07話 あなたはどうやって授業をサボりますか??
「一宮はどうやって5限の授業を抜けてきたの?」
俺達は6時間目の全校集会に備え、5時間目の授業をぬけて、とりあえず部室に集合していた。
絢音と俺が先についた。
「そりゃ、あれだよ・・・仮病だよ。数学の授業だったけど、手を上げて、なんか体調が悪くなってきたので保健室に行かせてくださいって言ったら。普通に行ってこいって言われて、ここに来たよ。」
「くふふふ。本当に一宮ってバカよね。」
本当に鼻で笑われるとはこういうことを言うのだろう。めちゃくちゃ鼻で笑われている。
「なんでだよ。仮病って、休むときの常套句じゃないか。」
「甘いわ、一宮。カスタードのように甘いわ。」
今そういうのいらないですけど、って言おうと思ったけど、絢音はなんかずっと笑い続けているから止めた。―本当に爆笑されているんだけど。
「仮病ってのはね、授業を休むときにおいて、一番やっちゃいけないことじゃん。」
私の言葉こそが人生の教科書だ、と言わんばかりの自信を携えているのですけど。この人、たぶん人生で失敗したことないよ。
「なんでやねん!!」
あまりに絢音が自信満々に我が正しいという風に話してくるので、思わず関西弁になっちゃったよ。
「なんで知らないの?ほんと、バカよね。あと、その付け焼き刃の関西弁止めてくれる。」
くそっ、スルーしてくれなかったか。
「いやいや、普通のことでしょ。仮病で保健室に行くのが、授業を休むときの常套句じゃん。」
俺の考えというものはたぶん合ってると思う。一般peopleはたぶんそうする。―絢音に批判されすぎて少しだけぶれてきたけど。
「なんでダメなんだよ?」
「はっ、なんであんたに教えなくちゃいけないのよ。」
腕を組み換え、こちらを睨みつづけている。―いくらなんでも唯我独尊すぎるっしょ。
「絢音さん。どうか教えてくれませんかね。」
俺は深々と腰を下げ、お願いをする。
「ふんっ。お願いされたところで、教えるわけないじゃない。あんた、バカ!」
俺は何も言わず、深々と頭を下げ続ける。
「そんなことし続けても、教える分けないじゃん。」
なおも俺は頭を下げ続ける。
「一宮。あんたは、誰にもばれちゃいけないってことわかってないでしょ。」
あれ、少し話しはじめてる?俺は顔をあげる。
「もちろん、わかってますよ。」自然と小声しかでない。
「私達は絶対に他の人にバレてはいけないのよ。わかってる?」
口調は非常に強いままなんだけど、語り始めてくれているのはわかる。
「自分のクラスで、わざわざ授業中に手を上げて病気をアピールするなんて、俺はこの学校にテロしに来てますよ。って自ら表現しているようなものじゃない。」
「いやいや、どういう経緯からそうなった?絶対的にならないだろ。」
「クラスで目立つじゃない。6限ずっと、一宮がいなかったら不信に思う人も出てくるでしょ。」
たしかに、彼女の言うことには一理あるのかもしれない。絢音にまともなことを言われてしまい、恥ずかしさを覚えずにはいられない。不覚にも一本取られてしまった。
「分かったら、きちんと返事しなさいよ。ほんと、バカなんだから。」
絶対的に俺はこの女に転がされているよ。常に彼女のペースに飲み込まれている。
「じゃあ、絢音はどうやって、授業抜けてきたんだよ。」
ここからが俺の勝負だ。今までは絢音に話を振られ、 常に俺が話をしなければいけない立場にいたから。常に俺は絢音に攻めこまれていた。
しかし、俺が話を振る側にまわれば立場は逆転するはずである。俺は絢音に対する責めの一手を打つ。
「そんなに俺のことを批判するんだったら、絢音はどうやって授業抜けてきたんだよ。」
「そんなのいくらでもあるわよ。星の数ほどにね。」
絶対にないだろ。なんでこんな簡単に嘘をつくことができるのか。もし本当に星の数ほどあったら・・・・・・。
―この変人女だったら本当にあるのかもしれないとなぜか思ってしまう。俺も確実にアホ化が進んできてしまっているのではないか。思わず、俺は例えばと言ってしまう。
「なんであんたに教えなくちゃいけないのよ。」
毎回毎回このくだりを経なくてはいけないのか。俺は再び懇切丁寧に絢音に対してお辞儀をする。絢音は少しだまりこんだ後、彼女の手が俺の頭をクイっと上に押し上げた。どうやら今回は1回でいけたようだ。
「例えば、そうね〜。今日だったら私は5限の授業を放棄してきたわよ。」
えっ。思わず驚いた顔をしてしまう。
「はっ、なんでそんな顔されなきゃいけないのよ。あんたにそんな顔する権限あると思ってんの。」
リアクションにまで文句を言われだしたら、俺なんもできないよ、ほんと。
「リアクションをとる権限ぐらいは、あると思うんですけど・・・。」
ボソリボソリとつぶやく。
「あんたにはないわよ。」
俺はもうそれ以上なにも言えませんでした。ただただ、無表情で絢音の話を聞いておりました。
「仮病しか知らない一宮には、懇切丁寧に説明してあげるからしっかりと聞いておきなさい。授業を放棄するとは、初めから授業に出ないということよ。――ボイコットよ。」
えっ。(心の中の声です。表情には出しておりません。たぶん。)
「授業を放棄することのメリットはね、クラスメイトにばれることなく欠席することができるとこよ。」
我慢したよ、我慢した。絢音に言われたとおりに無表情無発言を貫き通そうとしたよ。だけど、無理。
「いやいや、逆でしょ。勝手に授業を休んだら、余計に目立つじゃん。なんであいつさっきまでいたのに、いなくなってるんだろう。みたいなことになるじゃんか。」
絢音は別段驚いてはくれなかった。なんでリアクションとってんのよ、みたいなツッコミもなく。なぜか冷静だった。
「そんなこと起きるわけないでしょ。いなくなったものに対して興味を示すものなんていないんじゃない。」
なんだろう。この悲しい意見は。この女、友達いないんじゃないか。―いや、ただ単にふざけているだけなのか。
「普通は、クラスの友達が違和感を感じて、先生に対して「○○いないんだけどみたいな」告げ口というか、イジリがあるのが普通なんじゃない。」
全くもって驚いてくれないんだけど。
「それは、一宮の場合でしょ。私をあんたと同じにしないでくれる。」
「いやいや、そういうことじゃないでしょ。絢音は気にかけてくれる友達とか・・・」
俺のおそらく一般的な意見というのは、この怪物女に対しては全くもって通用する気がしなかった。ひたすらに俺のやる気というものを削いでいく。
「私は自然とクラスから消えることに成功しているは、でも、一宮くんはクラスの人達に保健室に行くという意識を全員に埋め込んでいるじゃない。これは天と地の差があると思わない。まして、このテロを遂行した後に、「そういえば一宮あの時いな かったよな。もしかしてお前が犯人じゃないのか」ってことにも なりかねないでしょ。」
確かに言っていることは正しいのかもしれない、絢音の行為のほうが正当性がある行為なのかもしれない。だけど、なんだこのやりきれない気持ちは腹しかたたないのだけど。
その時である。いきなりバタンと部室のドアが開いた。
「皆さん。遅くなってすみません。」
そこに現れたのは、ヒナだった。
「やっと来たわね、ヒナ。待ってたのよ。」
ヒナはかなり疲れた表情で、 額には汗も見え、息も荒い。
「ヒナは、早く行かなくちゃいけないと思っていたんですけど担任に捕まってしまいまして。」
どおりでかなり疲れたように見える。
「ヒナは担任に何と言ってここにやって来たの?」
「えっ。」
ヒナは少し上を向き何と言っていたか思い出そうとする。顎に指を当てて考える仕草はなんと言っても可愛い。
「ヒナは、先生にすごく気分が悪いので保健室に行って参りますと言いました。」
ヒナがそう言い終わると同時に、絢音乙葉の視線が俺の方へと向きだした。俺は直接、彼女の顔を見ていないが、なぜかわかる。
絢音乙葉が俺のことを見ている。―恋されちゃったのかな、テヘッ☆ミ。
「どうした。大丈夫か。」
と優しい担任であるからこそ、心配されなかなか行かせてもらえず。
「おい、中森。天塚を保健室まで連れていってあげろ」
という始末でなかなか説得するのに苦労しました。
ずぅーと、絢音乙葉さんが俺のことを見ているのですが、
どうしてなんだろう?
「やっとのことで説得してやってきたんです。」
「それは大変だったわね。本当に。ねぇ、一宮。」
俺の方をひたすらに向きながら、不意打ちで俺に話をふってくる人がいるんですけど。
「大変だったな・・・。よし、ヒナもやってきたことだし、作戦実行しようぜ。」
「あれっ、一宮。体調が優れないから保健室に行くんじゃないの?」
俺の方を笑いながら見てくる。一発パンチいれてやりたい。