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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP068 ボパルのギルド指南

ボパルによって語られたギルドの説明は、あちこち脱線しながら冗長を極めたが、余市の怪しいリテラシー能力をフル回転させて纏めたところ、以下のような内容であった。



まずギルドは、このダサイー大陸に16箇所、存在するらしい…。


って!ちょっと待て!

ダサイーって!…いや、先を続けよう。


最大規模は勿論、ダサイーの都にあるダサイーギルドである。

このクンニスキー村のクンニスキーギルドは、歴史だけは古いが、最近はその規模や質は下降傾向にあるらしい。斜陽ギルドというワケだ。

ここで言う質とは、ギルド加入者のレベルの平均を指している。

因みにギルド加入者のことをギルドメンバーもしくはギルメン、単にメンバーなどとも呼ぶらしい。


ギルメンのレベルは各ギルドは勿論のこと、都でも集計されて定期的に発表されているとのことだ。

直近の成績で言えば、16ギルド中9位らしい。村ギルドに限定すればトップの座を辛うじてキープしているので、それほど悲観的になることもないとボパルは言う。

因みに規模も9位で、ダサイーギルドの13分の2程だという。つまり都のギルドはクンニスキーギルドよりも6倍以上も大きい規模なのだ!


ギルドでの業務やその実態については、どこも似たり寄ったりらしいが、ギルドマスターの席を置いているところと置いていないところがあるようだ。

このクンニスキー村の場合、ギルドマスターという身分は、長い間、存在していない。

昔は村長一家の誰かがギルマスを務めていたが、村長一家が衰退していくにつれて、いつしか自然消滅してしまっていたのだそうだ。

他の幾つかの村でも、理由は様々だがギルマスを置いていないところがあり、そのようなギルドの管理運営は、大方、村長や役場が取り仕切っているという。

逆に、都や一部の町のように、複数人のギルマスを置いているところもある。

都では代々、四天王と呼ばれし4人のギルマスを置いているそうだ。


あらゆる物品の販売店や宿泊施設、病院、訓練場、闘技場、銀行、保険組合、裁判所などを備えたダサイーギルドのような大規模なギルドがある一方で、只の大きな酒場のようなギルドもあるが、基本的なギルド業務というのは次の4つに絞られるとボパルは言っている。


1.依頼主からの仕事を選別し、認可した仕事を掲示板にて紹介。

2.ギルメンにジョブを斡旋し、そのジョブの依頼主を紹介。

3.クエストに挑むギルメン仲間を集うための掲示板を提供。

4.ギルメン同士が親睦を深めるための場を提供。


興味深いのは、仕事、ジョブ、クエストなど、幾つかの呼び名があるということである。

これは出世魚のように、依頼主が仕事をギルドに出してそれが掲示されるまでの段階を仕事と呼び、ギルメンがその掲示を見る段階ではジョブと呼ぶ。そして実際にギルメンがジョブを請け負い遂行する段階ではクエストとなるということである。

更に、クエストを遂行するプロセスで発生する付随業務のことをミッションと呼んでいるそうだ。具体的には討伐ミッションや探索ミッションなどと言うらしい。

複雑ではあるが、慣れてしまえば全く難しいことは無いとボパルは言う。


最も分かりやすい分類方法は、依頼主の立場では仕事、請け負うギルメンの立場ではジョブ、そして誰かのジョブに確定した後はクエスト、クエスト中のイベントはミッション、そんな感じとのことだった。


ギルメン仲間を募集するのも、広い意味では仕事依頼と変わらず、掲示板に掲示されるとのことだが、ギルドに支払う掲示料は一律で決まっており、料金も安いという。

一方、仕事の掲示はギルドでの選別や認可のための工数も発生することから高めに設定されており、掲示料はクエスト完遂時に支払われる報酬額に比例して高くなるのが一般的なようだ。

高額報酬が設定されたジョブであればあるほど、ギルドに支払う掲示料も高くなるのである。

その他、掲示期間や掲示場所などによっても差が出るらしい。


クンニスキーギルドでは、仲間募集とジョブ紹介とで掲載場所が別れており、ジョブは更に内容種別毎に色分けもされているという。

そしてほとんどのジョブにはクエスト難易度が設定されており、ギルド側で決定した必須レベル数がジョブ掲示用紙の右上に追記されているとのことだ。仮に12と書かれていれば、レベル12に満たないギルメンは選ぶことができないジョブということである。


また、個人や私組織からの依頼ではなく、公組織つまり国や役場、ギルド自体などからの依頼の方が、傾向として成功報酬が高額のようだ。通称『公ジョブ』と呼ばれ、確実に報酬が支払われる上に経費などが認められることも多いために人気が物凄いのだとか。

掲示された際には、一般の掲示用紙の2倍の大きさの用紙で掲示されるので直ぐに分かるとのこと。

但し、他の一般的なジョブ同様、これら公ジョブも基本的には早い者勝ちだが、その多くは掲示すらされずに水面下で決定されることが多いようだ。後述する、実績のあるギルメンの『呼び出し』によって決定してしまうのである。


持ち込まれた仕事をギルドで認可するかどうかの基準は実に曖昧だが、かなり面倒なのも確かなようだ。

依頼主がその依頼内容を不特定多数に明かしたくないケースが多く、掲示用紙に具体的な内容を記載したがらないからだ。

代表的な例を挙げるなら、自分だけが知っている穴場で、代わりに獲物や植物を採取して来て欲しい場合や、ある人物の身辺調査を依頼したい場合などである。

このような場合は、信頼できるギルメンを逆指名することも多い。そのため呼び出し専門の掲示板がカウンターの直ぐ脇とギルドの入り口付近にひとつずつ設置されているのだ。

呼び出しが掛かるような実績のあるギルメンは、日頃、頻繁に目を通す必要がある。特に喫緊の重要なものの場合には、呼び出し放送が流れることもあるのだそうだ。住居を登録しているギルメンには郵送で知らせて来る場合もあるらしい。実績や信頼はあるが滅多に顔を出さないギルメンも多いためである。


続いて、掲示板に掲示されるジョブの種類だが、大きく分けると次のように8種類となるらしい。


ジョブA(黄色)護衛/警護

個人やその所有物の護衛や警護をするクエスト。

移動に同行する動的な場合と、指定場所から動かない静的な場合とがある。静的クエストの場合は、数年にも及ぶケースもある。


ジョブB(青色)飛脚

離れた場所に居る者に、手紙や軽い荷物を届けるクエスト。

日数の制限や指定がある場合には報酬も割高になる。山小屋などへ材木を運ぶなど過度の重労働を伴う場合には、ジョブEの歩荷に振り分けられる。

対象が貴重品やアボニムの場合には、信頼できるギルメンを指名するか、保険組合の併設されたギルドであれば保険を掛けて依頼するのが望ましい。


ジョブC(黄緑色)探索/採取

ある場所の地形調査や動植物の発見や採取を目的としたクエスト。

未踏樹調査などが代表的。なお調査対象が危険に該当する獲物などとの戦闘が避けられない場合には、ジョブ種が討伐に振り分けられるケースがある。戦闘が発生する可能性がある場合には、依頼主はその旨を特記事項欄に明記しなければならない。人が対象の場合には調査でも捜査でも無条件にジョブHの特殊扱いとなる。


ジョブD(赤色)討伐

危険に該当する対象を殲滅するクエスト。

ハサミムシから黒金の刃をゲットしてきて欲しい、などのクエストも当該ジョブに該当する。

このジョブD以外のジョブ種の特記事項欄で、当該ジョブに該当するミッションが追記されているケースがかなり多い。目的地に行く途中で避けられない危険対象が生息する場合が多いためである。そのような場合には、当然、討伐対象に応じて報酬も跳ね上がる。

危険度の低い対象の場合にはジョブFの駆除に割り振られる。

なお、このジョブを専門で請け負う者は『マタギ』と呼ばれることもある。


ジョブE(橙色)歩荷

重労働に該当する運搬クエスト。

飛脚が傾向として軽い物を遠くに運ぶケースが多いのに対して、歩荷は重い物を比較的近場に運ぶ内容が多い。重い物を遠くに運ぶ場合には、当然、報酬も高くなる。


ジョブF(緑色)駆除

危険性が比較的低い対象を駆除するクエスト。

トゥーレに寄生するキクイムシ類やブヨなどの駆除が代表的。アリなどが駆除対象の場合には討伐となる。討伐に比べてクエスト期間が長引く傾向があるため、一概に討伐よりも報酬が安くなるとは限らない。対象の数や場所によって報酬額も大きく変わってくる。


ジョブG(茶色)土木/建築

大がかりな土木や建築、建設などのクエスト。

一般的にこの手の業務はギルドを介さずに専門の組織に直接依頼することがほとんどだが、稀にギルドを媒体としてジョブ掲示されることがある。当然、数人で請け負える規模ではない。

小屋の建築などはジョブH扱いとなる。


ジョブH(桃色)特殊

修理や作業など、専門的な技術を要するクエスト。

また特定人物や組織の調査や、対象の栽培や飼育、教育、観察記録、その他、ジョブAからGに該当しないが認可を得たジョブは、全て当該ジョブに割り振られる。

そのため掲示板の実に30パーセントを桃色の掲示用紙が占めているのだそうだ。最近では細分化する必要があるのではないか?という見直しを推進する声も耳にする機会が増えたらしい。



以上がクンニスキーギルドの定めしジョブの分類だが、基本的に依頼主サイドは、記載漏れや虚偽報告などをしていなければ、請け負ったギルメンがクエスト中に事故や怪我、死亡などしても、一切の責は負わないらしい。


また、クエスト完遂後にギルメンに報酬が支払われないケースや重複依頼を出していた場合など、諸々の問題は裁判所での審判に委ねられるが、裁判所のない村などではギルド職員が審議して決定を下すのが慣例となっているとのことだった。



ここまでの説明を終えたボパルは、


「くうぅぅーーー!喉が渇いちまったぜぇーー!」


と訴えるように伸びをしながら、カクテルの御代わりを所望してきた。

内容が予想以上にマトモだったので響も許可を出したが、余市の分は認められなかった…。

黙って座って聞いているだけだからだろう。


響に命じられるままに、余市がジンのロックと Parfum de femme を買って戻って来ると、ボパルは首の骨をコキコキと鳴らしてからカクテルに口をつけ、説明を再開したのだった。



後半戦は、具体的な流れについてだった。


例えばこの後、早速ジョブを見つけてクエストに移りたい場合には、次のような順序を経ることになる。

これはボパルの推奨するフローなので、必ずしもそうしなければならないといったものではない。


まずはパーティーで相談をして、ジョブ種や目標報酬額と最低報酬額、分け前などを決める。

『パーティー』とは、同じクエストに取り組むギルメン仲間のことである。


次に分担して掲示板を見に行き、各々が希望のジョブの掲示用紙の識別記号を覚えるかメモをして再集合する。

因みにジョブ識別記号は数列だったり文字列だったり、混ざっていたりと色々だそうだ。


話し合ってひとつに絞ったらその識別記号のジョブがまだ空いているのかをカウンターまで確認しに行く。

ギルメンのレベルに関係なくジョブは複数同時に請け負うことが可能だが、上限は3つまでだという。


カウンターのお兄さんに識別記号を伝えれば、その場で調べて報告してくれるらしい。

このお兄さんの業務は非常に忙しいが、複数人で処理しようとすると重複や取り消しなどが発生することもあるため仕方がないのだそうだ。その代わりに短時間で頻繁に交代しているという。

都や町では効率的な仕組みがあるそうだが、我がクンニスキーギルドにはまだ導入されていないらしい…。


確認して貰ったジョブが運良く空いていたなら、カウンター脇の通路から奥へと進み、通称『ジョブ部屋』と呼ばれる部屋に行き、手続きを済ませてクエストを目出度くゲットする。

このジョブ部屋に通ずる廊下は非常に狭いのだが、敢えてそうしているのだそうだ。廊下の幅が広いと、我先にとごった返して奥のジョブ部屋の前で喧嘩になるという。廊下の手前で喧嘩になる分には問題ないらしい…。

確かに余市も、今までそんな廊下の存在には気付かなかったが、おそらく壁沿いにでもあるのだろう。


捕捉として、決まってしまったジョブの掲示用紙は、ギルド職員が日に何度か掲示板を見回って剥がしているらしいが、ひと月の間は捨てずに保管しているのだそうだ。理由は、冷やかしやキャンセル、クエスト失敗などによって、掲示用紙を直ぐに復活させることが往々にしてあるためで、冷やかしなんぞで剥がされてしまえば、依頼主としても馬鹿らしくて掲示料なんて払っていられないからである。



ジョブ部屋では、そのジョブの依頼主の素性が明かされ、クエストに挑む前に直接、依頼主と面会することが義務付けられている。そこでより詳しい情報や条件面などを聞くことは勿論、互いの信頼を築くことが重要だとポバルは言う。

そもそも掲示用紙には、ジョブ種、ジョブ識別記号、依頼内容、成功報酬額、必要最低レベル、あれば特記事項くらいしか情報は載っていないのである。

具体的なクエストの場所もピンポイントでは示されてはいないし、依頼内容の中に期限などの記載をし忘れているケースや、報酬額が応相談などとなっていることだってあるのだ。

クエストに入る前に、詳細な位置を始め、経費や前金などの条件面について依頼主と交渉しておくことは、重要というよりも必須なのである。



「…んなところかぁ?ふぅーーーっ」


ボパルは話し終えると、天井に向かって白い煙を吐いた。


かなり詳細な内容を聞けたことは確実である。

何故なら、ボパルの説明を聞いている間に、1番卓では何人かのビギナーが入れ替わっていたからだ。

教える側もひとりで対応しているみたいだし、3,000アボニムからとはいえトコロテン方式で回転率を上げなければ消化できないのかもしれない。


全ての情報は、膝上に広げておいた巻物に手を乗せてリアルタイムで記憶させた。

ひょっとしたら広げる必要はなかったかもしれないが、初めての試みなので万全を期したまで!


壁に掛かっている大きな時計を見ると、既に夕方6時を過ぎたところだった。

何気にギルドに長居してしまっていたようだ。


ボパルはほぼ毎日、ギルドに顔を出しているようなことを説明の途中で触れていたが、やつのレベルなどについては分からない。余市も敢えて尋ねるようなことはしなかった。

おそらく今の自分はレベル3の筈である。流石にボパルはもっとレベルが上だろうと思ったからだ。


…これ以上、ナメられるワケにはゆかぬ!


だが今夜、この件に関連した驚愕の事実を知ることになるのだが…。


立ち上がったボパルに、余市は一応、礼を言ってやった。

ボパルは顎で、オウヨといった仕草を返しただけだった。


こうしてボパルのギルド指南は終わり、余市は響と共にギルドを後にしたのである。



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