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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP067 ふたりだけの世界 ~ Parfum de femme ~

目の前に立ちはだかったマサヒコの瞳には、余市の姿はまるで映っていない様子だ。


「ケケケ…姉ちゃん、待たせちまったなぁ」


マサヒコは細いサングラスの上から響を覗きながら、乱れた髪をセットし直し始めた。

ぬうぅ…キサマというやつは、この異世界でもオレたちに迷惑を掛ける気なのか!?


「アボニムは用意できたのかしら?」

「まーそう焦んなよ。えらく苦労したんだぜ」

「余市、その男からアボニムを預かりなさい」

「ハイ!」

「ちょ!ちょっと待てって!コイツは何者だ?」

「私の下僕といったところかしら」


はっきり言ってくれたよ!響たんってば!!

悲しい身分なのに、妙に気持ちがいいのは何故だろう?


「ふふん…なるほど」


鼻で嗤いやがったな!

キサマよりもオレの方が何百倍も響たんのことを知っているのだぞ!


「さっさと50,000アボニム出して貰おうか?」


微妙な優越感をひっさげながら、自信に満ちた表情でマサヒコに迫る。


「くっ!…50,000は…ギリギリ無理だった」

「何だと!?」

「そう。それは残念ね。なら今回の商談は…」

「頼む!48,000に負けてくれねーか!?」


まるで響を菩薩か何かでもあるように両掌を合わせて懇願モードに突入したマサヒコ。

確かに1時間で大金を準備するのはかなり厳しかったに違いない。だが約束は約束である。

余市は呆れてその様子を見ていたが、


「あっ!!」


腰を折って頼み込むマサヒコの向こうで、1番卓に新たな男が座るのを目撃したのだ!

糞!糞!糞!キサマのせいで恐れていたコトが起こってしまったジャマイカ!!

余市の発した声で、響もその事実に気が付いたようだ。


「そうね…考えてあげなくもないわ」

「マジか!?」


まさかあの響が値引きするとか!あり得んだろ!!らしくないぞ!響ぃ!!


「でも勘違いしないことね。私は自分を安売りしないのよ…」

「な!何だ!?条件があるのか?何でも言ってくれ!!」

「見たところ、その額が融通の利く限界のようだし、当面の生活費も必要でしょうから…」


何を言い出す気だ!?響!


「今日のところは30,000にしてあげるわ…まあ最終的には33,000かもしれないのだけれど」


ウソだろ!!!

何でこんなヘンタイに優しさ見せてんだYO!!!

ってその端数の3,000アボニムは何?


「その代わり残りは20,000じゃなく30,000にして貸しておいてあげるわ。それでどうかしら?」

「つ…つまり60,000ってことか?」


流石は響!!値を10,000アボニムも吊り上げやがった!!


「残りの30,000の期日はいつだ?」

「無期限にしてあげる」


んなっ!!!何を言い出すんだ!!?甘過ぎるだろっ!!


「へ…へへへ…そういう条件なら…」

「但し今日を起算日としてトイチよ。早速10日分の利息を入れて今日は33,000払って貰うわ」


トイチ…だと!?

つまり10日で1割の金利…というか暴利!!!ヤミ金業者もいいところジャマイカ!!!

勿論、単利ではなく複利計算である!仮に100万借りたとして1年後には約4千万であるっ!!!

最初に言っていた端数の3,000アボニムはトイチの利息だったというワケかっ!!


もはや余市の感情の起伏は、さきほどからワロス曲線状態で上がったり下がったりで忙しい!

響よ…やはりキミは恐ろしい女だ。朧に勝るとも劣らぬ怖さを感じる…。

もしかしたら竹鶴の親父も、響の母親にこんな風に生かさず殺さずで掌で転がされているのかもしれない…。


「トイチ?何だそれ?」

「余市、この男にトイチを説明してあげなさい」


どうやらこの異世界では存在しない俗語であるらしい…健全な世界なのか?

にしても、この余市、よもやトイチについて人に説明する日が来ようとわ!

トイチはヨイチを…じゃなくて!余市はトイチというバイオレンスな金利について手短に説明してやった。


「なんじゃ!そりゃーーーっ!!!」

「判断は任せるわ。でも私が一度でも着用した服には、本来そのくらいの価値があるのよ」


響は目を細めて言った。

そんな響の顔をマサヒコはこめかみに汗を垂らしながら睨んでいる。


「つ…つまり10日後にあと30,000払えばいいんだな」

「別に払わなくてもいいのよ」

「い!いや!何としても払う!!長引けばあんたに一生飼い殺されるハメになるからなっ!!!」

「踏み倒そうとは考えないのかしら?」

「オレにだって分かる…あんた、相当デキるんだろ?オレの目は節穴じゃねぇー!!」


このマサヒコという男…否、まだハッキリと本名を聞いてはいないが…。

只のヘンタイかと思いきや、相手の力量を肌で感じるスキルでもあるのだろうか?


「ふふ…任せるわ。商談成立ね」

「…」

「あ、そうそう。これは出血大サービスなのだけれど、最初の利息3,000を負けてあげてもよくてよ」

「フフ…どうせあんたのことだ。で、条件は何だ?」

「察しがいいのね。このギルドについて知っていることを教えてくれないかしら?」


そう来たか!

なるほど正規の最低料金3,000アボニムってワケだ。

そこまで計算していたというのか…我が主たる響はっ!!


「そんなコトならお安い御用だぜ!」


マサヒコは30,000アボニムを支払い、響はスク水を差し出した。

余市としては複雑な心境である!


嗚呼!響たんのあのスク水がぁ!!!


アレはそもそもオレの深層心理によって顕現されしブツなのだ!

響にレンタルしていたに過ぎんのだ!!

だが、その理屈が通用しないのは痛いほどに分かっている…。

何しろ響が着てこその価値なのだから!新品のままなら二束三文なのだから…。


そんな負の感情のまま頭を抱えていると、


「…ひとつだけ頼みがある」

「何かしら?」


それは、スク水を握り締めたマサヒコの口から飛び出した、恥ずかしくも羨ましい申し出であった!


「オレがいいと言うまで、オレの目を見つめていて欲しい…」

「…」


響の目が妖しく光った。

おそらくマサヒコの心を読んだに違いない…。

暫しの沈黙の後、


「わかったわ…それで気が済むのなら、さっさとしなさい」


そして、マサヒコのマサヒコによるマサヒコのための、派手さはないが強烈に官能的な行為が展開されたのである!


「スー…ハァー…スー…ハァー…スー…ハァー…」


時間にして1分ほど、マサヒコは響を至近距離で見つめながら、スク水を顔面に押し当てて匂いを嗅ぎ続けたのであるっ!!!


もしも、こんな行為を余市がすれば、首を圧し折られた上に顔面崩壊は免れないであろうが、今回、マサヒコは高額な対価を支払っているのである。

そして余市がすれば、そのキモイ表情も相まって誰の目から見ても変態行為に映るだろうが、マサヒコの場合は不良が女教師の前で悪いドラッグをキメているかのように映るから不思議だ。勿論、スク水の匂いを吸い込みまくっても歯がボロボロになるような副作用は無い。


そして響も己のスク水の匂いを嗅がれている間、約束を忠実に守りマサヒコの病的な目を見つめ続けていたのである!


何なんだ!?このふたりの一体感は!!?

この喧騒としたフロアにあって、ここだけは完全に閉じられた空間…ふたりだけの完全に閉じられた世界ではないかっ!!!


猛烈なジェラシーに押し潰されそうになる!

マサヒコオオォォォーーー!!!キサマというやつは!キサマというやつはっ!

本当に!!本当にぃいいぃぃ!!!ホンモノなのだなぁああぁぁーーーー!!!むおおぉぉーーーっ!!!


悲しいことに、そんなふたりを真横で見守りながら、余市のギョニソーはギンギラギンにさりげなく勃起していたのだった!!



余市にとっての悪夢のような時間が終わり、3人は空いたばかりの近場の円卓へと移動した。

卓につくと、マサヒコはスク水大切そうに畳み始めた。

粗暴で気性の荒いマサヒコが、静かにスク水を畳む姿は、どこか浮世離れしていた。

そして畳んだスク水を丁寧にビニールで包んだ後、持参してきたタッパのような密封容器にぬかりなく仕舞ったのである。

…ぬううぅぅ分かっていやがるな…この男。


響もそんなマサヒコを無表情で見つめていたが、テマン硬貨を2枚卓上に出すと、


「余市、この男の分も買ってきなさい」


と言った。流石にここは響が出すようだ。

詐欺家族に50,000アボニムを吹っ掛けられた鬱憤の矛先がマサヒコだったと考えるなら、タイミング悪く登場したマサヒコの方が寧ろ被害者なのかもしれないが、彼は最後に一矢報いたのだ。

認めたくはないが、響との距離を一気に追い越されたようで胸糞悪い…。


「あ、オレ『Parfum de femme』な!クンニスキーStyleで頼む」


ぐぬぬぬぅ…。何様だよ!!!オレはキサマの下僕ではない!!!

それに…女の香り…だと!?

キサマ!!スク水の匂いを堪能したからって、敢えてその名のカクテルをチョイスしたのか!?


だが…響の命令だから…買って来て…やる…。


響は何も言わなかったということは、ジンのロックということなのだろう。

余市は前回の失敗があるので、無難にハイボールにしておいた。


注文を終えて、グラス3つを器用に持って卓に戻る。




形式だけの乾杯をした後、マサヒコが自己紹介をした。


「オレの名はボパル。乗り物専門のバグマスターよ!大抵の虫なら乗りこなす自信があるぜ!」


親指で自分を指してドヤ顔である。


うーむ…マサヒコではなかったか…腑に落ちないが仕方あるまい。

バグマスターとは虫使いの魔法を操る者のことだよな?

ってか、乗り物専門って!!!やはりマサヒコではないのか!?


余市と響も簡単に自己紹介をした。

響は名前の他に、数日前に遠くの町からこの村に訪れた旨と、ギルドの無い地域に住んでいたことも付け加えた。

確かにここからでは埼玉は恐ろしく遠いだろうし、地元にはこの手のギルドは無かった…嘘は言っていない。

この辺りの情報の露出加減は響に任せて、上手く合わせておくのが安全だ。自分が話せばヘタを打つ確率が高い…。


「…だから私たちはギルドについては無知なのよ」

「ほほう、なるほど」


恥ずかしい性癖を披露した後だというのに、マサヒコもといボパルはクールを装っている。


「いいだろう。約束だしな。オレなりに説明してやるとすっか…」


ボパルはツナギの胸ポケットからタバコを取り出すと、その先端を指で擦った。

すると、タバコから狼煙がゆらゆらと立ち昇り始めたではないか!!


コキオが使っていたチャッカの魔法である。しかも発声もせずに火を点けやがった!

うっかり失念していたが、今夜にでもマスターしたいスキルだ。


おそらく響は初めて目にしたに違いない。

ほんの一瞬とはいえ、瞼を大きく見開いたからだ。

だが響はそれについて訊こうともせず何も言わなかった…オレとは違うようだ。


「バグマスターってことは、アレみたいなこともできるのか?」


余市はフロア前面の壁に映し出された映像を指差した。

カウンター上に設置された複眼のようなモノから、プロジェクターのように光線が射していたアレの仕組みが知りたかったのである。


ボパルは首を後方に捻ると、


「あーアレかー。まーできなくもねーわな」

「どうやってるんだ?」


ボパルの説明を簡単に纏めると、

幾つかの種類の虫をカメラ代わりに配置して、その虫の複眼に映った情報を引き出す魔法があるという。

それらをギルドにある親装置に転送させているという仕組みらしい。

何だか朧が黒の目を通してマサヒコを見ていた感覚に近いモノを感じてしまう。

とにかく、仕組みも何も魔法というひと言で片付けられてしまえば、納得せざるを得ない。


そして追加の思いつきで、地下のエロティックなカジノ空間で流れていた洋物ポルノのようなBGMについても訊いてみると、やはりアレも魔法だという。

音楽の演奏自体は楽器などによるものだが、録音や再生のような技術は無いようだ。つまり音を記憶する部分と、その記憶した音を流す部分で魔法が使われているらしい…。


他にも、周囲を明るくする魔法もあるらしい。

このクンニスキー村では、特殊な樹液でその効果を代用しているが、町や都では魔法による照明が当たり前のようだ。


この異世界でのイノベーションを、一瞬、期待はしたが、やはり音響設備やプロジェクター、カメラなどの技術は無かったのだ。代わりに魔法がその役割を担っていたのである。


ギルドの説明を聞く前に、横槍のように疑問をぶつけてしまった余市だったが、響も何も言わずにボパルの話を聞いていた。響にとっても無駄な話ではなかったのだろう。



「にしても、そんなコトも知らねーで、よく今まで生きてこれたな!?」


ギクッ!!

ついいつもの癖で、疑問点をペラペラと訊いてしまっていた己の愚かさに気付く。


「地元から初めて出てきたのだし、他の町や村でも同じような魔法が使われているのかを確認したに過ぎないのではなくて?どうなの余市?」

「あ…うん。そうだとも!」

「んーなるほど…ならまーそんな疑問も湧くかもしんねーわな」


響の機転で何とかこの場を凌ぐことに成功した。


ハイボールを多めに喉に流し込んだ。

ここ最近は鋭敏な舌にも慣れてきたのか、味覚がかなり安定してきていた。



そしてボパルはいよいよギルドについて語り始めたのだった。

結果的にその内容は3,000アボニムが惜しくないほどの内容だったのである。



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