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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第一章 現世から異世界へ(仮)
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EP022 青と黒

青は神輿の雲板上でとぐろを巻いて、余市とカラスのやりとりを聞いていたが、カラスが余市にきちんと謝辞を述べたのを確認すると、


「是にて一件落着!」


と、平民のいざこざを解決したどこぞの町奉行かと言わんばかりの威厳に満ちた口調で締め括った。

そしてその鎌首をぬうっと擡げると『してやったり!』といった貫録でもって床に座る余市とカラスを睥睨した。



そんな町奉行ならぬ山奉行に、


「ときにのう…青や、何か忘れておるのではないか?」


目を細めて朧は言った。

その表情は微笑みを携え、口調は非常にゆったりとしたものだったが、視線はどことなく冷淡だった。


真上にいる青にはその表情や視線は分からない筈…だが、そのいつになく緩やかな口調から察したのか、もしくは爬虫類ならではの鋭敏な本能がその生命の危機を肌ならぬ鱗で悟らせたのか、青は返事もできずに固まってしまっていた…。

勿論、既に舌など出しておらず、蛇に睨まれた蛙、じゃなかった!マングースに睨まれたコブラ?そんな極限の緊張が、彼女?の光沢を失った鱗ひとつひとつからも伝わってくるようだ。


この山一帯を統べる大名兼山奉行の青、食物連鎖ピラミッド上位のカラスをも一瞥の内に瞬時に震え上がらせるほどの存在の彼女が、今は完全にフリーズしていた!

そうなると朧は最低でも大目付クラスの役職か?


「カ、カラスよ…」


暫くして石化が解けたのか、青は漸く口を開いた。

そしてまたビクッとして青の方に向き直るカラス。


「貴様を…貴様の命を救ったのは!こ、此処におわす…朧姫様であられるぞ!!!」


力強く言い放った青だった!そして、


「ず…頭が高いわ!シャアアァァー!」


と、捲し立てるように続けた。

しかし、間髪入れずに朧が視線を神輿の天井に向けて


「あんなぁ青や、お主もなあ…先ほどから、ちぃと頭が高いぞえ」


それを聞くなり青は、後ろに弾かれたように白目を剥き口を大きく開いた!


「シャッ!!シャアアァー!!!」


あーあ、青やっちまったなーオイ!

余市は少し愉快だった。


その状況はまるで、台詞こそ違えど昔の国民的サッカー漫画に出てくる大会屈指の鉄壁のゴールキーパーが、決勝戦の延長後半ロスタイムという超大事な局面で、土壇場で逆サイドを突かれた際に発する『んな!?なぁにぃぃぃーッッ!』と似た類の臨場感溢るる絶体絶命の叫びだった。


どちらにしても、外野としては面白過ぎるメシウマ展開である。


焦った青は、それこそ転げ落ちるように神輿から降りると、目にも止まらぬ速さで床にとぐろを巻いて首を下げ、これ以上ないくらいに平たくひれ伏したのだった。シュルルルゥゥ~…


その様子を、カラスも呆気に取られたかのように見つめていた。

が、気付いたように余市の元を慌てて離れ、神輿の朧の方に向いて、


「ア…アノ、コノ度ハ…」

「苦しゅうない…ついでの余興みたいなもんじゃ」


おそらく謝辞のようなものを言おうとしたであろうカラスを、朧は無下に制した。


朧としては『気にするな』程度のつもりで言ったのだろう…。

が、しかし、自分の命が何かのついでの余興として救われた側の心境もやや複雑なものだろう…。

命の恩人に対し、どう表現したら良いかも分からぬまま、とにもかくにも最大限の感謝の気持ちを表明しようとしたその出鼻を、気紛れともとれる何かのついでの余興レベルのことだったとして片付けられてしまったのだから。


それよりも圧巻だったのが、朧の発言を聞くや否や、カラスがコテッとコケたことだ!


絶妙のタイミングだった!


そう言わざるを得まい。


熟練した漫才コンビのみが成せる阿吽の呼吸と言ったところか!?

それにしても己が命を余興で片付けられたからといって、あの恐ろしい大目付役の朧を相手に、この一連の流れ全てを瞬時にコント化してしまうとは!


この百姓カラス、見掛けに寄らずとんだ傾奇者じゃワイ!!!


ま、とにかく、流石に今のは偶然だろう…。

片足な上に片目なのだから、平衡感覚の維持も容易ではないはず…。コケたタイミングがドンピシャだったに過ぎん!

この程度のことではオレは爆笑せぬわ!


そんな余市の脳内コントのことなど知る由もない当のカラスは、倒れながらも深々と朧に頭を下げると、当たり前のように余市の胡坐の上にピョンピョンと戻って来たのだった。


おいおい、ここはお前の巣じゃねぇぞ!

つ、ついでにティンポも雛じゃないんだからねっ!!


余市も負けじと心の中でかなりクールなツッコミを入れてみるのだった…。



「さて余市よ。本題へと移る前に今一つ確認しておくが、お主は童に貸しを作ったことを覚えておろうな。つい今しがたのこと、よもや忘れたなどとは言うまいな?」


朧はカラスを助けたことを言っているのであろう。

流石に数分前のことなので忘れる筈もないのだが…余市としてはカラスの命が一刻の猶予もないとみて、朧の『貸しイチ』という言葉を重く受け止めずに、その場の流れに任せて呑んだだけのことだった。


それにしても、朧の言う本題とは何なのか?

カラスの命を救ったことを朧は余興レベルのことだと話していた…本題に入る上での余興だったということなのだろうか?


「あ、ああ…覚えてる。それからオレからも礼を言うよ。こいつを助けてくれてアリガトな」


余市も礼を述べた。更に、


「ところで本題って…何すか?」


嫌な予感を感じつつも訊いてみる。


「そう急くでない。何も知らぬ赤子には順序立てて説明せねばならぬ。此れより話すことをお主が素直に信ずるとは端から思ってはおらん。じゃが、童は嘘も言わぬ…」


朧はこれまでとは少し違って、やや真剣モードと言った雰囲気である。

てか外見上、どう見ても年上のこのオレを赤子扱いするとは!ぐぬぬ…だがそれでイイ!そのままでイイ!!!


「青や」

「はっ!ははーっ」


青は先ほどからの緊張が持続しているようである。

有り得ない程に縮こまりコンパクト化している。まるで蚊取り線香のようだ!

拝殿の梁に巻き付いていた青とはまるで別人もとい別蛇である!お…お前の身体は海綿体でできているのか?


「其のカラス、名を(くろ)と名付ける。青は黒の面倒を見てやれ。黒は今後、青の補佐をするのじゃ。良いな?」

「ぎょ!御意!シャァァーッ」

「ハッ、ハイ!」


朧はまたも本人(鳥)の同意なしにカラスの名を簡単に決めてしまったようだ!

黒いから黒かよ!そのまんまじゃねーか!

それとも苦労が多いからか?まさか英語のcrowから持ってきたとか?いやいや純和風の朧に限ってそんなことはないだろう。…考え過ぎだな。

まあ、コンビニ店員やママチャリを簡単に命名してしまうオレも大差はないが、相手の了解を得ているという所が決定的に違う。

瞬時に返事をした黒の声は、まるで信長に猿と名付けられた時の藤吉郎を彷彿とさせる覇気を有していた。



「童と余市は此の後、ちと大事な話がある故、お主らは一旦、席を外すが良い」

「ははーっ!」

「ハハーッ!」


両者は首を深く下げ返事をしたのだった。



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