PM20:00・A地点
ーー A地点ーー
上空から魔法攻撃を放ち、ゾロアスター教の動きを止める。
さらにヴァニラ特有の魔法を広範囲に展開させ約2万人程の敵を足止めすることに成功した。
それでもまだ約3万の敵が残っていた。
キルケーはゆっくりと上空から降りて、
ゾロアスター教の先頭の前に立ちはだかる。
キルケーが箒から降りたのと同時に、
ゾロアスター教の兵士たちの列が左右に割れ、真ん中に出来た通路から一人の少女が歩いて来た。
「クローリー・・・」
「やあ、キルケー久しぶりだね。
ずいぶんと成長して大きくなったね」
「ハハ、相変わらずぺったんこだよ」
と、自分の胸をペタペタと触った。
「お前がここに来ると思っていたよ」
「私もこの日のために生かされてきたと思っている」
クローリー、キルケーの魔力が膨れ上がる。
「な、何なのこの魔力・・・ウソでしょ」
ヴァニラが後退りする。
今までに体験したこの無い魔力だ。
「ヴァニラ悪いけど他の敵の足止め頼むよ」
「う、うん」
「クローリー、初めから全力で行くよ!」
キルケーが魔力のリミッターを外す。
空気が震える程の膨大な量の魔力を纏う。
「ほう、これはコッチもその気にならないとヤバイね!」
クローリーも魔力を解放する。
キルケーのそれを上回る魔力量だ。
「ちぇっ、やっぱバケモノだな。
けどーー、足止めはさせもらう!!」
キルケーは一瞬でクローリーとの間合いを詰め、
「疾風の大鷲」
「遅い、動きが見え見えだ」
魔法障壁がクローリーの目の前に現れ、
キルケーの風の衝撃波を弾き飛ばす。
間髪入れずに後方に回り込み、顔面目掛けて蹴りを入れるが、クローリーの右腕でガードされる。
そのまま後方に回転しながら距離を取り無演唱のカウンターで魔法を放つ。
「炎の暴風渦」
クローリーを炎の渦が包み込んだ。
ーーが、クローリーが手を払い除けた瞬間に炎は跡形も無く消え去る。
瞬きする間も無い攻防だった。
少し離れた場所で敵の足止めをしていたヴァニラには何が起こっていたのか分からなかった。
ヴァニラは円卓の魔導士の一人年齢は不明である。
何よりの特徴はピンク色の髪の毛だ。
まさにキルケーと同じである。
腰までの長い髪の毛をしていて、常に眠そうな目をしている。
何より普段からふわふわと浮遊している。
それだけで魔力をかなり消費していると思うのだが、彼女にとってはそれが普通らしい。
ヴァニラの幻術魔法は「魅了」だ。
広範囲で敵を自分に見惚れさせる。
または、混乱させる。
男性であればほぼ100%魅了させる事が出来る。
薔薇十字軍のほぼ全域にヴァニラの幻術魔法が拡散し今現在、誰一人動くことすら出来なくなっている。
但し効果は一時的なものである。
「私に挑んでくるからどれ程腕を上げたのかと思ったがその程度か?」
「いやいや、準備運動に決まってるだろ?」
苦笑いを浮かべるキルケー。
「私もお前に付き合ってやる程時間が無いんだ。本気でこないなら私から行くぞ」
クローリーの魔力で冷酷で張り詰めるような空気に変わる。
「奥の手は最後まで取っておきたかったけど、やるしか無いか」
目を閉じ集中するキルケー。
すると、キルケーの背後に扉の様な立体魔法陣が浮かび上がる。
『輪廻の扉』
クローリー同様にキルケーも悪魔を憑依させ魔力量のスペックを上げていたのだ。
但し、クローリーと違うのは単純に体を捧げた訳ではない。
この輪廻の扉により段階的に魔力を借りれる量が決まっていて、借りた分だけの代償を支払う事になる。
仮りに全開に扉を開けば悪魔の力を全て借りることになり代償はキルケーの存在全てに相当する。
キルケーが契約しているのは悪魔サマエル。
死を司る天使として死者の罪を容赦なく弾劾し慈悲の欠片もなく刑を執行する。
『闇の支配者』『神の悪意』などと呼ばれている。
「クローリー、覚悟しろよ!」
禍々しいオーラがキルケーを包み込む。
「・・・馬鹿なことをしやがって」
クローリーの背後に悪魔の姿が現れる。
「アスモデウス力を借りるぞ」
冷酷な闇のオーラがクローリーを包み込む。
「漆黒の炎」
黒い闇の炎がクローリーを襲う。
「終焉の凍結」
氷竜の爪が闇の炎を打ち消した。
離れた場所から見ていたヴァニラは開いた口が塞がらなかった。
「私の知らない魔法なんだけど」
常識を超えたキルケーとクローリーのオリジナルの魔法が展開していく。
悪魔の力と悪魔の力のぶつかり合いであり、
どちらがどれだけの代償を悪魔に支払うかの駆け引きになっていた。
もはや、自分の命を捧げた方の勝ちと言っても良い戦いだ。
もともとの魔力量が高かったクローリーにアドバンテージがあるのは確かだが、サマエルの悪魔の力を手に入れたキルケーの魔力量はそれに匹敵するモノであった。
さすがのクローリーも焦りの色を隠せなかった。
そのため、オリジナルの大魔法まで披露しているのだった。
「全属性では無いけど、確か光と地属性以外は全て魔法が使えるとか言ってたな」
キルケーは掌に空気を圧縮させる。
「ーーならば、風属性はどうかな!!
悠久の風」
圧縮された空気の塊が大砲の砲弾のようにクローリー目掛けて放たれる。
「私を見くびるなよ!」
魔法障壁を二重に張り、キルケーの魔法をガードする。
「貫けええぇぇぇぇ!!」
魔力の出力を最大に上げる。
魔法障壁の1枚を粉々に粉砕させる。
クローリーに焦りが伺える。
「くっ、、作戦の遂行の為仕方ない」
クローリーは目を閉じる。
一瞬意識を失ったのか、魔法障壁が消えキルケーの魔法が直撃する。
クローリーの口から鮮血が飛び散る。
「よし!チャンスだ」
即座にクローリーの目の前に移動しトドメの攻撃体制に入る。
ーーが、
「ーーーー!!!」
キルケーは危険を察知する。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ
何がとかじゃなく感覚で分かる。
真面に戦ってどうにかなるレベルじゃない。
今何をすべきか即座に頭の中を切り替えて考える。
「ヴァニラ!!」
キルケーは大声で叫ぶ。
「な、、何よ?」
ヴァニラも危機的状況を把握している様子だ。完全にパニックになっている。
「すぐにこの場から立ち去るんだ。
出来るだけ遠くに、、早く!!」
ダメだ。
もう間に合わない。
そうだ、こんな時のために・・・
「ヴァニラ、お前だけでも・・・」
「えっ?何言ってんのよ」
キーリングをヴァニラに向けて投げる。
ヴァニラはそれをキャッチする。
複雑な魔術が付与されている。
「早く逃げろ!」
「キルケーも一緒に早く」
キーリングが輝き始める。
魔術付与が刻まれた文字が立体魔法陣になり浮かび上がる。
「私はコイツとのケリをつける使命がある」
「そ、そんな・・・嫌よ。おねーー、」
キーリングの魔法が起動しヴァニラの姿が消え去った。
もしもの為に持っていた緊急離脱用の魔法アイテムだった。
キルケーはヴァニラが無事に脱出したのを確認すると、視線をクローリーに移す。
目の前のクローリーは口から牙、背中に蝙蝠のような翼を生やしている。
人語では無い言葉を叫んでいる。
クローリーは自身の身体を完全に悪魔に乗っ取られてしまったようだ。
「参ったね・・・私も悪魔化しなきゃ、コイツに勝てる自信がないわ」
人差し指で頬を搔く。
もし悪魔化して理性を無くしたら、もう元には戻れないかもしれない。
そうなったら誰が私を止めてくれるのだろうか。
クローリーのようなバケモノと同等かそれ以上のバケモノになる可能性がある。
それを止める事は可能なのだろうか。
「いや、完全に悪魔化は無理だ。
これ以上誰かに負担をかける訳にはいかない」
キルケーは輪廻の扉を8割開放した。
これがキルケーの考える限界だった。
体の至るところを悪魔に持って行かれた。
キルケー自信が唯一自分で操作出来たのは心のみであった。
それでも自分自身を保っていられた。
まだ自分は人間だと理解出来ていた。
完全に悪魔になりきれないでいるキルケーにもはや勝ち目など残っていなかった。
それでも最後まで人間でありたかったーー。
ごめんね。
メーディア・・・君を自由に出来なくて。
ごめんな。
ヴァニラ、自分に自信をもって胸を張って生きろよ。
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キルケー。
優しい聞き覚えのある声が聞こえる。
懐かしい声。
暖かい声。
声のする方へ振り返る。
そこには、
お母さん!!
何度も何度も謝りたかった。
あの時、言う事を聞かなかった事。
一緒に逃げなかった事。
みんなをお母さんを守れなかった事。
母に抱きつき涙を流す。
ごめんなさい、ごめんなさい。
母はキルケーの桃色の髪を優しく撫でる。
まるで、大丈夫。
あなたは良くがんばったわよ。と、
もう頑張らなくて良いのよ。
お母さん・・・。
ーー 現世の終焉ーー
半径5キロ圏内の地形が変わる程の衝撃波の波が襲ったーー。
帝国城に戦火の火が灯ったーー。
ーー PM23:00 ーー




