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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第一章 現世から異世界へ(仮)
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EP031 バンガローの外で

そんなこんなで夜は更けていった。


破廉恥ピラミッド騒動もやっと落ち着いて花火の後片付けが終わると、皆でバンガローへと移動する。

とりあえず、鶴のひと声ならぬ竹鶴のひと声で、変態余市にも入室は許可された。


小規模ではあるものの、切妻造の屋根に、全て丸太で組まれた本格的な造りのバンガローである。

ドアのある正面と窓のある左側面には、L字型にデッキも渡してあり格好が良い。

中に入ると、正面奥と右横に2段式の木製ベッドがそれぞれ設置されており、梯子が掛かっている。中央には床と一体化した木製テーブルもあった。

切妻造だけあって天井は高く、耐震用のトラスなどはないが、太い梁が通っていて頑丈そうだ。

流石に、暖炉やマントルピースなどといった気の利いた設備はないが、この規模では当然だろう。



車から持って来たクーラーBOXを開け、男性陣はビールを取り出す。マリカは桃味の缶チューハイを選び、響は再び赤ワインの瓶を掴んだ。

ツマミは燻製チーズの加工品とビーフジャーキー、ピスタチオなどだった。


四角いテーブルのそれぞれの面に4人が座るのかと思ったが、響だけは奥の木製ベッドに腰を下ろした。

最初、余市は、ゲストともいえる自分に気を利かせて席を譲ってくれたのかとも思ったが、彼女のバーベキューの時の立ち位置などを思い出して、それはないな、と考えを改めた。


「明日は昼間にパワースポット行く予定だったけど、博士のせいで暇になってしまったなー」


一緒に行かせて欲しいと血相を変えて頼み込んできたのはお前だろ!と言いたかったが、面倒なので竹鶴のお為ごかしは聞き流す。


「響さんはバードウォッチング…だよね?」


竹鶴の問いに返事は聞こえない。が、返事をしないということは肯定という意味なのだろう。


「もう0時まわってるし、オレは昼過ぎまで寝てるわ。何人(なんびと)たりともオレ様の眠りを妨げるなよ!」


と、腕時計を見ながら角瓶。


「ちゃんと朝起きなよぉー!折角、皆でキャンプ来てるんだからさー」

「うるせー!そういうお前はどうなんだよ?予定もないクセに」


角瓶の返答に口を膨らませたマリカだったが、直ぐに笑顔になると、


「うーん、マリカはねー…うふふ、鶴くんにお・ま・か・せ!なーんてね!きゃはは!」


そんなマリカの台詞に竹鶴は、


「…」


ノーコメントかよ!!!


「ところで博士、明日の夜のことなんだが、持参するものとか用意するものって何かあるのか?」


マリカの戯言を華麗にスルーした竹鶴が訊いてきた。


「いや、オレも特に聞いてはいないけど…持参するものは特にないと思う。けど、遺すモノはあるかも…」


実際のところ、朧からはその辺りのことについて何も聞いていなかった。


「ノコスモノ?」


竹鶴が不思議そうに確認してきた。


「うん。まあ…遺書とか?」


余市も普通に答えた、が、


本気(マジ)か?」

「ああ、本気(マジ)だ」

「うっひょー!スゲーよ!博士!ゾクゾクしてきたぜ!」


竹鶴のテンションがまたまた急上昇してきたようだ。いったい、このやり取りのどこでギヤが切り替わったのかよくわからないが、竹鶴としては異世界への旅立ちが、やはり冗談などではなく真実味を帯びたものとして再認識されたことが嬉しいのかもしれなかった。


「でもー、お金とかー…あと、替えの服とかは最低でも必要だよね!?」

「わからん。そもそも持参できるのかも怪しいしな…」


もじもじしながら訊いてきたマリカに率直に返す。

マリカとしては、本心では余市の言う異世界のことなど端から信じてはいないだろう。

しかし、先ほど竹鶴に華麗にスルーされたこともあり、少しでも異世界に興味があるフリをして、竹鶴の気を惹きたいがための質問に違いなかった。


「なんだよ!もう少し情報を仕入れておけよ!」


角瓶が言うのももっともである。

何故、朧にその辺のことを訊いておかなかったのだろう…。

朧は要件だけを伝えて、パッと消えて…と言うか、突然、余市の気を失わせてしまったのだから、尋ねるタイミングを失ってしまったと言った方が正しい気もするが。


「どうせオレひとりで行くつもりだったし、その時はそんな余裕なかったんだよ…」


チッと言った表情で角瓶は睨んできたが、仕方がない。事実である。


その後、皆で少し雑談した後、


「寝るよ」


響がバンガローに移ってから、おそらく最初で最後であろう発言をした。


「ところで余市、お前はどこで寝るんだ?」

「あ、オレは床でいいよ。気にしないで」


角瓶に笑顔をつくって答える。

今宵のオレはゲスト風味ではあるが、或る意味、招かれざる変態でもあるのだ。ここは低姿勢でいた方がベターである。ベッドも見たところ4つしかないのだし…。

しかし、マリカのひと言が、そんな謙虚な余市の遥か斜め上を行っていた。


「エーッ!こんな狭いトコで博士と同じ空気、長時間吸い込みたくないんだけどー!てか、ありえないんだけどー!」


え?それどーゆーこと?

余市が返答に窮していると、


「…だそーだ、ワリーな博士。もともと野宿する予定だったみたいだし、博士はデッキでってことでヨロピク!」


ピースを眼鏡の横にもっていきウィンクする竹鶴。

んーなるほど…なるほど…そーゆーことか!…ですよねー。


「あは…あはははは…だよね!」


竹鶴の言葉で漸く自分の身分や現況を呑み込めた余市は、笑って誤魔化すのが精いっぱいだった。

くうぅぅ…マリカめぇ…そんな言い方しなくてもいいジャマイカ!?やはりさっきのピラミッド騒動がまだ尾を引いているのか?確かにアレはオレの息子(ジュニア)の過失だが…ぐぬぬぬ。



その後、就寝前に女性陣はふたりで外に出て行く。余市や男性陣は、適当に立ちションを済ませた。

さっき角瓶が0時を回ったようなことを言っていたし、今はもう1時近いだろう。


余市は鞄から寝袋(シュラフ)を取り出すと、それをバンガローの窓の下のデッキに敷き、就寝の準備に入った。

何気なく窓から中を覗くと、女性陣と男性陣に分かれて2段式ベッドを使うようだ。うーん、なかなか健全ではないか!感心感心…あっ!


マリカが、中を覗いていた余市に気付いて、カーテンをサッと閉めてしまった。

頬っぺを膨らました今宵ラストのその表情…非常に遺憾ではあるが認めざるを得まい…。


可愛いかったぞっ!と。ぐぬぬぬぬぅ…。


だがしかし!オレは貴様の秘密の匂いを知っているのだ!そのことを忘れるなよ!むはっ!むはははははっ!!!


気持ちの悪い男、変態余市は心の中でマリカへと言い放ち、例によって精神勝利を収めるのだった。



それから暫くしてバンガローの中の灯が消えた。


ひとりで野宿する分には何も感じないが、こうして丸太の壁を隔てて待遇の差を感じると、何故か無性に侘しさが込み上げてくる。まさに寂寥感そのもの…。


イタズラをして夜まで家に入れてもらえない子供の大人バージョンといった感じだろうか?少し違う気がする…。

人生初めてのクラブに行き、入口で店員に自慢のケミカルジーンズを指差され入店を拒否られたような感覚か?『大変申し上げ難いのですが、お連れの4名様はOKですが、お客様はフォーマルではないので御入店はご遠慮願います』と…そんな鈍臭い田舎者の境遇に近いのかもしれない。

勿論、バンガローはクラブではないが、中の面子とオレとではちょっぴり人種が違う感は否めない…。


どちらにしても、彼らにとってオレはイレギュラーな存在に違いはないのだから、そう悲観的に捉えることもないだろう、そもそも金を払っていないのだし…と自分に言い聞かせて寝袋の内側からジッパーを顎まで引き上げた。

なんだか、霊安室(モルグ)に安置された冷えた死体のような気分だ。



しかし今日は凄い1日だった…。


記憶が正しければ、人生初となる野糞をした。下痢だった…。罰が当たったのか笹の葉で菊座を傷つけてしまった。

ギコとダウンヒルを攻めて人生初の衝突事故も起こしてしまった。そして絶滅危惧種のマサヒコにすんなりカツアゲされてしまった。

その後、茂みに潜伏しているところを角瓶に捕獲されて、カースト最上位クラスの4人と何故か人生初のバーベキューをする運びとなり、人生初のリアル花火にまで興じたりしたのだ。

不本意な事故とはいえ、おっきしたギョニソーを同性はおろか異性に目撃されたのも初体験である。旅立ちの前日に妹に自慰を目撃されるという人生初の汚点を残してはいるが、アングル的にギョニソー本体は見られていなかった筈…。


規則正しい蟄居生活を送っていた余市にとっては、この1日で1年分の経験をした気分である。


今日もそうだが、昨日も凄かった…。


新大宮バイパスを昭和のビブラートを轟かせながら攻略し、見事に北与野の国境を越えた。

憧れの山崎凛と奇跡の邂逅を果たし、犬の糞とスペ丸に塗れながらも、宝珠のお陰で驚愕の進化を遂げた。イレギュラーとはいえ人生初となる異性の手による?…射精も経験したし、異性のパヒュームの素晴らしさも知り、匂いフェチに目覚めてしまった。

露出狂ではないが、早朝の河川敷をフルチンで走りまわったのも初体験だし、ギョニソーを直に植物へと接触させたのも初めてだ。犬にブリーフを凌辱されたのも初めてだが、不屈の精神でもって立ち直り、あの龍の如き荒川を制覇した。


更に、覚醒されし信じ難い能力でハトやカラス、蛇との意思疎通を経験した!

相棒であるママチャリに初めて名を与えた。そのギコをカラスに急襲されたかと思えば、何故かそのカラスを治療する羽目となり、唇同士ではないにせよ、貴重なファーストキスを蛇に奪われたりもした。そして鄙びた社でとてつもない美少女に出会ってしまった。

気付けば美少女に言い包められて、と言うよりは恐喝されて修羅道へと堕ちることとなってしまっていた…。


この2日間で、良くも悪くも実に2年分以上の…いやいや!それ以上の経験をしたと言っても過言ではなさそうだ!


そして明日!否、既に今日となったが、異世界へと旅立つ予定である!

ひとりで異世界に堕ちる予定が、不思議な縁で5人で堕ちることとなりそうだ。


旅はひとを育てると言うが…これでいいのか?いろいろ短期間で初体験が大杉だろ!

これは三次元のヘンタイが二次元完成体へと変態する上での、克服しなければならぬカルマの数々なのか?


しかし余市はまだ知らなかった。これまでの初体験が、これから経験する体験に比べれば、瑣末でカワイイ部類に過ぎないということを…。



昨晩は拝殿の浜縁で、そして今宵はバンガローのデッキで…静かに目を閉じるのだった。



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