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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP089 Z軸と腐女子

ベッドとは反対側の壁には棚が設置されており、沢山の書類や雑誌などが並んでいた。

今、ルベラは姉に命じられて、その棚にあるらしい時計塔の見取図を探しているのだ…が、


ガサガサ…ガサガサ…


「おかしいですわ…確かこの辺りにあったと思ったのですが…」


ルベラはシャトヤンシーに比べて、言葉遣いも丁寧だ。

ガーネット一家の遺伝と思われる赤い目も、その長い睫毛と相まって可愛らしい。


「ルベラ、何故、前もって準備をしておかなかったのだ?見取図が必要になることは予測できた筈だぞ!」

「すみません!す…直ぐに見つけますわ!姉さん」


ガーネットはイラついている様子だ。

ルベラは椅子に上がって、棚の高い位置を探し始めた。額には汗が光っている。

キャメル色のウェスタン風フリンジミニスカートからは、健康的な脚が伸び、アングル的に後少しでパンティが見えてしまいそうである!


そんなルベラの一生懸命な横顔と太腿に魅せられ、気付けば余市は棚へと近寄り、そしてしゃがんでいた。

あくまでも手伝うためである!己を正当化しつつ、例によって眉間に深めの皺を作る。

そう言えばルベラは、一番下の段のこの箱には目を通していなかったな…。


背後からガーネットに怪しまれぬよう、いかにも箱を見ているかのように首を下に折りつつも、その視線だけはルベラの脚の付け根へと鋭角に見上げる格好だ…が、その表情たるや、余りにもおぞましくキモ過ぎるっ!!

前が棚だから良いものを、こんな顔を万が一、幼い子供が見ようものなら、泣き出すのは言うに及ばず、数十年間に亘るトラウマとなっていたことであろう。


しかし余市は、そんなおぞましい表情を懸命に維持しながらも、内心、酷く悔しがっていた。

何故なら…魅惑の布が見えないからである!!


余市の視点を原点とし、直ぐ横に居るルベラまでの距離をX軸、下から見上げるパンティまでの高さをY軸と仮定する…ここまでは完璧だった。だが、奥行きに該当するZ軸の計算を失念していたのである!


つまり、ルベラがこちら側に尻を向けてくれていれば、Z軸はゼロでも問題無かったし、寧ろそれがベストに近かった。だが、ルベラも余市も共に棚を向いて真横に並んでいては、Z軸は共にゼロのままで、永久に見えないのである。


この場合に残された道は、視点である原点のZ軸の値を手前方向に数十センチずらして、布までの有効角度を確保する他はないだろう!

しかし、第三者視点で見た時、意味もなく下がれば怪しまれてしまうのは必定!卑劣なリビドーは途端に看破されてしまう!

時計塔の見取図は今にも見つかってしまいそうだ…さてどうする!?


そうだっ!!


この箱の蓋を開ける名目で、箱を棚から手前に引き出すと同時に数歩後退すればいいジャマイカ!


「ヨイショっと…」


敢えて口に出しながら棚から箱を引き出した。

勿論、余市自身も後退した。


そして蓋を開ける…が、中身は見ずに視線は斜め上方に突き刺したままである。


み、見えた!!

揺らめくフリンジの間隙を縫って、白い布がっ!!!


「あっ!!!そこは見なくていいのですわっ!!」

「エッ!!?」


キミは瞬時にパンティを盗み見られたことに気付いたっていうのかいっ!?


が、ルベラの視線は箱に注がれていた。

どうやら、パンティではなく、箱のことを言っていたようだ。

ルベラは箱の蓋を閉じようと、何故か慌てて椅子から降りようとしたが、


「きゃぁっ!」


バランスを崩して余市の上に倒れてしまった!


「ア痛タタ…」


余市が起き上がろうと顎を引いて頭を擡げると、


ムニュッ


むっ?

何やら鼻先が柔らかいモノに埋まったようだ…が。

と同時に、そのやや湿度を含んだ布越しに、鼻骨を抉るかのような強烈な柑橘系ヨーグルト臭が余市を急襲してきたのである!!


一瞬、状況が把握できなかったが、余市は直ぐにその刺激臭の正体を知ったのだった。

そう、それは白い布!即ちパンティだったのだ!

つまり、余市の胸の上に尻餅をつくような体勢で、ルベラによる大股開きのM字開脚が展開されていたというワケである!


コレぞまさに!二次元の醍醐味かつ真骨頂かつお約束であるっ!!!

あの土手で、ゴルバチョフからリアルの厳しさと非情さを学んだ余市だったが、今回はクレイジーな糞展開を回避するどころか、何ともアメージングな至福の展開が用意されていたのであるっ!


「イヤアアァァーーーッ!!!」


己の破廉恥過ぎる状況を少し遅れて把握したルベラは、黄色い叫び声を上げた。

その声に焦った余市は、慌てて起き上がろうとしたが、そのコトで、更に鼻先が布に喰い込んでしまった!


「そこっ!嗅いじゃダメーーッ!!!」


さっきまでの落ち付いたキャラは消え失せ、完全にパニクッているルベラ。


「むふぅ…だったら、さっさと降りてくれ」


鼻を摘まんだ時のような声音で抗議すると、ルベラは我に返ったかのように、やっと余市の上から降りたのである。


「す…すみません…ですわ!」


鳶座りをして、真っ赤になって謝るルベラ…。

ムフフフ…ルベラよ、此度は馳走になったな!余は満足じゃ!


だが、ルベラのパニックはそれで終わったワケではなかったのだ!


「お前…こんなモノを…?」


余市が開けた箱から書物を取り出して、ガーネットが呟いたのである。


「そっ!それは!!違うの!姉さん!違うのおおぉぉーーーっ!!!」


見るとその書物の表紙には、何と!上半身裸で抱き合う若いふたりの男が描かれていた…。

ひとりは眼鏡を掛けた意地悪そうな表情の青年で、もうひとりは困った表情のあどけない美少年である…。そして横には、畜生眼鏡…と書かれていた。題名だろうか?


って!これはまさしくBLジャマイカッ!!!


まさか…ルベラがあの村長と同じく腐女子だったとは…。

てか、この異世界、腐女子率、高くねーかっ!?


それにしても、アナルプラグのシャトヤンシーといい、腐女子のルベラといい、ヨノ村の娘どもときたら…このふたりがたまたま特殊な部類なのだと思いたい。

ユキエが余りにもまとも過ぎたせいもあって、このふたりが非常に病んで見えてしまう。


「ま…全く!お前という奴は…もういい!」

「…」


ガーネットの頬も赤く染まっていた。

涙目のルベラは、何も言い返さず無言でその書物…と言うよりは雑誌を片付け始めた…。

予想だにしなかった重苦しい空気が、その場を支配しかけていた…その時である!


「コレにゃ!」


箱が置いてあった場所の奥から、シャトヤンシーは薄っぺらいパンフレットのようなモノを取り出していた。そこには大きく時計塔が描かれているではないか!

おそらく、もともとは棚の上段に仕舞ってあったであろうそれは、いつの頃かに棚の後ろからずり落ちて、今まで壁と箱の隙間に挟まっていたに違いない。


ルベラに要らぬ恥をかかせてしまったことを、やや悔いていた余市だったが、結果としてあの箱をZ軸を意識して動かしたことが功を奏したのである。


「シャトヤンシー!でかしたぞ!」

「にゃー!」



ガーネットは時計塔の見取図を卓上に拡げると、早速、余市に時計塔の出入口や階層などについて説明をし始めた。いよいよ作戦会議である。


ルベラは頬を赤く染めたまま黙って座っていたし、シャトヤンシーは二段式ベッドの上から首を出して卓を眺めている。あそこが定位置のようだ。そもそも猫は高いところが好きな動物である…まあ、彼女は一応は人間なのだろうが。


時計塔は、一階の扉を入ると、螺旋状の階段が内壁に沿って続いており、文字盤の直ぐ下に最初の部屋がある。そこは時計塔を管理する技師の休憩室となっているとのことだ。

休憩室の上は文字盤の内側にあたり、機械室となる。そこから上は階段ではなく梯子となるが、直ぐ上は大きな鐘が備え付けられた見晴らしの良い展望空間だ。腰ほどまでの柵は備え付けられているものの、落ちればまず助からないであろう高さだ。

そして、ここまでが、ヨノ村の生活空間から見える時計塔の全てである。


二階層からなるヨノ村では、そこから更に時計塔が天井の穴を突き抜けて上へと続いている。

天井の穴と時計塔の間には、一周に亘って約5メートル程の隙間があるが、農場などのある上のエリアからは橋が掛かっており、塔に渡れるようになっている。

直ぐ下の鐘のある展望空間からも梯子を上れば、この橋の掛かった部屋に上がることができるが、部屋の床にある出入口の蓋に鍵が掛かっていれば、入ることはできない。


村の上のエリアは下に比べると天井はそんなに高くはない。

橋を渡って塔に入ると、例によって螺旋階段となっているが、一階から続く階段に比べると、その距離は半分ほどである。

そして休憩室、機械室と続き、鐘のある展望空間となっているのだが、この上にはもう屋根があるだけである。四角柱の尖った屋根の先端から、村の天井までの距離は10メートルほどしか離れていないらしい。



ここまでの説明を聞く限り、時計塔の造りはそれほど複雑では無さそうである。

だが、ここまでの説明は、あくまでも平常時の時計塔についてであると、ガーネットは釘を刺した。


余市がシャトヤンシーと共に角瓶を医者の居る小屋まで運び込んでいる間に、ガーネットがルベラから聞いたところによると、上の階層に掛かっている筈の橋は既に破壊されてしまっているという。

そして更に、一階から休憩室まで続いている長い螺旋階段も途中で破壊され、昨夜、村人が侵入を試みたところ、その一階の扉さえも内側から塞がれてしまっていて開かなかったというのだ。


奴らはもっぱら上の階層の扉を利用し、そこから飛翔して出入りしているという。

橋は壊されているため、外から扉にアクセスする手段は、飛翔による方法か、壁を何らかの手段で攀じ登ること以外には無いのである。


そして、二か所ある展望空間では、常に獣人が1体ずつ交代で見張りについており、ザイルや梯子を使って中に侵入しようとする者が居れば、直ぐに蹴り落とされてしまうのだ…。


つまり、翅を持った獣人族以外は時計塔への侵入経路が無いのである!


毎日ふたりの村人が攫われているということが判明したために、ここ数日でヨノ村の老人や女性、子供らは近隣の村に避難を始めたらしいが、他所から来るギルメンたちや、闘える村の若者は、家や家畜、農作物を守るために残っているとのことだ。

そんな彼らも午前中から午後にかけては、滅多に家から外には出ないようにしているらしい。


獣人たちは何故か午後三時には決まって巣とも言うべき時計塔に戻り、それ以降は、展望空間の見張りを除けば翌朝まで絶対に外には出て来ないと分かったからである。

どうやら、獣人どもは規則正しい生活を心掛けているようだ…。


だが当然、獣人の方でも、活動時間帯に外を歩く村人を見掛けなくなったため、数日前からは家を破壊して中に居る村人を引き摺り出すという蛮行を始めたという。


ルベラとシャトヤンシーも、本来であれば、近隣の村に避難すべきところだが、姉であるガーネットが来てくれることを信じて、今日まで残っていたそうだ。

幸いこの部屋は深い場所にあるため、まだ獣人たちに目を付けられてはいないらしい。



余市は、現在の時計塔の状況や、獣人たちの毎日の行動を、暫く目を閉じて考えていた。

そして、意を決したかのように口を開いたのだった。


「オレは、奴ら獣人族の言葉を理解できるかもしれない…」

「何だと!それは真か!?」

「ああ…」


角瓶の身に起きた出来事をガーネットに語って聞かせた。

勿論、この異世界に転移して来たことなどは伏せておいたのは言うまでも無い。


そして金嚢に手を突っ込むと、隠れ蓑を取り出した。

ルベラやシャトヤンシーは、小さな金嚢から大きな蓑が出て来たことにかなり驚いた様子だったが、次の瞬間、ガーネットを含め、三人が一斉に驚きの声を発していた。


「消えてしまいましたわっ!!!」

「余市!どうなっているのだ!?」

「んにゃーーーっ!!?」


余市は暫く姿を見せなかった…。

この状況であまりにも不謹慎ではあるが、ルベラの尻を間近で嗅ぎ、ガーネットの豊満な胸元や太腿を舐めるように堪能していたのだ。極めつけはこっそりとベッドの梯子を上がり、手を伸ばしてシャトヤンシーの尻尾とも言うべきアナルプラグを引っ張ったのである!!

コレは流石にお茶目が過ぎた感は否めない…。


「にゃっ!にゃーーーーーっ!!!」


動物的本能なのか、シャトヤンシーは見えない筈の余市の顔を思いっきり引っ掻いたのである!


「アッ痛っ!!」


余市は堪らず梯子から床にドスンと落ちてしまった。


「そこに居るのか!?余市!」


隠れ蓑を脱いだ余市の顔には、血の滲んだ引っかき傷が走っていた。


「これが噂に聞く、身消しの術かっ!?余市、お前という奴はこんな術まで…」

「い…いやまあ…」

「噂では王宮の一部の組織が、そのような術を使うとは聞いてはいたが…まさか…」


やはりこの蓑を纏ったのはまずかったか…?

あまり突っ込まれるのは勘弁だ。ここは…。


「オレが攫われるっ!!!」


強引に結論を述べた!


「どういうコトだ?」

「つまり…」


余市は思い付いたばかりの作戦を、ガーネットに打ち明けたのだった。



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