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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP048 褒美の泉

響にもたらされた宝珠による変化。


それは、一点の可憐なシミと…超人的なパワーだった。

奇しくもこのふたつに響本人よりも先に気付いてしまったのは、余市だった。

だが、おそらく余市はもう助からないであろう…。


無残に顔面崩壊していた。


頬、顎、鼻を複雑骨折し、そして前歯は勿論、数本の奥歯すら本体から去り、鼻や口、目や耳からも流血していた。

首は明後日の方向へと捻れてしまっていた。首の骨や神経も無事ではあるまい。


だが唯一、そのギョニソーだけは、猛り狂ったかのように天を真っ直ぐに指していた!


死後硬直…とかいうやつだろうか?


だが、そもそも響のシミによって予め勃起していたのもまた事実…医者でもその判断は難しそうである。


そして然程、重要なコトでもない。



そんな変わり果てた余市を、響は真上から茫然と見下ろしていた。

そして自分の拳を握ったり開いたりと繰り返していた。まだ殴り足りないとでもいうのだろうか?




ピチャッ!


…ピチャッ!


額に水滴が落ちるのを感じる。

ゆっくりと瞼を開いていく…辺りは暗かった。


近くで響の匂いがする。

ムラムラとさせられる。


ここは洞窟か何かだろうか?

ゴツゴツとした天井からたまに水滴が落ちてくる。

仰向けに横たわっているようだが、いったい、オレはどうしていたんだっけ?


再び瞼を閉じ考える。

宝珠…シミ…パンチ…それぞれの点が徐々に繋がり、線となっていく。


嗚呼…そうか、あの時、死んだのか。


それにしても僅か1日で、現世から異世界、そしてあの世と3つの世界を経験することになろうとは…。

朧の言っていた通り、異世界で生き残ることは激しく厳しかったようだ。それにしても、よもや仲間の響によって初日に友愛()されるなんて…な…ふふふ。


天井からの水滴ではないモノが、頬を伝う。

アイツはひとりで大丈夫だろうか?皆と無事に合流できれば良いのだが…。


そこで、はっと気付く。

オレが、オレが宝珠を祭壇に供えなければ、アイツら元の世界に戻れないんじゃなかったか!?

どっと大きな責任と後悔の念が押し寄せてくる。


「オレが!オレが!変態過ぎたばっかりに…皆、マジで!マジでゴメンな!!!」


咽び泣く。静かにただ咽び泣く。


数分間、男泣きをしていたが、不思議なコトを思い出す。


響の匂い…何故する?


ふと横を見る。

そこには岩の壁を背にして、体育座りをしている響が居た。

余市とは1メートルほどしか離れていなかった。


「もう、泣きやんだのかしら?」


ぶひいいぃぃぃーーーんん!!!


「オ…オレは生きているのか!!?」

「当たり前じゃない。ここは異世界の洞窟よ」


慌てて起き上り、響を見つめる!

そして感極まって抱きつこうとする!


「響いいぃぃーーー!!!」


バシッ!


「ぐへぇ!」

「何する気?それと言葉遣いには気を付けなさい」


地面に顔面を打ち付けられたものの、先ほどのような衝撃は勿論ない。

手加減をしてくれたようではある。


「響さんが、ここまで僕を?…有難う御座います!」

「…さっきは少しやり過ぎたわ。あんな能力が備わっていたとは知らなかったし…」


そこで響は、少し躊躇ったが、続けた。


「でも、知らなかったとはいえ…殺しかけてしまったことは事実。その…申し訳ない」


申し訳ないって!おいおい…でも何だか嬉しい!


「そんな!勿体ないお言葉!」

「だ、だからって、ツケ上がらないことよ!よろしくて!?」

「はい!勿論です!」

「それと余市、貴方にも能力が備わったみたいね。その気持ち悪いほどの驚異的な治癒能力!」


響が話すには、殴られた直後から急速に皮膚や骨が回復していったらしい。

恐ろしいことに、折れた前歯も生え始めたという!

朧から授かった、治癒の効用があるという丁子をひとつ、落ちていた棒で強引に口の奥にねじ込ませたたところ、みるみる顔色も良くなってきたという。

だが、近くにアリを発見し、慌てて担いでここまで避難してきたということであった。

巻物を広げていたあの場所からは、1キロほど離れており、あれから3時間ほどが経過しているという。


つまり響は、余市を1キロも担ぎ、落ちていた棒で丁子も摂らせ、看病してくれたということである!

勿論、余市に死なれては、元の世界に戻れなくなるという事実はあるが、それでもあの響が、ここまでしてくれるなんて!!!

当然ながら、異性にここまで世話になったことは生まれてから初めてのコトである!殺されかけたコトは、マリカを含めこれまでにも何度かあったが…。


どちらにしても、感動的であった!


オンラインRPGなどで魔法や薬草で治癒してもらったことしかなかったのに、三次元リアルで、異性にここまでして貰えたなんて!!!それも、今やオカズ&トキメキ偏差値70超えの大和撫子である響たんにいぃぃぃーーー!!!

殺されかけたとはいえ、何度も響に礼を言ったのは言うまでもない。


そして、崩壊していた顔面は勿論、折れたと思われていた首まですっかり元通りになっていたのには、本当に驚いた!

トカゲの尻尾やザリガニのハサミ…そんなレベルではない!たった数時間でアレほどの大怪我が完治してしまったのだから!

勿論、朧の特性丁子の効き目もあったのだろうが、それにしたって凄過ぎる回復力だ!

響が気持ち悪がったのも無理はない。


その丁子のお陰か、今のところ空腹感はなかったが、いい加減、喉はカラカラである!

天井から時折落ちる水滴を口で受けたところで多寡が知れている。

普段は考えもしなかった、砂漠でのコップ1杯の水がどれくらいの価値になるか…そんな妄想が今は身に沁みる。


それに、風呂にも入りたかった。


響は転送される当日の朝に、バンガローを管理する銭湯で済ませていたようではあるが、女子である。男である自分よりも入りたいと考えているに違いなかった。

ただでさえ、熱帯雨林に負けないようなこの蒸し蒸しした気温である。スク水は露出こそ多いが、生地的には相当、蒸れているに違いない。

その証拠に、決して不快ではないが、先ほどよりも甘酸っぱい匂いが明らかに増している…アメージング!そしてファンタスティック!!!


だが、この罪深き変態的煩悩は、暫し封印せねば!ぐぬぬぬ…。


そんな余市の自責と自制の念が神に通じたのか、耳を澄ますと、滴る水滴の音に混じって、洞窟の奥の方で何やら水流のようなせせらぎ音が微かに聞こえてきたのである。

正直言って、この気温であれば、むしろ水風呂日和と言っても良いくらいである。

奥に滝などあれば、水分も一気に補給でき最高である!


そのことを響に伝え、共に奥へと進むことにした。

荷物は、宝珠を含め、朧より授かった品々も全て金嚢に入れてあるとのことだった。巾着である金嚢は、カップメンほどのコンパクトさであり、軽くて素晴らしいモノであった!


進みながら天井を見上げると、この洞窟にもコウモリが居たが、やはり鳥と同じように元の世界と変わらず、昆虫のように巨大ではなかった。

外は恐らく夜であろう。そして当然、洞窟の中は真っ暗である。

だが、余市のデビルアイと、響の特異体質でもあるキャッツアイには、まるで問題にはならなかった。

もし、異世界への転送時の組み分けで、響以外の仲間と組んでいたなら、手を引いてパートナーの足下にも注意を払いながら、ゆっくりと進まなければならなかったであろう。

そう考えると、他の3人が急に心配になってくる…アイツら大丈夫だろうか?


しかし、心配したところで何もしてやれないし、今は信じること以外には何もできない…。

最後の角瓶の顔が『任せておけ!』という台詞と共に思い出された。あの時の角瓶の顔に向かって、心の中で余市も『任せたぞ!』と遅まきながら返した。


何だか気を失う前に比べて、足取りが軽い。…気のせいだろうか?

ここに来て、引力が弱まったのか?

小走りに進んでいたが、試しに強く踏みきって前方にジャンプしてみる。


ビューーーン!!!


んな!なにいぃぃーーー!!!

10メートル近くも跳ねたのである!!!

走り幅跳び金メダル間違いなしである!!!


だが、その直後、余市よりも更に遠くまで響がジャンプしたのだ!!!


「これも宝珠の能力のようね。私だけだと思っていたのだけれど…」


振り返り、響が言う。

引力が弱まったのではなく、脚力が大幅に向上したようだ!

気持ち悪い回復能力以外にも、まだまだ覚醒した能力があるのかもしれない!


宝珠…恐ろしい珠!!!


そんなこんなであっという間に、水音の源まで辿り着いたのだった。

幸いにも巨大な生物にも出会わなかった。


これまでの洞窟は直径にして約5メートルほどであったが、今、目の前に広がる場所は、ちょっとした屋内プールほどもある泉である!天井も10メートルほどあり、奥に見える小さな滝壺からは、静かに水が流れ落ちていた。先ほど感じたせせらぎ音の正体である。

泉の縁まで近付き、手で水を掬って匂いを嗅いでみる…そして毒見。


「どお?」


後ろから響が尋ねてきた。


「ほとんど何の匂いもしない…それに凄く澄んだ美味しい水です!響さん!」


そう言って振り返る!


「そう。この度の働き、なかなかでしたね。余市…」


そう言うと響はゆっくりと背を向けた。

余市の耳が、洞窟の奥の水流に気付いたことを褒めたのであろう。水浴びと水分補給という、差し迫ったふたつの大きな問題を一気に解決できたのだ。だが、背中を向けたのは何故だろう…?


「水に飛び込む前に…良い働きをした褒美を取らせます」


何を?何を響は言っているのだ?

確かに下僕として仕え、良い働きをしたなら褒美をくれるようなコトは言っていたと記憶しているが…いったい何を!?

持ち物だって、朧より授かった品々だけである…。

だが、周囲に厳しいだけでなく、自分の言った発言に対しても忘れずに守る姿勢は流石!そんな風に思っていると…。


「い…いいこと?決して触れることは許さなくてよ!」


意味が分からない…。


「私を…その…嗅ぐことを許可します」


えっ!!!今、何と!?

耳を疑い、茫然と立ち尽くしていると、


「私の…汚れた匂い、嗅ぎたかったんじゃないのかしら?早くなさい下僕!」

「ハハハ…ハイ!!!直ちにぃ!」


響のパヒューム!それは余市にとって、他のどのような御下賜品にも勝る価値あるモノ!

雌伏18年、よもやこのような日が訪れようとは!


余市は響の背後に回るとサッと片膝を折り、恰も君主に傅く臣下の騎士(ナイト)のように腰を落とした。


…なかなかサマになっている。


だがしかし!騎士はそのまま君主の尻の方に鼻先をゆっくりと近付けていったのだった!

それはもはや、騎士道精神(シヴァルリ)などとは対極に位置する、飼い主の匂いを貪欲に貪り覚えようとする犬が如き動物的行為(ブルータル・アクション)以外の何物でもなかった!


「えっ!?…そんなトコ!?」


余市犬の気配と、鼻息の当たる場所に気付いた響は、身体を強張らせながら呟いた。

まさかそんな場所を嗅がれることになろうとは、流石に思わなかったようだ。

肩越しに振り返ったその表情は険しいものだったが、触れるなと言われているだけで、嗅いでイケナイ部位の指定は受けていないのだ!

自分の言ったコトを反故にはできまい…ククク。


「あ…あのー少し前屈みになって頂けると助かるのですが…」


厚かましいにも程がある!何が助かるだ!自分の発言に脳内でツッコんでしまう。

しかし実際問題として、余市犬とて必死である。二次元では決して補完できぬ情報を得ようと、仮初のこの至福の一時に全身全霊を傾けているのだからっ!


「…これが限界よ!さっさとなさい!」


ほんの僅かに尻を突き出して応じてくれはしたが、角度的には10度程度しか変化していない。脚もピッタリと閉じたままである。

だが小声ではあるが、その声音には幾分かの棘を感じた。瞬時にして緊張が全身を貫く!これ以上お願いするのは非情に危険である!

つけ上がれば一発で血を見ることとなり、全てがパーである!


「は!ははぁーーーっ!有り難き幸せ!きょ…恐悦至極に存じまする!ではいざ…」


犬レベルの嗅覚を誇るデビルノーズを、背後から足の付け根、具を包むその場所まで近付ける!

洞窟の奥の暗闇の泉で、女体の洞窟であり泉とも言うべき場所を嗅ぐというクレイジーな程にミステリアスなこのシチュエーション!

こんな変態なオレとて、下僕である前に一頭の忠実な犬である…飼い主様の言いつけは守るさ!決して触れはしないさ!


覚醒した嗅覚も手伝ったとはいえ、想定外の強烈過ぎるパヒュームで気絶しそうになる!

片手を地面に付いて、もう片方の手の指で太腿を強く抓りながら、その痛覚でもって正気を保つ!


くううぅぅぬぅ!


昔の苦学生が、蛍の明かりの下、夜なべして勉学に勤しむ時、ウトウトと眠りそうになる己の足に針を刺して堪えたように、今の余市も、クラクラとする意識に耐えているのである!


コクのあるチーズのようでありながらも、どことなくフルーティで甘酸っぱい発酵した乳酸菌のような、その強烈過ぎる香りの調べを嗅いでいるという現実があまりにも信じられないが、紛れもないリアルなのだ!

宝珠の作用で、数時間前にシミを作ったことも間違いなく影響しているであろう強烈な匂い!

くぅ…堪らん!も…もうダメだっ!!!


「ひ!響たーーーん!!!」


思わず我慢できずに、むしゃぶり付きそうになったその時!


「そこまでよ!」


そうピシャリと言って振り返った響。

あ…危なかった!あと1秒経過していたら、間違いなく約束を破り、再び数十メートルブッ飛ばされていたところだった!!!

この角度で、覚醒した回し蹴りを食らっては、首が千切れて胴体と別れを告げ、流石の治癒能力でもどうにもならなかったに違いない!!!某邦画の天草四郎時貞でもあるまいし!


「本当に変態なのね!…一般的な男性もこうなのかしら?まさか…ね」


蔑むような呆れた表情ではあるが、頬が色濃く染まっているのが暗くても分かった。

流石の響も相当、恥ずかしかったようである。昼間にシミを見られた時ほどの動揺はないにせよ、視線を合わせてこないところからも、その心中が推し量れるというものだ。


「す、すみません。余りにも強烈且つ芳醇な素晴らしい匂いで…その…」


バッシャーン!!!


そんな感想は聞きたくもない!と言わんばかりに、響は水に飛び込んでいた。

お誂え向けにスク水である。その光景は至極自然であると言えた。寧ろ陸地でスク水を着て過ごしていた今までの方が不自然だったのだ。


バシャーーン!


興奮冷めやらぬ余市も、ランニングシャツと短パンを脱ぎ捨て、ブリーフだけの姿で飛び込んだ!

余りにも気持ちが良い!

身体中のあらゆる汚れが、一気に消えていく感覚と、ギョニソーを中心に火照った身体が冷やされていく感覚!

やっぱり魚肉ソーセージは冷やさないと不味いよなーーー!ナハナハ!


暗闇の泉ではあるが、久しぶりにリフレッシュできたひと時であった。



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