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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP076 臭すぎる称号と女の贖罪

ゴーン!ゴーン!ゴーン!


クンニスキー村の朝を知らせる時計塔の鐘が鳴っている。


瞼を開けると、世界が逆さまだった。

どうやら昨日の夕方から、ずっと寝てしまっていたらしい…。

俗に言う、マングリ返しの体勢のままで長時間、放置されていたことに、哀しい笑いが込み上げてくる。

フフフ…コレは珍グリ返しと言うべきかな…初耳。



嗚呼…オレある意味、主賓クラスだった筈なのに、昨夜のヤソルでの宴には参加できなかったのだな…。

結局あの時、響は誤解に気付いてくれたのだろうか?

丁子を飲ませてくれたことを考えると、殺す気はなかったようだが…。


余市は体勢を立て直した。

怪我は驚異的な治癒能力と丁子のシナジーで完全に回復していたが、長い時間、不自然な体勢でいたためか、平衡感覚を失って足元がフラフラと覚束ない。

自室に入って、紙とシャベルを手に取った。歯ブラシやタオルは水場に置いてある。


水場まで行くと、響にばったりと遭ってしまった!

どんな顔をして良いのか、何て声をかけたら良いのか判断しかねていると…。


「昨日は、すまなかったわ…少し誤解していたようね」

「あ…」


何か返そうとした時には、響はスタスタと横をすり抜けてしまっていた。

どうやら誤解は解け、響も反省しているようだ。

洗顔を終えて、トゥーレの壁へと向かう。

ロースには村の英雄とまで讃えられたが、まさかそんなオレが毎朝、村外れでひと目を気にしながら野糞をしているなどとは思わないだろう…。


早朝のミッションを終えてキッチンに顔を出すと、響が朝食の支度をしていた。

ふと、キッチンの端を見ると、様々な大量の食材が積んである。酒のボトルも数本あった。

あれから買い出しにでも行ったのだろうか?


「お、おはよう御座います」

「…おはよう」


響が朝の挨拶を返してくれたことに、らしくない感が芽生えた。


「あれから買い物に行かれたのですか?」


差し障りの無い言葉をかけてみたつもりだったが、響は黙っていた。

だが少しして、


「…村の皆からの感謝の品よ」


はて?村でこの家にオレたちが住んでいることを知っているは、ユキエとミハルだけの筈だが…いつの間にか広まったのだろうか?…まあ村社会だしな、そんな風に思っていると、


「その…少し悪いとは思ったのだけれど、昨夜、宴に顔を出してきたわ」


なにぃー!?

オレをボコッておいて、ひとりでヤソルの店に行って勝利の宴に参加しただとぉっ!?


朝食は昨日よりもやや豪勢だったが、基本的にはトーストを中心としたオーソドックスなものだった。

そんな朝食を向かい合って摂りながら、響がポツリポツリと語った内容は次の通りである。



昨日のあの流れ的に、流石に宴に出席しないワケにもいかなかったとのことだった。

本来であれば、余市とふたりで顔を出すのが筋だが、自分の早合点のせいで余市を粉々に砕いてしまったため、悪いとは思ったが、ひとりで向かったのだという…。


ヤソルの店には既に大勢の村人が集まっており、主賓のふたりを待ちわびていたらしい。

響が顔を出すと、それはもう凄い歓迎を受けたという。英雄扱いで持て囃されたという!

皆からは沢山の土産を貰い、響自身もひと晩であれ程の量の酒を飲んだのは初めてだったらしい。

勿論、もうひとりの主賓格である余市が一緒ではなかったことに、皆から質問を受けたそうだが、響はそこで嘘をついてしまったのである…。


『急に腹痛を起こしたらしく何度呼んでも厠から出て来ない』…と。


そして明け方近くまで飲み明かして、数刻前に帰って来てまだ寝ていないとのことだった。

村の皆が、余市にもよろしく伝えてくれと言っていたのは言うまでもない。


大筋はこんな感じである。


「すまない…」


と、響は謝ったが…オレが厠から呼んでも出て来ないってのは…かなりカッコ悪くないか?

他に何て言うか、


『必死に引き止めたにもかかわらず、まだ村の外に負傷者が居るかもしれないと言って、颯爽と飛び出して行ってしまった』


とか、そういう感じのストーリーがベストだったのだが…。

そこまで贅沢を言わなかったとしても、単に腹痛で寝込んでしまった、とかでも良かっただろうし、寧ろ何で厠に閉じ籠ってしまったなどという嘘をついたのか…?


その辺りについて下僕らしくやんわりと追及すると、響は渋々と続けた。

そしてその事実はあまりにも面白過ぎるものであった!


アリとの戦闘後、そして病院で居合わせた者の証言で、余市が何やら匂ったというのだ。確かに少し臭かったような…そんな同調する意見もちらほら聞こえ、ひょっとしたらあまりにも激しい戦闘だったので、少し漏らしていたのではあるまいか?という噂が立ち昇ったらしい…。

勿論、そのことに対して嗤う者などひとりも居らず、寧ろ、そこまでして村の窮地を救ってくれたのだという、やや臭みを帯びた美談に昇華したようではあったが、響はこの噂につい便乗してしまったようである!


実は最初こそ響も、余市の調子があれから急変して、今、自室で様子をみている…などと言ってはいたそうなのだが、この噂が耳に入り、あらかた酒も入っていたことも手伝って、もっともらしく腹痛で厠に籠城していると口を滑らせてしまったというのが、コトの顛末だったのだ!!


ぐぬぬぅぅ…。


隠れ笠と金嚢にこびり付いたしつこい汚れを早めに処理しておくべきだったのだ!

斧の小町に着いた頃には既に乾いていた筈である。その辺の木の枝や草でもって、いつでも落とす時間はあったのだ!それでも少し匂うようならば、斧の小町のあの井戸で洗うことだってできたのに!!

もしくは変身する前に、隠れ笠だけでも金嚢に仕舞っておけば、アリ殲滅後に元の姿に戻った際に、匂いも微々たるもので周囲に気付かれなかったやもしれぬ!


内容が内容だけに、何だか美味しい筈の朝食までもが臭くなってくるようだ。

ユキエだけで済んでいた糞漏らしの烙印が、一夜明けて、本人の知らぬところで村中に知れ渡り『糞漏らしの英雄』という複雑怪奇な称号に化けてしまったのである!!


『あ!余市さんだ!村の英雄だ!…糞漏らしだけどな!クスクス』

『キミたち!酷いじゃないか!余市さんが誰のために糞を漏らしたと思っているんだ!?』

『す、すみません!我々村人のために…です』

『そうだ!どんな英雄にだって弱点はあるものなのだ!余市さんの場合は…肛門がひとに比べて少し緩いというだけに過ぎん!完璧な人間など存在しないのだからな!』

『はい、深く反省しています!』


『まあ!ヒロシ!またウンチを漏らして!』

『でもママ!この村の英雄だって糞漏らすよ!』

『困った子だねぇ…悪いところは見習わなくていいんですよ!』


『あの余市さんも愛用している!大人用オムツが今日だけ半額だよ!』

『わ…わしは決して糞漏らしではないのじゃが、彼のファンでな…ひとつ貰おうかの』

『はい!お買い上げ有難う御座いまーす!』


そんな会話が聞こえてきそうな勢いジャマイカッ!!!

かつて、こんなコトで悩んだ英雄がひとりでも居ただろうか!?

糞展開…ここまで尾をひくか!やはり羞星と臭星のふたつの宿星(カルマ)を背負っていたというのかっ!?嫌過ぎるうぅぅーーー!!!



朝食を終えて、そのまま食卓で頭を抱えていると、


「余市、風呂を沸かしなさい」

「は…い」


余市のダークな気分を強引に切り替えるかのように響は命じたが、余市は小さく返事をするのがやっとだった。


浴槽を水で満たした後、家の裏口に回ると湯殿の外には沢山の薪が積んであった。

昨日の気持ちの良かった肉体労働を思い出す。


チャッカを脳内で唱え、薪に火を点けた。

ユキエの家の湯殿と同様に、換気窓が高い位置に設置されているが、流石のヘンタイも、今日は釜の上によじ登る気にはなれなかった。

五右衛門風呂の火傷と昨日の一撃の痛みがまだ生々し過ぎる…。それに響とて前科のある余市を警戒して、湯船に浸かりながら換気窓には注意を払っている筈だ。

どうせ驚異的な治癒能力で回復するのだからと、覗いた瞬間に目潰し攻撃なども大いにあり得る。


「余市、今日はユキエの働いている鍛冶屋に出掛けるわよ」


そこでしっかりと薪をくべているかを確認するかのように、壁を隔てて響は言った。


「はい」

「私は夕方まで眠るわ。ユキエの家にはその後、向かいます」

「はい」

「…それまでは自由よ」

「はい」

「…」


自分でも気の抜けた炭酸飲料のような味気ない返事だな、と思った。

響は長時間、湯を使っていたが、それ以降は話し掛けてこなかった。余市も黙って薪をくべていた。


「あなたも風呂に入りなさい」

「はい」


最後に響はそれだけ言うと、湯殿から出て行ってしまったようだ。

オレは紛れもなく英雄なのだ!村を守ったのだ!糞漏らしとはいえ…ぐぬ。

何度も気持ちを切り替えようと努力するが、授業中に教室で糞を漏らした優等生のような心境を、水洗便所のように簡単に洗い流すことはできない。


そんな憂鬱な気分のまま、脱衣所へと向かう。

だが、そんな気持ちも漸く徐々に晴れてきた。それは、ある事実に思い至ったからである。


響が浸かったばかりの湯船に浸かれる、という事実である!

五右衛門風呂の時はそんなコトを感じる余裕などなかったし、コキオという名の不純物質のエキスが少なからず混合された後だった。しかし今は、明らかに響エキスオンリーなのだ!

フフフ…オレってやつは…こんなに沈んでいた気持ちを回復させる手段までもがエロ要素とはな!

救えねー!ただただ救えねー!…だがそれでいい!


脱衣所に入り服を脱ぎ終わると、比較的目立つ場所に、響の脱いだ衣類が畳んで置いてあった。

明らかに無警戒である!無警戒過ぎるだろっ!!

これからヘンタイが風呂を使うというのに、それを知っていながら…はっ!!!まさかっ!!!


敢えてココに置いていったという風には考えられないだろうか!?

響はオレの恥ずかしい性癖、即ち、匂いフェチについて誰よりも知っている筈!

下僕の一番喜ぶモノも当然、主として熟知している!

自分のついてしまった取り返しの付かない嘘に対する…罪滅ぼしのつもりなのではないか!?


コレは響なりの…贖罪?


震える指で、響の脱ぎたての衣類を一枚一枚と捲っていく…。

そしてついに見つけてしまうっ!!!


コレは…響たんのパンティ…ジャマイカ!!?

小さく折り畳まれた光沢のある黒い布が、衣類の中ほどに挟まっていたのだ!


村では今後、オレに対してパンツを汚物で染めた男としての既成事実化が着実に進行するであろう。

そんな哀れなオレに対して、キミはハムラビ法典の如くパンツにはパンティで返すと言うのかっ!?

何という律儀な!!


黒い小さな布を両手で目の前に持ち上げながら、ふとボパルの顔が目に浮かぶ…。

ククッ…クックック…同じ匂いフェチとして今!キサマよりも遥か高みへとオレは登るっ!!


昨日の変身時間だけを除き、相当長時間、直に身に着けていた布なのだ!具を包んでいた布なのだ!!単純計算で、ユキエの家で風呂を借りた昨日の午前中から今まで、実に丸24時間であるっ!!!


むほおおぉぉーーーーーっ!!!


一気に鼻に押し当てた!

それはもう芳醇かつ危険極まりないパヒュームだった!!!

ジェントルとして多くは語るまい…。

裏地のクロッチまでもが黒であるがために、色々と視覚的にも目立ってしまうブツが、白く立体的に形成されてしまっていた…。その卑猥過ぎる形状もさることながら、まだ乾いていない濃厚なそれは、響の普段のクールな表情や態度からは到底、想像できぬほどの汚れであった…。

あの響とてまだ若いひとりの女子に過ぎないのだという歴然たる事実を示す証ともいうべきものだったのだ!!


かつて、これほどまでに気持ちが満たされたコトがあっただろうか!?

既に先ほどまでのどんよりとした気分は大気圏外へと吹き飛んでいた!

村人がオレのことをどう見ようが構うまい!負の噂はそのまま捨ておけぃ!!

響は己の最も恥ずかしい部分と知りながら、ひとに決して見られてはいけない、知られてはいけない部分と知りながらも、勇気と正義感でもって下僕のオレに応えてくれたのだ!


その後、余市が実に久しぶりに、己の手でもって原始的に果てたのは言うまでもない。


風呂を洗い流してからキッチンに戻ると、響は皿を洗っていた。

立ち尽くしている余市に…。


「…満足して貰えたのかしら?」

「ハ…ハハイ…」

「そ…そう…なら洗っておきなさい。そろそろ寝るわ」


そう言って部屋へと去って行ったのである。

やはり確信犯だったのだ!

すれ違う時の真っ赤な顔とやや裏返った声音が、その事実を強固に物語っていた。



その日以降、余市は毎日、響の下着を含めた衣類一式を洗うという任を仰せつかったのである!

響としても、一度、味あわせてしまったのだから、二度も三度も同じという風に割り切ったのかもしれないし、毎日、言いつけを守る余市に対する褒美のつもりなのかもしれなかった。


余市は、響と自分の衣類を庭に出てゴシゴシと洗濯をした。

それが終わると、今度はシャベルを持って野糞ポイントへと移動し、大きな穴を掘ったのである。

風呂上りであまり良い気はしなかったが、こんな時に対処しておかないと、惰性的に毎朝沢山の穴を掘る羽目になるのだ。


穴を掘り終えて、蓋をする大きな葉も見つけてきたが、夕方まではまだ時間がある。

余市はひとまず部屋へと戻ったのだった。



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