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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第一章 現世から異世界へ(仮)
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EP033 バードウォッチングでマイッチング?

キャンプ場から離れていくにつれて、川沿いの道もゆるやかな登り勾配となっていく。

道とは言っても、人工的な道ではない。

ゴロゴロとした石を避けながら、辛うじて歩けるスペースがあるといった感じだ。

川を左手にしながら、野鳥の囀りをBGMに新鮮な空気を味わいつつ進んで行く。


響が野鳥を見つけに行くバードウォッチャーなら、余市はさしずめ響ウォッチャーということになるだろう。…捻りも糞もない。


5分ほど歩いただろうか?

響の姿はまだ見えない。


ひんやりとした空気の中で、余市は尿意を催し始めていた。

よく考えてみたら、起床してからまだ放尿していなかったことに気付く。


流石に川に放尿するような非常識な人間ではないが、かと言って、ベストな放尿スポットが簡単に見つかるワケでもなさそうだった。

川沿いの岩場を足下に注意を払いながら歩いているが、反対側は身長よりも高い段丘崖となっており、しかも浸食のためにアール状に抉れているため登るのは不可能だし、段丘崖に向かって放尿しようものなら、上流と下流から丸見えで、どこかからバードウォッチング中の響に目撃されてしまう危険性もある。

焦りも強くなってくる!

大きな石を越える際には、足をどうしても大きく曲げなければならず、下っ腹を圧迫してしまい、うっかりチビリそうになってしまう。


やばい!マジでそろそろ漏れちゃうYO!


そんな内又歩きの余市に、天が土壇場で味方した!


前方に大きな岩が突き出ているではないか!

岩は右側の抉れた段丘崖に喰い込み、更にその岩と段丘崖の接点が窪んでいるのだ!

まさに望んでいた絶好のポイントであるということを、これまでの数多の放尿プレイによって培われし経験値が瞬時に判断を下していた。

ここなら上流に居るであろう響からは100パー目撃されることはない!放尿どころか野糞だってイケるかもしれない!いや、野糞が習慣化するのは好ましくない…。


躓きながらも足早にそのポイントに到着すると、勢いよくズボンの前を押し下げた!

昨夜はこの伸縮性の高い生地を恨みはしたが、今は非常に助かる。ブリーフも同時に親指に引っ掛けていたので、ギョニソーがポロンと弾むように顔を出した。まるで『呼んだかい?余市』そんな感じである。お前は寄生獣かっ!


ジョーーーーーーー!!!


湯気を燻らせながら美しい放物線を描く。気候条件さえ揃っていれば、小さな虹も出現したかもしれない。

因みに放尿時に脳内で叫ぶ台詞は無い。ただただ『ジョーーー』である。


体内の温度が急速に抜けたため、思わず武者震いをしてしまう。

『カ・イ・カ・ン!』そんな言葉を思い起こしながら天を仰ぐ。そしてこのポイントを用意してくれていた天に感謝し…。


エッ!?…コ…コレは…いったい…?ど…どういう状況なのん…!?



天に感謝しようと空を仰いだ視線、そこには双眼鏡を双眸に当てたままの格好で岩の上から余市を見下ろす人物がいたのだった!!!


うぎゃやややあああああぁぁーーー!!!こっ!こんな馬鹿なことがああぁぁうぁああーーーっ!!!


こんな至近距離から双眼鏡でギョニソーをウォッチングされるなんてマイッチング!!!

そもそも毛が生えて以降、(ナマ)ギョニソーが異性の目に触れたことすら初だというのに、()りにも選って双眼鏡で覗かれるなんて!こんな人間オレ以外に居るのか!?普通に居ねーっぺよっ!!!


おそらくは余市の顔を双眼鏡で覗き込んでいるのだろうが、ほぼ真上からという大胆なアングルを考察するに、ギョニソーも余裕でロックオンされているのは必定である!!!

見上げた余市の顔の顎あたりからニョッキリと小柄なモンキーバナナが覗いている構図に違いない!


オ…オレはツタンカーメンかっ!?


しかし侮るな!

モンキーバナナは通常のバナナよりも遥かに栄養価が高いのだ!別名セニョリータバナナだぞ!小柄だからって、べ…別に恥ずかしくなんてないんだからねっ!!!

…双眼鏡のレンズが尿の湯気で曇っていることを切に祈るが、可能性は激しく薄いだろう!!!


カセイ人であるということも見破られてしまったに違いない!

だが、偉大なるダビデ像とてカセイ人なのだ!そこは恥じる部分ではない筈だ!


それにしても、なんという悪魔的なタイミング!!!

これは妹に自慰を目撃された時よりも寧ろ、卒アルに写り込んでしまったあの時レベルの奇跡的(ミラクル)羞恥プレイ!!!

やはりオレは羞星の宿命からは逃れられぬ運命なのか!?


パニックを起こしている脳とは裏腹に、放尿をし続けたまま立ち尽くし、身動きができずに固まっている余市。

あの時、そう!あの時と同じである!拝殿の扉を開けようとした刹那、頭上から青に念波で話しかけられて固まったあの時と!!!


「そこで、なにをしてるの?」


冷静に問うてくるのは響。双眼鏡で覗き込んでいたのは言うまでも無くやはり響!


何ってそんなのキミィー見れば分かるでしょーにぃ!!!それ以上、言わせる気ィ~!?もう馬鹿ぁ~ん!


くっ…石化がなかなか解けない!


はっ!あの時と同じだ!

朧に深々と礼を終えた黒が、胡坐をかくオレの股間に当たり前のように片足で跳ねながら戻って来たあの時と!!!

勘違いしないでくれ!雛ではない!オレのギョニソーは断じて鳥の雛などではないのだ!!

だから至近距離からバードウォッチングするのはやめてくれぇーーー!!頼みゅう~!!!

キミが今していることは『Pissing Peeping』であって語呂は良いけど決して褒められた行為ではないのだからあぁぁーーー!!!み…みみみ見ちゃらめぇぇーーーーっ!!!


そこまで脳内で叫び終えたところで、やっと石化が解けた!

そして同時に放尿も終わった。


素早く響に背を向ける。正確にはほぼ真上からの空爆状態だから、後頭部を向けるという表現の方が適切ではある。

そして手短に短いギョニソーを絞る。ナニを隠そう余市は、放尿後に振る派(シェイカー)ではなく少数派として知られる絞る派(スクィーザー)だったのだ…。


だが!そんな派閥は今はどうでもいい!!!


ブリーフと同時にズボンを引き上げ、ギョニソーを迅速に収納する。そして、


「いやーあはは…参ったなぁ…あは…」


懐かしの名探偵の如く頭を掻きながら…しかし、それ以上の言葉が出てこない!響の方を見上げることすら出来ない!


響は少しの間、岩の上で無言でいたが、余市の反応も乏しいので時間の無駄と判断したのか、岩の反対側、つまり川の上流の方に降りてしまったようだ。


非常に気まずい!


まさか、この岩の上で響がバードウォッチングをしていようとは!…今世紀最大の盲点だった!


とにかく謝った方が良いのだろうな…恐ろしい偶然とはいえ、昨夜の破廉恥ピラミッド騒動に続いて、今日は今日でツタンカーメン珍事件か?否!寧ろ、ファラオとした方が広義だし雰囲気も増すような…ってエジプトかっ!!!


岩を隔てて顔を見られていないこのタイミングでサクッと謝っておくのが得策か…。


「いやーゴメン!誰もいないと思ってたし…川から離れたところがなかなか見つからなくて…つい…」


予想はしていたが、いつまで経っても返事はなかった。


「せ…生理現象ってやつは厄介だよね、全く!あは…あは…」


うう…マジで気まずい。


しかし、竹鶴から預かっていた言伝も残っているし…思い切って余市も川と岩の隙間を通って反対側へと躍り出た!


…が、そこに響の姿は無かった…。


川上の方に視線を向けてみるも、どこにも響の姿はない。大分前にこの場から離れてしまっていたようだ。


ノオオォォォーーーーー!!!

勇気を振り絞って謝ったのにいぃぃ!!!


残念な気持ちが大きいが、何故か少しほっとしている自分もいた。


とにかく余市も先へと進む。


先ほどまでは尿意を急かすかのように聞こえたせせらぎも、今は耳に心地よい。

同じ音でも、聞く側の状況によって良くも悪くもなる。理屈では分かっていても、実際に体感することで本当に理解できた気分だ。


きっと人生とはこのようなコトの連続なのだろう…そう、全ては自分次第…。


美人に己がペニスを見られるという避けられぬ現実が待ち構えているとする。

見られる側の気持ち次第では、恥ずかしいなどという負の感覚ではなく、逆思考でもってプラスに転じさせることも決して不可能なことではないのではなかろうか?


夜な夜な路地に身を潜めながら帰宅OLを息を殺して待ち構え、猛禽類のフクロウがネズミの前に降り立つが如く、音も無くサッと素早い身のこなしで行く手を阻み、その羽のような外套を翻して、自ら潔くファラオを露出せしめるクレイジーな諸先輩方もいると聞く…。


そこまでではなくとも、かつてはオレだってエロ漫画を女性店員に見せつけるようにドヤ顔でレジに披露していたではないか!

今回はあまりに突然の出来事だっただけに、心に余裕がなくて反射的に恥じらいを覚えてしまったが、これがジェントルな大人のノーマル反応なのだろうか…情けない!


あまりにも響の反応が乏しくて、逆にこちら側に羞恥心が芽生えてしまったという可能性もある。

明らかにハタチ前のノーマル乙女の反応ではなかったのだ!


双眼鏡でもって無言のまま観察し続けるなんて尋常ではない!


もう少し何と言うか…黄色い声を発するとか、顔を両手で覆いながらも指の隙間からこっそりかつ、しっかりと覗き見るとか…そんな乙女スパイスが不足していたのではないか!?

オレよりも響の方がアブノーマル偏差値が高かったがために、偏差値の低いオレの方がその差分だけ辱めを受けたというのか!?

それとも、三次元に期待し過ぎなのだろうか…?


だが…ここまで泥沼のような思考の輪廻で結論を導き出せないなか、何故か不思議と今になって急に恍惚とした気分が芽生え始めているのはどうしたワケだ!?


記念すべき我が生ギョニソーの初お披露目が、極上の大和撫子の響だったからか?

それもあるだろう…。

だが、乙女とは対象的な響のあの冷めた態度が、無性にオレの奥底に眠る何かをチクチクと刺激しやがる!


「はっ!これはまさか呪われしMの血っ!?」

「黙って…」

「エッ!?」


見ると目の前の岩陰でスフィンクスのような低姿勢で川面を双眼鏡で見つめる響の姿があった!


しっ!しまった!!!うっかりまた喋ってしまっていたかっ!!!

もう!余市の馬鹿!馬鹿!馬鹿!!馬鹿ったら馬鹿っ!!


考え事をしながら競歩ペースで歩いていた余市は、周囲に気を配っていなかったため、響のすぐ傍にまで迫っていたことに全く気付いていなかったのだった。


響の双眼鏡は今はファラオではなく川面でホバリングしている1羽の野鳥を捕捉しているようだ。

デビルアイをもってすれば、双眼鏡のような近代兵器は不要である。


それにしても見事なものである。


浮遊しながら一定の場所に停止するスキル…羽は音速で羽ばたかせていながらも、頭部は微塵も動いていない。ヘリのホバリングのように煩くもない。


む…むむむ…アレはよく見れば、空飛ぶ宝石とまで謳われる翡翠(ヒスイ)!つまりカワセミではないか!!?

一時期はマサヒコ同様に絶滅危惧種にノミネートされていたほどの珍しい野鳥!

となれば、響が集中するのも頷ける。


暫くすると翡翠は、水中へと素早く潜り小さなシブキと共に一匹の魚を咥えて水面から飛び出ると、少し離れた川沿いの切り立った岸壁の方へと飛び去ってしまった。


なるほど、あそこに巣穴があるのだな。

確かにあのゴルジュ風味の岸壁であれば、巣を構えるにはもってこいであろう。


嘴が黒いということは雄か?…雌は下顎の嘴の色が赤っぽかった筈。

そろそろ交尾の時期だが、あの雄はひょっとしたら目当ての雌に魚をプレゼントしに行ったのかもしれない。魚を受け取って貰えればカップル成立であるとどこかで読んだ記憶がある。


ふと視線を戻すと、響の様子がなにやら騒がしい。

どうやら飛び去った翡翠を見失ってしまって焦っている様子だ。双眼鏡ではあのスピードについて行くことは難しかったようだ。

それにしても、普段冷静なあの響が、双眼鏡を目にあてたまま首を忙しなく動かしているのは、とても新鮮で可愛げがあり、不思議だ。

ひょっとしたら、このような響の姿は野生の翡翠以上にレアなのかもしれない。


「あの…」

「今、話しかけないでくれるかしら!?」


やはりかなり動揺しているようだ。

きっとバードウォッチングの主たる目当ての野鳥が、空飛ぶ宝石の翡翠だったのだろう。まあ、バードウォッチャー憧れの代表格だしな…。


「さっきの翡翠の雄だけど…」

「えっ!?」


ヒスイという言葉に反応したのか、響は双眼鏡を顔から離し、余市の方を振り向いた。


「あそこの岸壁に巣穴があるよ…」


指差した方向を素早く見つめる響。


「何くん…だったかしら?」

「み、宮城だけど…余市でいいよ」

「…何故、巣の場所を特定できたの?」


響はまだ余市のことを名前では呼んでくれないらしい…。


「さっき飛んでいくのが見えたんだ…時期が時期だけに雌もいるかもしれない」

「あの短時間で、野鳥の種類だけでなく雌雄の判別までするなんて、それなりの知識はあるようね」

「野鳥に限らず、生物は全般的に好きだから…」

「フフ…伊達にあの子たちから博士と呼ばれているわけではなさそうね」


なにぃいいぃぃーーー!

響が笑っただとおおぉぉっ!!!


「そ、それほどでもないよ」

「どうかしら?…カワセミを翡翠なんて呼ぶ一般人はなかなか居なくてよ」


こ、こんなに響が饒舌になる女だったなんてぇぇーーー!!!

野鳥の話題だからか!?


「そ…そうかな?」

「ええ、そうよ」


響は余市の言うことを信じたのか、指摘した岸壁の方に移動して行った。

そして、再びスフィンクス体勢になると双眼鏡を構えた…。


少しして、


「凄い…本当に雌もいる!」


小声ではあるが、感動が伝わってくる。

響は微動だにせず、5分ほど観察を続けていたが、満足したのか漸く2足歩行体勢へと戻った。

ここはエジプトではないし、この渓流もナイルではないが、立ちあがったスフィンクスとモンキーファラオが初めてまともに対峙した瞬間である。


「そ…そろそろ昼食だから戻ってくるようにって…竹鶴が」

「そう」


余市から視線を外すと響はいつもの響に戻り、ひとりで下流に向かって歩いていってしまう。


「あっ…オレも」


響は返事をしなかった。勝手におし!とでも言わんばかりである。

しかし、余市の横を通り過ぎる際に垣間見せた表情は、心なしか少し明るかったようで、それだけは救いだった。


願わくば、翡翠を観察したことで気分を良くし、我がファラオの記憶データを上書き消去してくれていれば幸いなのだが…。



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