03話 懐かしい感覚
俺は放課後、リア充、立花から聞いた情報をもとに部室塔へと自然と足が趣いていた。
部室棟とはその名の通り、 あらゆる部活の部室が集められているところである。
俺が愛しているルルを救うための解決策は今まで特に思いつかなった。だけど、そこに行けば、なにか変わる。ルルを救うためのヒントが生まれる、そんな気がなんとなくした。
胸のときめきが自然と俺の歩くスピードを早くし、いつの間にか廊下を全速力で走っていた。しかし、脳の99%がそのことで頭を占め無我夢中であったためか。
階段を降りているとき、逆方向から階段を登ろうとしてきた人とぶつかってしまった。
「ぐはっ!!」
それもきつめにぶつかってしまい、俺は階段を転がり落ち、倒れ込み、 意識がなくなってしまった。
「ルル…………。」
――――――――――――――
ルル、ルル、ルル
俺の目の前にルルがいる。
・・・
さすがに、それは夢だった。
・・・
「ここは、どこだ?」
俺の意識は回復した。目覚めた場所は、階段ではなかった。さらに言えば、保健室でもない。
―なぜ、分かるのか・・・
それは俺が目覚めた場所には、気持ちが自然と高ぶる代物がたくさん存在した。ここ10年の俺のオタクへの欲求をすべて受け止めてくれるぐらいに、大量の漫画やアニメグッズが俺の視界360度全てを覆い尽くしていたのだ。
「うぉーーー、すげーーー。やばいやばい!!」
思わず、体の内から雄叫びが湧き上がってしまった。久しぶりに見る光景に思わず胸が踊ってしまう。
「ふん、凄いでしょ。――私のコレクション。」
意気揚々とした発言を残しつつ、目の前にいる女は大きな瞳で俺の方を見てくる。
そいつは一言で言うならば美人だと言えよう。
目、鼻、口と均整の取れた表情で、顔も本当に小さく、髪形も今風を取り入れている。さらには、背丈も高く、足がモデルさんぐらいに長い。出るべきところは出ている。――シンプルに絶対的な美少女と言えよう。
「いや、本当に凄いです。感激です。」
俺のテンションは変わらず上がっているのだが、美人を目の前に普通を見失ってしまっている。――チキンやろういつも通りに普通に接しろ。
「あったりまえでしょ!これは私が小さい時から集めてた代物よ。あんたなんかに1つもあげないんだから。」
この見た目美人は、いったいなにを言っているのだろうか?たしかに俺のテンションは上がっているが、欲しいなんて一言も言っていない。この女の自意識過剰にもほどがある。それにしてもこの時代にこれほどまでのアニメグッズを見ることができるなんて、生きてて良かった。
「触るのもダメだからね。」
この女は妄想癖なのか。まだ、俺が触ってもいない状況から、そんなことを口走るなんて。勝手な決め付け判断、シンプルにこの女の傲慢としか言いようがない。ーたしかに触りたいという気持ちは大いにしてあるのだが。だって、大好きなんだもん。
「ちょっと待ってくれよ。触るか、触らないかは一旦置いといて、ここはどこなんだよ?教えてくれよ。」
俺は一番気になる疑問を提示する。嬉しい場所とは言え、不思議な空間である。
「ちょっと待って、今話すり替えたでしょ。あんたには触らせないわよ。この変態!!」
そこはさらっと、飛ばすところだろ。この女、絶対性格ブスだわ。―ー男の子は女の子には優しさをもとめてしまうから、失言はやんわりとスルーしてあげてね。
「いやいや、話すりかえてないよ。触りたいのはたしかだけど……。」
「触りたいって口から出てるじゃない。このクズがっ。」
かなりすっごい軽蔑の眼差しをこいつは俺に向けてくる。俺は妄想癖で性格ブスなこの女から目をそらすしかなかった。――見た目は100点なんだけど。
「待ってくれ。 本当にここは何処なんだよ?説明してくれよ。」
「黙りなさい!」
俺の純粋な疑問を排除される。完全に攻め立てられているこの状況において、俺が保持している武器はただただ同じ事を繰り返すしかなかった。
「まだ、話は終わってないわよ。 触りたいのか触りたくないのかハッキリしなさいよ。」
一つのことに対してねちっこく、ねちっこく、ひたすらにずっと聞いてくるのは、いくら美人といえど許されることじゃないよ。
ただただ、ウザいよ。シンプルに性格ブスだよ。
「ここは・・・」
と俺が言い出したとき 、くいぎみで彼女は俺の発言を妨害してきた。
「触りたくないの?」
触りたい、触りたくない論争は、一般的に女の子の胸部においてする話であるが、今僕達が論争しているのはあくまでもアニメグッズに触れるか、触れないかの論争をしていることを確認して欲しい。
「触りたいです。」
「ふん。あんたみたいな汚い手の人間に誰が触らせるもんですか。」
ただただ、時間を返して欲しい。そう思えて仕方がなかった。俺はその怒りを噛みしめ、
「ここはどこなんだよ。説明してくれよ。」
そういうと、彼女はさらに呆れた表情をし、
「ここがどこかも分からないの。本当、あんたって変態ね。」
なぜ、ここがどこかわからないだけで変態にされなくてはいけないのだ。全くもって合理性のない発言にシラフを感じる。
「じゃあ、質問変えるよ。お前はいったい誰なんだよ?」
「あんた、私のストーカーなの?」
この返しは俺の予想外である。頭おかしいよ。
「いやいや、ちょっと待ってくれよ。ただただ、名前を聞いただけじゃないか。」
一向に話が進まない。無駄な時間ばかりが過ぎていく。
「しかたないわね、名前だけ教えてあげるわ。ストーカーくん。私の名前は、カエルマンよ。」
なにかの旋律が、僕の耳元に鳴り響いた気がした。俺は何も聞かなかったふりをするしかなかったが、彼女は一人で大爆笑していた。
「一瞬、信じたでしょ。ハァハァ。だっさーい。」
彼女は目から溢れる笑い涙を手でふく。全くもって面白くないから。
「ちょっと待て、全くもって信じてないからな。」
なにからなにまで自分勝手である。彼女は自分が世界の中心だと思いすぎているよ。少しはこちらにも気を使って欲しい。
「ハハッ。まぁ、いいわ。名前だけなら教えてあげる。私は絢音乙葉よ。」
見た目に準じて、すごく名前もきれいだと思った。
「綺麗な名前・・・」
思わず口からこぼれてしまった。出来れば聞いていないで欲しい。
「あったり前でしょ。あんたに言われる筋合いなんてないわよ。」
聞かれていたか。それしても自意識過剰すぎだよ。
「まぁ、そうですよね〜。
じゃあ今ここはどこで、どういう状況なんですか?」
今度はテンポを大事に話をすり替えてみる。
「あんたに教える義理はない。」
だれかこの話が全く進まない状況をなんとかしてくれ。
「今、どういう状況なのでしょうか?教えてください、絢音乙葉様。」
絢音は折れてくれない。俺は膝を地面につけ頭を下げた。
「うむ。よろしい。教えてあげましょう。」
あっさりと絢音は承諾した。土下座フェチかよ。
――殴りかかりにいきたかった。真面目な方で。
「ここは私が作った部活、KA部の部室よ。」
「KA部って、なに・・・。」
「はぁ~、あなたKA部を知らないで今までよく生きてこれたわねぇ。あんた、足し算もできないでしょ。」
ため息混じりに言われたが、分かるわけないよ、
「もうっ、しかたないわね。説明してあげるわよ。私の部活、KA部とは、キングダム・アニメ部の略称よ。」
「ダサっ。」
思ったことが、口から飛び出すほどに、ダサかった。いくらなんでも、キングダム・アニメ部はダサすぎるでしょ。
「ダサいとはなによ。全くもって、ダサくないわ。すごくカッコイイ名前じゃないの。ホントこれだからキモオタは嫌なのよ。」
「・・・なんでそれを。」
「否定しないのね。あんたがキモオタってことは重々理解したわ。」
「いやっ・・、キモオタじゃねえし。」
そんなところにトラップが敷かれていたなんて、この女はつくづく恐ろしい。
「あとから訂正するのは、キモオタと認めているようなものだけどね。」
揚げ足しかとらない、糞女だよ。
でも、オタクってとこはあってるんだよな。
この世界になってからバレないようにしてきたに・・・。
なんでこの女は俺の本性を知ってるんだ。