09話 校長の超能力!!!
5時間目の短縮授業の終了を告げる鐘とともに、
俺達の緊張感はよりいっそう高まっていった。
ぞくぞくと生徒達が体育館の中へと入ってくる。
「だりー。」
「早く帰らせろよ。」
「今日こそは校長の話短くなってくれ。」という大きな叫びが、 体育館の舞台裏にまで聞こえてくる。
「おい、入ってきたぞ。どうしよ、どうしよ。」
俺の心の中に緊張というものがむしばんでくる。やはり、怖い。バレるかもしれないという恐怖とともに、みんなと違うことをしていることに対する不安めいたものが僕を襲ってきた。ヒナという天使がいるから捕まえられるようなことはないと思う。 ただ、俺はこのリア充の世界に対しての反逆者となってしまう。 それで本当によいのか、後悔はないのかと少し自分を疑ってしまう。
「望くんはなにも心配しなくて大丈夫です。ヒナがなんとかします。」
ヒナはそう言って、俺の震える手を握ってくれた。なんとも言えない恥ずかしさが俺の中にあったが、不思議となぜか安心させられている自分がいた。
―――――――――
生徒指導の厚田の大きな号令が、かかるとともに生徒達はテキパキと並びだす。
厚田は身長が大きく、筋肉もすごい。顔もそう簡単には慣れることのできないであろう、 いかつい顔をしている。―やはり、アメフト部の顧問をしているだけはある。
きれいにピシッと並んだ生徒達は私語も全くといっていいほどになくなり。体育館は静寂へと包まれた。
「それでは、只今より7月の全校集会を始めようと思います。
まず始めに、校歌を歌いますので生徒の皆さん、ご起立お願いいたします。」
司会進行はいつも副会長が担当する。
生徒達は、校歌の合唱にあまり力を入れないため、起立するスピードというのも自然と遅くなっていく。たまに、めちゃくちゃ校歌を歌いたがり、すぐに起立する人というのは、だいたい大声でオンチである。―それは目立ちたがりやなリア充たちのことであるのだが。
今日も、もちろん。入山高校の校歌の最重要部分である。
「いーりーヤーま、こーこー。」の「ヤ」の高音に対しては、全くあたっていなかった。9割の人は口パクでほとんど声を出していない。リア充たちは難しいことに対して挑戦しようとはしない。なぜなら、ダサいからである。かっこ悪いからである。あえてそんなことはしない。
残りの1割の人たちは、正義感ぶって歌っている人達と、わざとかどうかは分からないが音痴である。いまだ、わが学校の校歌が完璧に歌われているところ見たことがリア充たちは恥ずかしいことをやろうとはしない。
音量が小さい校歌でばれるのではないかと心配したがなんとかバレることはなくやり過ごすことができた。
「続きまして、表彰へと移りたいのですが。」
校歌が終わり、副校長がすすめる。
「今月は7月でありますので、夏休みに入る前の終業式の日に 一括で表彰式を行いたいと思います。そのため、本日は表彰式は割愛させていただきます。」
生徒達は、なんで、嫌、助けて、表彰やろうぜ、など表彰式を実施しようとする声が大きくなっている。
みんなも薄々と感じているのだ。このままだと校長の話を長時間聞いていなくてはいけない。あの、つまらない話を聞いていなくてはならない。―寝ていればいいと思うかもしれないが、寝ることはできないのである。校長の話といのはとてつもなくつまらないがなぜか目が覚めてくる。科学的な根拠はなにもないのだが、ひたすらに目が覚める。校長が話をしている間、寝ている人は一人でさえいないのである。
ただ、ひたすらにつまらない話を聞かなければいけない。校長の話が終わった後、多くの人が多大なストレスを抱えるのである。
ひたすらに地獄の時間と言えよう。
「みなさん。静かにしてください。表彰の時間は飛ばしまして、つぎに校長の話へと移りたいと思います。」
再びのブーイングの嵐である。リア充たちの、みんなでやれば恐くないというのが全力にでている。始めは小さかったブーイングも、次第にに大きくなっていきとてつもなく大きな叫びとなっていく。
「みなさん。落ち着いて、落ち着いて。」
と副校長が言ったところで静まり返らない。わざわざ立ち上がって、今にも壇上に上がってこようという勢いの人もいる。
「おいっ、お前ら止めろ!落ち着け!」
横から現れたのは、おそらく厚田だ。さっきまでの、ブーイングが一気に鳴り止む。
「今から、お前たちの高校のトップに君臨する校長の先生からのありがたいお言葉を頂けるのだから、一回静かにしろっ!!。」
厚田の言葉とともに、生徒達の暴動がピタリと修まる。立ち上がっていた生徒も自然と自分のところに座り。何も起きていなかったかのようである。
それにしても、君臨するって中2病ですか―マジで。
「それでは、校長先生。お願い致します。」
再び、副校長の進行で全校集会が進む。
生徒達の静寂のもと、校長先生が壇上へとゆっくりと上がっていく。自ら、マイクの高さを調節し、咳払いをしてから、
「みなさん。こんにちは。本日も晴れで、非常に暑い一日でした。」
この何気ない一言で、 すでに全校生徒の目がバキッバキッになっている。
なぜ、ここまで目が覚めてしまうのか。 それは、校長の声にあると俺は思う。めちゃくちゃ高い、低いというようなことはない。言うならば、若干低いくらいなのである。ただ校長先生の声は、ツボを押すかのように、人間の脳に対する周波数というのがピタリと合うのであろう。
生徒達は眠くはないのに、ひたすらに疲弊していった。