掛け違いのボタン
気付いた時には、俺は自分の部屋にいた。
何も変わってない、いつも通りの自分部屋だ。
鏡に映る自分の姿を見ても何も変わっていない。
ただ少し頭がぼーっとし、忘れてはいけないとても大切な事があるような気がする。
思い出せそうで思い出せないでいる。
とても気持ち悪い感覚だけが残っている。
「アーサー様」
ちょんと袖を引っぱられて我に返る。
三人の精霊が心配そうに見つめている。
「リサ?・・・そうだった!
俺たちはマーリンに呼ばれて時と空間の狭間の世界に行ってたんだ」
「その通りですわ。あの世界を経由すると記憶が曖昧になったりするみたいですわ。
最初に時の砂の魔法を使ってリセットされた時も記憶を忘れていたりしていましたから」
シルフィーが眼鏡を押し上げながら説明をする。
「とりあえず、俺の部屋にいるって事だな。
日付を見る限り、前回の世界でお前達に会うことになるよりも半年以上も早く出会った事になる訳だな」
「はい。この時点で既に前回の世界との食い違いが生まれていますわ」
「前回の世界では私たちはまだパートナーを求めて人間界を彷徨っていましたから」
リサが思い出したくない過去を振り返って頭を抱えている。
「ーーでもそのおかげでアーサー様に出会えたから凄く嬉しいの」
エルザは万遍の笑みを浮かべてアーサーにしがみ付く。
二人もそれを見て、
「そうですわね。運命の出会いですわ」
三人は改めてアーサーの感触を確かめるように抱き付いた。
暖かい温もりと体温、あの日の冷たいアーサーじゃなかった事にやっと安心出来る三人だった。
もう二度離したくない。
愛する人が目の前で冷たくなって行くのを二度と見たくはないと心に強く刻むのだった。
☆
ーー部屋から出ると偶然。
「お前が最近家から出てはどこか通っていると聞いてはいたのだが?」
丁度良かったと、兄フレディがアーサーに問いかける。
「あっ!アーサー様のお兄様なの」
ポンッと、アーサーの体の中からエルザが具現化して飛び出した。
「何?精霊だと」
突破現れた精霊に驚くフレディ。
「アーサー様のお兄様お久しぶりなの」
エルザは笑顔で挨拶をする。
「お久し・・・ぶり?」
フレディは心当たりを思い出すが精霊に会った記憶は無く混乱している。
アーサーはややこしくなったと頭を抱えている。
「チョット、何の騒ぎ?」
ガチャっと、ドアが開く音がして部屋の中から露出度の高い真っ赤なワンピースを着飾った姉のミランダが現れた。
「あーー!お姉様なの」
エルザはミランダに抱き付く。
「何?この馴れ馴れしい精霊は」
ぐえ。
首根っこからエルザを摘み上げるミランダ。
アーサーは更にややこしくなったと、
パニックに陥ったーーーー。
☆ ☆ ☆
アーサーはミランダとフレディを応接間に呼び出しこれまでの経緯を一から説明する。
三人の精霊と初めて契約した時の事から金色の瞳、シーサーとアヴァロン王国、円卓の魔導士、デーモンズゲート、邪竜アポカリプス、反帝国軍バンディッツ、魔女狩りと魔法王国クリスタルパレス、母の事、そして最後にメイザース、クローリー、ローゼンクロイツの裏切りにより世界の破滅に向かい全員死を迎える事をーーーー。
しばらく沈黙が続く・・・
ぷ、、ぷぷぷ
くっくくく
「ちょっ、ちょっとフレディ笑ったら可哀想よ」
「姉さんこそ・・・ハハハハハ」
最初こそ二人は堪えていたがその後、腹を抱え大笑いしていた。
「あーー、おかしい。
アーサーあなた小説家になれるんじゃない」
何で笑われているか全く理解できないでいるアーサー。
三人の精霊もただただポカンと口を開けているだけだ。
「お父様がアヴァロン王国の王で、母さんがマーメイドプリンスだってーー」
二人はまた大笑いしている。
アーサーは全く状況が呑み込めないでいる。
「チョット、何がおかしいんだよ?」
その言葉にフレディとミランダは顔を合わせる。
「アーサー、あなたマジでこの話をしている訳?」
ミランダが真剣な表情でアーサーを見つめる。
「本気で話をしているから二人をここに呼んで話をしているんじゃないか。
こうして精霊たちも連れて」
またフレディとミランダは顔を見合わせる。
二人はまだ納得はしていないようだが、
あまりのアーサーの真剣さに負けたのか話始めた。
「そもそも、アーサーあなたは何で精霊と契約したの?」
「何でって、俺は生まれつき魔力が無くーー」
ミランダはため息を吐きながら、
「ウチの家系始まって以来の天才魔導士のあなたが何を言ってるの?
よく自分の魔力を感じてご覧なさい」
マジマジと自分自身の魔力を感じてみる。
「う、嘘だろ?金色の瞳を使っていないのにそれ以上の魔力を感じるよ」
三人の精霊もそれを見て驚いている。
「確かにこの世界で改めて契約してから何と無く違和感は感じていましたわ」
リサ、エルザも頷いている。
「これだけの魔力がありながら精霊と契約していたんで逆に驚いていたんだ。しかも、三人も」
「それと、お父様はウチにお住まいで、お母様もマーメイドじゃなく健在でウチにお住まいよ」
は?
これにはアーサーも三人の精霊も目が飛び出るほどの驚きだった。
「アーサー・・・本当に大丈夫か?」
フレディがさすがに心配そうにアーサーを見つめる。
「ちょっと記憶喪失か何かかしら?
お父様とお母様呼んでくるわ」
アーサーと三人の精霊は顔を見合わせ、
何が何やら全く分からないていた。
☆
「・・・何でまた精霊と契約したんだ?」
頭を抱えるシーサー。
「そうですわ。今週末にはセラフィム王国の長女との縁談の話もありましたのに」
初めて見る母親はとても美しい人だった。
ミランダ姉さんに少し似ていて少し切れ長の目に長いブロンドの髪、口元もキリッとしている。細くすらっとした体型に膨よかな胸を強調したドレスを着ている。
とても三人の子供を産んだ母親には見えない。
「アーサー自分が何をしたか分かっているのか?キャメロットの国を揺がす大事態だぞ」
いつも通りのシーサーの顔をしているが口調や態度がかなり異なる。
何だか凄く王らしい。
本来はこれが普通かもしれないが。
「お父様、これには深い訳があるんです」
ミランダが間に入り、アーサーの記憶喪失の疑いがある事を説明する。
「まあ、記憶喪失なんて大変!
すぐに医者をお呼びして」
アーサーの母メリュジーナが大慌てで使用人を呼び出す。
「まあ待て!」と、シーサーがメリュジーナを制止する。
「アーサー、本当にお前記憶が無いのか?」
シーサーが凄い勢いでアーサーを直視する。
この迫力は今までのシーサーと変わらない。
嘘を付くのも変なのでありのままを言う事にした。
ミランダとフレディに説明した通りに、
未来の世界が崩壊したから、マーリンの時の砂の魔法で過去に戻り世界の崩壊を今度こそ防ぐと、
・・・・・・・
シーサーは顎に手を当てじっと目を閉じている。
メリュジーナはなぜかハンカチを取り出し口元に手を持って涙ぐんでいる。
「今すぐ医者を呼んでこい!!!」
ーー この世界は何かがおかしい ーー




