12話 天塚ヒナ 過去編②
シャル神様はあの日、調べ物でわざわざ、
私がいた高校の図書館にまでやってきたらしいのだ。
シャル神様が探していたのが、「聖書心中」だった。
本当に偶然、私はシャル神様と出会ったのだ。
シャル神様はすごく面白い人で、
友達もできたことのない私に対しても、
すごく優しく接してくれた。
そして、
「ヒナは今まで本ばっかり読んでたんだ。」
「はい。いつも何時も本が大好きで、本を読んでいました。」
「へぇ~。じゃあアニメとか知らないんだ。」
「なんですかそれ?聞いたこともないですけど・・。」
その時に初めて私はアニメというものの存在を知りました。
シャル様はアニメが大大大好きらしく、
なぜか私にアニメの素晴らしさを教えてくれることになりまし た。
それから、シャル様とわたしは、
アニメを勉強する修行の旅路が始まりました。
数え切れない数をのアニメを私はシャル様に見るように強要されました。
静かにアニメを見たいなって時もあったのですが、
シャル様は逐一、解説を加えてきて、
たまにネタバレが起こることもよくありました。
でも、そのシャル様のお話になる姿がすごく楽しそうで、
こちらも自然と楽しくさせらました。
アニメという物のことも全くもって知らなかったですけど、
本当に面白くて、可愛いくて、カッコよくて、強くて、泣けて、 天使の感情もいつもいつも動かしてくれる、
素晴らしいものです。
私はシャル様のことが好きになっていました。
でも、神様は女神様と結婚する。
それは、天界におけるルールでした。
それでも、私はシャル様と一緒に居たかった。
だから、私は一生懸命にひたすら、勉強しました。
勉強したくないと思う日もありましたけど、
思いが私を勉強へと導いてくれまたのです。
そして、首席で天使の試験を合格した私は、
シャル神様の周りをとりまく、人達もなんの文句も言われることなく
私を側近の天使として推薦してくれました。
―――――――
「お花がいっぱい。とてもきれいです。」
「なぁ、きれいだろ。」
その日は、何気ない口調で私は誘われた。
連れてきてくれたところは地球の日本だった。
「ここ。あの泣けるアニメNo.1になった、
<空の庭園>の舞台にもなってるところなんだぞ。」
「うへぇー。すごい。あっ、分かります分かります。
うゎー、あのラストシーンで使われていた所ですよね。」
「そうそう、カケルとハナが結ばれる。あのシーンだよ。」
なにかいつもと雰囲気が違う・・・。
「シャル様。なにかありましたか?」
少しばかり口をつぐむシャル様がそこにはいた。
いつものシャル様であるならば
「なんもないよーー。」
と元気よく答えてくれるのに、
今日のシャル様はいつもとどこか違った。
「どうしたんですか??」
未だに下を向いたまま、顔を上げようとしてくれない。
「シャル様。私に話してみてください。
どんなことでも、受け入れますから。」
「・・・・・・わかった。」
「アニメが日本から消えたんだ。
あの最高のアニメを作る日本が、
<オタク禁止令>とかいう政府の指揮によって、
新たなアニメを作ることが禁止になり、
アニメ関連の会社はすべて倒産させられたらしい。
さらには、日本の住民が今まで所持していた
アニメグッズなどもすべて没収されていったのだ。
天界にまで来ることはないと思うがな、
でも新しいアニメというのは入ってこない。」
「なんで・・・・・・。
そんな・・こと・・・。」
「私にもなんでかは、わからん。
ただ・・・・」
分けがわからないよ。
なんでそんなことする必要があるの。
アニメがなんで消されなくちゃいけないの?
私の身体の中は、 ほとばしる怒りによって血液がどうにでもなってしまう勢いだった。
「ヒナ。神様として、
万物の流れに反することはできない。
今の俺には未熟ながらなにもすることができない。」
すごく辛辣な表情の中に生気が目の中に宿っているのがわかる。
「でもな、俺はアニメが大好き。
だから、俺はアニメを絶対に、絶対に救う。」
そう語る、シャル様の目は真っ直ぐで、キラキラしていて、どこまでもどこまでも清らかに透き通っていた。
シャル様の願いが、私の願いだった。
だから、私もアニメを救いたいと心の底から思った。
―――――――――――――
「ヒナっ。シャルは死んだのよ。諦めなさい。」
「嘘!!。嘘!!」
ヒナは明らかに動揺していた。
「嘘じゃないわよ。だって、私がシャルを殺したんだもん。」
イトは自らの笑顔をヒナに向けて解き放つ。ヒナは完全に絶望の縁みたいなところにいた。目は茫然とし、身体が小刻みに震えている。
「イトがシャル様を殺った。イトがシャル様を殺った。
イトがシャル様を殺った。イトがシャル様を殺った。
イトがシャル様を殺った。イトがシャルを殺った。
イトがシャル様を殺った。イトがシャル様を殺った。
イトがシャル様を殺った。イトがシャルを殺った。」
「ヒナー。ヒナっ。」
俺と絢音は必死にヒナの名前を呼ぶ。だけど、届かない。
黒い蒸気のようなものがヒナの身体を包んでいく。憎しみや悲しみのような気持ちをすべてしょい込んだような残酷な色をしている。
「ひゃっ、ひゃっ、ヒナーーー。大丈夫ーー??。あの温厚なヒナも悪魔になってるよ。私といっしょじゃん。」
悪魔・・・・・・。ヒナが悪魔に・・・・・・・。
否定をしたかった。あのいつも元気で明るい、天使のヒナが悪魔になるわけはない。
でも、俺の目に写る、ヒナはすべての悪を心に宿したかのような黒く醜い悪魔へと姿を変えていた。