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三人の精霊と俺の契約事情  作者: 望月 まーゆ
おやつタイム
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S・私たちの喫茶店

ショートストーリー


まだ、街中の誰もが眠っているような時刻、ミーナは眠い目を擦りながら起き出す。


喫茶店の朝は早いのだ。


この喫茶店は、 ミーナと兄の二人で切り盛りしているのだ。

ミーナの兄はコックで料理が凄く上手で一時は帝国のレストランで調理師をしていた程なのだ。

しかしーー 両親が亡くなりミーナ一人で両親の残した喫茶店を続けるのは困難と考え故郷に帰って来たのだ。


ミーナは、 幼い頃からずっと喫茶店でお手伝いをしていた。

朝、 まず何をしなければならないとか、 開店までに何をしておくとか全て習慣で覚えている。 ずっと働く両親の背中を見てきたからだ。


「おはよお、 ふああ。 眠い」


「おはよ。 お兄ちゃん」


朝から二人で調理台に立つものすっかり日課になっている。

ミーナは、 店自慢のケーキの生地作り。

兄は、 ランチの下ごしらえの準備に朝からせっせと働くのだ。


本当なら今頃は、 帝国や世界で活躍するようなコックになっていたかもしれないのに。

私が一人前になって一人で自信を持って喫茶店は任せてと言えればお兄ちゃんは自分の夢を捨てずに済んだのに・・・


「おい! ミーナ手が止まってるぞ」


「あっ、 ごめん」


慌てて、 泡立て器で生地をかき混ぜるミーナは顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。


ミーナの兄はそんな妹をいつも心配で仕方なく愛おしく、 頑張ってる妹が何よりも自分の支えになっている。


「頑張り過ぎなんだよアイツは・・・」


ランチの下ごしらえをしながら誰も聞こえないような小さな声でミーナの兄は呟いた。


両親が亡くなりミーナは一時、 一人で喫茶店を営業していた。

ケーキ作りにランチの準備にコーヒーを入れたり運んだり、 閉店後の片付けなど全て一人でこなしていたのだ。


兄は喫茶店を営業していることは知らなかった・・・


そしてーー 事件が起きる。


ミーナが疲労で倒れてしまったのだ。

慣れない仕事と店を続けなければならないという精神的なストレスで心と体は現界になっていたのだ。


倒れた連絡を聞きつけ慌てて故郷に戻る兄は、 ミーナを怒鳴りつける。


「何故相談しなかった? 父さん母さんが残してくれた大切な店を勝手に営業して、 どう言うつもりだ」


「・・・じゃあ、 私が喫茶店をやりたいと言えばお兄ちゃんは許してくれたの? やらせてくれたの? うんん。 ダメって言うに決まってる」


「それはそうだ。 お前にはまだ早過ぎるしお前に何が出来るんだ」


「お兄ちゃんは、 知らないだけよ。 ずっと家にはいなかった。 自分の好きな事だけやってそのまま家を出て行って、 その間一度だって帰って来なかったじゃない。 お父さんやお母さんやこの喫茶店の事なんて何も知らないじゃない。 ずっと手伝って来たのは私なのよ」


ミーナは、 涙を流して唇を噛みながら悔しがった。 兄は何も知らないのにいつも知ったような事をいうからだ。


「お父さんやお母さんが倒れたときだってそうだよ。 帰ってきてほしいときに、 いつだってお兄ちゃんはいなかった。 家族よりも自分の事のが大事なんだよ」


ミーナは、 ほっぺたにピシャリと平手打ちをもらい頬を赤く染めぴりぴりと痺れるように痛みが走った。


「何するのよ!」


ほっぺたを抑えながらミーナが叫んだ。


「俺は何時だって家族や喫茶店のことを考えてたさ。 いつも戻りたい帰りたいと思ってた。 この国を出るときに一人前になるまでは何があっても帰らないと心に誓って出て行った。 覚悟が無ければ一人前には慣れないと思ったからだ。 いつか一人前になってこの喫茶店に戻ってきてその時は父さん、母さんに楽をさせてあげよう。 夜はレストランにして俺の経験を活かしていこうなんてずっと思ってやってきたんだ・・・ 俺が何よりも大切な・・・家族を・・・忘れたりするわけないだろ」


兄の涙をミーナは初めて見た・・・


「おにいちゃん」


ミーナは、 自分が言った言葉を後悔した。

何かをやるには自分には覚悟が足りなかった。 まだまだ自分は子供なんだと改めて感じたのだ。 気持ちだけではどうにも出来ない事を改めて思い知らされたのだ。


「ミーナ、 俺はここに帰るよ。 そして一緒に父さん、母さんが残したこの喫茶店を一緒にやろう」


「お兄ちゃん」


ミーナは兄に抱きいつまでも涙を流して喜んだ。


★ ★ ★



それからのミーナの努力は、 凄まじかった。


本格的にお菓子作りの勉強をし、 コーヒーの豆の知識や入れ方などを他国に行って学んだりしてきた。


兄には、 頑張り過ぎ、焦り過ぎのように感じまた倒れてしまうのではないかと心配していた。


しかし、 最近仲の良い友達が出来たのか凄く楽しそうに毎日を過ごしているのだ。


うるさい位笑い声絶えない店内、 ここ最近では見た事ないミーナの笑顔。


その友達に食べさせてあげたいと新作を考えるのが楽しみのようなのだ。


「友達? 凄く可愛い三人の女の子なのよ。

毎日来てくれるのよ。 お話しても凄く気が合うの」


笑顔で開店準備をしながら友達の事を話すミーナ。


「お兄ちゃんオープンするよ」


店の入り口の札をクローズからオープンにかけ直す。


「いらっしゃいませえ」


今日も元気にウエイトレスのミーナの元気で明るい声が店内に響き渡る。


喫茶店の名前をまだ知らないって?


「ようこそ喫茶店 シェ モワへ」

< 帰ってくる 場所 >




おわり。

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