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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP072 村の外へ!いざ参らん!

受験に落ち、異世界に堕ちただけでは飽き足らず、この21世紀に肥溜めにまで落ちるなどという時代錯誤も甚だしい貴重な経験をしたことに、何やら目に見えぬ恐ろしい力が働いているような気がしてならない…

時代錯誤と言えば、五右衛門風呂もまた然りである。


やはり根本的な原因は、宮城余市というこの名前にあるのだろうか?

この安土桃山時代の百姓のような名が、数々のこういった事件や現象を引き寄せてしまっているような気がする。朧は名付け親に感謝せよとか言っていたが…。



『フェルディナンド・シュヴァインシュタイガー』


ネトゲの分身の名である。

宮城余市とは数百万光年ほど離れたこの名前で、オレは村の豪傑として君臨していたのだ。

やや長い名前なので、仲間内にはフェルディと呼ばせていたが…。

まさかフェルディナンド・シュヴァインシュタイガーの実体が宮城余市などというカビ臭い名の人間だったなどとは誰も思わなかったであろう。


まあ、現実世界では顔もバレているので、こんな名を名乗れば却ってそのギャップに恥ずかしくなるというものだ。敢えて今から改名しようなどとは思わない。無謀かつ愚か過ぎる。


『余市』を少しアレンジして、ヨイティってのはどうだろうか?

古臭さは感じないだろう。だが、少しばかり未確認動物の山の住人イエティ臭が漂うのは否めない。

どちらにしても、今更?って感じだよなぁ…。



暫しの間、くだらないコトを考えてぼんやりとしていると、遠くからユキエの話す声が聞こえてきた。

寝そべったまま首だけを亀のように、ぬぅーと伸ばして窺うと、響と共にこちらに向かって歩いてくる。

響はユキエを我が家に招待するつもりなのか?

ユキエはこの魔女の家に脅えていた筈だが…。


「余市、支度をしなさい」

「えっ?」


慌てて起き上がり畏まるも、言っている意味が分からない。


「薪を集めに村の外に出るわよ」

「薪…ですか?」

「余市!三人で村の外に行きましょ!」


ユキエは嬉しそうだった。

話をよく聞いてみると、響がユキエの家に向かった理由は、風呂を借りるためだったという。

この新居には薪が無かったため、昨夜は風呂に入れずにいたのだ。響は風呂を借りた後で、ユキエの家の薪も大分少なくなってきていることに気付いて、風呂を使わせて貰った代わりに薪を調達してくることを提案したところ、ユキエが是非自分も同行させて欲しいと申し出た、という流れらしい。


狩りに行くワケではないようだが、結果的にユキエを連れて村の外に出る流れとなったのは、余市としても望んでいたことである。


「うん、分かった」


とは言ったものの、特に用意するものなどはない。

問題は、糞を洗い落してまだ乾いていない靴くらいなものだが、この気温であれば歩いている内に乾いてくれそうな気もする。

やや臭い金嚢を腰に括り付け、隠れ蓑を被る。当然、隠れ蓑も少し臭い。


「余市、あなた勝手に風呂を使った挙句、洗濯までしたようね?」


ギクッ!叱られる!!

周囲に広げられた服と、虫取り少年に衣替えしたことで見破られてしまったようだ!


「それにこの匂い…まさか、その年にもなって漏らしたのかしら?」


そう来る流れだったかっ!?

だが、肥溜めに落ちたなどという非現実的な出来事を説明するのも些か難しい。

仮に信じて貰えたとしても、その肥溜めはユキエの家の近所なのだ。色々と追及されてシドロモドロになることは火を見るよりも明らかである…ぐぬぅ。


「くっ…」

「何も言い返せないところを見ると、図星のようね!情けない」

「余市…漏らしちゃったの?」


ユキエ!そんな目で見つめないでくれ!


「違うんだ!これはその…つまり…」

「もういいわ!さっさと出かけるわよ」


結局、18にもなって糞を漏らした男という烙印を押されてしまったようだ…。

フェルディナンド・シュヴァインシュタイガーの異名に相応しくない烙印を!


それでもオレはやっていないっ!野糞はしたが漏らしてはいないっ!

だがこれ以上、必死に言い訳をしたところで泥仕合となって逆にマイナスとみるべきだろう。そもそも内容的にもレベルが低過ぎる!

泊まりに来た従兄に、ウンコパンツを見つかってしまったガキが、必死になって言い訳をしているのと同列で見られてしまうのがオチだ。

羞星の運命として、ここでも甘んじて受け入れねばならぬのか…。



その後、響とユキエ、その後ろに余市という隊列で、村の正門(ゲート)とも呼べる出入口へと向かい始めた。

余市だけが後ろを歩かされている理由は、シンプルに臭いからである。

風下を維持せよという主からの御達しだった。


ユキエはハイテンションで、響はいつも通りノーマルテンションだ。

余市だけがローテンションである。


村のゲートは支柱から見て8時の方角である。

つまり、我が家から非常に近いのだ!


ロースの肉屋の少し先の十字路を右に進めば村の中心方面だが、逆に左に折れればゲートのある道へと繋がる。

ユキエも普段は資材置場の奥からこっそりと出入りしているため、ゲートから村の外に出るのは数年ぶりだそうだ。年齢制限があるとはいえ、何だか可哀そうである。



ゲートはちょっとした凱旋門のような造りだった。

建物を刳り抜いたような形だが、左右には蛇籠のようなモノが幾つも積んであった。

蛇籠とはワイヤーなどで編んだ四角い籠に、大き目の石を沢山詰めたもので、元の世界では河川工事の時などに積まれるものだが、ここにある蛇籠は、外敵の侵入を塞ぐためのものであることは明らかだ。

用途的には余市の部屋のドアを塞ぐ岩と同じようなものである。


ゲートの真下には、関所のように門番が数人立っていた。


「紋章を見せなさい」


ひとりが言った。

ユキエに倣って余市と響も肩を出した。

するともうひとりの門番が、村長の持っていたコケシのようなものを肩の紋章に押し当ててきた。

村長のそれとの違いは、木製ではなく硝子のような素材であるということである。


ユキエの肩に押し当てた時は、コケシの頭部が赤く光ったが、余市と響の時には青く光った。


「通ってヨシ!くれぐれも注意するようにな」


目礼をして門番の間を通過した。


赤く光った理由はユキエが年齢制限に引っ掛かったせいで、もしも単独で来ていたなら通り抜けは許されなかったとユキエは言った。青の光ば許可の証だという。

村の紋章は見た目では判断ができないが、ひとりひとりが完全にユニークであり、年齢情報なども埋め込まれているのである。


ゲートを潜ると、緩いカーブを描いた200メートルほどのトンネルが続く。その先はいよいよ外である。

このトンネル内部にも、例によって照明効果のある樹液が使用されているため、狭い空間とはいえ暗くはない。


ユキエはいつも、薪を購入したり、たまに近所の家から分けて貰ったりしているらしい。

ユキエの年齢がまだ若く、両親も既に居ないことを近所の人々はよく知っているのだ。だからユキエには皆、優しいし、色々と目を掛けてくれているのだ。そういった近所からの親切を受ける度に、ユキエは申し訳ない気持ちになるという。

そんな話を聞きながらトンネルを進んで行く…。


「今後は、村の外に出たい時には、いつでも誘ってこいよ!」


背後からユキエに声をかけると、


「じゃあウチ、毎日、余市を誘わなきゃだね!」


と言って笑顔で振り返った。

八重歯を見せた屈託のない笑顔に、余市の心も晴れてくる。若いオナゴの笑顔は天使じゃ!


「そうね。明日から余市は、村の外でユキエのお供をなさい」

「ハイ!」

「やったーーー!!!」


これは稽古と呼べるものではないが、そもそも武術なんぞをこのオレが教えることなどできないのだ。

どんな形にせよ世話になったユキエの役に立てるのであれば、余市としても何も言うことはない。


前方に出口が見えてきた。

頑丈そうな格子状の柵で閉じられているが、そこを抜けて10メートルほど進んだ先が、完全にトゥーレの外なのだ。その10メートルほどの場所は幅が少し広くなっており、完全武装した兵士が5人ほど座っていた。ひとりだけ一番外側に立って見張りをしているが、座っている残り4人とローテーションで回しているに違いない。


「ガーネット兵士長!」


ユキエは柵に走り寄っていた。

座っていた女兵士が立ち上がった。


「ユキエではないか!」


黒髪ロングではあるものの、カラコンでもしているのか、その瞳は真っ赤だった。

正直言って怖いが、十二分に美人である!余市よりも年上であることは間違いない。

小麦色の肌にほどよいサイズの乳!やや太いが引き締まった脚!合格である!!

働く女性は素敵だし強い女性も魅力的である!


オカズ偏差値…68以上はあると思うが、はっきりとした数値はもう少し観察してからでも遅くはないであろう!

虫取り少年は顎に手を当てて吟味に入った。


「薪を拾いに行ってきます!」

「だがユキエは…」


ガーネットと呼ばれた女兵士長は、年齢のことに触れようとしたようだったが、直ぐ後ろについて来ていた余市と響の姿を見つけると、


「そちらの方々は?」


と言い直した。


「はい!ウチの恩人…あっ!友人で、最近この村の村民になった、響さんと余市です!」


ユキエは振り返って紹介した。


「なるほど、どうりで初見だったわけだな」

「は、はじめまして。余市って言います」

「響といいます」


「ふたりとも滅茶苦茶強いんです!あのハサミムシですら一撃で…あっ!」


浮かれていたユキエは、うっかり話し過ぎてしまったと思ったのか、途中で口を手で押さえた。

ユキエの言葉を聞いて、ガーネットの赤い瞳が妖しく光ったのを余市は見逃さなかった。


「私は女兵士長のガーネットと申す者。ユキエが世話になっているようだな」

「いや寧ろ、オレたち…じゃなくて僕たちの方が色々と世話になっています」

「そうか。これからもユキエのことを頼む。しっかりしてそうで弱い部分もある子なのだ」


ガーネットは少し笑みを見せた。

余市は柵の扉を潜ると、トゥーレの外を眺めた。


素晴らしい遠景である!空気も新鮮で美味い!

様々な生物の鳴き声が耳に響いて、太古の秘境かのようでもある。

ここから見渡すと、遥か遠くに何本かのトゥーレが聳えているのが分かる。


最悪な場合、縄梯子なども覚悟していたが、地表までは桟道が設置されているようだ。

中国などの田舎の断崖絶壁に見られる、危険極まりない道である。

幅は3メートル近くはありそうだが、材質が木であることから信頼性は低いと言わざるを得ない。これからここを下って行くことを想像すると、恐怖で足が竦んでしまいそうだ。こんなに高い場所からグランドフォールしたらまず助からないだろう…。

年齢制限が敷かれているのも納得である。


「行くわよ」

「は、ハイッ!」


「待たれよ。武器も持たずにその身形のまま行くつもりか?」

「…問題ないわ」

「ほう…凄い自信だな」

「…」

「で、ではガーネット兵士長、行って参ります!」

「己を過信せずに気をつけるのだぞ!」


ガーネット兵士長はユキエに答えたが、響や余市に対しても同時に忠告したのは明らかである。

ユキエは狩人バチに襲われたあの日と同じような装備だったが、響は村の中を闊歩する一般的なスタイルだったし、余市に至ってはランニングシャツに半ズボンなのだから、あらゆる意味で心配されるのも無理はない。

アボニムを稼いで、早くカッコイイ武器や防具を用意したいところである…。


「響お姉さん、そして余市、アリやクモを発見したら直ぐに教えてくださいね!」

「お、おう!分かった!」

「幾らふたりが強くても、避けられる戦闘は避けた方が良いです。特にこのような場所では…」

「確かにユキエの言う通りね。戦闘中に桟道を破壊してしまったら多くの村人に迷惑を掛けてしまうことにもなるわ。余市も注意なさい」

「ハイッ!」


確かに足場の悪いこんな場所で戦闘になれば、桟道も無事では済むまい。

敵を殲滅したと同時にグランドフォールしたのでは意味がない。

ボパルの言っていたジョブの中に、護衛/警護とあったが、こういった桟道などを修理する人たちの護衛の任では、どのように敵に対処するのが適切なのだろうか?

そんな疑問が浮かんでくる。


桟道はあちこちでミシミシという軋んだような音をたてていた…。

地表までずっとスロープかと思いきや、途中には階段や休憩小屋のようなものもあったりした。

休憩小屋では数人の村人が休んでいて、獲物を自慢し合ったり軽食を摂ったりもしていた。


何度目かの階段を降りる時、余市は、階段が一定の距離毎に設けられているということに気付いた。

そして必ず進行方向が内側に修正されているのだが、これは村のゲートの真下に到着するための措置であると思われた。

それに悪戯にトゥーレ表面を広く使ってしまうと、それだけ虫との遭遇確率も上がってしまうだろうし、一本道である以上、どこかで桟道が崩れた場合でも、頭上に無事な桟道があればザイルを使って引き揚げて貰える可能性もあるし、後の桟道の修理もし易いに違いない。



時折、突風が吹いたり巨大な葉っぱが舞い降りてビクッとすることはあるが、この調子で進めば無事に地表に辿り着けそうだな…そんな風に思い始めた時、急に前方を歩いていた響が立ち止まったのである。


ユキエはその場に腰を抜かしたようにへたり込んでしまっていた。

悪臭のために気を利かせて少し後ろを歩いていた余市だったが、ふたりの様子がおかしいので響の傍まで近付いて、何気なく前方を見つめた。


が!次の瞬間!情けないことに、ユキエ同様に余市もその場にへたり込んでしまったのである!

それはあまりにも恐ろしい光景であったのだ…。



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