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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP049 語る宝珠と思念透視8

暗闇の泉では、頭は勿論、酸味を増した下の頭も思う存分、洗うことができた。

奥にあった小さな滝では、水を飲みまくった。


そして、水中を移動する過程で、脚力だけではなく、腕力やその他の筋力も大幅にアップしているという事実も知ることができた!驚異的なスピードで泳ぐことができたからだ!

更に、かなり長い時間、水中に潜っていても耐えられる肺活量も備わっていることにも気付いた!


凄過ぎる!!!


異世界に来る前は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚などの神経が研ぎ澄まされ、動物の発する鳴き声の意味を理解するレベルではあったが、異世界では更に、解放されし宝珠の力で、筋力などの身体能力(フィジカル・アビリティ)が増幅されたのである!!!


余市に近付こうとはしなかったが、響もそれは感じているようである。

正直言って、響の身体能力が余市を凌いでいることは、そのズバ抜けた動きを見れば一目瞭然であった!

少し悔しいが、代わりに余市には触覚以外の素晴らしい五感能力がある!

流石に響には覚醒していないであろう。


暫く水に浸かった後、服と金嚢を置いておいた入口へと戻る。

そこで、ふと目に入ったものがあった。

余市と響が通ってきた洞窟の上部の岩肌に、何やら初めて見る文字が刻まれていたのだ。

近付いてよく見てみると、不思議なことに簡単に解読できてしまった!解読というより、日本語と同様に、普通に自然と読めてしまったのである!


『これより先、さらに危険』


そう書いてあるのである!

象形文字風味の初めて見る文字が理解できてしまったことに驚くが、直ぐにゼノグロッシアについて思い出す!

驚異的な治癒力や運動能力と同時に、既に宝珠の最も重要な能力も当たり前のように覚醒していたようである!

試しに響も呼んで、文字が読めるか確認したが、響もすんなりと理解できてしまった。



だが、この文字の意味するところは何であろうか?

洞窟の先には、あの巨大な草の生える大密林が広がっているだけである。洞窟内部はそれほど危険ではなかった筈だ…。

そして『これより先』と書かれているということは、この泉に通じる道が、通って来た洞窟以外にも存在するということを意味しているのではないだろうか?


そして辺りを見渡す。

今までは泉に集中していたため気付かなかったが、滝のある側とは逆の右側には、直立した岩壁と泉を縁取るかのように、人ひとりが通れそうな細い道があることに気が付いた。

その道は、泉の最奥の岩壁の裏の裂け目に通じているようである。


初めて見る文字とはいえ、文字を使う知能を持った存在が、この奥に居る可能性が高い。

少し怖いが、コミュニケーションがとれるならば、争いに発展する可能性は幾分低い筈である。

もと来た洞窟を抜けて、あの草のジャングルに戻ったところで、巨大昆虫に遭遇するのがオチである。


響の同意を得て、奥に進むことで決定した。


例によって余市が先頭となり、泉から奥へと続く洞窟へと足を踏み入れたが、入口こそ狭かったものの、進むにつれて徐々に幅を増し、泉へと繋がっていた先ほどの洞窟とほぼ同じ太さとなった。


歩きながら余市は考えていた。

宝珠はそもそも隻眼の老婆より貰ったモノではあるが、朧の言っていた通り、それなりに身体能力やゼノグロッシア能力を覚醒させてくれた。

そして朧から授かった品々でいえば、巻物は宝珠を解放してくれたし、丁子も響が言うには治癒効果があったようである。

それに、まだ腹も空いてきていないことから、丁子は非常食としての効果も間違いなくあるのだろう。プラシーボ効果などのまがい物ではないことは証明されたといっていい。

そして金嚢も素晴らしい。

原理は謎過ぎるが、このサイズでかなりのモノが軽々と持ち運べてしまう。口部分にドローコード風味に通してある紐も非常によく伸び、まるで某ネコ型ロボットの四次元ポケットのようである!


ところで、その他の品については、何気にまだ確認していないのではなかったか?

具体的には、確か…分銅と軍配、隠れ蓑と隠れ笠である。巻物についても、宝珠を解放するのに使用しただけで、実際にその本来の能力をまだ確認していないに等しいのではないか?


比較的、この洞窟は安全そうである。

外に出れば、またあのマイマイカブリのような恐ろしい昆虫や、アリの大群がいる可能性も高い。

今の内に、朧の7つ道具について、詳しく知っておく必要があるのではないか?

そんなコトを考えていると、


「余市、止まりなさい。風呂敷の品について、今の内に確認しておきましょう」


響が背後から声を掛けてきた。

オレの心を読んだのか!?と思わざるを得ないタイミングである!

まさか!響には相手の思考を読む、朧や青のような能力も覚醒したというのか!?だとしたらとんでもなく恐ろしいコトである!!!


慌てて足を止める。そして振り返り、


「今、僕の心を読まれたのですか?」


恐る恐る訊いてみた。すると、


「さあ、どうかしら?…ふふふ」


なにいいぃぃーーー!!!

響が笑っただとおぉぉーーー!!!


今の笑みは、相手の思考を読む実験に成功したことを喜んでの笑いなのか!?

だとしたら、これからの長い旅に於いて、オレのド変態っぷりがスケスケランジェリーの如く、リアルタイムで丸見え状態ということになってしまうジャマイカ!!!


試しに、恐ろしいコトではあるが、あの時の味付け海苔の光景を思い起こしてみる。勿論、その思念を響には向けず、ただ思い出してみるだけだ。危険な実験である!


しかし、響は黙っていた。


どうやら危惧していたような能力は、響には備わっていないようだ。たまたま同じタイミングで同じようなコトを考えていたに過ぎないようである。ほっと胸を撫で下ろした。


「…ヘンタイ」

「い!今何て!!?」

「別に。言葉遣いには気を付けなさい」


座るような冷たい視線を真っ直ぐに向けている響が、まるで悪魔の子ように見えた!!!

寝ている隙に頭髪を掻き分ければ、そこには恐らく『666』の呪われし文字が刻印されているに違いない!


「あ!ハイ!ききき!気を付けます!」

「では、そこの平らな岩の上で、確認することにします。準備なさい」


響が指差した先には、卓袱台(ちゃぶだい)ほどの楕円形の岩があった。

それにしても、相手の思考を読む能力…本当に響に備わっているのだろうか!?だが、これ以上、訊いてみたところで、響の性格上、教えてくれそうにはなさそうである。不安な気持ちのまま、とにかく、朧から授かった品々の確認をすることにした…。


金嚢に手を突っ込み、最初に何を確認しようかと考えていると、以前に1度だけ宝珠と思念で会話したことがあったことを思い出した。あれは確か、朧月夜がいつ出るのかを確認した時だった。


今も思念通話が可能なのだろうか…?


宝珠をイメージすると、突っ込んだ手に宝珠が握られた!

凄い!この金嚢!本当に凄い!

宝珠は、青白い炎のような影を相変わらず宿していた。ゆらゆらと揺らめいている。狭い範囲ではあるが、その炎が周囲を照らしていた。

響は、余市が宝珠を取り出したのを見て、少し不思議そうな表情をした。


余市は宝珠を顔の前に持ってくると、目を閉じて思念を送ってみる…。


「宝珠さん、こんにちは!異世界に来ましたよ!」

「うん。知ってた」


ぬおおおぉぉぉーーー!!!

速攻で返事が返って来た!!!肉声とは違う、ボーカロイドのような脳内に響くその声音は、まさしくあの時と同じモノであった。


「ほ…宝珠さんは…生きてるんだ…ね?」

思念体(トゥルパ)だよ。本体はどこかにあると思うけど分からない」

「そうなんだ…あはは!ところで…」

「余市に覚醒させた能力は、真性異言能力10、治癒能力8、運動能力4、魔法能力5、思念透視3だよ」


尋ねようとしたコトを先に答えられてしまった!


「因みに…その…」

「響に覚醒させた能力は、真性異言能力10、治癒能力2、運動能力7、魔法能力3、思念透視8だよ」


またもや先読みされてしまった!

色々と気になるが…真性異言を合わせて数値が30になっているのは偶然か?

あと魔法能力って!あの魔法のコトか!?…オレっち魔法使えるのん?マジで…か!?


「マジだ」


即答された!何だか朧と話している感覚を思い出す。すると、


「朧月夜」

「えっ!?朧のこと知ってるのかい?朧月夜って…」

「…秘密」

「そ、そうなんだ…」

「あとは自分で確認。能力は適性に準じた初期値に過ぎないよ」

「あ、うん。分かったよ」

「眠いからもう寝る」


すると宝珠の炎の揺らめきが急激に小さくなった。一度に念話できる量や時間が限られているのかもしれない…。

宝珠をそっと金嚢の中へと戻した。


「…なるほど」


正面に座っていた響である。

どうやら、響も宝珠の話を聞けていたようである。唇の下に曲げた人差し指を当て、何か納得している風である。


それにしても、適性に準じた初期値か…。

つまり、響の場合は元々身体能力や相手の思考を読む観察眼のようなものが優れていたために、それらの数値を自分よりも多く得たということなのだろう…多分。

前に朧が言っていたが、蛇である青は、相手を威嚇する能力や、相手の氣を呑のむ力が強く、念の波動力に長たけているため、カラスなどに比べて相手の思考を読む適性が高いとかいう話だったが、響もその類に近いのやもしれん。

確かに、響は一見、優等生だが、少し付き合ってみると、可愛らしいというよりも恐ろしさの方をより多く感じてしまうのも事実。癖のある屈強な周囲からも一目置かれていたし…。

初めて朧が響を見た時の微笑み…あれは念の波動力を強く感じたのがその理由か?


オレの治癒力の数値がやたらと高かったのは、これまでの人生で、イジメやヲタ差別、家族や近所からの冷遇や憐れみ、カツアゲなど様々な苦痛を経験してきたことによる、鍛え上げられしMの属性が影響したのだろうか?

魔法能力は…日々のクレイジーな妄想の賜物か?それともネトゲとはいえ、沢山の魔法を使用してきた経験からか?うーん…よく分からん。


「さっさと取り掛かりなさい」

「ハ!ハイ!」


金嚢に手を突っ込み、分銅をイメージする。

宝珠の時と同様に、分銅が手に握られた。


朧の話では、この分銅、モノの価値を見極めることができるとか…。

取り出した分銅を丸い岩の上に置く…何も変化がないな、と思った瞬間!


『種類:珪岩(けいがん)、大きさ:縦720ミリ、横560ミリ、高さ385ミリ、重量:160キロと推定』


そんな情報が脳内に流れ込んできた!

更に少しして、その体積や誕生時期、成分など細かい情報も追加されて流れ込んでくるではないか!


凄すぎる!!


試しに巻物も取り出して、同じことを近くの岩で試したところ、その情報が開いた巻物に記されたのである!面白い!


響もかなりの興味を覚えたようである。

自分の分銅を取り出すと…おいおい!


『種類:人間、性別:男、年齢:18、血液型:M、あ、訂正!血液型:B、名前:宮城余市、身長…体重…性体験:なし…性癖:匂いフェ…』


巻物に走る無数の文字、そしてリアルタイムで脳内に流れ込んでくる膨大な情報!!!

ぬおおおぉぉぉーーー!!!そんなコトまでえええぇぇーーー!!!

堪らず、頭の上に押し付けられた分銅から逃れる!

つーか!血液型訂正って!!分銅も間違えるコトあんのかよ!?それに何なんだこの偏った情報は!岩の時とはまるで違うジャマイカ!激しく悪意を感じるぞ!!!

響はニヤリとした表情で見つめていたが、


「いいこと?今後、私に同じことをしたら殺すわよ」

「ハ…ハイ…」


主人は飼い犬の情報を知る権利があるが、逆は許されない…というコトなのであろう。


その後も色々なモノに分銅を載せて試してみた。

朧より授かった他の品々も全て出して、載せて試してみたが、ほぼ朧のホログラムの語った内容と同様であった。ただ、分銅による情報の方が、更に詳しい内容ではあった。


宝珠も取り出して載せてみようと思ったが、何だか災いが降り掛かりそうな気がしたので、止めておいた。

響に頭に載せられて、かなり不快な思いをしたばかりだったし、あの老婆の失明の話も脳裏に過ぎったからである。他の品々とは違って、宝珠には意思があるのだ。機嫌を損ねてしまえば、失明とまでは行かなくとも、次に握った瞬間に、激しい衝撃と共に、能力を大幅に下げられてしまう可能性は往々にして有り得ると思ったのだ。


最後に、余市の分銅に響の分銅を載せて、分銅についての情報を仕入れてから、分銅を金嚢に仕舞った。


次に、既に取り出してある軍配を手にとってみる。

今は敵がいないが、試しに高く掲げてみた。

…やはり何も起きなかった。これについては、考えたくはないが敵に遭遇した時に確認するしかなさそうである。


続いて、隠れ蓑を羽織ってみる。

頭をすっぽりと通すだけである。結構、嵩張るが、普段は金嚢に収納しておくため問題ではない。


少しして響を見つめると、不思議そうな表情である。こちらを見つめているが、視線が定まっていないようなのだ。そして、余市に続いて響も隠れ蓑を羽織った。

すると、響の姿が徐々に消えていくではないか!!!

これが、背景の模様に馴染む、保護色効果ってやつか!?

互いに互いの場所が分からない、だが、カサカサと藁の擦れる音が僅かに聞こえる。


「余市!早く隠れ蓑を脱ぎなさい!」


少し離れた場所から響の苛ついた声が聞こえた。


「ハイ!直ちに!」


主人に言われた通り、急いで隠れ蓑を脱ぐ。

少し遅れて響も脱いだようである。互いに10メートルほど離れて立っていた。

この距離が、今のふたりの信用度を虚実に反映しているのかもしれないと余市は思った。仲間とはいえ、互いにまだ警戒し合う間柄ということである。

まあ、余市は変態だから、見えなくなった余市から響が距離を取るのは致し方ないといえるであろう。背後に迫り無断で匂いを嗅ごうとしたことや、Pee・Peepingの一件もある…。

一方で、余市の方は主人の機嫌とパワーを恐れている…過去に2度ほど味わった痛みを、身体が正直に覚えてしまっているのである。

少し気まずさを感じながら、元の岩のところまで戻る…。


「…凄い保護色効果ね。次にいくわよ」


響に促され、隠れ笠を手に取る。丁子は既に経験済みなので、今回は省く。腹が空いてきたらその時にまた体感すれば良い。響も洞窟に辿り着いて直ぐに一粒、摂取していたということを聞いていた。


早速、隠れ笠を頭に被る。そして、顎紐を結んだ。

だが、隠れ蓑の時のような、変化は起きなかった。朧の話と分銅による知識では、日除けや雨避けなどの通常の笠の役割のほかに、炎、吹雪、砂塵、などの自然現象を緩和し、環境による暑さや寒さから体温を適温に調節する効果があるということであったが…。

ん…?でも何だか少し、涼しくなったような…。洞窟の中とはいえ、先ほどまで少し蒸していた筈が、隠れ笠を被ったせいか、今は幾分、湿気が減ったように感じられるのだ。

その旨を、響にも伝えた。


「そうね。確かに…」


響も自分の身体の感覚を確かめるようにして答えた。

それにしても、洞窟の中でスク水に隠れ笠を被った響の姿は、滑稽なほどにシュールである。

そんな風に思っていると、響が鋭い眼差しを向けて呟いた!


「まるで反省していないようね」


がーーーん!!!


「スス…スミマセン!!!深く!深く反省しております!」


確実に心を読まれている!!!真正面でこの距離であれば、確実に思考を盗まれるというコトか!?

思念透視8…恐るべし!!!



そして最後に、隠れ蓑と隠れ笠を同時に着用してみる。

擬態の効果を試すためである。

余市は必死になって、カラスをイメージする…が、駄目なようだ。続いてアマガエルをイメージ…やはり駄目である。まだ経験値などが不足しているのであろう。

響も神経を集中させていたようであるが、保護色効果による透明のままで、変化は見てとれなかった。

今の余市と響には、まだ早かったようである…。諦めかけたその時!


「えっ!」


響が声を発した。

余市も釣られて響の方を見たが、ビックリして後ろに仰け反ってしまった!


何と、透明だった筈の響の両脚のみが見えていたのだ!

しかもそれは、人間のそれではなく、鱗状に近い黄色くて硬そうな質へと変化していたのでだ!!!そして、その足首から先は、大きな水掻きを有した3本の指が生えていたのである!!!


余市には分かった!それが紛れもなくアヒルの足であるということがっ!!!

響はアヒルをイメージしていたに違いない。鳥が好きな響らしい擬態対象である。


が、そのアヒル足は、直ぐに消えてしまった。

部分的とはいえ擬態したということは、経験値が上がれば、あと少しで完全なアヒルに擬態できるという可能性が非常に高そうである。

何だか、またもや変な敗北感が芽生え始めてしまっている…。


響は隠れ蓑を脱いで姿を現すと、少し満足気な表情で余市の顔を見ていた…。ぐぬぬぅぅ…この敗北感にも似た心境は既に響に盗まれてしまっている筈!今から取り繕ったところでもう遅い!


「さ…流石!響さん…」

「悔しいようね。意外と負けず嫌いなのかしら」


はっきりと容赦なく図星を射抜かれた!

だが、これ以上、苦し紛れに精神勝利を模索したところで全てバレバレである。気持ちを切り替えるしかない!


荷物を金嚢に戻し、再び洞窟を進み始める。

だが、隠れ笠だけは涼しいこともあり、被ったままである。隠れ蓑も羽織っておいた方が、敵に遭遇した時などを考えるなら得策なのだが、互いの姿が見えなくなるのには、まだ少し抵抗がある。そのため、余市のみ脱ぐことになった。響は羽織っている…。主従関係上、主人の言うことは絶対である。

保護色で姿は見えないが、その足音から余市の少し後ろをついてきているのは間違いない。



暫く進むと、出口が見えてきた。



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