02話 世界の片隅に光はある。
「一宮聞いてくれ!」
今日も休憩中、 一人次の授業の準備に取り掛かっている俺のところに話しかけてくるのは立花である。 立花の目には俺が一人寂しくかわいそうな奴に見えているのか、 いつも話しかけに来てくれる。感謝はしているのだけど。―ただ、いつも立花のつまらない話を聞かされるこっちの身にもなったほしい。
立花はリア充によくいる、友達の世話したがりな、いわゆるありがた迷惑野郎である。
そんな立花が今、いつにもまして慌ててた様子で俺のところに やってきた。
汗も流れ、息もかなり上がっている。16歳の高校生は、「幽霊を見たんだ……」と今にも言い出しそうな辛辣な表情をしている。
どうしたんだ?と俺が尋ねると、立花は
「サッカーのユニフォームを着ていた……」
言葉の意味が分からない。
大変申し訳ないが立花はあまりの慌てっぷりに脳が正常に機能していない。
主語の欠落というミスを中心に言いたいことが入ってこない。
立花自身も ???みたいな顔をしている。 そのため、もう一度チャンスを与えたいと思う。
「落ち着け立花。落ち着け。一回深呼吸して、何が言いたいかまとめろ。」
立花は何度も大きく息を吸い吐き、タオルで汗を吹き、自分を落ち着かせた。
「あれなんだ。 女子がなんかサッカーのユニフォームを着てたんだ。」
主語が入るだけで、意外性がでてくるじゃないか。
「この学校には、俺が所属する男子サッカー部はあるけど、女子サッカー部はないんだ。だから、女子がサッカーのユニフォーム着てるのはおかしい。しかも、俺たちも試合当日ぐらいしかユニフォームは着ないんだ。 普段は練習着だから。」
立花は身振り手振りを使って必死に俺に伝えようとしている。まさかの怪奇話で俺は驚いている。今日の話には興味が湧く。
「それは、他の学校の生徒が訪してただけじゃないのか。」
「そんな予定は入ってないんだ。しかも、歴史的にも女子と男子が試合するなんてないし。」
たしかにそうだな
「なら、あれかコスプレなんじゃないか?」
俺がその発言をした後、少し空気が淀んだ。
「コスプレってなんだ??」
その立花の発言の意図を、「コスプレ」という単語を脳内にストックしている俺には始め理解できなかったが、すぐに謎は解けた。 ――その答えは言うならば、立花はリア充であるからだ。
リア充達はコスプレという単語の意味さえ、現代においては理解してくれないのだ。これがオタク禁止法によってできた世界なのである。
「コスプレは心霊現象の一つだよ。普通にはありあえない服を着て,現実世界に現れる幽霊のことを指すんだ。」
嘘をつくのは仕方のないことだ。オタクだとばれる分けにはいかないから。 それにしてもこの嘘は下手すぎるよ。とっさに考えたとはゆえさすがにばれるんじゃないか。
「へぇ~、そうなうなんだ。初めて知ったわ。」
簡単に信じてくれる、
リア充の立花くんである。
心配する必要なかった。
「でも、その女の子は何してたんだ。」
「彼女は部室棟のところでサッカーのユニフォームを着て、そしてサッカーボールを持ちながら、
「カミソリシュート」
とか
「ボールは友達」
って一人で言ってたんだ。正直言って怖かったよ。」
俺の頭の中でビビッとなにかの光が走った。久しぶりの生きているという感覚が自然と体全体を満たしていった。
「カミソリシュート」や「ボールは友達」って、あの某有名なサッカー漫画ですやん。
「一宮、なんのことかわかるか?」
俺は、なんでわからないんだ アホか、ボケか、と怒りが思わず湧いてきたが、オタクとばれぬとように、本当の自分をなんとか押し殺す。
「ただの幽霊だよ。ただの・・・。」
オタクにとっての常識を分かってくれない、リア充の立花に対して 怒りが爆発しそうになったので、俺は用事を理由にその場を退いたが、
立花の言った情報は神だった。
オタク禁止法が発令され5年。誰ともアニメの話ができなくなり、みなリア充へと変貌していった。国家に歯向かうやつはいなかった。俺にとって息苦しいリア充の世界を変えたかった。ルルを取り戻したかった。でも、今までどうすることもできなかった。
しかし、キセキ的に今、リア充の立花から望みをもらった。
ありがとう、立花……。
サッカー部なのに、キャプテン○も知らないのに、ただのリア充立花、 ありがとう。