PM16:00・訪問者
「やあ、こんにちは」
桃色の髪に黒いとんがり帽子に黒いローブを身に纏った格好をした少女がリリスの邸宅にやって来た。
偶然居合わせたメンツの中で、唯一の招かざる客だ。
皆、警戒をしていてキルケーの挨拶を無視する。微妙な空気が流れる。
「あれれ?もしかしてお邪魔だったかな」
苦笑いを浮かべ、気まずそうにするキルケーに、ミランダが質問をぶつける。
「キルケーあなたリリスに何の御用かしら。
たまたま飛んでて、久しぶりに会いたくなったとかそーゆーのは聞きたくないから」
「いやー、まさにその通りなんだよ。
悩み事があって誰に相談しようかな?って、箒で飛んで考えてたらホーエンハイムに着いた感じかな」
「たまたま?はっ?あり得ないわ。
私達が今日ここに集まったのは本当に偶然に偶然が重なったからよ。
どう考えてもあなたが今このタイミングで来るのは不自然だわ」
ミランダの言っていることに異論はない。
皆が思っている事を代弁してくれていると言っても良い。
「不自然かどうかは知らないが、ここへ来ようとは最初から思っていたさ」
「どういう事?」
「アーサーは必ずメイザースを避けてリリスに相談すると思っていたからね」
その言葉に全員が身構える。
キルケーは皆の反応を見て、
「嫌だあ、そんなに過敏にならないでほしいなあ。
私はこれでも円卓の魔導士でアヴァロン側の人間だよ」
キルケーはため息を吐いて、両手を広げ肩を落として見せる。
「なぜ私とアーサーの会話を知っているの?」
「いつどこで何を話したなんて知らないよ。普通に考えてメイザースが怪しいなんて分かっているだろ。
ミランダが最初に注意してたんじゃないか?
余りアルファの人間と私と一緒にいるのをよく思ってなかったみたいだからね。
そうなると、自然とリリスになるだろ。
あくまで推測だけどね」
「くっ、アンタが名探偵なのは分かったわ。
なぜ今日、今ここに来たの!!」
キルケーが下を俯向き呟く。
表情を伺う事は出来ない。
「作戦コードグングニル・・・」
その思いがけない言葉にミランダは固まる。
「この話をしてたんだろ。違う?」
「アンタに言う筋合いはないわ」
「ーーって事はしてたんじゃないか。
ミランダ、顔がお喋りだからすぐ分かる」
「ーーなっ!!」
ミランダは顔を真っ赤に染める。
ケイトがスッとミランダの前に出る。
「なぜ、作戦コードの情報を知っている」
キルケーは足のつま先から頭のてっぺんまでまじまじとケイトを見つめる。
「お前は誰だ?」
しーーーーん。
☆ ☆ ☆
「なぜ作戦コードの事を知っているの?」
リリスが改めてキルケーに問う。
その言葉にキルケーは言葉を詰まらせる。
この場でも迷っていた。
ここへ来るときには覚悟は決めていた。
しかし、いざこの場で言おうと思うと言葉が出ない。
今まで自分がやって来た事は胸をはって正しいか?と、問いただされたら確実に間違いだ。
分かっていたが、それを実行する事が自分が生かされている理由だと思っていた。
だから、それが正しいと自分に言い聞かせてきた。
言い聞かせる事で自分を納得させていた。
アヴァロンで円卓の魔導士になる為に私は生かされた。
師であるクローリーが生きる術を教えてくれた。
それを裏切るのか?
決して優しくは無かった。
寧ろ、厳しかった。
何も教えてくれなった。
会話もほぼ無かった。
それでも、今私は彼女と同じ格好をしている。
「ーーそれでも、まだ私は彼女を尊敬しているから」
キルケーの瞳から一筋の雫が溢れた。
「キルケー・・・?」
もしも、私が裏切ったら彼女は大丈夫だろうか。
彼女もまた犠牲者だ。
きっと何も知らされずあの場にいる。
自分が騙されていることも知らない。
素直で真っ直ぐな子だから人を疑うなんて事をしない。
彼女を放っておけない。
彼女を救い出したい。
彼女の為なら何でも出来る。
私の死んでいた心をその優しさで包んでくれたのは彼女だから。
彼女が居なければ今の私はいなかった。
きっと今、この場で全員を殺していただろう。
キルケーの脳裏に彼女の顔が浮かんでくる。
メイド服姿の銀色のショートヘヤーで両サイドを三つ編みにして可愛い赤いリンボで留めている少女の姿がーー、
「彼女を・・・メーディアを救ってほしい」
「キルケー・・・」
「私は・・・私は・・・」
涙を零しながら床に膝をつき崩れるキルケー。
三人の精霊は自然とキルケーのそばにそっと寄り添った。
ーー PM16:00 ーー




