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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第二章 異世界で稼げ(仮)
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EP045 狂った世界での主従関係

チュンチュン、チュンチュン


スズメの鳴く声が聞こえる。


…萌え萌えチュンチュン…ん?それを言うならキュンキュンだろ、ってアホくさ。


時刻は既に…ん?


何だ?この青っぽい匂いは?

青と言っても、あの青大将のことではなくて、爽やかな香りである。


ん…青大将?何故、急に青大将なんて蛇の名が?

それに何だか凄く蒸し暑い気が…。


って!!!

オレは確か…異世界に転送されたんジャマイカ!!?


まどろみから急激に恐ろしい現実を思い出して、パッと瞼を開けた!

しかし、視界は塞がれていた。

真っ暗というワケではないが、何かに視界が遮られているようだ。


それに、さっきから自分の呼吸が、顔に当たって少しくすぐったい。青っぽい匂いも直ぐ鼻先でしていることに気付く。


上半身をガバッと勢いよく起こした。


それと同時に、何か大きな、それでいて軽い何かが、身体の横へとずり落ちた。

その薄くて大きなモノを確認する。


1枚の葉っぱだった。


至って普通の形状の葉である。…その尋常ではない大きさを除いては!

それは、2メートル近くはありそうな、巨大な葉っぱだったのだ!


生まれて初めて見るその巨大な葉っぱを、横に完全に退かして、辺りを見渡した。

蒸し蒸しとした高温多湿の空気の中で、我が目を疑った!


まず空が狭く遥か遠くに覗いていた。


…かと言って、マンハッタンや香港のような、高層ビル群に覆われたコンクリートジャングルでもない。

某伝説的ロックバンドのデビューアルバムにして1曲目を飾る、Welcome To The Jungleというタイトルが思い浮かんでしまうが、その歌詞におけるジャングルはコンクリートジャングルの方である。

だが今、余市の目の前に展開されている光景は、素直にジャングルのようなのであった。


それも、中南米や東南アジアのような、余市の思い浮かべるジャングルではなく、新世界の様相を呈したジャングルである。


まず、余市の周辺には、先ほど退かしたレベルの巨大な葉っぱがあちこちに散らばっていた。このような巨大な葉を落とす樹木はいったい、どれほどのモノなのだろうと、宙を見渡してみるが、樹木は見えなかった…。

高さ20メートル、幅1メートルを超えるであろう草の壁が、余市を360度、取り囲んでいたためである!

さっき朧と出会ったブナの巨樹クラスの草が周囲一面に生い茂っていたのだ!


何なんだ!ここは!!!?

オレはコロボックルのような小人にでもなってしまったのか!?


強烈な草の匂いと蒸し暑さに頭がクラクラとしてくる。

あちこちで鳥の鳴き声も聞こえる…。


はっ!響は!?


余市は完全に起き上り、そして気付く!自分の服装に!

薄汚れた白のランニングシャツに緑の短パンという、どこかのヤンチャな虫取り少年のような格好をしているということに!!!

虫取り網や麦わら帽子こそ被っていないものの、何と靴を履いておらず、素足である!


「おいおい!!!おいおい!!!」


そんな声が自然と口を衝く。


「目が覚めたようね…」


びっくりして振り返ると、巨大な草の陰から響が顔を出した。

が!その姿に再び驚愕し、絶句してしまう!


紺のスクール水着…それ以上でも以下でもない!

紛れもないスクール水着である!!!


胸元の白地部分には『ひびき』という3文字の平仮名が書かれていた…。

慌てて自分の胸元もチェックするが、どうやら何も書かれていないようだ。てか、オレはスク水ではないしな…。


それにしても、強烈に犯罪的なのは、響のその姿である!

小中学生でもあるまいし、ほとんど成熟した18歳の女性がスク水なのだから!!!

マリカほどではないにしても、胸元の三文字も、その発育のために大きな起伏を成し、不自然極まりない!

だが!それがいい!!!このギャップ…素晴らしい!


そこから目線を落とすと、スク水の最下部には魅惑の折り返しがちゃんとあるではないか!

それは、旧タイプのスク水、所謂、旧スクである!


スクとは違うのだよ!スクとは!

かといって赤いスクでもないワケだが…。


この、スク水の前面にしかない折り返しに、果たしてどんな働きや機能があるのかは知らない…。

だが、その折り返し部のお陰で、更にその下にチラリと見え隠れする、ロマン溢れる冬の大三角が形成されているのもまた事実!


この魅惑の折り返し…現実的には、動き易さや水の抵抗、胸の発育の個人差などを見越しての機能性を考慮したデザインなのだろうが…オレ的にはクイコミ防止や羞恥心を緩和するための措置であると信じたい!なぜなら、その方が萌えるからだ!


今時のコスプレイヤーですら、余程、頭の弱い子でもない限り、この格好はできない筈である。悟りの境地に達した一部の弾けたオッサンは例外だとしても…。

だが、我が二次元であれば、普通に有り得る…。


っはっ!!!


そこで朧の言葉を思い出す。

『余市の深層心理に多少なりとも影響を受けた身なりで異世界に転送される…』だとっ!!!

オレってやつは、どこに行っても罪深き男!!!恥ずべき男!!!

普段のありのままの等身大の自分の姿が、赤裸々に響にバレてしまったのだ!


しかし!しかーし!そんな忸怩たる念をもってしても、究極かつ原始的な『萌え』という名の本能の波は押し返せそうにはないのであった!むほおおおぉぉ!!!


「そんなにじっと見つめないでくれるかしら?」


ぐはっ!!!


「あの…その…ゴメン」

「とにかく、辺りを調査しましょう」

「お…おう…否!はい!」


響に続いて歩いて行く。

それにしても凄い格好である!全くもってけしからん!イケナイお尻だ!

尻のお肉がすこぶる健康的で、歩く度にプリンップリンッとしていやがるですよ!

濡れてもいないのに、谷間にもかなり喰い込んでいやがるですよぉーーー!!!


この異世界で、興奮度では上を行く競泳用などではなく、敢えてスク水をチョイスしてしまったオレの深層心理とやら…ロリもアリだが決してロリ専というワケでもないのに…何故だ?そんなオレの触手をスク水へと誘わせたた理由は何だというんだ?


子供時代に戻りたい…という想いか?


確かに、それであれば、オレ自身の格好とも辻褄が合いそうだ。他の3人も無事に異世界へと到着しているなら、オレのせいで、こんな格好をさせられているのであろう…マリカのスク水かぁ…むふふ、悪くない!

虫取り少年の角瓶は意外と似合ってそうだな…。


「それにしても響たんのお尻ってば…響のお尻は世界一イイィィーッ!!!ウッホホォーイィ…」

「シッ!!!何かが近付いて来る!」


咄嗟に響は横の草の根に隠れた!

うっかりまた独り言を喋ってしまっていた、と言うよりも叫んでしまっていた余市も、はっと我に返り、恥じる暇も無く転がるように響に続く!


進行方向前方より、何かが勢いよくこちらに向かって来るのを感じたのだ!

草や葉の擦れる音と、地面を強靭に引っ掻くような音が、あっと言う間にすぐ傍まで迫っていた!

草が擦れる音とは言っても、巨大な木々のような草である。音もかなり大きい。

つまり、迫り来る何者かも、相当の大きさであるということを窺い知ることができるのだ!


車、もしくは馬などの動物か何かであろうか?エンジン音がしないことから、バイクではなさそうだ。

が!次の瞬間!余市は泣き叫びそうになっていた!!!

両手で口を塞いで、必死に堪える!


「むぐ…ぐむむむむぅ…」


勢い良くこちらに向かっていた何者かが、余市と響が居る場所から10メートルほど先で、動きを止めたのだが、その姿は…エイリアン!!!


否!よく見ればそれは巨大な昆虫のようである!!!


響も声を殺して、巨大昆虫を見守っている。

余市も冷静に、その動きに集中する!一気に汗をかいてしまった。殺される!そんな思いがその場の緊張感を極限まで高め、支配しているのだ!


幾ら虫取り少年ルックだからといって、あの昆虫は別格だ!

捕獲できないどころか、逆に喰われちまう!

何しろ、その黒くて大きな巨大昆虫は、全長が5メートルほどもあるのだ!!!

政治家が乗るような、黒い高級セダンほどの大きさは確実にある!


長くて太い触覚を動かしながら、周囲を窺っている!

顔に該当する部分には、植木バサミのような大顎が付いていた!身体に対する比重でいえば、クワガタほど大きくはないが、それでも50センチ近くはありそうな巨大なハサミである!人間が挟まれれば、上半身と下半身が簡単に切断されてしまうであろう!


オス同士で争ったのか、顔中央部には大きな古傷があった。


そして、その大顎の周辺に、それと同じくらい大きな触覚のようなものがあり、更に小さい似たような器官が動いていた…専門用語で言うところの、小腮肢(しょうさいし)下唇肢(かしんし)のようにも見える…が、間違っても小陰唇ではないことだけは確かだ!


ゆっくりと動くそれらは、先端にブラシのような赤褐色の毛が大量に生えており、余りにもおぞましく気持ち悪過ぎた!!!


小学生の余市であれば、カッコ良く思えたのかもしれないが、何故か年を重ねるにつれて、それらは徐々に気持ちの悪い対象へと変化してきていたのだった…。


目に該当する大きな複眼は、横に大きく飛びだし、黒く光っていた…。いったい、どこを見つめているのか、何を考えているのか…その無機質な表情からは皆目見当もつかず、ただただ不気味である!まるで黒いヘッドライトのようでもある。生物味をまるで感じさせない顔をしているのだ!


だが、間違いなくヤツは生き物!


その複眼の付いた頭部と、ほぼ同じ太さで繋がっている胸部が特徴的である。それら頭部と胸部は、感覚的には長い首のようであり、まるでマイマイカブリのようである!


…というか、冷静に見れば見るほど、マイマイカブリではないか!!!


ゴミムシなどと同じようにオサムシ類に属する肉食甲虫である!

因みにオサムシは漢字で書くと、修氏でも治虫氏でもなく、歩行虫と書く。地上をそれだけ徘徊しまくる虫ということである。一部の種や先祖帰りの特殊個体を除けば、羽は退化し飛ぶ能力はない。


よく、ゴルフ場のグリーンの穴に落ちて、抜け出せずに弱っているのがコイツらである。

そんな歩行虫の仲間であるマイマイカブリは、名前の通りマイマイつまりカタツムリを主食とするが、地上で捕獲できるものなら何でも食べるおぞましい虫なのだ!


こんなにデカイ昆虫がいるなんて…絶句してしまう!

そして考える…有り得るのか?と。


響も余市も、普段と同じように呼吸しており、身体に異常は見られない。具合が悪いワケでもない。つまり、正常な酸素濃度である。少しでも酸素濃度が高ければ、具合が悪くなり、濃度にもよるが、数時間で死に至るであろう…。

だが、濃度が特別高いワケでもないのに、あのように大きな昆虫が、あのような速さで動くことが果たして可能なのだろうか?否、それ以前に、生存できるワケがない!何故、あの巨体を支えられ、動けている!?


お前!何故、動けるううぅぅーーー!!?


太古の大昔には、恐竜と同じように巨大な昆虫も、多数、存在していたという。

しかし、それは、今ほど地球が重くなくて、引力も小さかったからこそ生存できていたというのが定説である。

この異世界で目覚めてから、これまで歩いた感触では、引力も普段と変わらないようなのに…。


って!そうか!異世界だからだ!!!


オレの常識の外の世界なのだ!考えるだけ無駄である!

そもそも、響がスク水なのからして常軌を逸した不思議過ぎる現象ではないか!


それに、昆虫以前に、この周りに生える草の大きさは何なんだ!?

まさか、周りがデカイんじゃなくて、オレと響が縮んだのか?


結論は、異世界ということで全て割り切るしかない!ということだな…。


それにしても、大変なことになってしまった。

生きて帰還できる可能性が激しく薄いというようなことを朧が言っていたが、確かに…今日死んでも全くおかしくない環境である…。

そこら辺にこんなヤツがゴロゴロ居るとすれば、この先の道はまさに修羅道と言っても過言ではない。


暫くして巨大なマイマイカブリは、6本の脚を俊敏に動かしながら、その場から離れて行った。


「とんでもない所ね…」


流石の響も肝を冷やしたのか、全身汗だくである。

スク水の色も水分を吸って色が濃くなっていた。無理もない。もともとが蒸し暑い気温な上に、あのような怪物に出くわしてしまったのだ。


異世界とは言っても、朧が言うように、もうひとつのリアルワールド…これまでと同様に、互いの肉体は存在しているのである。服装こそ変化したが、それ以外には今のところ変わった箇所は見当たらない。


こんな危険極まりない状況にも関わらず、イチ男子としての本能が、むくむくと頭を擡げてきてしまっても、已む無しな展開である。何しろ相手がオカズ偏差値/72の響である!

そんな響の汗で濡れた姿を目の当たりにしたものだから、不謹慎なことに、ギョニソーも頭を擡げ元気になってきてしまっていた。


普段、二次元の住人である余市にとっては、三次元に対して、危険であるという感情の他に、ある種の幻想のようなものも抱いていた。


そのひとつが、匂いである。


どんなに美味しい料理でも、鼻を摘ままれ香りを楽しめなければ、味は半減してしまうであろう。

三次元女子も同じである!匂いを楽しめなければ興奮度も半減してしまうものなのだ!

あの土手で、ゴルバチョフの糞と同時に山崎凛の匂いを知ってしまった時、己が匂いフェチに目覚めてしまったということを確信したのである!



こんな危険な修羅道ではどうせ長くは生きれないであろう…ならば、生きている内に少しでも自分を喜ばせてあげるのは間違った考えではない筈だ!


そんな都合のいい自己弁護を唱えながら、研ぎ澄まされた余市の視覚と嗅覚は、自然と響を味わい始めていた。

屈んでいる響の背後から、鼻先をゆっくりと近付けていく。

すると、女子としての独特かつ濃厚な匂いが、これまでで一番感じられた。当然である。スク水以外に余市の嗅覚を妨げるものがないのだから!

寧ろ逆に、スク水が響のエキスを逃がさず留めているがために、更に匂いのCIAQ値を高めているのである!


無言で返事をしなかった余市を不審に思ったのか、響が振り返った。

目を閉じ鼻翼を広げ、まぬけ面で鼻先を響の皮膚、その距離、数センチまで近付けていた余市は、はっとして体裁を繕おうとしたが、遅かった。


「…本当に気持ちが悪いわね。そんなに私の匂いが嗅ぎたいのかしら?」


マリカなどであれば、黄色い声を上げて余市から数メートル距離をとり、石などを投げ付けてくるであろう展開である。だが、響は違っていた。落ち着いていたし…落ち着き過ぎていた。

余市としても、ここまで間近で現場を押さえられては弁解の余地はなかった。


「こ、こんな時にゴメン!本当に…最低だな、オレって…」


素直に謝る以外にない。


「変態なのは知っていたけど…また蹴り飛ばして差し上げようかしら」

「そそそ!それだけはご勘弁をーーー!!!」

「…では、今から私の下僕になりなさい!」

「えっ!?」

「え?じゃないでしょう?」

「あ!ハイ!」

「その代わり、納得のいく働きをしたなら…それ相応の褒美をあげなくもなくてよ」


ななな…何、そのご褒美って!?

うっかり訊きそうになるも、堪えて、


「はい!今からこの不肖宮城余市!響様の下僕をやらせていただきます!」

「よろしい」


こうして、異世界に於ける、最初のヒエラルキーとも呼べる主従関係が生まれたのだった。



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