S・手作りの愛情
ショートストーリー
空が燃えるように真っ赤に染まる、世界は間も無く闇に包まれようとしている。
「そろそろ晩御飯かあ」
「晩御飯なの、今日のおかずは何かなあ」
エルザは、よだれを拭きながら今日の晩御飯を思い浮かべている。
朝、昼、晩と毎日ほぼ三食ミーナの喫茶店で過ごしている。
きっと本当なら莫大な金額を支払うことになっているのだろうがかなり大目にみてもらっている。
いつかは、何らかの形でお返ししないと。
そんな事を考えながらボーッとキッチンを見つめていた。
「俺も料理を作ってみようかな・・・」
アーサーから思わず声が溢れた。
その言葉を精霊たちが聞き逃す訳がない。
ここぞとばかりに目を輝かせアーサーに女子力アピールが始まった。
「アーサー様あ、リサが晩御飯を作ってあげます」
「エルザが、おいしいの作ってあげるの」
「ふふふ、私にお任せ下さい」
三人は、そう言い残すと物凄い速さで家から飛び出して行った。
( ミーナの所に行ったんだな・・・ )
三人の居なくなった家は、物凄く静かでいつもよりも少し広く感じた。
お腹の虫が鳴く、喫茶店に行ったんならそのままご飯を食べれば良いのにと思うと虚しく感じる。
「お腹空いたなあ・・・」
★ ★ ★
「アーサー様に手づくり料理を作ってあげたい!!」
「なの!」
「ですわ!」
喫茶店に来るなりミーナに物凄い勢いで詰め寄る三人の精霊たち。
「ーー分かったらそんなに睨まなくても」
苦笑いを浮かべて後退りするミーナ、さすがに少し引いている。
「実は私、料理を一回も作ったことがないのよ」
「エルザもなの・・・」
「私もですわ」
三人は、肩を落としうつむいている。
無理もない、本来精霊は食事をほとんど取らないので料理をする習慣はほとんどない。
種族によるかもしれないが人間よりも小さい彼女たちはそれに当てはまるのだ。
そんな彼女たちを見てミーナは三人を抱き抱え、
「あなた達は本当に可愛いくて純粋で素直で見てられないわよ、お姉さんは」
ミーナは、笑顔でぎゅっと抱きしめる。
「ミーナ、痛いよお」
リサは、嬉しいそうに笑いながら痛がる仕草をした。
「良し! お姉さんがあなた達の為に人肌脱ごうじゃないか」
腕まくりをして力こぶを作るミーナ、その白くて細い腕には力こぶは出なかったが三人の精霊たちは満遍な笑みを浮かべ目を輝かせ尊敬な眼差しをミーナにおくった。
「お兄ちゃん、今日はお店お終いよ」
遠くで物が落ちる音と誰が転ぶ音が聞こえた。
★ ★ ★
「あなた達は、体が小さいから包丁で物を切るのも大変よねえ」
体に包丁を抱き抱えて野菜を切ろうとするリサだがふらふらして目標を定められない。
「こっちのナイフにしてみたらどうかしら」
エルザは、ナイフを持ってみるとリサの包丁に比べたら持ちやすそうだ。
「こっちなら上手く切れそうなの」
エルザがナイフで玉ねぎを切りに行くがナイフが当たった瞬間に転がり逃げて行く。
「あらら、そうよね。切りたい対象物をしっかり押さえないと上手く切れないし怪我をしてしまうわ」
ミーナは、三人を見つめてポンと手を叩き閃いたような顔をした。
「一人、一人では無理だけど三人チカラを合わせて料理を作りあげれば良いのよ。
アーサーさんを喜ばせたい気持ちは三人とも同じはずよね」
三人は、顔を合わせてうんと頷き気合いを入れ直した。
たまねぎをみじん切りにし、いためてよく冷やす。
「たまねぎの甘みを引き出すためにも、一旦いためておく方がいいのよ」
たまねぎが透明になるくらいまでいためる。
挽き肉は熱に非常に弱いので、たまねぎをいためた後はよく冷ましておく。
挽き肉に玉ねぎ、パン粉、溶き卵, 塩、こしょうをいれる。
材料を全部いれ、混ぜ合わせます。
全体が均等になるように手でよく混ぜ合わせる。
三人は、ミーナの言う通りに一所懸命調理する。
シルフィーがボールを押さえ、リサとエルザが卵を割る。
かき混ぜる時も交互に順番に手では混ぜれないので泡立て器を使う。
混ぜたタネを焼くときの大きさに分けてまとめる。両手でキャッチボールするように何度か投げてタネ内の空気を抜いておく。
「焼いたときにタネが割れにくく、きれいな仕上がりになるのよ」
ミーナが、お手本で軽快にやってみせる。
三人の精霊たちも見様見真似でやってみる。
「多分、あの形なんだろうけど・・・」
ミーナは三人が三人とも不恰好な同じ形のタネを作っていたのを見て笑いを堪えていた。
油をひいて熱したフライパンの上にタネをのせて片面焼く。
焼く前に、タネの中心部分を少しくぼませておく。
タネを焼くときは中火で焼きます。
弱火だとタネの中まで火が通らない、強火だと表面が焦げてしまう。
片面が焼きあがったら、ハンバーグを裏返して蓋をして蒸し焼きにする。
串を刺してみて、いい具合の肉汁が出てくれば完成! そうーー精霊たちは、 ハンバーグを作ってたのです。
最後まで三人は、パン粉だらけになりながらも めげることなく一所懸命頑張ってハンバーグを作り上げたのです!
「やったあ、出来たあ」
「アーサー様に届けるの」
「初めてにしては、よく出来たと思いますわ」
三人は、 満遍な笑みで手を繋いで飛び跳ねて喜ぶ。
「三人ともよく頑張ったわね。大成功よ」
ミーナは、三人を誇らしく見ている。
「ミーナ先生ありがとうございました」
三人は、一緒に深々と頭を下げた。
「どういたしまして」
ミーナは、三人が喫茶店を飛び出して行った後、思い出し笑いを浮かべた。
アーサーさんは、ハンバーグが何の形か気づくだろうか?
「どう見ても・・・フフフ」
★ ★ ★
「今何時だ? 俺寝ちゃったのか」
重たい瞼を擦りながら周りを見渡すと テーブルの上に不恰好な料理が置いてあった。
その近くで眠っている三人、アーサーに早く食べさせてあげたいと待っていたのかと思うと健気である。
「美味しそうな匂い、この形は・・・ウサギかな? よく出来ているじゃないか」
アーサーは、三つ並んでいたハンバーグを一つ摘んで口の中に入れた。
「美味い! めちゃ美味しい」
そのまま三つとも直ぐにペロリと平らげでしまった。
アーサーにとっては、一口ハンバーグなのだが彼女たちにしてみれば自分の顔と同じ位の大きさのハンバーグを作っていたのだ。
アーサーは、このハンバーグを作るのにどれだけ頑張ったか、自分に食べてほしいただそれだけの為なのに慣れない料理をして・・・彼女たちの頭やメイドのような妖精の服は汚れたままだーー。
アーサーは、そっと三人の耳元で小さな声で起こさないように呟いた。
「ハンバーグ美味しかったよ。ありがとう」
三人の寝顔が笑顔になった気がした。
三人の作ってくれたハンバーグはウサギじゃなくて愛情が沢山詰まっていた。
アーサー様、またいっぱい愛情をお届けしますね。
おわり。




