PM20:00・C地点
ーー C地点 ーー
「な、何て数なの」
「分かってはいたけどいざ目の前にすると、とんでもないわね」
獣車で小高い丘にから一面を見渡すミランダ、リリス、リンスレットの三人。
目の前には辺りを埋め尽くす人、人、人。
地響きを上げ、帝国に向かって行進を続けている。
空は徐々にオレンジから藍色へと変化して行く。
「遠距離の攻撃は余り得意じゃないですので、ミランダさん、リリスさん援護をお願い致します」
「ええ。私は攻撃よりも補助・援護の方が得意なのよ」
リリスは、リンスレットにウインクする。
「私は完全に攻撃型よ。
派手に花火を打ち上げてあげるかしら」
「ふふふ、見た目通りですね」
リンスレットが笑みを見せる。
ミランダは大きく深呼吸すると、
「さーて、いっちょ派手にやりますか!!」
「ちょっ、ちょっとお。まだ援軍が来てないわよ」
リリスの叫び声も虚しくミランダは戦場へ飛び出して行ったーー。
☆ ☆ ☆
「花鳥風月、風の段・烈風演舞」
「リンちゃーんパワーアップだよ!
身体能力増大強化魔法」
リリスの身体能力が増大したリンスレットの動きはまさに神速だった。
無形の斬撃が舞い踊るかのように敵をなぎ倒す。
「 紅蓮の焔よ 我の力となれ!暁の蓮火」
ミランダから放たれた無数の火球が敵を焼き払う。
ミランダ、リンスレットは鬼神の如く攻撃を繰り返す。
また、リリスはミランダ、リンスレットのダメージ軽減や身体能力強化など補助魔法で援護する。
実際の時間では既に、闇に覆われているが夜でも昼間と同じにする魔法のアイテム、
『闇払い』を使っている為、周囲は昼間のように明るい。
敵自体は大したことはない。
アイリス・百合十字軍は魔法攻撃を仕掛けてないので遠距離攻撃の心配は無いのでリンスレットは戦い易い。
しかし、何より数が脅威だ。
倒しても倒しても次から次へと押し寄せる敵の波、遅れてやって来たアヴァロン騎士団の援軍がいてもキリがない程だ。
リンスレット、ミランダ、アヴァロン騎士団(銀の星団中心)はアイリス・百合十字軍の正面で前線を張り迎え討つ。
はあ、はあ・・・
「肉体強化されていても、流石にこの数はキツイわね」
リンスレットに疲労の色が見え始める。
「隊長、布陣を交代制にして休ませる作戦にしますか?」
「いえ、時間は限られてる。
少しでも削れるだけ数は削りたい」
「はい・・・」
副隊長の顔が曇っている。
「どうしました?
疲れているなら一旦下がりなさい」
ーー言葉を溜め、
「いえ、こいつら剣術は大した事はないですが、
一撃、一撃が重くそれでいてタフなんですよね。リリス様の身体能力強化魔法が無ければ一人倒すのにもかなりの時間がかかっていたかもしれないと思うと・・・」
「確かに異常ですね。
何らかの強化魔法が施されている可能性は否定出来ませんね」
「持久戦になれば我々の不利です」
「・・・分かっているわ。
せめて、もう少し援軍がいれば」
リンスレットは戦況を見る。
負傷し疲労困憊の騎士達が必死に戦っている。
自分の指揮が悪いから騎士団に負担をかけてしまっていると自分を責めた。
もっと効率良く闘えたんじゃないのか?
他に方法はなかったのか?
自問自答を繰り返していると、
「団長、団長!!」
リンスレットに大声で呼びかける副隊長。
「えっ、あっ、何?」
「何ボーッとしてるんです?
まだ私たちは負けてないし、体力も気力も気持ちもあります。
団長がそんな顔しないで下さいよ。
みんな団長の姿をみてます」
その言葉で我に返り、パンッと両手で自分の顔を叩いた。
「良し!反省終わり」
再び指を指しながら指示を出す。
「負傷者にはキズ薬を、体力が低下ている者にはパワリンを、魔力が底をついた者には、
ジャックフルーツを提供してあげて下さい」
「御意!!」
騎士団の動ける者が負傷者を担ぎ、キズ薬を飲ませる。
パワリンを届けたり、ジャックフルーツを届けたりとそれぞれの役割を的確にこなすようになり効率が向上し始めた。
「隊長もそろそろ体力が・・・」
「私は大丈夫よ。まだやれるわ。
何としてもこの前線を突破されないように、
死守してほしい」
「はっ!隊長無理しないで下さい」
「ええ。何としても任されたエリアを食い止める!!」
☆
「ミランダ様、パワリンとジャンクフルーツです。どうぞ」
騎士団員がミランダに駆け寄る。
「ありがとう、助かるわ。
ジャンクフルーツって酸っぱいから余り好きじゃないのよね」
ミランダの微笑んだ姿に見惚れる騎士団員。
口調はキツイが、黙っていれば貴族令嬢と遜色がない程綺麗な顔立ちをしている。
ミランダは酸っぱいのを我慢しながらジャンクフルーツを口に入れた。
我慢して眉間にシワを寄せているレアなミランダを見れて騎士団員はガッツポーズをしていた。
戦況は依然としてアイリス・百合十字軍が優勢ではあるが、確実に数は減らしている。
荷車に大量に積んで用意して置いた、
キズ薬・パワリン・ジャンクフルーツが大いに活躍していた。
リンスレットは予め長期戦を予想していたのだった。
他の地点の荷車にも同じように積み込んである。
☆ ☆ ☆
殲滅作戦開始から約二時間が経過した頃、
空間に亀裂が生じ、その中から一つの影が現れた。
「到着時刻になっても現れないと思ったら、
こんなところ遊んでいたのですか」
「その声は・・・」
「メイザース!!」
「ずいぶん兵士の数を減らしてくれたじゃないですか。
まあ、邪魔はしてくるだろうと予想はしていたのだよ」
「私たちの行動は計算済みってことよね?」
「はい。反帝国バンディッツに情報提供した時点で間違い無く、アヴァロン側に情報は流れるだろうと予想していたのだよ」
「それでも私たちはこの行動に出るしかなかったのよ」
「あなた方の行動は間違えでは無いと思いますよ。現にここまで兵士を減らされるとは私も予想してなかったですからねえ」
「しかし」とメイザースは付け加える。
「全て遅いのだよ。もう誰にもこの聖戦は止める事は出来無いのだよ」
メイザースが立っていた場所から一歩横にズレた先には真っ赤に染まる帝国の領地が小さく見える。
その小さなシルエットからは無数の炎と白煙が立ち上っていた。
それを見て緊張の糸が切れたのか、座り込むミランダとリリス。
「まさか、防ぎ切れなかったの?」
「どの地点のグループが?
アーサーたちは無事?」
弟を心配するミランダ。
「私から一つ情報をあげるのですよ。
あなた方以外の地点は全滅なのだよ」
「・・・嘘」
「ならば、ご自身の目でご覧ください」
「どうぞ」と、メイザースは帝国の方向に掌を向けた。
「ーーまだ定刻前なのになぜ?」
「嘘、嘘、嘘・・・ウソだああああ!!」
ミランダは叫んだ。
「ミランダさんしっかり」
叫ぶミランダの肩を掴むリンスレット。
その手を振り払い、
「早く、獣車を持って来い!!」
鬼気迫るものミランダの迫力に圧倒される騎士団達。
「私とリリスさんもミランダさんについて行きます。もしもの事があれば撤退も考えます。後の事は任せましたよ」
「御意」
獣車が到着し直ぐ様乗り込むミランダ。
リリスとリンスレットが乗り込むかの確認も無しに手綱を取り帝国に出発させる。
「アーサー・・・無事でいて」
走り去る獣車を眺めて不敵な笑みを浮かべるメイザース。
彼は追うこともせず、暗闇に消えて行く獣車を永遠と見つめていた。
ーー 時刻 23:00 ーー




