真理の刻②
のせせらぎが子守唄のように聞こえてくる。
風に揺れる葉がメロディーを奏でる。
木漏れ日が溢れる森の中に白い墓石が立ちそこに一本の剣が刺さっている。
「ルナ会いに来たよ」
「アクセルさんと会えたの?」
「お元気かしら?」
三人は白い墓石で笑顔を見せていた。
ここはホーエンハイムのアクセル皇子の墓であり、アクセル皇子のパートナーであり三人の精霊の友達のルナが最期に消えた場所である。
「ルナ・・・」
リサが涙を浮かべる。
「リサ、泣かない約束なの。
ルナには笑顔を最後まで見せてあげるの」
エルザも必死で涙を堪えていた。
「そうよ。このお花をお供えしましょうね」
白い墓石の前にシルフィーがそっと花束を供えた。
「三人で摘んだお花です。喜んで下さいますか?」
シルフィーの目から涙が溢れた。
「ああっ!シルフィー泣いたの。
だめなの・・・泣いたら・・・」
エルザもつられて涙を流してしまった。
「二人とも泣き虫なんだから・・・
本当にもう・・・ルナああああ」
リサは泣き叫んでしまった。
三人は白い墓石の前で思いっきり涙を流した。
ミーナの喫茶店で人間界で初めて出会った時のこと。
ルナと初めて友達になれたこと。
ホーエンハイムでの別れ。
アヴァロンで再び再開した喜び。
一緒に遊んだり話したり楽しく過ごした日々。
全部、全部昨日のことのように思い出が溢れてくる。
もう、会えないかもしれないけど・・・
遠く、遠く離れた場所にいてもずっと変わらないよ。
だって、ルナは私たちの友達だから。
三人を迎えに来たアーサーは木陰からひっそりと三人を見つめていた。
三人の気持ちはきっと天国まで届いているとアーサーは心の中で思っていた。
それは陽射しが眩しい昼下がりの事だった。
☆ ☆ ☆
ホーエンハイムのリリスの邸宅に到着したケイト・エレナ・ナタリアの三人。
相変わらずケイトは眼鏡にボサボサの髪の毛とても元聖騎士とは程遠い見た目をしている。
エレナはリリスと姉妹だけあって本当に良く似ている。紫の髪に青い瞳、違うのは髪の長さがエレナは肩までな位である。
ナタリアはエルフ族で耳が細長く尖っている。歳はエレナと同じくらいで金髪の長い髪をしている。
リリスが邸宅の中に招き入れ、メルルが飲み物などを三人に運んでおもてなしをしていた。
本題のケイト・ローレントの口から語られたのは帝国への奇襲攻撃だった。
作戦コードグングニルー帝国奇襲作戦ー
レムリア国を中心に反帝国を掲げた国々を集めた連合チームを作り、帝国を包囲し一気に叩くという共同作戦である。
しかし、これは反帝国バンディッツにだけ伝えられた内容である。
レーベンハートが交渉の席で言い渡された内容だ。
しかし、ケイト・ローレントが入手した本当の作戦コード・グングニルは違う。
共同作戦は同じではあるが、レムリア国中心の奇襲作戦である。
まず、帝国を大きく三つに分ける。
仮にAエリア・Bエリア・Cエリアと分ける。
Aエリアはアストレア城をメインに攻撃。
Bエリアは南東側を攻撃。
Cエリアは南西側を攻撃。
ここで穴になるのがAエリア北部である。
そこを反帝国バンディッツに担当してもらうのが今回の作戦であった。
Aエリアをゾロアスター教。
Bエリアを薔薇十字軍。
Cエリアを百合・アイリス十字軍。
が、それぞれ担当することになっている。
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作戦コードネーム・・・グングニル
作戦決行時刻 ・・・子の刻
ゾロアスター教
精鋭魔道師団・・・クローリーの悪魔の魔力を色濃く受けた魔導士。
魔力量、魔力レベルはアヴァロン魔法騎士団に相当する。
約五千人の兵力でゾロアスター教の最強兵団。
信仰魔術団・・・ゾロアスター教の信者達による魔術団。
白装束に身を隠した集団である。
魔鉱石により魔法が使えるようになった一般の人間の為、一人、一人は大したレベルでは無いが、何より数が多い。
ざっと五万人の数を誇る。
ゾロアスター教の中心兵団である。
薔薇十字軍
クルセーダーズ・・・主に魔法を得意とする魔術団である。ローゼンクロイツの魔力を色濃く受けた魔導士達の集団。
総勢ニ万人を誇る。
百合・アイリス十字軍
魔法よりも剣・槍等の武装兵団。
薔薇十字軍の一般信者による集団である。
ルシファーの悪魔の魔力の加護を受けている為、一般信者でも魔力耐性・肉体強化などされており、帝国騎士団と同等以上の力を誇る。
総勢ニ万人を誇る。
総勢約十万人の兵力を帝国にぶつける作戦である。
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「十、十万の兵力にゃんか・・・」
「ホーエンハイムの今の兵力は百人ですからね」
「キャットハンズは精鋭部隊にゃん。一人一人のレベルが高いにゃん。数が多ければ良いってもんじゃないにゃん」
メルルは胸を張って持論を唱えるが、
「この数は脅威だな。包囲されたらそれこそ一貫の終わりだ」
アーサーはカタリナ公国での帝国軍との戦いを思い出していた。
耐え凌ぐ辛さ、逃げ出せない恐怖、周りを包囲された絶望を。
「アヴァロンは帝国と敵対国にありますよね?帝国が壊滅するのはそちらにとって良い事ではないのですか」
リリスがじっとアーサーを見つめた。
アーサーは正直、何も考えていなかった。
言葉に詰まるアーサーに、
「俺は、帝国が壊滅することを正直望んでいた。帝国のやり方自体が気に食わないからな。元々、一度クーデターも起こしている」
三年前にクーデターを起こし大臣オドロフを追い詰めた男。その際に一度帝国は死んだ。
ケイト・ローレントはハロルド三世の父である当時の国王を幽閉し決着をつけた。
「僕は正直よく分からないです。ただ、戦争や争いは好きでは無いので人々が血を流さない方法で決着をつけてほしいですね」
アーサーはハニカミながら答えた。
相変わらずだなっと思ったのと同時に、
アーサーらしいと皆が思った。
「この奇襲作戦をそのまま見過ごすの?」
深刻な顔でリリスの妹エレナが問う。
少し間を開け続ける。
「このまま放っておいたら帝国の人々はみんな争いに巻き込まれて死んじゃうよ。
何も知らない、何も関係無い人もたくさんいるのに。またあの時と同じ、私たちと同じ事を繰り返すの?」
エレナは涙目になって訴える。
リリスもそんなエレナの気持ちが分かったのか隣で寄り添う。
「何も関係無い帝国の人々は確かに救いたい。絶対に巻き込んではいけないな」
アーサーの目に力が入る。
「もうニ度とあの魔女狩りの悲劇を繰り返してはいけない」
ケイトはあの日の光景を思い出し唇を噛んだ。
その時、ぼんやりとアーサーの水晶が光り出した。
ーー ミランダからの通信だった ーー




