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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第一章 現世から異世界へ(仮)
7/98

EP007 Gから始まるドラマチックな旅立ち

自慰行為。


…それは、原始的な行為である。


他国と同様に、ここ日本でも(いにしえ)より親しまれていたストイックな不変行為(イミュータブル・ハビット)である。


某巨大情報サイトに依れば、江戸時代の川柳に『千摺りは隅田の川の渡し銛、竿を握いて川をアチコチ』や『せんずりは日本一の富士の山、かいてみるよりするが一番(甲斐で見るより駿河一番)』などといった秀逸な句が存在することを知ることができる。


たとえエッチをする相手に恵まれなくても、たとえ愛がなくても成就し、快楽が皆に平等に保障されている行為、それが正義の自慰行為(ジャスティス・マスターベーション)なのだ。


恥じるべきコトなど何もない。


アルファベットでも、HやIを差し置いてGが先に発音されるは、決して偶然などではないのだから。

プライオリティ的にもGがより重要なのである。

基本を疎かにする者に次のステップはないのだ!


余談となるが、正義といえば、これまでに世界を幾度となく救ってきた数多のヒーロー達とて例外ではない。

カッコイイ彼らとて、チビッコたちの羨望の視線からひと度逃れて自室に籠れば、チープな善悪から解放されて、煩悩の赴くがままにしっかりとやるコトはやっていたのだ。

その証拠に、Hero(ヒーロー)のスペルマもといスペルは、エッチとエロでのみ構成されている。


即ち、エロくないヒーローは偽者なのだ!



さて、いつものように右手首をマウスパッドにフィットさせる…。

サキュバス嬢のお尻が、オレのリストを優しく挟み込む。


そして慣れた手つきでカーソルを移動。


『微分積分_0721』という名の露骨に妖しいフォルダをダブルクリックすると、中には作品及びシリーズ毎に整理されたフォルダ群がびっしりと並んでいた。

右側のスクロールバーが一気に短くなり、僅か数ミリといったレベルで落ち着く。我ながらその(おびただ)しい量には少し引いてしまう…。


ネーム順にソートされたそれらの中から『快楽真理教Ⅲ~輝きを失ったディルドゥ~』フォルダを迷いなく開く!

4つある動画ファイルの内のひとつをダブルクリックすると同時に、ゴツいヘッドフォンを頭部に装着した。

そしてズボンを膝上5センチのところまで下ろし座椅子に背中を預ける。


流れるように滑らかな動作である。

幾度となく繰り返されてきた反復行為のため、脳で考えずとも身体はしっかりと馴致されているのだ。


緊急警報で敵の襲撃を知らされた天才パイロット(ニュータイプ)が、モビルスーツのコックピットに滑り込むシーンを彷彿とさせる。


色んな意味で『余市!イキまーすっ!』そんな瞬間である。


左手でティッシュBOXも定位置に配備しスタンバイOKだ!

ローションを切らしたままなので、ここ最近はオナホはご無沙汰風味だが、古風なマニュアル方式も悪くはない。『釣りは(フナ)に始まり鮒に終わる…』とも言うしな!

何より戦後処理が楽だし、流石の余市も賢者タイムではあまり動きたくはないというのが正直なところなのだ。


プレーヤーの再生ボタンをクリックし画面に視線をアジャスト!

こやつには最近何度となく世話になっている。



プロローグ風味で軽く触れておくと、以下のような話である。


若き下級女性信者であるユララは、信仰を広めるためにドイツまで身体を売りに来ていた。


遠征先としてドイツをチョイスした理由は、母国の雄共よりも遥かに発育した生殖器をぶら下げているからである。平常時ですらフランクフルトほどもあり、母国のトウガラシとはまるで比較にならないため、ここドイツは信者としての己の徳を高めるのにも最適な国であるといえるのだ。


稼いだお金の最低でも半分は、お布施として納めなければならないという鉄の掟と、月に最低69人というノルマはあるが、プレイ内容や時間、オプションや料金設定などは自由であり、個々の信者の責任のもと委ねられている。


初めての土地に戸惑いながらも、いつもユララの心の支えとなっていたのは、亡き母スシルの(のこ)した形見のディルドゥだった。

夜の慰みモノとしてだけでなく、タリスマンの役割も担っていたのだ。


テレビを観たり食事をしている時、寝ている時や移動している時など、信仰活動である本番プレイの時以外は、片時も離さずに股に忍ばせていた。


そういう意味では、常に身体の中心部に納められていたその棒は、身体の軸とも呼べる心棒でもあり、心だけでなく心身共に支えていたという風に見るのが適切なのかもしれない。



そんな健気なユララが、とある昼下がりに襲われてしまう。

白昼堂々と謎の覆面の男に服を剥ぎ取られ、ショーツも足首から乱暴に抜き取られてしまったのだ!

しかし男は何故かそれ以上のことはせずに、疾風(はやて)の如く明後日の方角へと去って行ってしまったのである。


金品を盗られなかったのは幸いだが、これでも快楽真理教信者のハシクレである!

凌辱されなかったことに酷くプライドを傷付けられたユララは、怒りに充血したその瞼を、拾い上げたショーツで覆ったが、あることに気付いて直ぐに蒼ざめた。


スッポリとハマっていた筈の母のディルドゥが、股間から消え失せていたのである…。


唯一の手掛かりは、男の覆面に書かれていた大きな謎の文字である。後になって調べたところ、その文字は日本語の『罪』という漢字らしかった…。


心身の支えを奪われた失意のユララのもとに、吉報が届いたのは半月ほど経ってからのことだった。


ロシア支部長であり教団幹部(シャーマン)のひとりでもあるマンコフの手の者によって、ディルドゥが奪われていたと判明したのだ。


マンコフ直属の従者でありながら母の親友でもあったクーネリア小母(オバ)さんが、マンコフの寝室の掃除をしていた時に、見覚えのある懐かしいそれがベッドの下に転がっていたのを発見したのである。


クーネリアは、それが親友のスシルが娘に遺したディルドゥであるということをよく知っていたのだ。


何を隠そう、そのディルドゥは、クーネリアにとっても唯一無二の親友スシルとの若き悦楽の日々を共有し合った思い出深い品だったのである。

スシルの葬儀の折には、あの世で寂しがらないようにとの想いから、棺桶に一緒に入れてあげようと、スシルの部屋を血眼になって探したほどなのだ。

そして、どうしても見つからなかったそれが、まだ幼かった娘のユララの部屋の枕の下からポロリと出てきた時、その溢れ起こるパトスを抑えきれずに大粒の涙を零したのである。



余市が毎回果てるのは、馬小屋でのシーンである。


既に還暦を過ぎたクーネリア小母さんが、ディルドゥを渡すためにマンコフの目を掻い潜って、ユララの居る遠いドイツまで遥々訪れてくれたのだが、ひと目を気にしてか受渡し場所として指定してきたのは、寒村のとある馬小屋であった。


ふたりは数年ぶりに馬小屋にて邂逅を果たした。

しかし、クーネリアはユララを見つめたまま、何かに取り憑かれたかのように口をパクパクと動かすだけで、暫らくの間、言葉を口に出せずにいた。

クーネリアの瞳の中の成長したユララは、若き日のスシルに生き写しだったのだ。

徐々に自我を取り戻しながらも、気付けばその瞳にはただならぬ妖しい光が宿り始めていた。


還暦を過ぎたとはいえ、身体の中心に熱きものが湧き溢れてくるのを感じたクーネリアは、あろうことかディルドゥを渡す交換条件として、若きユララの肢体を求めてきたのである。


恥じらいながらもクーネリア小母さんの(たぎ)欲望(リビドー)を受け入れてしまう二十歳(ハタチ)のユララ…。

禁断の百合(ユリ)シーンの始まりである!


この一連の流れは、マンコフの使者としてこっそりクーネリアを尾行してきた、ドジっ子メイドのセヌリンの視点で展開される。

普段はドジっ子だが、その正体は交換留学で日本を訪れ、修業を積んだクノイチである。


馬小屋の天井からの図はシュールではあるものの、躍動的な馬の背の間で、ユララの白魚のような肢体が(むせ)び軋む様は、絶妙な対比(コントラスト)を描き出しており、エロスを超えて芸術的ですらある。



ただ、このシリーズの中では決してハードなシーンではなかった。


寧ろ次のエピソードで、伝書鳩によりセヌリンの報せを受けたマンコフが、クーネリアとユララの身柄を確保し、お仕置きと称して亀甲縛りに吊るし上げ、ローソクを灯した多くの信者たちの見守る中、マンコフの腹心であり右腕でもあるマルペス子爵にエグい折檻をされてしまうシーンの方が、材料には余程恵まれていると言えたが、余市はそこではあまり昂ぶらなかった。


そういった激しいシーンのオンパレードよりも、寧ろシリアスな長編映画の後半に少しだけ訪れるような(ほの)かなエロチズムの方がツボなのだ。


たとえそのシーンが短くとも、それまでのストーリーや背景から妄想力を肥大化させて育てていくゆとりが余市にはあり、最初から裸になって激しく肉と肉とをぶつけ合うような野性的な展開の、巷に溢れ返るAVなどは、イマイチ趣向に合わなかった。

繊細であり上品ともとれるが、ありていに言えば年齢の割にオヤジ風味なのだ。



しかし、この日の余市は、その大好物の馬小屋のシーンでも昂ぶらなかった…。


この完全プライベートな文字通りコックのピットであるコックピットで、肉の操縦ハンドルを握り締めながら、全ての器官に神経を集中させてみるものの、肝心なところであの隻眼の老婆のギロリとした眼光が脳裏にチラつき、脳内シミュレーションが上手く構築できずに途切れてしまうためだった。

つまり、クーネリアにクネクネとねちっこく愛撫されるユララとのシンクロ率が、あと僅かというところで破綻してしまうのだ。


くそぅ…違うやつにするか!


と仕方なく再生中のプレーヤーを閉じると同時に違和感を覚える。

そこは黒を基調としたデスクトップなのだが、そのモニタに一瞬、何やら白い影のようなモノが揺らいだ気がしたのだ!


む…これが老婆が話していたスクライングとか言うやつか?

青い珠がオレの金の玉と惹き合いながら、相性よろしく早速その内なる能力を目覚めさせたという寸法か!?フフフ…面白いジャマイカ。



…否!待てよ!


もうひとつ…もうひとつだけ恐ろしい可能性が残されているのではないか!?


冷たい感覚が背筋を突き抜けると同時にヘッドフォンを頭部から乱暴に外して振り返るっ!


「ご飯できてるよ…」


峡香だった。ドアを開けて無表情で突っ立ってやがった…。


オレはゆったりとした動作で、片肘に重心を預けながら座椅子から軽く尻を上げると、(おもむろ)に片手でズボンをずり上げてみせる。

そして顎を退き目線を斜め下に向けながら億劫そうに、


「…あ?…てか今忙しい…けど分かった」


視線を床に落としたまま、無機質に返事をした。


峡香が階段を下りていく足音が微かに聞こえる。



ふぅ…やれやれ…妹に現場を押さえられたのは何気に初めてだな…はぁ…。


てか、見てんじゃねーよ!

峡香よ…貴様はドジっ子メイドのセヌリンなのか!?


まぁ長く生きてりゃ…こんなコトもあるわな…。

オレ以外にもこの状況を経験した猛者が、少なく見積もっても県内に数十人はいるハズ…にやにや…ふふ…ふ…いて欲しい…てか、いてくれ!頼みゅうーーー!!!


おお!同士よ!!!ってマジでどうしよ!?


それにしても、動物的本能というやつか…やけに冷静に対応できたなオレ。

ふ、ふふふ…動物的本能か…笑わせる。

本能は本能でも…寧ろ個人的には『本能寺の変』レベルの歴史的事件じゃないのコレって?…明智光秀が峡香って感じか?ん?確か峡香はセヌリンだった筈…。


いや待て!大事なのはそこではない!


これは本能ではなく煩悩か?煩悩児の変…変態かなぁ?ぷぷぷっ。


オレってば!煩悩児の変態ぃ~!!!ナハッ!ナハッ!ナハナハッ!


っ…ってオイィィィー!!オイオイオイィ~!!!

頭を猛烈に掻き毟る!掻き毟るったら掻き毟る!頭皮が5センチ程度ずれたって構わない!構わないったら構わないぃ!!構うもんかあああぁー!!!


ウオオォォオオオゥオオォォーーー!!!!!


発狂した…声を押し殺して寡黙に発狂していた!自分がこれ以上壊れてしまわないように…。



どのくらいの時間が経っただろうか。


辺りはもう真っ暗で、モニタの鈍い光だけが、オレの横顔をひっそりと照らしている。


ある筈なんてないのに。とっくの昔に消え失せていたのに。


兄としての威厳。プライド。そんな窮屈でつまらない代物…。


どこかからテレビの音が聴こえてくる。


確かこれは…亀口製菓の煎餅のCMの…。



どうだっていい!!!


明日だ!明日旅立とう。フフ…出航は明朝だ!!!



必然的にに決心した。清々しいまでの英断だった。


予定とは違うが…だがそれがいい…ってか!もうそれしかないだろ!!!

セヌリンも光秀も嫌いだ…峡香に…妹に!もう二度と会いたくねぇよおおぉぉぉ!!!

喜び組でもどこへでもとっとと丁稚(でっち)されやがれぇい!!!



家族は大分前に夕食を終えて寝てしまったようだ。

廊下に出ると、峡香の部屋のドアの下から細く明かりが漏れているのが確認できた。


気配を殺し暗い階段を静かに下りていく。

ゲームの潜入ミッションのような感覚だが、立地と敵の居場所は全て把握済みだ。オレにとってこのステージはイージーモードといったところか…。


テーブルの上にはレーション…じゃなくてサランラップの掛かった冷えた食事があった。


最後の晩餐…だな。心で呟きながら、ほろ苦い笑みを作ってみた。




翌朝。


朝というにはまだあまりにも早くて暗い時間。オレは逃げるように旅立った。


勿論、一睡もしていない…できていない。


夜逃げ?逃避行?…何だっていい!

三十六計逃げるに如かずだ!


予定とは違うが、強引な見方をすればドラマチックな展開とも言える!


スマホも腕時計も持っていかない。

マネーは持って行くが、ほぼ完全に俗世から離れた旅にしたい。


テーブルの上には家族へのレターを一通。

そしてひと言。


『探さないでください。余市』


…というのは冗談で、数日留守にする旨と部屋にはなんびとたりとも入るべからず!


的なメモをしたため冷蔵庫のマグネットに挟んでおいた。


ひとつ気掛かりなのは、峡香のヤツに、お兄ちゃんは自慰を目撃されたから恥ずかしくなって家を飛び出したんだ!…などというつまらない誤解が芽生えやしないかということだ。

旅立ちの計画は、随分と前から周到に立てられていたものなのだ!お前に見られたことは…そう…強いて言うなら瑣末なトリガーに過ぎん!!!


そして、たったひとりの妹に兄として最後にしてやれる兄らしいコト…最後の大仕事も片付けた。

腹いせにイタズラしていきやがった…AssHoleの小せー兄だ!などとは思われたくはない!


立つ鳥跡を濁さず風味のスピリットは大事だ。

オレとて大和男児のはしくれ、ひとに迷惑を掛けることを潔しとはしない性分だ。



空を見上げるとまだ星が輝いていた。


カステラが覗く臭いサドルにライダーマン方式で勢いよく跨るオレ。

気分はレース前のライダーの如く、しかも今までで一番高く足を跳ね上げた自信がある。


今のオレにはやっぱりこのクセーサドルがお似合いだぜ!


妹に負い目を感じていなかったと言えば嘘になる…。

昨夜のアイツの眼差し…オレは一生忘れねーゼ!忘れてーケド!!!

つか、峡香よ!貴様はさっさと忘れるのだ!

兄のため何かじゃない!

時が来ればきっとお前にも分かるさ…。


世界平和のためであったのだと!!!



そしてオレはペダルに足をかけると、万感の思いを胸に偉大なる一歩を踏み出したのだった!


目指すは秩父方面!具体的な目的地はなし!



この旅が人生の縮図どころの騒ぎではなくなるということを、この時のオレはまだ知らなかった…。



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