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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第一章 現世から異世界へ(仮)
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EP006 青い珠ゲットだぜ!

寓話風味ファンタジーといったところか。

老婆の昔話をひと通り聞いて、予想よりは面白かった、というのが率直な感想だった。


しかし同時に、石を売るためにここまで神秘的な話をでっち上げて餌にするとは、何て狡猾で醜い香具師なのだろう、とも思った。

もし隣の透明な石について尋ねていたとしても、全く同じ内容の話を聞かされていたに違いない。

失明した右目は、大方、長年の石の鑑定で酷使し過ぎたか、無難なところで採掘中の事故か何かだろう…。


いつの間にかしゃがみ込んで聞き入ってしまっていたが、そろそろいいだろうと腰を上げようとすると、


「ちょいとお待ち…坊やがここを訪れたのにはのう…何やら得体の知れぬ意思が作用しておる気がしてならんのじゃ」


ゆっくりとした口調で不気味なことを言いながら、老婆は背後の棚から青い珠と赤い珠を取り上げた。

すると今度は打って変わって忙しなく元に向き直ると、


「まずはこやつをのう、坊やの手でこの水晶にかざしてみては貰えんかのう…ささっ、手をお出し!」


こちらの了解もなしに身を乗り出して赤い珠を差し出してきた。

その赤い珠を何としても余市に受け取らせようと必死である。


その様は、田舎のお婆ちゃんが鞄から直に摘み出した埃まみれのノド飴を、内心では嫌がっている孫に無理に受け取らせようとするかの如く、押しつけがましいものであった。


老婆と余市の間には、ファンタジー世界で占い師が使うであろう絵に描いたような直径30センチ弱の大きな水晶がある。

それが年代物の木枠の台の上に、厚めの赤い布を挟んで鎮座しているのだが、狙い過ぎ感というか、あまりにも雰囲気を醸し出し過ぎていてむしろ胡散臭い。過ぎた演出は逆にシラケさせるのが常である。


が、しかし…長話を最後まで聞いた手前、無下に断るのも些か気が引けるというのもまた事実。


ここはこの場を穏便にやり過ごすためにもさっさと終わらせて帰ろう、


と、よくできた孫のような心境で自分に言い聞かせ、老婆の要望をきいてやることにした。


「まずは…そやつを(てのひら)に載せて、そっちに(かざ)してみてはくれんかのう」


老婆は嬉しそうだ。

言われた通り赤い珠を載せた手を水晶に近付けてやる。

青い珠はともかく、何故、関係のない赤い珠まで?…まあこの際どうでもいいか。


老婆は水晶の向こう側からこれ以上ないくらいに、文字通り目玉が落ちるのではないかというほど大きく左目を見開くと、水晶に顔を近付けた。

すると濁りながらも光を宿した眼球が、小刻みに震えているのがわかった。己の寿命を削るかのような集中力が見て取れる。


…長い。


時間にして30秒ほどしてから老婆は水晶から顔を離した。

瞳を閉じ一見無表情ではあるが、どこか落胆したような印象だ。


小休止を挟んで今度は青い珠でするように言うので、同じように珠を受け取り水晶に翳した。

老婆は再び水晶越しに覗き始めたが、先ほどの赤い珠の時よりも遥かに長い時間経過しているのに、一向に顔を上げようとはしなかった。そして明らかに先ほどよりも目玉を水晶に近付けている。


…長過ぎる。


時間にして1分は確実に経ったであろう頃、漸く老婆は顔を上げた。

相当疲弊したと見えて瞼を力強く閉じたままだ。そしてその状態のまま暫く何か考えていたようだったが…静かに口を開いた。


「坊やよ…此れも何かの縁じゃ。老い先短いわしの話相手をしてくれた礼に、売り物じゃあないんじゃが…そやつをくれてやるわい」


言いながら、腰あたりに括りつけてあった古びた巾着の中から更に小さな革製と思われる巾着状の袋を取り出した。

そして余市から青い珠を一旦戻すとその巾着に珠を入れ、上部に通してあった革紐をゆっくりとした動作で絞り上げた。


小さいとは言っても、珠が入るくらいだから、そこそこの大きさではある。

前に駅前の露店で売っていたカンガルーの陰嚢(ふぐり)の巾着よりも全然大きい。そういえば何故かひとつだけ異様に黒ずんでいて大きな巾着が混じっていたっけ。店員の外国人お姉さんに、コレだけ別の種類のカンガルーのではないか?と興味本位で英語で尋ねたら、流暢な日本語で『個人差じゃないかしら』と笑顔で返されたのには少し戸惑ったっけ…。


ま、それはそうと…。


老婆の手は顔同様に痩せこけており、骨に皮といった感じだった。そこに青黒い血管が何本も立体的に浮き出ているのだが、はっきり言って気持ちが悪い。


そんな老婆の手元に目を奪われていると、


「なぁ~に…わしの戯言は気にせんでええ…記念のお守りじゃて」


と、にやりと口を曲げると、その巾着をぐぃっと渡してきた。


「えっ!本当にタダなのん!?」


かなり拍子抜けした。


この後、どんな話術で買わせようとしてくるのかと身構えていたのだから、この展開は想定外だった。

青い珠を特別価格1万円で購入すれば、今回だけ特別に赤い珠もオマケで付けてやる、などとドヤ顔で言ってくるものとばかり考えていたのだ。


それに売り物じゃないって…いいのかよ?


よく見ると、確かに雛壇にある他の石の前には『価格:応相談』という札が立て掛けてあるのだが、赤い珠と青い珠の前には値札自体がなかった。


何だかさっきまでの胡散臭いファンタジーが、ここに来て俄かに現実味を帯びて来て少し気味が悪い。

何故なら、あの手の込んだストーリーが、販売目的ではなかったと判明したからである。


実は実話だったのか?


「此の子はなあ…坊やを好いておるようじゃ」


握った巾着を片目で見ながら老婆は機嫌良さげである。


まあタダなんだし貰っておくか、と余市はそれを受け取った。

そして一応礼を言うと今度こそ立ち上がった。

受け取った珠の入った巾着を上着のポケットに仕舞うと、老婆に再び背を向けた。


すると老婆が最後に、


「坊や…坊やの名前は?良ければ聞いておきたいのじゃが…」


と尋ねてきたので、少し悩んだが、そのまま、


「宮城…宮城余市…デス」


そう答えてその場を後にした。



神妙にベーシック方式でママチャリに跨る。


売り物でもないのにフリーマーケットで陳列していたことや、あのファンタジー話をよくよく思い返してみると、ひょっとしたらあの老婆は、この珠を授ける相手を長年探し続けていたのかもしれないな…と思ったりもした。

巾着を渡してくる時、老婆の瞳は気のせいか潤んでいたようにも見えた…。


確かに不思議な縁のようなものを感じないではない。

あの話が嘘にしろ実話にしろ、とりあえずこの珠は大事にしておいた方が良さそうだ。


売り払ったり投げ捨てたりしたら失明してしまいそうだ!

カワイイところでインポテンツ程度か!?きゃーーー恐ろしい!オラの楽しみ奪わないでけろぉぉーー!!!


タダだからといって安易に貰うべきじゃなかったかもしれないな…。


帰り道、ペダルを漕ぎながら早くも弱気モードになってしまっていた。



家に着くと自室のある2階へと脇目も振らず上がった。

老婆に貰った珠を巾着から取り出して、まじまじと見てみる。


掌サイズのそれは深い青色をしていた。

角度によって色や輝きが変化するようなものではなく、ただただ半透明な深い青。非常に硬く、どこから見ても触ってもガラス玉としか言いようがなかった。

傷ひとつなく正真正銘の球体で、いくら目を凝らして見ても中で動いている光や影などない。


それでも蛍光灯の下で3分程眺めていたが、何の変哲もないガラス玉だと分かり流石に興が醒めてしまった。

だが、それほど落胆はしなかった。寧ろ少しほっとしていた。

巾着に戻し枕元に半ば放り投げるように無造作に置くと、そのままベッドの上で大の字になった。


そろそろあの気味の悪い老婆も帰った頃だろうか?


天井の木目をぼんやりと見つめていた…が、なんだかワケもなく急にムラムラしてきたので、弾かれたようにベッドから起き上ると、PCの前に移動した。電源はサーバの如く常に点けっ放しである。


純真無垢な新品のサドルに、初心(うぶ)な股間が刺激でもされたか…?

それとも青い珠に触れたからか?いやいやそれはないだろ。自分の玉を弄っていたならまだしも…。

やはり、カンガルーの陰嚢を売っていたあのお姉さんを思い出してしまったからだろうか?


どちらにせよ、こうなってしまったからには仕方がない。だって男の子だもん!



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