツルツルなのであった…。


そのツルツルの丘からは、にょっきりと一本、弱々しく(しな)ったタケノコが生えているのだが…その様はまさに『タケツル』と呼ぶに相応しい景観だった!

そして余市が特に目を(みは)ったのは、そのタケノコ…即ち生殖器(ギョニソー)の先端部分だった!


むっ…むむむ!!!ア、アレはっ!?


そんな!まさかっ!?


だがしかし…アノ素直な形状は…まさしく…。


フードをしっかりと被ったギョニソーは、本体である竹鶴と同様に元気なく横たわっていた。

ドリルでこそなかったが、ひょうたんの先端を彷彿とさせる、小学生のギョニソーがそのまま膨張したかの如きフォルムは、もはや疑う余地ナッシングッ!!


お…お前も…お前もカセイ人だったのか!?竹鶴っ!!!


オレのことを皮が15センチも伸びるだのと、周囲のリアル女子たちに愉快に流布して回っていた張本人であるキサマがっ!!!

おお!主たるダビデよ!ここにも憐れなる我らが同士がまたひとり潜んでおりましたぞ!


ってか!昭和のサスペンスなどでよく、名探偵が住人をひと部屋に集めて『犯人はこの中に居ます!』などとしたり顔で言うシーンがあるが、その言った探偵本人が犯人であるが如き展開!

探偵を竹鶴に、台詞の犯人をカセイ人に、住人をクラスメイトに、部屋をあの夏の昼下がりのクラスに置き換えれば、そっくりそのまんまジャマイカッ!!


あの時は博士と呼ばれしオレひとりが恥ずかしい単独犯として祭り上げられ盛大に嗤われたが…。

フッ…フフフ…面白い…てかアメージング過ぎんぞ…オマエ。


このデビューのタイミングで、もしもタケノコが毒針などといった違う形状へと進化を遂げてしまっていたならば、この美味しいファクトは真犯人と共に未来永劫、闇に葬られ、事件は迷宮入りしていたに違いない。

否!迷宮入りっていうかオレひとりが犯人として表向き解決をみてはいたのだっけ…ぐぬぬぅ。

どちらにせよ過ぎたことは悔いても仕方がない。


ひとつ言えるのは、今回、竹鶴としては、どうせ獣人デビューする運命ならトップ・プライオリティで真っ先に変体して欲しかった部位には違いないだろうということだ!


ムフ…ムフフ…。


竹鶴の知られてはならない秘密の急所は、そのまま文字通りの急所にあったことに、余市はエガシラの顔を歪ませながら邪悪にニヤついていた。

自分もカセイ人である癖にオレを長期に亘ってからかっていたことに対する憤りと、ヤツ自身もカセイ人であったという最大の秘密を握ったことによる喜びとが50対50で絶妙にブレンドされ、ドス黒い化学反応を示していた。その表情は、たとえエガシラに擬態していたとは言えども、本来の余市に由来する救いようのない卑屈な笑みだったのである。


…富豪の家に生まれ何不自由なく育ってきた筈の竹鶴が、割礼の儀式を怠っていたとはな…。

ボルテックスを見つけるまでは皮を切除しない!などと願でも掛けていたと言うのか?


…む!それともアレか!?

まさかコイツも崇高なる触手の夢を捨て切れずに、今日まで女々しくも意図的に皮を残してきたというのかっ!?…流石にそれは買い被り過ぎか。


そんな考察を続けるスキンヘッドの持ち主の妖しい視線に呼応してか、竹鶴のツルツルの陰嚢は恥ずかしそうに縮こまり、奇しくもそれはまるでカマキリの卵嚢のようなビジュアルへと変化した。


それにしても、獣人デビューによって禍々しく形状変化した左腕の鎌などよりも、獣人化を免れた部位であるギョニソーの方に何倍もの大きなインパクトと感興を見出してしまうとは…な。



だが今は、ヤツの亀頭の発育問題はひとまず横に置いておいて、これからのアクションに集中する局面。

高鳴る鼓動をデクレッシェンド調に徐々に鎮めていく余市。


オレはエガシラ…この時計塔の主にして絶対の存在。


自分に言い聞かせる。そして、


「コホン…イサオから聞いたが、順調なようだな?」

「はっ!エ…エガシラ様あぁー」「うむ」


ヒデヨとシバサブロウはほぼ同時に頭上に向けて首を捻った。



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