リサの気持ち
ステージに空いた巨大な穴は修復されまもなくCグループ予選が始まるーー。
「アーサー様とルナまだかなあ」
リサは、そわそわと落ち着きなく動き回っている。
「ルナにアーサーさん取られちゃうとか思ってるでしょう? 」
リリスがリサに唐突な質問を投げかけた。
あまりにも直球な質問に顔を真っ赤にして目を大きくするリサ。
「そ、そ、そんなこと思ってないもん」
「そお、でもルナって可愛いよね。 案外男の人といると積極的かも」
リリスは、リサに意地悪な言葉を投げかけて楽しんでいる。
それを見てメーディアは止めなさいよとリリスを睨んでいる。
メーディアと目が合ったリリスはペロッと舌を出した。
「アーサー様・・・ルナ・・・」
リサは泣き出しそうな顔をしてみんなから離れて行った。
「あっ、リサちゃんーー」
「ほらあ。ーー精霊ちゃん達は純粋なんだからからかっちゃ駄目よ」
メーディアは顔を膨らませてリリスを睨む。
「そんなに怒らなくてもーー」
リリスは苦笑いを浮かべた。
「リサどこに行ったのかな」
「まさか、アーサー様とルナのとこ?」
リサとリリスのやり取りの一部始終見ていたエルザとシルフィーは心配になった。
「Cグループ予選試合開始です!!」
★ ★ ★
控え室から少し離れた人通りの少ない場所にルナとアーサーは居た。
「アーサーさんのその瞳はーー」
「精霊を操ることができるエンペラーアイ、これで君を助けたいんだ」
金色の瞳でルナを見つめるアーサー。
ルナにもその真剣な気持ちは伝わっている。
「私はアクセルに誓ったの。もう他の人にはーー」
アーサーが話に割って入る。
「アクセルが今のルナを見て喜んでくれると思うか? 過去にとらわれて前に進めない君を見て俺なら悲しいよ。いつだって君の笑顔を見ていたいと思う。君が本当に笑顔になれる場所はアクセルの墓石の前じゃなく友達といるここじゃないのか」
ルナはその言葉に何も言い返せなかった。
本当の事だったから。
友達と一緒に居る時間はアクセルの事を少しだけ忘れさせてくれる。
アクセルの事を思い出すと胸を締め付けられていつも涙が溢れる。
だけどーー大切な人のことは忘れたくない。
愛した事実を消し去りたくない。
大好きな人を本気で愛した事実は本物だから。
「友達の側で楽しく過ごしたいーーけど、アクセルの事を忘れたりもしたくない。だから離れられないよ、あの場所から」
アーサーがルナに歩みよりルナの両手を掴んだ。
「アーサーさん・・・」
ルナは一瞬ドキッとした。
そしてルナの胸に両手を押し当てた。
「いつだって君の心にはアクセルは生きているだろ? 墓石の前じゃなくても、どんなに離れていてもルナがいつまでも忘れない限りアクセルはルナの中で生きているよ 」
アーサーは笑顔でルナを見つめた。
「アーサーさん」
一瞬だけアクセルとアーサーがダブって見えたルナだった。
「アーサーさん、私みんなと一緒に居て良いのですか」
「もちろん! みんなも喜ぶと思うよ」
二人は笑顔で話しているーーその場面を控え室から飛び出したリサが目撃した。
「アーサー様とルナが何で? 」
困惑するリサ、さっきのリリスの言葉が頭を過る。
二人は笑顔で人目を避けるような廊下の隅で、
「ルナ何で・・・酷いよ」
リサは涙を凝られてその場を離れた。
「あれ? 誰か居たような」
ルナが一瞬誰か見ていた気配を感じたが気のせいだと思った。
「ルナみんなの所に一緒に行こう。 みんな喜ぶぞ」
★ ★ ★
「ルナもこれからは一緒に暮す事になったから宜しくな」
「みんな宜しくね」
心の支えが取れて笑顔で挨拶をするルナ。
「ルナよろしくなの」
「改めてよろしくお願いします」
エルザとシルフィーは新しい仲間を大歓迎していた。
ーーしかし、
「何で? ヤダよ・・・」
「リサ?」
「何でアーサー様なの? 他の人だっているじゃない。 何で私達が契約してるのに奪おうとするの」
「リサ、誤解してるわ。 私はアーサー様とーー」
「何よ、もうアーサー様はあなたのご主人様なの」
「リサどうしたの? 変よ」
「なの」
エルザとシルフィーもリサの豹変ぶりに困惑している。
「リサどうしたんだい? ルナと一緒に居たくないのか?」
アーサーも困惑しているようだ。
「違う、違うルナと居たくないんじゃない」
リサは歯をギリギリと悔しそうな何とも言えない思いが込み上げてきて涙を溜めている。
「リサ・・・」
ルナがリサに近寄ろうとすると、
「ルナ、アーサー様のこと好きになるじゃない。
アーサー様もルナのこと好きになるんでしょ」
ポロポロと涙を零しながら叫ぶリサ。
溜めていた思いが溢れ出した。
「私嫌なの。 アーサー様が他の人と一緒に居るのが・・・耐えきれないの」
「リサ・・・」
エルザとシルフィーは胸を痛めた。
「私ワガママなの分かってるーーけど、大好きな人を他の人に盗られたくないの」
「リサ、あなたーー」
ルナも同じような経験があるのでリサの気持ちは痛いほど分かる。
「アーサー様が大好きなの。 気持ちを抑えられないの」
下を向き手で顔を覆い、どうして良いか分からず泣き崩れるリサ。
ルナがリサの元に行こうとすると、
アーサーが首を横に振り制止させた。
そして、アーサーはリサの元に行くと優しく頭を撫でてあげた。
「ありがとうリサ。 俺もお前のこと大好きだよ。
けど、エルザもシルフィーも同じくらい好きなんだ。欲張りかもしれないけど俺は一人だけ特別扱いは出来ない。それはわかって欲しい」
「アーサー様・・・」
目を赤く染め涙目でアーサーを見上げるリサ。
「リサ、あなた達のパートナーを取ったりはしないわ。 私はあなた達友達とずっと一緒に居たいだけよ」
「ルナ・・・」
少しホッとした表情に変わったリサ。
「何だかリサだけズルいの」
納得いかないといった憮然とした態度をとるエルザ。
「エルザ? 」
「いつもそうやって自分だけ抜け駆けしようとするの」
「それを言ったらエルザだって甘えん坊キャラか知りませんがいっつもアーサー様にベタベタくっ付き過ぎですわ」
シルフィーはエルザに鋭い駄目出しをする。
「シルフィーすぐおっぱいをアーサー様に見せつけるの」
負けじとエルザが反撃に出る。
「エルザだって胸をアーサーに押し当ててるじゃない」
リサの件はどこへやら二人の口論が始まった、
「アーサー様、エルザとシルフィーを止めなくて良いの」
ルナがオロオロしている。
「いつもの事だよ。ケンカするほど仲が良いって言うだろ」
アーサーは笑いながら二人を見つめていた。
「アーサー様も大変ですね。 三人の女性に愛されて」
「嬉しいような、悲しいような。
ただ、ずっと一緒に居てくれる人がいることは幸せだなと思う。 俺にとって初めて家族ってこんな感じなんだと教えてくれたのはアイツらだから」
ルナは悲しい目をしたアーサーを見て瞬間的にアーサーも何らかのトラウマを抱えていると感じた。
「みんな大切な家族だから何があっても俺は守る。 契約する時に誓ったんだ。俺の命が尽きるまで側にいてやるって」
その声はルナだけでなく精霊たちにも聞こえた。
ありがとう、アーサー様
* * * * * * * * * * * * *
リサは思った。
いつだってアーサー様は私やみんなの事を思ってくれている。
確かに自分だけを見てほしい、自分だけの特別な存在になってほしいと思う。
それでも、アーサー様はちゃんと愛してくれているのは伝わっている。
いつも私のことだって見てくれてる。
どうして私、あんなこと言っちゃったんだろ?
自分に自信がないから・・・
ルナみたいに可愛くないし、シルフィーみたいな大人の魅力もない。
エルザみたいに胸が大きくないし甘えるのが下手だから。
私の魅力って何だろうと考えたら何もない。
一人の女性として見たら私何てみんなに敵うわけない。
私なんて・・・
「そんな事ないよ」
えっ?! アーサー様?
「リサも凄く可愛いし、目も大きくて赤い綺麗な長い髪の毛はサラサラだし。負けん気が強いとこ、ハッキリとした性格はリサの大切な魅力の一つだと思うよ。 俺はそんなリサが大好きだよ」
アーサー様ーー 嬉しいです。
* * * * * * * * * * * * *
「アーサー様、愛してます」
「俺も愛してるよリサ」
見つめ合う二人。
固まるエルザとシルフィー・・・
顔を真っ赤にして見ていられずにいるルナ。
たまらず間を邪魔しに行くエルザ。
「あ、あ、、アーサー様そろそろ試合なの」
リサがいい雰囲気だったのにと口を尖らせてエルザを睨む。
「何、悲劇のヒロイン演じてるの、リサだけ特別扱いはさせないの」
エルザが珍しく早口で周りには聞こえないような小声でリサを威嚇する。
「そうだな! 行こうかみんな」
その時、
ルナがみんなの前に立ち、スカートの両端の裾を摘んでくるんと一回転して見せた。
「改めて光の精霊ルナです。みんなさんよろしくお願いしますね」
「ルナこれからずっと一緒だね。 宜しくね」
リサの元気な声が廊下に響いた。
「Cグループ試合終了です。 勝者ランスロット選手ぅぅ」
実況アナウンスが流れてきた。
「さあ、俺らの出番だ! 親父に俺のチカラを見せつけてやるぜ」
ーー アーサーと精霊たち始動 ーー
誤字修正しました。




