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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第一章 現世から異世界へ(仮)
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EP043 招かれざる客

そこまで話すと、朧は神輿からすぅーっと地上へと降りてきた。

その動作は、とても人間のものではなかった!降臨と言った方が適切なのかもしれない。

だからといって、姿形は人間の少女以外の何者でもない…。


まさか!これはホログラムでは!?


前回、朧と会っていた時には全く疑問に感じなかったが、朧の生み出す幻影と同じように、まさか朧自身も幻影なのではないだろうか!?そんな疑問が、ここに来て初めて湧き起こった。


そんな余市の思考を読んだのか、朧は口元に少し笑みを浮かべているが、勿論、例によってその疑問には答えてはくれない様子だ。


竹鶴は、朧の話した内容もそうだが、朧の存在自体がまるで信じられないといった表情で見つめている。

オカルト方面に強い関心を持っているであろう彼だが、これまでの人生で、ここまで圧倒的なオカルト現象には直面したことがなかったのであろう。


角瓶も、最初こそ朧を見て子供だ何だと半分馬鹿にしていたようだったが、念波による思念通話を経験した今となっては、これまで自分が見てきて学んだ常識の全てを一瞬にして木っ端微塵に砕かれたかのような

絶望にも似た表情で立ち尽くしていた。


マリカはにやけていた…が、その表情は『ちょっと待って!コレって何かの冗談でしょ!?嘘!ヤバーイ!』的な、どのようなリアクションをとれば良いのか窮している風である。角瓶のようには現実を受け入れきれてないせいか、表面上はまだ多少の余裕は感じられる。


響は目を閉じているが、朧の次の言動に意識を集中して構えているといった風に見える。

もしくは、朧と何か思念通話をしている最中なのであろうか…?



「黒や」


朧がそう言うと、ブナの巨樹の遥か上空から、黒が舞い降りて来た!

朧は余市に思念を飛ばしてきた。

黒は、世話になった余市の見送りに来たいと駄々を捏ねて、無理について来たらしい。青は、山を離れられないため、別れの接吻をしに来ることは叶わなかったようだ…。


青の接吻を思い出し、またも無意識に首元を押さえてしまう余市だった。


黒は余市の肩に片足でとまった。

そして、まだ思念を念波で飛ばすことはできないとみえて、


「クウ…ククク…クゥ…」


と喉を鳴らして話しかけてきた。

余市、元気でな!そして必ず戻って来いよ!と言っている。

それに対して、


「ああ、分かった!きっと戻って来るよ!身体はもう大丈夫なのか?」


と返す。

その後、少し話した後、黒は、


「カァーッ!カァーカァーッ!」


と皆の上空を何度か旋回して朧の足下に片足で着地した。


その一連のやりとりを、4人は茫然と見つめていたが、


「ちょっと!博士!カラスと会話できるの!?ってか友達なの!?凄過ぎィ!!!」

「余市!お前、いったい何者なんだよ!!!?」

「博士!!!凄過ぎる!まさか!キノコとも会話できるのか!?」

「…」


朧の放つ圧倒的な非現実感から逃避するかのように、喰いついてきたのだった。

朧に比べれば、カラスと会話する余市の方が同じ驚きでも幾分か可愛げがあり受け入れ易かったようだ。


余市は、ついさっき響にぶっとばされたことを思い出し、青い珠から授かった能力の一部について正直に皆に打ち明けることにした。

視覚や嗅覚、味覚、聴覚などについては、カミングアウトしなかったのは言うまでもない…。


ひと通り、皆は感心したように聞き入っていた。

響は何故かずうっと黒を見つめていたが、


「私も…いつか鳥と話してみたいものね」


と、ポツリと呟いた。これにも皆、驚いた。


朧はいつの間にか、手にヒラヒラとした薄い布のようなモノを数枚持っていた。

そして、1枚ずつ受け取るが良い、と念を皆に飛ばすと、布を空へと投げ放った!

その瞬間、朧の髪がいつかと同じように、ふわっと光を纏い靡いたのだった!!!


上空に舞った布は、布というには余りにも薄く、ハンカチというには大きかった。それらが弁当箱などを包むための風呂敷であることは直ぐに分かった。

朧月夜の光を浴びながら、上空を舞う風呂敷に皆は目を奪われたが、朧が鉄扇を口元に当てて何かを呟いていたのを余市は見逃さなかった。

その刹那、風呂敷に、何かの模様がくっきりと浮かび上がったのだ!

そして、5人の頭上にそれぞれ1枚ずつの風呂敷が、ふわふわと舞い落ちてきた。


皆、風呂敷をキャッチしたようだ。

風呂敷を広げて見ると、そこには見慣れない模様が沢山描かれていた。


朧は言った。


「此の場所はのう…此の辺りでは童が最も能力(ちから)を発揮できる場所でのう。朧月の小夜とならば尚更じゃ」


それに反応したのは竹鶴だった。


「や!やっぱりそうだったんだ!ここにはボルテックスのパワーが漲っているんだ!!!」

「そうやもしれんな…童にはよー分からんがのう…ふふふっふ」


と朧も返した。そして、


「其の風呂敷に描かれしは、童が労して掻き集めた品の数々じゃ。童がお主らに授ける力そのものよ!

異世界に着いたなら広げてみるが良い。封印が解かれ、本来の能力を取り戻すじゃろう。まあ…アレじゃ、(はなむけ)のようなもんじゃ。くうっくっく」


こんな絵が、いったい何の役に立つと言うのであろうか?

余市だけでなく、他の皆もそう思っている筈である。


「…今は信じずとも良い。じゃが、直ぐに童に感謝することになるじゃろうて」


皆の心を読んだ朧はそう言ったが、後で思い返せば、それは紛れもない事実であったのだ。

この風呂敷のお陰で、異世界での初日に死なずに済んだと言っても過言ではなかったのだから。


「その…異世界?っていうトコからは…その、どうやって戻ることができるんだ!…あっ!ですか?」


角瓶である。

うっかりタメ口をきいてしまい慌てて訂正したが、傍から見れば、どう考えても朧の方が年下である。ただ、これまでの言動や口ぶりからは、少なくとも数百年は生きているであろうことを皆は感じ取っていた。


それにしても角瓶は相変わらず、至極、真っ当な質問をする男である。

確かに最重要事項である!寧ろ今まで余市が朧に確認していなかったことの方がおかしいレベルの質問である。


その質問に、朧は静かに答えた。


「余市よ、(せん)にも言うた通り、お主自らの手で祭壇に宝珠を供えるのじゃ」


あれ?確か以前に聞いた話では、宝珠を供えると祭壇を守護する無敵の何者かが現れるって話じゃなかったっけ?この世界に帰還するための条件でもあったというのかよ!?


「さすれば、聖域からの使者によって、此の現世(うつしよ)に戻して貰えること、叶う筈じゃ」


筈…だと?


「童も断言はせぬ…あくまでも勘じゃ。ふっふっふ…」


勘…だと?


「仕方あるまい。未来は断言できぬでな…只、其れでも戻れぬ時は…童の同志が何とかする筈じゃ」


一瞬ではあったが、朧は今日初めて真面目な表情で余市を見据えたのだった。

まるで理解も納得もできないが、これ以上、踏み込めそうにない…。

ただ、朧の同志が異世界に居るという情報は心強い。



「ときに、もうひとり、マサヒコとかいう者が、此処を目指して登って来ておるようじゃな…」

「ななななっ!!!マサヒコだとおぉぉーーーー!!!」


全員がほぼ同時に叫んだ!勿論、響は除いてだが。

まさか、立ち直ったかに見えたマサヒコのヤツ…また自殺するつもりなのでは!?


「お主らの仲間…というワケではなさそうじゃのぅ…穴などからではなく、素直に山道を登ってきておるようじゃな」


「あいつ!この山頂に登るルートを知ってやがったのかよ!!!」

「教えてくれたって良さそうなもんじゃねーか!?なあ!?」


竹鶴や角瓶が声を荒げるのも無理はない。地元民として当然の如く、この山頂への山道を知っていながら、教えてくれなかったのだ!オレたちが山頂を目指すと知っていながら…。


「カーーー!カーッ!カーッ!」


気付けば、黒が遠くから飛んでくる。

いつからか、朧の足下から見えなくなっていたのは気付いていたのだが…。


「ほお…黒が言うには、何やら手に紙幣を握り締めておるようじゃの」


黒の思考を読んだのか、朧が言った。


「まさか!あいつ!博士に金を返しに来たんじゃねーのか!?」


黒は余市の肩にとまったが、何でもマサヒコはあと数分でここに到着するようだ。

おいおい!こんな大事なシチュエーションで、金を返しに参上するっていうのか!?

正直言って、マサヒコの心意気は嬉しいが、申し訳ないが今はそれ以上に面倒な気分である!


それに、よくよく考えてみると、あれからマサヒコは下山して、金を工面した後、さらに麓から山頂を目指して来ているということになる!とんでもない体力とスピードだ!

どんだけ効率的な山道ルートが存在していたんだよ!オレたちは滅茶苦茶に苦労したっていうのに!

麓と家の往復は、あの阿鼻叫喚の絶滅危惧車だとしても、速過ぎるだろ!

マサヒコは、車で峠を攻めると同時に、普段から山をトレッキングでも攻めていたというのか!?

予め車内に金があったという可能性もなくはないが…。


しかし、そんな疑問はもはやどうでもいい!

現実問題として、既にマサヒコはすぐ近くにまで迫っているのだ!


「どうするんだ!?余市!もう時間がねーぞ!」


角瓶の言う通りである。悩んでいる猶予はない。

だが、こんな時に限って余市の頭には新たな疑問が浮かんできてしまっていた…。



カラスである黒が、こんな真っ暗闇で空を飛び、マサヒコが手に紙幣を握り締めているなどということを鳥目の分際で確認などできるものなのだろうか?

そして、黒がこちらに戻って来る前に、朧は、マサヒコがこちらに向かっていることを知っていた…しかも、マサヒコという名前までも!何故だ!?何故知ることができた!?


「余市よ。そちもなかなか鋭くなってきておるようじゃな。くっくっく…お主との信頼を損なわんためにも、たまには教えてやるかのぅ」


朧は本当に油断も隙もない。

リアルタイムで心を読まれてしまう。


「黒の目を通して童が見ておったのじゃ。はい、おしまい」


そ!そんなことができるのか!!!

ってことは、黒の目を通して、マサヒコの心を読んで、名前も知ったということなのか!?


「むろんじゃ。彼奴も童が名を授けた眷属じゃからな。お主はまだ童のことも能力もまるで分かっとらん。今宵。童が此処までどのように来たのかすら分かるまい。ほぉっほっほ…」


流石…と言うべきか。

朧は最初から余市の範疇を超えている。だが、そんなことは分かっていた。しかし、まるで朧の底が見えない!本気で恐ろしい!


「おーい!余市ーーーっ!!!出て来いコラァーーーッ!!!」


しまった!!!

朧とやり取りしている間に、マサヒコが到着してしまったジャマイカ!!!

余市には見える。諭吉と野口を数枚その手に握り締め、腕を大きく振りながら意気揚々とこちらに向かって来るマサヒコの姿がはっきりと!

他の4人、否!響を除く3人には、まだ声しか聞こえていない筈である。


「…仕方あるまい」


確かに今、朧はそう言った。

それと同時に、再び朧の髪が光を帯びて舞う!

例によって鉄扇の陰で呟く…そして!はぁっ!!!と何かをマサヒコに向けて飛ばしたように見えた。


丁度、森から抜けた辺り、ここからは数十メートルほど先で、マサヒコはパタリと倒れた。


「えっ!?」


誰もが、朧が今、何かをしたということには気付いていた。だが、何をしたのかは、誰にも分からない…。


こ…こここ…殺したのか!?マサヒコを殺したのか!!!?

何か氣のようなモノを発射しで…朧が!朧が!!!


「焦るでないわ!ちと夢を見させておるに過ぎん!…童は不要な人間に姿は晒さぬでな」


余市はほっと胸を撫で下ろした。

他の4人も同じ気分であっただろうが、同時に、そんなことができるのかよ!!!といったざわめきも起こる。余市は然程驚かなかった。何しろ朧だからだ。それ以上でも以下でもない。

だが、朧の表情は少し曇っているように感じる…いったいどうしたというのであろう?


「ううむ…全く困った奴じゃ…少々、予定変更じゃ!」


何事が起きたのか、そんな皆の疑問に、念波で答える朧。

その内容は、確かに大きな問題であった!



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