死闘ホーエンハイム2
ホーエンハイムの状況は最悪の事態を迎えていた。
大天使 マリアの加護は消え、城門は突破された。
キャットハンズの大半は負傷しそして今、アーサーも倒れてしまったのだ。
クルセイダーズも五百余りいた軍勢も残り三分の一程までになってはいるが、ホーエンハイムの今の状況下では厳しい。
「アーサー様ぁぁ、大丈夫ですかあ」
「アーサー様、お気を確かに」
「あーさー様ぁぁ」
三人の精霊が必死に倒れたままのアーサーに呼びかけるが全く反応がない。
「私、ルナを呼んで来る」
「それが良いですわね。疲労や体力低下なら回復魔法で治りますわ」
ルナは、現在後方で傷ついた兵士の治療に努めている。
「しかし、この状況はかなり危険ですわ。
城門前で必死に防いで国内にクルセイダーズを進入させないように食い止めていましたが、アーサー様やカスケード様が倒れてしまわれた事により戦力的にもいつ進入されてもおかしくない状況ですわ」
シルフィーが眼鏡を指で押さえながら前方で必死に戦うキャットハンズの兵士達を見ながら言う。
「あーさー様・・・大丈夫かなあ」
アーサーの顔を覗き込みながら今にも涙が溢れ出しそうなエルザ。
「心配ないわよ。アーサー様は強いお方よ、この程度では問題ないですわ」
エルザの頭を撫でながらシルフィーは優しく微笑む。 本当はシルフィーも心配でたまらなかった。
肉体的な疲労は回復魔法で治療出来るが精神的な疲労やダメージは回復出来ないのだ。
ギリギリの精神状態で、魔法を使い続けたのであればかなりの精神的ダメージが蓄積されているかもしれない。
最悪の場合は目を覚まさない可能性も否定出来ない。
実際、悪魔族に支配された人間はその肉体や精神が尽き果てるまで使われ続ける。
悪魔から解放された人間は、体力が戻っても精神的な部分は欠落したまま二度と戻ることはなかった。
「・・・大丈夫よね」
「えっ?」
エルザは、目を丸くしてシルフィーの顔を見つめた。
「何んでもないわよ、あなたはアーサー様の側にいてあげなさい」
シルフィーはエルザのふわふわな頭をポンポンと叩く。
今回のアーサーのケースはどうだろうか。
大天使 マリアの加護が剥がれてクルセイダーズに攻め込まれている状況を目の当たりにした。
戦場で傷付いても尚も立ち上がり戦うキャットハンズの姿。
悪魔族のサタンやその部下が背後で薔薇十字クルセイダーズを操っていること。
怒りや自分のチカラのないもどかしさ今まで経験した事ない戦場、さすがに精神的に参ってしまうのも無理はないのかもしれない。
シルフィーは、アーサーに寄り添っているエルザの姿を細い目で見ながら、何も出来ない自分のチカラの無さを感じていた。
★ ★ ★
電光石火の速さで次々に敵を倒すメルル、仲間を倒された事により暴走気味に暴れている。
「メルル様、危険ですにゃ。あまり無意味に突っ込み過ぎると・・・」
三毛猫たまが暴走気味のメルルに呼びかけるが全く聞こえていない。
今、 キャットハンズは十二名程で戦っている。
傷付いた兵士は、ルナにより治療してもらいまた戦場に向かう。
体力的には問題ないがやはり精神的ダメージは拭えない。
彼らを支えているのは国や仲間を助けたいという思いだけで動いているのだ。
「くっ、メルル様に続けええ」
「にゃん!!」
たまは、出来るだけ体力を温存して粘る作戦をとりたかったのだがどんどん先走ってしまうメルルを放っておけず、攻める方向に行くしかなかった。
「いつまで遊んでいるのだ? メフィストが帰って来てしまうぞ」
ペダランは、血相を変え居ても立っても居られない状況だった。
「奴らかなり粘りまして城門を破壊して一時国内には潜入しましたが再び城門前で固く守られてしまっている状況です」
クルセイダーズの一人が説明する。
「ーーあまり使いたくなかったが私が行こう」
そういうとアジトらしきテントの中から出て城門の方へクルセイダーズ数人を率いて向かって行く。
戦況は、先ほどは変わらないが城門前より更にクルセイダーズ達は攻めてくるキャットハンズに押され後退していた。
「このまま押し切るにゃん」
メルルが剣を天に掲げて行くぞとみんなに合図を送った時だったーー。
クルセイダーズの遥か後方で何やら光輝くようなモノが見られた。
「高魔力が感じるーー メルル様ヤバイです。退却して下さい」
「メルル様ぁぁぁ退却ですにゃ! 退いて下さいにゃ」
ミントとたまは、大声で叫んだ。
しかしーー ペダランから魔法が放たれる。
「ヤバイ! メルル様ぁぁぁ」
メルルは、その魔法攻撃に全く気づかずに真面に受けてしまった。
「ーーーー!!」
「メルル様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
三毛猫たまの叫び声が国中に響きわたる。
メルルは、攻撃を受けてやっと我に返る。
自分の感情任せで無暗に突っ込んで行ってしまった事、それにより周りを混乱に巻き込んでしまった事、 自分がいかに愚かだったか。
「メルル様・・・」
「にゃ、にゃ、、すまないにゃ、迷惑かけたにゃ」
メルルは、 攻撃を左側から腹に真面に受けていて血を口から流し、 左側は焼けて黒ずんでいる。
「誰かメルル様をルナのところに至急運んでくれニャ」
三毛猫たまは、唇を噛み血が流れた。
今まで自分たちを率いてくれた人がやられてしまった。 仲間がやられてしまった。
「ミント!」
「分かってるにゃんよ! ミケミントコンビにゃんよ」
ミントは、首を横に向けてバキッと鳴らした。
たまも軽く身体をほぐしている。
「ここで、最悪俺らが刺し違えてもアイツを殺れば残りはクルセイダーズの残党のみ。
残りはキャットハンズのメンバーでも倒せるのにゃ」
「ミケミントコンビ!やってやろうぜ!」
「ニャン!」
たまとミントはハイタッチしてお互いの健闘を祈ると、 二人で息を合わせたように一緒に駆け出しペダランに向かって行った。
ペダランは、連続で何発も魔法を放つが二人は、 的を絞らせないように動き回り撹乱させる。
「ちょこまかと、目障りなーー」
攻撃が当たらないことに苛立ちを隠しきれずにいるペダラン。
「行くぞ、 ミント!」
「ニャン!」
二人のスピードが加速するーー、
「ーーーー!?」
ペダランの前に一瞬で移動したかと思えば残像だけを残し二人は消えたように移動する。
次の瞬間、ミントは真横に高速で切り捨てるーー たまは、ペダランの周りを回転しながら縦横無尽に斬り刻む。
「ーーーーーーッ」
ペダランから血が噴き出す。
「やったニャン」
後方にいるキャットハンズからも歓声があがる。
ペダランは、血が吐き全身から血が溢れながら崩れ落ちかけた。
その時ーー、
「あらあら、何やってるの猫ごときに本当人間って弱い生き物でもろいわ」
少女がゆっくりと歩いて来るのが見えた。
「人間に少し魔力を与えたところでこんなモノか? だけどまだこんなところでくたばってもらっては困るんだよペダラン」
ペダランに向かい少女は掌をかざすと、ペダランが輝きはじめ傷が癒えるーー。
「猫ども悪いが忙しいんでね。 これ以上は遊んでられないんだよ」
少女はゆっくりと前に歩いて来る。
「ーー 絶望に震えよ」
ーー メフィストが絶望を与えるーー




