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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP093 鐘の下の闘い

土壇場で非情になり切れなかった余市。

捨て駒を捨てたと同時に拾いに行くことになろうとわっ!!


…だが、危うく鬼畜のような兄弟子にならずに済んだぜっ!


ドタッ!


着地すると、既に見張りの獣人が目の前に立っていた。


「貴様ら!今朝捕えた村人どもではないか!」


その獣人はタケシだった。

確かタケシは昼の間、機械室でツヨシと共に休憩に入っていた筈。

オレがクモの巣で仮眠をとっている間に、シフトのチェンジがあったということか?

ってことは、おそらく上の展望空間ではツヨシが見張りについているに違いない。


だが、そんな獣人たちのシフトなどは今は重要ではない!


「こここ…こりゃいったいどーゆーコトだっ!?」


ボパルは尻餅をついたまま叫んだ。

無理もない…このまま安全に地上まで逃げられると聞いていたのに、今朝、自分を攫った張本人ならぬ張獣人がいきなり待ち構えていたのだから!


「って余市!お前まで何で降りて来…」

「スマンがボパル!話は後だ!」


振り返ったボパルを背後から抱き上げると、余市は真上の開いたままの扉に向けて放り投げた。


「ぬおっ!何しやがるっ!?」

「扉を閉じてそこで待機していろ!文句なら後で聞く!」


ボパルは螺旋階段のあるホールに再び戻されると、脅えた表情で慌てて扉を閉じた。

それを見届け、余市は軍配を念じた。

眩い光が身体を包み込み、生まれたままの姿となったかと思うと、僅か数秒で回転しながら戦闘服へと変身が完了した!


そんな余市の変身を、タケシは呆気にとられて見とれていた…ようだ。視線が読めないため何とも言えんが、その場で棒立ち状態であったことから、まず間違いないだろう。


余市の戦闘服は、正直言ってRPGの主人公のような至ってありきたりの格好であり、面白みや斬新さはまるで無い…響に合わせて和風の甲冑やら忍者のようなモノの方がカッコ良かったのに!と最初は後悔したものだが、余市の潜在意識に、ネトゲで初めて購入した地味な皮の鎧の記憶がこびり付いてしまっていたため、致し方のないことだった…。

せめて、クンニスキー村の豪傑となってからの記憶が潜在意識として根付いていたならば、もう少しマシな装備になっていただろう。



大きな鐘の下で獣人であるタケシと対峙し、ギコを構える余市。


シチュエーション的にはなかなか絵になるが、お姫様を助ける戦士ではなく、変態を助ける変態という境遇が残念でならない…。


「タケシとか言ったな?オレは北与野出身の宮城余市だ!その首、貰い受ける!」


戦国武将のように名乗った。

理由は…例によってカッコイイと思ったからだ!


「ほぉ…キサマ、我々の言葉を話せるのか?」

「母国語なのだから当然だろう?」


「タケナカ…ツルヒコとか言ったか…キサマもアイツの仲間ってワケか…」

「何っ!?竹鶴を知っているのかっ!?」


「これより死ぬキサマに答える必要はないっ!」


そう言うなり、タケシは細長い腕を振り落としてきた!

細いとはいえ、棘の生えた鉄パイプのような昆虫の腕は、もはや凶器以外の何物でもない!


ガシッ!!


その攻撃は余りにも速く、ギコを合わせるのが精いっぱいだった。

鋭い棘と棘に挟まれるように、兜割であるギコが引っ掛かっている…。


この一撃で、己の進化した運動能力をもってしても、現時点ではタケシのスピードには勝てないと、余市は瞬時に判断していた。

なるほど、獣人族とはこれほどの連中なのだな…響や紫電サマに迫る俊敏性と認めざるを得まい…。


数秒の間、キリキリと力比べと睨み合いが続いたが、拮抗して埒が明かないとみるや、タケシはもう一方の腕を振り上げた!戦闘に慣れているのか判断も早いっ!!


しかし同時にギコを抑えていた方の腕の力が一瞬緩んだ!

余市はその隙を見逃さなかった!


タケシの次の一撃を避けることは叶わないと覚悟した上で、肉を切らせて骨を断つ!戦法に出た。

柔らかそうな腹部に向かって一気にギコを引いたのである!!


ビシャアアァァーーーッ!!!


「ぐああぁっ!!」

「くうぅ…」


ギコはタケシの腹を大きく斬り裂き、タケシの腕は余市の皮の肩パッドを引き裂いていた!

互いに片膝をつくも、明らかにタケシの方が重傷である。

余市も肩から上腕部にかけて出血が激しく、骨まで届いているであろう深手を負っていたが、タケシの腹部からは夥しい出血もさることながら、臓器も零れ落ちていたのだ!


「に…人間ごときに…このオレが…ぐうぅぅ」

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「…とどめを…刺せ」


余市はタケシの首を下から一気に刎ねた。


ブシュゥ!!


首は展望空間から宙に向かって弾け飛び、タケシの胴体はその場に倒れ動かなくなった。


軍配を念じると、


『全敵、殲滅!完全勝利!…余市、体力…』


脳内アナウンスが鳴り始めた。


全身を再び光が纏い、元の服へと戻っていくなか、余市は思っていた。

これでもう、作戦の全てが水の泡であると…。

隠れ蓑を羽織わずに展望空間に降りた時点で、既に作戦に狂いは生じていたが、獣人を1体屠ったことで、完全に終わりを見たのである。


「はぁ…はぁ…め…冥福祈捧…極楽浄土」


光線がタケシの身体を光の粒子へと変えていく。

獣人族とはいえ、やはり種の聖域は存在しているようだ…。


多数の村人たちを死傷させたハエ男のシゲルは、敢えて弔われずに灰にされたようだが、余市は真剣勝負をした相手に敬意を払い、タケシの魂を聖域へと送ってやったのである。


ギコを鞘に収め、出現した六角柱のクリスタルに手を触れると、『緑の翅』と『鷹の爪』というふたつのアイテムが現れた。名称的にどちらもそれほど高価なモノではなさそうだ…。



上腕部の傷は深く、流石の余市の治癒力をもってしても直ぐには治りそうになかった。だが残り少ない貴重な丁子を摂取するワケにもいかない…ここは暫く痛みに耐えねばならない。


仰向けになると、大きな鐘の内部が見えた。

鐘を真下から見るなんて、何だか不思議な気分である。実家の部屋の天井の木目をふと思い出す…今が現実なのか、あの時が現実なのか、それとも両方とも現実?もしくは全てが夢幻なのか…?


正直、どうだっていい。

それよりもこれからどうするかだ。

計画をゼロから練り直さねばならない…ということだけはハッキリとしている。


朝には交代の見張りがここにやって来る…。


タケシが時計塔のどこを探しても見当たらないと知れば、何者かによって消されたという線を次に疑う筈だ。そうなれば、侵入者の可能性は勿論だが、クモの巣から脱出した村人が居ないかどうかも同時に調べられるのは間違いない…。


当然、磔の村人のひとりが居なくなっていることは直ぐにバレるだろう。ボパルの貼り付いていた場所には身代わりの人形を設置していないのだ。

その後、運よく身代わり人形2体の存在には気付かれなかったとしても、ボパルの行方を虱潰しに探すのは明らかだ!


…そう言えば、錆爾はどうやって時計塔から脱出したのだろうか?


用意周到なヤツのことだ。

ファストロープを駆使して塔を下りたのかもしれない。

だが、壊れた橋の足場の真下を下りることで、上の見張りからは死角となって上手くやり過ごせたとしても、この展望空間に居たタケシには流石に気付かれた筈である。

身消しの術とは言っても物音や匂いまでは消せないのだし…ヤツはタダでさえ香水の匂いがキツかった。


いったいどうやって…?


まさか!

ヤツはボパルの捨て駒作戦に乗じて、オレがこの展望空間を通過するのと同じタイミングで、塔の壁を下りようと考えていたのではあるまいか!?

結果としてボパルが騒ぐ代わりに、オレがタケシと戦闘する展開となったが、ヤツにとってはどちらでも問題なかったに違いない。


結果としてオレがヤツを逃がすための捨て駒風味の役割を演じてしまったというワケか!?

ぐぬぬぬぬぅぅ…。



カチャッ


突然、天井で音がしたので咄嗟に上体を起こした。

しかし、天井の扉から顔を覗かせたのはボパルだった。勿論、パンティなどは被っていない。


「オイ…だ…大丈夫だったのか?余市」


ボパルは下りると、仰向けの余市の横で胡坐をかいた。


「流石のお前でもすんなりとはいかなかったみてーだな」


余市の腕の傷に気付き、ボパルは言った。


「…まあな」


「しっかしヨォ!こんな所に獣人が居るなんてヨォ!お前が気付いてくれなかったらマジで危なかったゼ!」


「…」


ボパルのヤツ…何も知らないでオレに感謝しているのか…?


「その…腕の傷は放っておいても大丈夫なのか?」


「なあ…ボパル…」


「結構、出血してるじゃねーか!」


「なあ…」


「丁子ってやつはもう飲んだのか?」


「なあ…」


「…」


「オレは…お前のことを…」

「うるせぇ!それ以上、言うんじゃねぇ!」


ボパルは顔をクシャクシャにして背を向けた。


…やっぱ気付いてたのか。


扉の上でボパルなりに考えたのだろう。

何故オレが扉の下を覗く間もなく自分を追うようにして飛び降りてきたのか…そして何故、迷いなく直ぐに自分を元の扉の上に放り投げたのかを…。

最初からオレがこの展望空間に獣人が居ると知っていたとすれば、全ての辻褄が合うということに。


「…悪かったな」

「…」

「深く…反省している」


「…テメーのコトだ…なんかワケがあったんだろ?」


「話を聞いてくれるか?」

「…」


返事は無かったが拒否もされなかったので、余市はボパルの背中に向かって、ひとり言でも喋るかのように作戦の全てを明かした。


今更、何を言っても言い訳となってしまうが、この作戦でボパルが殺される確率は低いと考えた理由や、それでも殺される可能性や事故の確率がゼロではないというコトも分かった上で、ボパルを捨て駒にしようとしたということも正直に話した。


そしてこの未必の故意に近い入れ知恵をしたのが、硝子の土という組織の錆爾という者だということも話した…。

ただ、彼らとの出会いや、村長との一件などについては伏せておいた。


「それだけか?もう…隠してることはねーのか?」

「…まだ…ある」

「ちっ!」


「深くは話せないが…」


最後に、自分と響には角瓶のほかにも竹鶴とマリカという仲間が居るということを打ち明けた。

詳しいことは語らなかったが、故郷の仲間だということと、少し前に彼らが獣人族に攫われたらしいということを聞かせた。


「それで全部か?」

「あ…ああ…」


正直言ってボパルへの秘密ということであれば、真っ先にDPSが挙げられるが、今回の件とは無関係である。流石にそこまで胸襟を開いてカミングアウトすることもあるまい。


「まあ、アレだ。正直言ってムカついてるが…最終的にお前は計画を変更してオレを助けたのは事実だ!」


「…本当にスマン」


「オレは馬鹿だからヨォ…よくは分からねーが、昔から『小の虫を殺して大の虫を助ける』とも言うじゃねーか!今回はたまたまオレがその小の虫で、この村や村人が大の虫だったってことなんだろ?」


「…」


間違いではない…間違いではないが、小の虫であるボパルを前にして、殺そうとした張本人には返す言葉が見つからなかった。


「でもまあこれで、お前とそのいけ好かねぇ錆爾とかいう野郎の計画もパーになっちまったってことだな!」


「そうなるな…」


「ところでヨォ!余市」

「何だ?」


「一発、殴らせろや!」

「エッ?」


バキィィ!!


いきなりである!

ボパルの拳が、上体を起こしていた余市の顔面に炸裂したのだった。


「ぐはぁっ!」


「オレも男だ!これで今回の件はひとまず水に流してやる!言っておくが、ひとまず!だからなっ!」


「…わ…分かった」


正直言って物理的には全く大したことのないパンチだったが、心に沁みる一撃であったことは否めない。


「で、どーする気だ?」


「ボパル…お前には悪いが、またあのクモの巣に戻ってくれないか?」

「はぁ!?古巣みてーに言うんじゃねーよ!今更、あんな気色の悪いところに戻れっかよ!」

「現時点ではあそこが一番安全なんだ。少なくとも塔の中をうろついているよりはな…分かってくれ」


「逃げらんねーって言うのか?」


「お前の分の身代わり人形は無いんだ。脱走した者が居るとバレれば、磔にされた残りの村人に脱走者の逃げ場所を吐かせようと拷問するかもしれないし、もしそうなればオレと錆爾の身代わり人形の存在も直ぐにバレてしまう…」


「オレが逃げれば…残された村人に危害が及ぶってことかよ?」


「そうだ…それに何の道具もなくこの高さを下りる手段は、今のところ無い」

「ちっ!何てコッタ!!ならテメーはこれからどーする気だ?」


「…考えが…なくはない」


余市は金嚢から隠れ笠と隠れ蓑を取り出して身に付けた。

そして目を閉じて、神経を集中させていく…。


ボパルには以前に何度か隠れ蓑による効果は見せたことがあったので、余市が消えたこと自体に驚きはなかった。しかし…。


「オ…オイオイ…こりゃーいったい…」


保護色効果で透明となっている余市に、徐々に色が付き始めていた。

だがその色は、元の余市の服の色などではなく、何故か緑色を濃くしていったのである。


余市としても、大きな賭けだった。

何しろ、清泉の洞窟で響と試して以来、これまで一度も訓練すらしてこなかったのだ。


それは擬態。

隠れ蓑と隠れ笠の合わせ技である。


あの時、響は辛うじて足だけをアヒルに擬態させたが、今、余市は先ほど屠ったばかりのタケシに擬態しようと、全神経を集中させていたのである。

あれからレベルもかなり上がり、この異世界で多くの経験も積んできたのだ。それなりの完成度で擬態できるかもしれない…そう考えたのだ。


「スゲーぞ!余市!さっきの獣人にクリソツじゃねーかっ!!」

「フフ…どうやら成功したみたいだな」


流石はオレ!自分の脚や手を見て我ながら感心してしまう。


「ケドヨォ…」

「何だ?」

「なんか…小さくねーか?」

「へ…?」


ガッビィィーーーン!!!


そうだった!

対象に姿は似せれても体積までは変えることはできない仕様だった!


タケシとの身長差は、大凡30センチほど…。体格で言えばひとまわりほどもコンパクト…これではオレはプチトマトならぬプチタケシ!ジャマイカッ!!ノオォォォ…。


「し…仕様だ」

「仕様っつったって…大丈夫か?それで…」

「…何とか演じ切ってみせる」


石の仮面を千秋楽まで被り通したオレである!不可能ではない筈だ!

体格だけでなく、声質や体臭、これまでのタケシの記憶や癖、擬態持続時間など、色々とヤバイ気もするが、タケシを消してしまった以上、もうオレがタケシとなって獣人どもの輪に溶け込むしかないのだ!


これぞ!ダミー・タケシ・ストラテジー…略してDTS!


DPSを踏襲しただけの捻りのない寒いネーミングセンスではあるが、腹を括るしかない余市だった。



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