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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP079 武道大会要綱

余市は、村長の特注ディルドゥについて、即座に忘却(デリート)することにした。


マルペスにとってもその方が良いだろうし、謂れのない災いが降り懸かる危険性が無いとは言えない。

アレは誰も知らない知られちゃいけないブツだったのだ…。


その後、響の質問にはユキエが答えた。

武道大会で使用が認められている武具についてだ。

もっとも、この際だから武道大会全般について、しっかりと知っておく良い機会とも言える。

余市と響は、大会要綱ともとれそうな概要説明をユキエに求めたのだった。


以前に聞きかじった重複情報も含まれるが、ユキエの説明をまとめると次のようになる。


武道大会は、毎年1回開催されるダサイー大陸で最大のイベントである。

本戦での成績上位者には、王宮より賞金が出るほか、成績に見合った称号も与えられるらしい。


出場資格は18歳以上の男女であり、王宮が管轄するダサイー大陸内の都町村の住民が対象である。

但し、ユキエのように年齢が満たなくとも戦士登録者であれば参加が認められていた。


大会は予選と本戦とに分けられ、予選を勝ち抜いた者が都のダサイーギルドの格闘場に一同に集まり、本戦トーナメントに臨む流れである。

予選は10のエリアに分けられて開催され、それぞれそのエリアの大きさに応じて突破人数が割り振られているとのことだ。


我がクンニスキー村はトゥーレ9から12までのエリアに属し、ここから男女3名ずつの計6名が本戦出場枠と定められていた。偶然かどうかは分からないが、硝子の土の管轄エリアと同じである。

因みに王宮のある都自体でも予選はあるが、都はそこだけで1エリア扱いとなっているそうだ。人口が多いからであろう。

また、推薦枠として毎年数名が予選の成績や出場有無に関係なく本戦に選ばれているが、誰の権限で選出されているのかはよく知られていない…。


本戦は約3ヵ月後に開始されるが、予選の日程は各エリアに任されており、クンニスキー村の属するエリアでは1ヵ月後には始まるという。

この予選はトゥーレ10内部にある格闘場が舞台となるが、事前に各村や集落からの選手を男女それぞれ10名を上限に選ぶ必要があるという。


ただ、これは全く厳しい選抜条件ではない。

何故ならここ数年、上限人数に達したことが無いからである。


これには幾つかの原因があるが、若者の減少と各村内での序列、そして大会のレベルによるところが大きい。

序列はレベルが最も大きな物差しにはなるが、ギルドでの名声によるところもある。

明らかに自分よりも強い者が出場すると判明すれば、それだけで参加を見送るのに十分な理由となるのだ。この大会はマラソン大会のような類のものではないからだ。下手に参加をして怪我でもしたら働けなくなるリスクもあり、運が悪ければ命すら落とす可能性もあるのだ。余程の強い意思がなければ見送るのが普通の思考なのである。

それに毎年中継されるために、本戦出場者のレベルの高さも皆よく知っていた。自分たちの知る村の誇る代表者が本戦では数分ともたずに敗退するのを毎年、見ているのである。


ユキエなどは率直に言って年齢もレベルも低く、小柄で経験も少ないので、無謀と言ってしまえばそれまでだが、今年も10名集まらないことが予想されるので無条件で予選には参加できるであろう。



実際の対戦では、どちらかが負けを認めるか、審判の判断によって勝敗が決せられる。

1試合の制限時間は15分だが、稀に決着がつかないこともある。その際には判定となるが、これは予選の場合に於いては観客の歓声の大きさによって判断される慣習が古くから根付いているそうだ。


本戦で審判が勝敗を決する際に最も着眼する要素は、互いの選手の装着した防具の状態である。

全ての選手が主催者側で用意された数種類の防具を装着する決まりとなっているが、この防具はある程度のダメージが蓄積されると砕ける仕様となっているからだ。

先に相手の防具を粉砕した方が勝ちというルールになっているのである。

この仕様は他ならぬ魔法によるものだが、選手自身には如何なる魔法の使用も禁止されており、魔法による攻撃や防御、回復などの使用が発覚した場合には、即刻その者は負けとなる。

なお、任意で盾も装着可能だが、盾だけは他の防具のように状態が勝敗に影響することはない。



次に武器だが、武器に関しても主催者側で数種類が用意され、選手はそれらから気に入った武器をひとつ選ばなければならない。防具とは違い、武器には魔法は掛けられておらず、対戦中に壊れるか否かは純粋にその武器の耐久性と運による。武器が壊れたからといって、途中で新たな武器が追加で与えられることは無いのだ。ただ、相手の武器を奪って、己の武器として戦闘を続行することは認められている。

本戦で使用可能な武器は指定されているが、慣例として予選でもそれに準じた武器が使用されているらしい。


主催者側で用意されし武器はどれも鋭利な造りとはなっていないが、当然ながら事故は起きる。毎年本戦だけでも数名が命を落としているという現実があるのだ。

審判の勝敗判定後、もしくは防具が砕かれた後の攻撃によって相手を死傷させた場合には、厳しい罰が与えられるが、それが故意または未必の故意と判断されし場合には極刑が下される。


選択が可能な武器は、ここ数年『兜割(かぶとわり)』『棍』『槍』『鎖打棒(くさりうちぼう)』『鉄貫(てっかん)』の5種類が定着している。

勿論、何の武器も選ばずに最初から素手で臨むことも認められている。投擲系の武器は存在しない。


『兜割』とは、鋭利な刃が施されていない剣である。長さや握りの把手の造りなどは幾つかの種類が用意されている。鉄貫を除いた他の選択武器に比べるとややリーチが短いが、相手の防具にヒットすれば、その威力は相対的に大きなものとなる。


『棍』とは、棍棒のことであり、選択可能な武器の中では最も丈夫である。長さや太さも多様に用意されているため、自分に適した棍が選べる。選択武器の中では最も鋭利ではないが、手にする者のパワーを純粋に反映するため、力に自信のある者であれば最強の武器となる筈である。


『槍』は、通常の槍よりも打刀に重きを置いた、所謂、薙刀直し(なぎなたなおし)と同様の処理が切っ先部分にのみ施された造りに変えられている。与えるダメージは低くなりがちだがリーチは長いため、一撃を狙うよりは相手との距離を保ちながら手数でじわじわと攻めるのに向いている。長さや形状は数種類から選べる。


『鎖打棒』とは、ヌンチャクのふたつの棒を繋ぐ鎖が長く変形したような鉄鎖のひとつだが、両端が棒状になったものと片方が分銅になったものから選択が可能である。遠心力を利用することでパワーを倍化させるだけでなく、相手の身体や武器を鎖で封じることも可能だが、使いこなすには高い技術力が必要なのは言うまでもない。


『鉄貫』とは手に装着する超近接戦闘型の武器だが、鉄拳とは違い鋭い刃は設けられていない。リーチはゼロであり、高い運動能力が要求されるため、毎年、選択者が最も少ない武器でもある。片手にひとつずつ握るのが通常なので、この武器だけがふたつでひとつ扱いとなっている。



ユキエの説明は以上だが、上限人数に満たない最近の傾向から、エリア予選には出場できそうである。

そうなると、大きな問題は武器の選択に絞られてきそうだ。


ネトゲやRPGの世界での我が分身、フェルディことフェルディナンド・シュヴァインシュタイガーは、常に剣や刀を振るっていた。

銅の剣から始まって、最終的にはオリハルコンやら伝説の妖刀などである…。


だがリアルでは、剣どころか包丁すら握ったこともなく、刃物らしきモノと言えばハサミとフォーク程度の生活を営んできたのだ。

当然、武道大会で選択可能な武器の中にハサミやフォークは無いし、そんなの話にもならない。高枝切り鋏クラスであれば、ひょっとしたら…何て考えている自分に気付いて大きく頭を振った。


そういえば、ユキは既に武器を決めているのだろうか?

マルペスと向かい合って、まだ作業を続けているユキエに訊いてみる。


「ユキエは何の武器にするのか決まってるのか?」

「ウチはね、鎖打棒!片方が分銅になってるやつ!」


即答されてしまったが、鎖打棒って…馴染み薄いんだよなぁ。

忍者の持っている鎖鎌の、鎌の部分が代わりにヌンチャクみたいになったやつ…?


「どうして鎖打棒に決めたんだ?」

「直感!だけど、強いて言えば…けん玉が得意だったからかな?あはは!」


インスピレーションでビビッと来たってか?

つか、けん玉って…関係あんのかよ?

思わず苦笑いを返してしまった。


「響お姉さんは何にするつもりですか?」


今度はユキエが響に尋ねた。


「素手でも良いのだけれど…そうね、今聞いた感じだと、鉄貫ってやつかしら?」

「えーっ!一番難しいやつじゃないですか!?」

「そうなのかしら?」

「あっ!でも響お姉さんの素早さとパワーなら逆に凄いかもっ!!」

「素手に近い武器の方が体術の経験が生かせそうな気がしただけよ…まだ決めたワケではないわ」

「なるほどー!流石、響お姉さん」


やはり響は体術の経験があったのだ!

オレには何も無い!奇麗さっぱり何も無いのだ!

となれば、今から何の武器を選んだところで一緒ではあるまいか?


「余市は何にするつもりなの?余市もやっぱり鉄貫?」

「オ…オレはまだ分からないけど、兜割かなぁ…リアルでは剣を握ったことすらないけど」

「ん?リアルでは?」

「いや、気にすんな。アハハ」


勿論、これまでのゲームによる経験からである。そしてカッコイイからだ!


「…確かに余市は斧をあれだけ振り回せるんだし、兜割でも凄そう!」

「だろぉ…フッフッフッ」


「甘いな…」

「エッ!?」


村長のディルドゥの一件から、元のキャラを取り戻して寡黙に作業していたマルペスが、徐に口を開いたのである。


「そういえば、マルペスさんは剣に関しては若い頃に相当ブイブイ言わせてたって噂を小耳に挟んだことが…」

「大したことはない…だが、どんな武器も極めんとすれば奥が深く終わりは無いものだ。少なくとも剣の道が厳しいということだけは知っている」


鍛冶屋を営んでいるだけあって、剣や刀の経験はあるってワケか…。

それに職業柄、多くの剣士たちを見てきたに違いない。


「た…確かに」


重みのある言葉に思わず呟いていた。


「余市くん…とか言ったか、本当に兜割に決めると言うなら、相手はできんが基本的な稽古はつけてやれる。協力すると言った以上、武器や防具といった物だけでなく、それらの扱いについても教えてやる」


「さっすがー!!」


ユキエは叫んだが、手の動きはぶれていなかった。


「有難う御座います!その時には色々と教えてください」

「うむ」



その日、余市と響は、作業場に並んでいた幾つかの武器を借りることができたのである。

幸い、剣や棍、鉄貫とほぼ同じ造りの鉄拳などは、ほとんど完成品に近いものがあったのだ。

鉄拳は、一見メリケンサックのようで、余市には違いが分からなかった。


マルペスとユキエに礼を言って鍛冶屋を後にした。

ユキエも仕事を上がってもおかしくはない時刻だったが、昨日のアリの襲撃で、やや受注が増えたようなことをマルペスは言っていた。


とにかく、いきなり武器屋などに行かずに、先に鍛冶屋を訪ねて武道大会の概要や使用可能な武器について知れたことは大きかった。しかも、それらの実物を借りることまでできたのだ!


帰り道、響の背中を見つめながら、鍛冶屋に行くという彼女の選択が正しかったことに余市は感心していた。

既に心の中では兜割に決定しているとはいえ、明日は借りてきた武器を色々とぶん回してみよう!


狩りやクエストなどの時も、常に剣を腰に佩刀し、慣れておくのが良さそうだ。

サッカー少年にアドバイスをする指導者が『常にボールに触れていろ!』などと言っているシーンをよく見掛けるしな!フフッ。

だが流石に、ユララがディルドゥを常に股間に忍ばせていたように、剣を常に菊座に挿しておこうなどとは思わんがなっ!オレの尻は刀の鞘ではない!



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