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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第一章 現世から異世界へ(仮)
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EP041 月下のボルテックス

マサヒコの居た施設を発つ時に確認したところ、時刻は6時半を過ぎたところだった。

朧との約束の時刻は亥の刻、すなわち10時までは3時間半を切っていた。


しかし、既に全員はかなり消耗しきっていた。まさに、Dead tired!ってレベルである!

マサヒコの一件でもかなり損耗したが、何よりも夕食をまだ摂っていないということが大きい。


マリカは先ほどまでとは違い、既に小言すら言う元気がないのか、静かになっていた。

それによって、角瓶も相手をすることがなくなり、響はいつも通りだし、竹鶴はボルテックス探索のため、機器に集中しているしで、結果として全員がほとんど無言である。



「何か…腹減らねぇ?」


久しぶりに口を開いた角瓶に、皆が同調する。

勾配が緩くなっている場所で、夕食を兼ねた休憩を一旦入れることにした。


余市が持参していたビニールシートを荒れたアスファルトの上に敷くと、そこに女性陣が座った。男性陣は、直にアスファルトである。これに関しては特に不満もない。

懐中電灯の残電池が不安なので、ひとつだけを使用し、あとはそこそこの光を放っている余市の持つ宝珠で代用した。

そして、シートの余ったスペースに、各々が持参した食糧を広げた。

角瓶は何も持ってきていないに等しかったが、竹鶴の立派なザックに最初から入れて貰っていたのかもしれない。


竹鶴が持参した食糧が一番多かった。

高級そうな紅ズワイ蟹やタラバ蟹の缶詰、松阪牛の缶詰など、余市が口にしたこともないような缶詰である。てか、また松阪牛かよ!

コンビニで余市の調達した、秋刀魚の蒲焼や鯖の缶詰たちがみすぼらしく感じてくる。

竹鶴は他にも、魚肉ソーセージを数本と、ビーフジャーキー、真空パック化されたチョリソー、焼き鳥の缶詰など、庶民的なモノも揃えていた。

そして最後に取り出したのは、水色の瓶だった。

その美しい色から、それがボンベイ・サファイアというジンであることを余市は豆知識として知っていた。


響は、カロリーメイトや栄養補助的なゼリーなどを持ってきていた。

マリカは…飴やチョコポッキーなど…である。お前なぁーーー!と思わずツッコミたくなるが、甘い物は疲れた時に重宝するし、何気に馬鹿にしたものでもないかもしれない…と思い直した。


皆で話し合った結果、ジャンケンをして勝った者から好きなモノをチョイスするということで決定した。

ドリンク類は基本、各々が持参したモノをそのまま飲むという方式で、ジャンケンによる獲得物には含めなかった。口を付けてしまっている飲みかけのモノが多かったからである。

ボンベイ・サファイアだけは無条件で響に献上されたが、もともと響が竹鶴に持ってくるように指示していたに違いない。


真っ暗な秩父の山中でのジャンケン大会がささやかに開催された。

これまで生きてきた中でも、相当上位に君臨するであろう真剣なジャンケンであった。


が、日頃のおこないによるものなのか、残念ながら余市は運に見放され、不満の残る結果とはなってしまった。

まあ、理不尽な最悪のケースも覚悟していただけに、ジャンケンという公平な勝負の結果として素直に諦めるしかない。

何度目かの勝負で、余市が響の持参してきたゼリーをチョイスした時、響に恨めしそうに睨まれた時はかなりビビッたが…。


余市が惜しくも逃した高級タラバ蟹の缶詰を、マリカは相変わらず『マイウゥー!』などと言いながら、余市に見せつけるようにして喰っている…。

ぐぬぅ…貴様!タラバ蟹は何を隠そう蟹などではなくヤドカリの仲間なのだぞ!その証拠に足が8本しかないではないか!貴様は今、蟹ではなくヤドカリを喰っているのだ!ぐははははっ!!!


余市がゲットした食料は、鯖缶とギョニソー2本、焼き鳥の缶詰、栄養補助ゼリー、後は皆で分けた飴数個で全てである。

因みにゲットした2本のギョニソーは、スーパーなどで市販されている一般的なモノだったが、余市に生えているギョニソーよりも3倍以上長い…あくまでも平常時かつ適温環境下で測定した場合である。

ついでなので触れておくと、霊長類に於ける余市のギョニソーのサイズは、ゴリラやオランウータンよりは辛うじて大きいが、人間やボノボよりはやや小さい…チンパンジーと同じくらいである…。



休憩の間は皆の会話量も復活し、雑談をする余裕が生まれていた。

異世界に旅立つにあたって、具体的に山頂のどの場所でその女性と待ち合わせをしているのかを竹鶴に尋ねられたので、ブナの巨樹のことについて話したり、余市の方からは、ボルテックスは見つかりそうかどうかを逆に訊いたりもした。

竹鶴が言うには、上に登るほどに可能性が高まってきているということだった。

地図を広げ、昼間から頻繁に記入していた数値でもって熱く説明を受けたが、余市にはよく理解できなかった。

ただ竹鶴は、ボルテックスよりも。今回は異世界の方が、何百倍もプライオリティが高いので、頂上付近まで登ったら、ブナの巨樹の探索を最優先するということも力説していた。


響はジンをロックで呷りながら、無言で皆の会話を聞いている風だった。

マリカは、マサヒコの一件から大分時間が経って落ち着いたのか、その時の竹鶴の勇姿を褒め千切っていた。


「鶴くんが本気出せば、角瓶なんて一発だよ!きゃはははは!!!」


あの時は怯えている風で泣き出しそうだったクセに、今では更に惚れ直したといったレベルである。

これで竹鶴もマリカのことを褒め千切れば、馬鹿ップルが目出度く成立するのだが…。


「あん時は、我らが博士をカツアゲした張本人を目の前にしてキレただけさ!まあ、角瓶には過去1勝0敗だけどナァーーー!つ・ま・り!勝率100パーセント!だははは!!!」


Kiss my ass!といった表情で笑いながら角瓶を覗き込む竹鶴。

その挑発に、角瓶もまんまと釣られてしまう。


「言ってろ!眼鏡!あん時はオレの勝ちだったじゃねーか!」

「んー?試合に勝って勝負に負けたってかぁーーー!?あーーーん?情けねー!」


竹鶴は本当に挑発の天才だなーと余市は思う。

だが、余市が一番気になっているのは、自殺しようとしていたマサヒコに対する、竹鶴のあの時の過剰ともとれる豹変ぶりである。

竹鶴は、カツアゲされた余市の仇打ち風味なことを言ってはいるが、あの時の拳に込められた重心には、そんな想いは微塵も載っていなかったであろうと余市は思っていた。

身内で自殺した人がいるとか、長い闘病生活の末、志半ばであえなく亡くなってしまった知り合いがいるとか…だろうか?

だが、今ここでそのことについて訊くのは、何だかとても危険でルール違反のような気がしていた。

誰しも触れられたくない過去はあるものだ…。


「でも余市の視力はマジでパネェーよなあ!」


竹鶴をこれ以上、相手にするのは無駄と判断したのか、角瓶は余市の方に面舵を切ってきた。


「てか!マジ、コワイんですけど!!!変態で目がイイとかどんだけえぇーーー!?」


マリカも同調してきた。

余市にとっては、この宝珠から授かった能力については、最も触れられたくない話題である。

返答に窮していると、そんな困った余市の表情を見ていた竹鶴が、


「マリカ!お前!まさか知らねーのかよーーー!!!信じらんねぇー!!!」

「えっ!?なになにぃーーー!鶴くん何か知ってるのぉーーー!?」

「しょーがねーなーー!…ブルーベリーにはな、アントシアニンって目にイイ成分があってな…」

「ブゥーーーッ!!!そんなの知ってるよー!!!ってかマリカのこと馬鹿にし過ぎぃーー!」

「…実はキノコにもな、スケスケモロティンっていうとんでもない反則級の成分がだなーーー…」

「エェーーーーッ!!!マジマジィー超スゴーーーイ!!!」


アホ過ぎるぞ!マリカ!…それとも恋は盲目ってやつなのか…?ってオレもアホか!

何はともあれ竹鶴のお陰でこの場はうやむやにできそうだ!ラッキー!つうか、意図して助けてくれたのかな…?だとしたら何だか油断のならんヤツだな…。

ふと横を見ると、響がまたも鋭い視線を余市に向けていた…ゲゲェ!!!一番油断ならんヤツを忘れておったわ!!!



そんな感じで休憩も終わり、余市とその仲間たちは再び山頂を目指して出発したのであった。


食事の時間を含めて、何だかんだで40分ほど休憩をとった。

約束の時刻まで、大凡2時間ちょいとなったが、それほど焦りはなかった。


このペースを維持すれば、間違いなく山頂には到着できそうだからである。

ブナの巨樹がなかなか見つからないとか、道が途絶えるなどといった変数はあるにはあるが、登り勾配が続いている限り、山頂に辿り着くのは時間の問題だと感じられた。2時間もあれば流石に着くだろう。



マリカによって皆に配給されたノド飴をコロコロと舐めながら、ふと恐ろしい考えが浮かびあがる。


この世に生を受けてから、家族以外の異性から無償で品を得たことが、親戚のオバサンのお年玉以外で、かつてあったであろうか!?

ネトゲーなどでアイテムを分けて貰ったことならあるが、リアルに於いて…もしや!この飴が初なのではっ!?


しかし直ぐに安堵した…。

確か…記憶が正しければ、小学4年時のバレンタインデーにチョコを貰っていた筈だからである。ほろ苦い思い出である…。

その日たまたま風邪で休んだ学友の家に、担任の先生から家が近いという理由で、帰りにプリントを届けるよう託ったのだが、プリントを届けた折に、その学友の母君より、わざわざ届けてくれて有難うという謝辞と共に、板チョコを1枚、献上されたのだ!

帰り道で早速、齧ってみた時、苦くてびっくりした記憶が、味覚と共に時を越えて今、まざまざと蘇ってきたのだ!

今思えば、アレは成人向けのマカが多分に含まれた特殊なチョコだったのかもしれない…。


ふふふ…マリカよ、残念であったな!

この余市、既に異性より貢物を献上されておったわ!!!うぬ如きが初めてではないわっ!!!


だが、流石に今回ばかりは精神勝利も些か厳しいものがあると、心の奥底では気付いていた余市だった…。



どのくらい歩いただろうか?


夕食を済ませてから少なくとも1時間近くは経っているであろう。

疲れきっている筈の身体がここまで動くのは、体力以外の何かが作用しているとしか考えられない。

意識してはいないが、所謂、ランナーズ・ハイのように、脳内でエンドルフィンが多めに分泌されているのかもしれない…。


既にアスファルト道は大分前に途切れ、新たに発見した舗装されていない山道を進んでいた。

皆の会話も再び無くなり、ストイックな登山となっていた…。

余市はできるだけ疲れを意識しないように、ジンをちびちびと呷りながら前方を歩く響の尻のあたりに視線を注ぎながら、味付け海苔のことを思い返していたのだ…が、その時、


「キタッ!…キタキタキタキタァァーーー!来ましたよおおぉぉーーー!!!」


静寂を破り、いきなり叫んだ竹鶴に、皆、びっくりして腰を抜かしそうになった!

竹鶴は、道の左側の斜面の方に右手に握ったプローブを翳しながら、左手のガウスメーター本体を凝視していた。


どこかボタンを押すと光る仕様になっているのか、本体の液晶パネルは青白い光を放ち、竹鶴の近付けた顔を照らし映していた。

その照らされた竹鶴の顔たるや!マッドサイエンティストが長年の実験でも成功させた瞬間かのように目を大きく見開き、病的に不気味なあ恐ろしい笑顔だったのだ!!!

あの時の隻眼の老婆の笑顔すらも霞んでしまうほどである!


まさか!?先頭を歩いていただけに、瘴気にも似たボルテックスの何かしらの未知なる影響を誰よりも早く受けてしまったのではあるまいか!?

オオカミ男が満月のルナティック光線を浴びて変身するように、竹鶴も何かそれに類する何か…例えばイタチ男などとして全身に毛が生え始めるのではなかろうか!?

そんな期待に近い予感が猛烈に余市を誘うが…竹鶴は期待に反して戻って来てしまった。


はぁはぁはぁ…肩で息をしながらも、表情はいつものそれへと戻っていたのだ。

何にせよ、ボルテックスの存在を強烈に匂わせる反応か何かをキャッチしたのは間違いなさそうである!


だが、プローブを向けたその方向には道がない。

余市のデビルアイをもってしても、どう見ても道はないのだ!

女性陣はおろか、男性陣でさえも、この木々に埋め尽くされた急斜面を進むことは叶わないであろう。


竹鶴は悔しそうな表情を見せつつも、プローブを左斜面に向けたまま渋々と山道を進み始めた。

おそらく、ボルテックスの反応からは遠ざかってしまうであろう。だが、1本道である以上はどうしようもない。


そして更に不安なこととして、何だか先ほどから徐々に山道の勾配が、登りから平坦へと変化し始めているようなのである。つまり、この山道は山頂へとは向かわずに、単にこの山を跨ぐための道であって、先ほどの強いボルテックス反応を示した地点が、この道が到達し得る最も高い標高地点だったのではないだろうか、という疑念である。


そのことに、皆も薄々気付き始めたであろう頃、余市は奇妙な場所を発見する。

山道から数メートル上の左斜面に、穴が開いているのだ。かなり大きい。

クマの冬眠などのレベルではなく、洞窟クラスの穴である。皆は前方と足下ばかりに懐中電灯を当てているので、気付かないで通過していく。


ここで余市が穴に言及すれば、デビルアイ能力について疑われてしまうのは必至である…だが、このまま行けば山頂は遠のいてしまうだろう。ここに来て勾配が徐々に下り始めたことで、流石の余市も焦り始めていた…。

朧との約束の時間に間に合わなくなるばかりか、辿り着けるかどうかすら怪しい。

穴があるからと言って山頂の方面に繋がっている保証はないし、行き止まりの可能性だってある、否、寧ろその可能性の方が遥かに高いであろう…。だが、可能性をどうこう吟味している状況ではない!

辿り着けなければオレは朧に消されるのだ!


「あそこに…あそこに穴があるみたいだけど…」


後のことは考えず、通り過ぎたばかりの後方斜面を指差して、余市は言った。

全員が一斉に振り返り、余市の指差す方向を見る。だが、彼らにとってはそこは真っ暗闇以外の何ものでもない筈。その方向を見つめたところで、はぁ?っとなるのがオチである。が!!!


「大きな穴ね…」


響である。

一瞬、あっというような表情を見せた響は、直ぐに前方へと向き直ってしまった。

だが!余市にしか聞こえないほどの小声ではあったが、響は確かにそう言ったのだ!!!

み…見えるのか!?あの穴が!!!キミにはあの木々に覆われた真っ暗な穴が見えるというのか!?


余市の鼓動が急激に速くなっていく!


鳥目の対義語を余市は知らない。猫目とかが近いのかもしれない。

暗闇でも周囲が見える、そんな能力は程度の差こそあるだろうが、今、あの穴を見ることができる人間なんて、世界広しと言えども、余市と響くらいのものではないだろうか!?


余市の鼓動がアレグロ調に加速しているのは、それだけが原因ではない。寧ろもうひとつの理由がとてつもなく大きい!

あの時…偶然じゃなかったってコトか…。Pee・Peepingがバレて…いた!!!ぐはぁっ!!!

視界の全てがぐにゃりと曲がり、余市はその場にへたり込んでしまった。正座を崩した、俗に言う(トンビ)座りという格好である。女性がよくとる体勢としても知られている。男が胡坐なら女は鳶座りである。


「おい!余市!しっかりしろ!いったいどうした!?」


角瓶が、マリカから奪った懐中電灯で、真っ白になって地べたにヘタリ込んでいる余市を、頭上からまともに照らして叫んだ。


オ…オレに…の…覗かれていると知りながら…海苔は…味付け海苔は…サービスだったとでも言うの…か?

キ…キミは…キミはいったい何を…何を考えて…るん…だ…恐ろしい…子…。


余市の最後の意識が消えかけ、鳶座りから完全に崩れて、右斜面へと転がり落ちるのを救ったのは…響だった。

抱き支えてくれたワケではない…頭頂部の髪を片手で掴んで支えたのだった。

戦国武将が敵の大将の首をとって、勝ち鬨を上げる時のような持ち方であるが、余市の首はまだ胴と繋がっている…。この展開は二次元に於いてもなくはない展開…頭皮が痛いながらも妙に納得する余市だった。


「あ…ありがとう」


髪を引っ張られながらも、よろめきながら立ち上がる。響も髪を掴んでいた手を放した。


「ところで博士!その穴ってどこだ!?」


竹鶴は余市の体調などよりも、穴の方に夢中な様子である。

余市は角瓶から懐中電灯を受け取ると、穴の場所を照らした。山道から7~8メートルほど上がった場所で大きな口を広げるように、その穴は佇んでいた。


「ぬおおおおおぉぉ!!!スゲーよ!流石は博士!!!」

「てか、何で見つけられるワケーーーー!!!!マジでコワイんですケド!!!」

「余市、貧血か?もう大丈夫なのか?」

「…」


それぞれの反応である…そして安定の反応である。

流石の余市もこのパターンに大分馴れてきていた。


「このままじゃ下る一方だし、とにかく登ってみようぜ!」

「だな!折角、博士が発見してくれたんだしな!!!」


角瓶に呼応するかのように竹鶴…現金なヤツだ、と余市は思った。

だが、この勢いに乗らないワケにはいかない!変な間が空けば、デビルアイ能力への疑念が、マリカあたりから再燃されかねない状況である!この(ウェーブ)、決して無駄にはしない!


「ひょ!ひょっとしたらボルテックスに繋がっていたりして!!!」


パドリングを省略して一気に波に乗るサーファー余市!


「あのくらいなら登れるよな!?マリカ!」


流石!竹鶴!!!

振り向きざまに優しい笑顔よろしく!マリカに釘を刺す!!!


「うん…まぁ…あのくらいなら…何とか…」


竹鶴の笑顔と期待に背きたくない一心で、何とか受け入れてしまうその乙女心に乾杯(チアーズ)!!!


弱々しい返事とは裏腹に、マリカは余市から懐中電灯を奪い取ると、なんと!先頭に立って登って行く!

流石はアスリート!余市石を華麗なジャンプ一番でクリアしただけのことはある!!!…意外とオレも現金だな、と余市はほくそ笑んだ。


急な斜面ではあるが、木々に掴まりながら何とか洞窟の入口に辿り着いた5人。


余市は洞窟の内部をデビルアイで確認する。

幅、高さ共に2.5メートルほどの洞窟は、洞壁が石灰岩でできているようである。デビルアイによって、結晶化されているのが分かる…マリカだけでなく自分でも恐ろしいほどの能力である!

つまり、この洞窟は鍾乳洞ということになる。

奥の方で曲がっており先は見えないが、かつて縄文人でも住んでいたのではないかと思わせる規模であった。


幸い、内部には水たまりなどはできていない。

再び竹鶴が先頭となって、奥へと進んで行く。

カンテラなどを持っていれば多少は違うのだろうが、向けた方向しか照らさない懐中電灯2本で鍾乳洞を進むのは、かなり厳しいものがある。

時々、真上からの水滴が頭に命中してしまうこともあるが、気にするほどでもない。


天井にはコウモリがたまに見られた…勿論、女性陣をはじめ、そのことは誰にも言っていないが、響はおそらく気付いているであろう…。まあ、懐中電灯をまともに向けたりしなければ、やつらが無暗に飛ぶことはなさそうだ。


外部とは違って、小さな物音でもかなり大きく感じてしまう。デビルイヤーの余市では尚更である。

奥に行くにつれて、徐々に鍾乳洞らしさが見え始めてきた。

天井からは、つらら状に垂れた鍾乳石が、床面からも微妙に石筍(せきじゅん)が、文字通りタケノコのように隆起し始めていた。

こんな場所で転びでもしたら大怪我を負うことになるであろう…。

温度も下がり、徐々に寒くなってきている。


時々、前方が二又に分かれているが、迷わず広い方を選択して進む。

竹鶴も、鍾乳洞に入ってからは、ガウスメーターを使用しなくなっていた。とにかく出口を見つけて、外に出ることが先決であると判断したのだろう。


鍾乳洞に入ってから30分ほどが経ったであろうか、ここにきて急激な登り勾配を形成し始めている。穴の幅も高さも数倍に広くなっていた。

水分も多くなり、どこかで水の流れる音が聞こえてくる。足下にも水たまりが多く出現してはいたが、登り勾配に小規模な段々畑のように美しいリムストーンが形成され、それぞれの水たまりはせいぜい深さ数センチ程度である。ピチャピチャと音は響くが比較的歩き易い。


水流音は次第に大きくなり、ついに真横に小さなせせらぎが出現した。地下水の小川である。ゆくゆくはこの水も荒川などのの太い流れへと合流していくのだろう…。


暫くの間、地下水流と鍾乳洞はルートを共有していたが、徐々にまた静けさを取り戻し、穴の幅も狭まってきた。登ると同時に天井も低くなってきている…。

このままでは、行き止まり(デッド・エンド)になってしまうのでは…誰しもがそんな最悪の結末を恐れていた…。


そしてまた二又の道が現れた…今度はどちらも狭い。

ここまでか…そんなどんよりとした空気の中で、


「なんか、こっちの穴から風吹いてない?」


マリカであった。

そのひと言がどんなに嬉しかったことか!!!

マリカ…キミはマリアなのか!!!?

思わずそんな台詞が飛び出そうになるところであった!


竹鶴を先頭に一列となって、マリカの言う風の吹き出している方の穴に入って行く。

それから10分もしないうちに、ついに!ついに!地上へと抜け出したのだった!!!

全員が自然と空を見上げた。


そこには、大きな月が出ていた。絵に描いたような朧月夜である。

感慨に耽る間もなく、竹鶴が叫んだ!!!


「ししし!!!信じられない!!!こんな!こんなの初めてだ!!!完璧なボルテックスだ!!!」


ガウスメーターを握る彼の腕は、大きく震えていた。



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