04話 あなたはどうしてここに??
いたって不思議な光景を目の当たりにしている。オタク禁止法ができて10年。
すぐさまオタクと言われるものは例外なくすべて回収されてしまった。
だから、もうどこにもないんだと思っていた。
―事実、俺はあの日から一度もアニメのグッズは1度たりとも見なかったから。
リア充党の力は凄まじいものがあった。
しかしそれが今ここにある。俺が夢見ていたものが、目の前にある。
それだけでもう十分だった。
理不尽な女もなにも気にならない。よくこんな宝を俺に見せてくれたという感謝の方が強い。
どうせ、この女のことだから人には言えないようなところから、これらを手に入れたのであろう。
俺はその詳細を別段聞こうとは思わない。俺の目の前に存在するだけで感謝である。
でも・・・、俺がオタクだってなぜばれたんだ??
「一宮。あんたは脇が甘いのよ。」
「なんで俺の名前知ってるんだ。お前こそ俺のストーカーなんじゃないか?だからこんなところに連れて来たんだろ。」
この女の怖さっぷりは、さきほどから重々承知しているが、なぜこの女は俺の名前を知っているのだろうか。
「ばっかじゃないの!あんたのことなんてストーカーするわけないじゃない。あと、わたし誰のこともストーカーしないから。」
こいつ賢い。俺の作った「ストーカー」トラップを完全にかいくぐりやがった。
「じゃあ、なんで俺の名前を・・・。」
「一から十まで説明しなくちゃいけないのね。本当にあなたはめんどくさい人間ね。」
ため息とともに、渋い顔をされる。
「私は、一宮が階段で倒れているのを偶然見つけてしまったのよ・・・。周りには誰もいなくて、助けようか、助けまいか迷ったんだけどね渋々助けてあげたってわけ。ほんと、めんどくさかったわ。」
「倒れてる人見たら、すぐに助けようよ。」
「だって、私、2次元のイケメンにしか興味ないもん。」
平然と普通の表情で、変態的発言をする。
あまりにも、あたりまえのごとく言うもんだから、
てっきり聞き逃しそうになったよ。
「へぇ~、絢音の方が頭おかしいじゃん。」
「そういうのいらないから。黙って聞きなさい!」
とても早い、高速的なツッコミで
僕の絢音に対する反抗を一蹴された。
本当に俺の攻撃チャンスをことごとく彼女は潰してくる。
「私は、さしてイケメンでもない一宮を助けるかどうか迷ったわ。なんの利益も生まれないもの。でも、私って昔から寛容の広い子に育ってるじゃない。」
いや、知らないけどね。そんなこと言われても。あと、心が寛容ってどの観点から話しているのだろうか。
「だから、階段で倒れている一宮を助けたのよ。感謝しなさい。」と、言ったところで彼女は意図的に少し間を作った。顔を下に向け、何やら意味深な雰囲気を醸し出す。
「その時にあなたのポケットの中から何かの写真がはみ出てるのに気づいたんだけど、好きな女の子の写真でもポケットに入れてるのかと思って、わざわざ見てあげたの・・・」
ーーその言葉を聞いたときに俺はすべてを悟った。
「その写真には、アニメのキャラがいたわ。しかも、なぜかその写真の裏面には、「一宮」ってマジックで丁寧に書かれていたんだけど。不思議ね~〜。」
絢音はわざとらしい表情でニヤニヤとしている。
オタク禁止法令が発動されてから、俺の家にあるオタクグッズはすべて俺の下から姿を消したのだが、この写真だけはキセキ的に俺のポケットの中に生き延びていた。
俺は落としても、しっかりと自分のとこに返してもらえるよう、マジックで写真の裏に名前を書いたのである。この行為は、警察に捕まるかもしれないからおかしいのだが、思わず守りたかったんだ。
「やっと、わかったよ。なんで俺のことを知ってるか。でも、なんでここに俺を連れてきたんだ。保健室に連れていくのが普通だろ。」
「そんな言い方ないでしょ。重たいあんたをここまで一生懸命に運んできたんだから。その女もいっしょに。」
彼女が指差した方向には一人の少女が未だに眠っていた。俺は絢音との話に夢中になりすぎていて気づかなかった。オレと絢音が話していたところより少し後ろのところで彼女は寝ていた。
「そこの女はあんたといっしょに、階段に倒れていたわ。」
寝ている女の顔を見ても誰だがわからなかったが、おそらくこの女、俺と階段でぶつかった人だ。
「キモオタのあんたといっしょに倒れていたから、その子もアニオタかと思って連れてきたの。」
そこに倒れている少女は見るからに美人だった。金色に染められた今風の髪型で、明らかに美しい寝顔で男性をすぐに虜にするだろう。雰囲気で男性を好きにならせる力がある。見るからに見た目はリア充である。
「こんなきれいな人。俺は知らないよ。」
「そんなこと見れば分かるわよ。一宮とは全くつりあってないじゃん。誰でもそんな事わかるわよ。」
と言ったその時、
「うぅー。ムニャムニャ。ここどこですか・・・」
金髪の彼女は寝ぼけた声を発しながらも、起き上がってきた。
「ここは、キングダム・アニメ部、通称K・A部の部室よ。」
「えっ、ここアニメ部なんですか。やったー。」
「アニメ部ではないわ。K・A部よ。」
金髪の美少女はアニメと聞いて、むちゃくちゃテンションが上がっている。 もしかして、こんなキレイな子もこっち側の人間なのか。と、無償に期待してしまう。
「私。天塚ヒナって言います。アニメ好きの人に会えて嬉しいですー。」
と言いながらヒナは絢音に握手しに行った。
その時、寝起きでぼやけていたヒナの焦点も合ってきたのだろう。急にわっきゃ、わっきゃ言い出したのだ。
ーそう。彼女はこの部屋に置かれている、星の数ほどあるアニメグッズに興奮しだしたのである。
辺りにあるものをいきなり触りだし、物色しだした。懐かし懐かしのオンパレードである。ー俺も少し感動してしまっている。
この5年間で一度もこんな光景なかったからな。でも、絢音がアニメグッズを物色しているヒナに対して全く注意しないのにはイライラする。さっき、俺、あんなに注意されたのに。
「ヒナ。なにか、あなたは秘密を持ってるわね。」
アニメグッズを物色しているヒナに対して、絢音は唐突にヒナにそんなことを言い出した。秘密持ってるかどうかなんて聴いちゃいけないでしょ。人間誰しも、秘密の一つや二つを持ってるもんですからね。
ー例えば、俺の秘密と言えば、ピーマンを食べれないこととか。部屋に時計置いてないとことかな。
「私。天使なんです!」
えーーーー。
いやいや、いきなり凄い秘密ぶっこんできたな。唐突の絢音のふりによくそんな秘密思いつくよな。笑いのセンス有りすぎだろ。俺も思わず驚いちゃったよ。ただ、いくらなんでも、それは嘘だってバレるでしょ。
その瞬間、ヒナの頭上から、なにか黄色く光ったわっかのような物が姿を現した
「ヒナさん・・・。その頭に浮かんでいるのって・・・。」
―紛れもなく天使の輪だった。
「信じていただけたでしょうか。私、天使なんです!」
いやいや、俺の日常急におかしくなりすぎでしょ。いきなり階段でぶつかって、目が覚めるとそこはアニメグッズばかりの楽園でめちゃくちゃテンションあがったんだけど、絢音乙葉というこの世で最も凶悪と言っても過言ではない女と出逢い、挙げ句の果てには階段でぶつかった女の子が天使だって、そんなことあっていいと思っているのか。
「天使が地上になにしに来たのよ?」
受け入れるの早。
絢音乙葉はあっさりと天使であるということを受け入れた。今までどんな人生を送ったら、天使が現れたことに対して驚かずにいれるのだろうかとは思いつつも、
「私は日本を救いに来たのです。この崩壊した日本を救いに。」