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三人の精霊と俺の契約事情  作者: 望月 まーゆ
三人の精霊と帝国事変の書
188/217

桃色の過去③

「・・・ちくしょう」


顔を膨らまし、不貞腐れて背中を向けて座っているピンク色の髪の少女キルケー。


「私に勝とうなんて、百年早いわ!」

「ぐうっ、、」


言い返したいが、この紅い目と薄紫色の髪の少女には手も足も出ない。

圧倒的な強さの前に完敗だった。


キルケーがこのレムリア国に来て、二年程の月日が経つ。


その間、毎日のように紅い目の薄紫色の髪の少女クローリーと魔法の組手を繰り返してきた。


キルケー自身、少しは強くなってきたと自覚出来るようにはなったが、クローリーはその次元が違う。自分自身がレベルが上がったからクローリーのその強さがより際だって分かるようになったのだった。


ーー彼女は化け物だと。


「お前も強くなってきたよ。

ただ、やはり魔法の演唱に時間がかかり過ぎだ。 それと、魔力量自体は増えて威力も上がった。だけど、お前自分自身の身体能力が低過ぎる。相手と戦うには魔力量だけでなく、体力や身体能力も鍛えないと駄目だな」


クローリーが珍しくキルケーにアドバイスを送る。


「ーー何だよ、急にアドバイスをくれるなんて、どーゆー風の吹き回しだよ」


「ふんっ、お前が余りにも弱過ぎるからだろ」


「ーーっだと!」


「ククク、それは冗談だ。お前をアヴァロンに送る手配が出来たんだよ」


「私をアヴァロンに?」


「ああ。正式に円卓の魔導士に任命されると思う。その為にお前を鍛えてきたんだからな」


「私が円卓の魔導士に・・・」


「まあ、色々と不安材料はあるが円卓の他の魔導士よりは全然つえーはずだ」


「私はまだお前に勝ってないぞ!」


「当たり前だ!お前が私に勝てるわけがない。そもそもの魔力量のスペックが違うのだ」


「魔力量のスペック?」


「私は、自分自身に悪魔を憑依し飼い慣らしている」


「悪魔を憑依・・・」


「悪魔を押さえつけるだけの魔力量がそもそもないと出来ない事だが、悪魔の力を自在にコントロールしているのだ。

お前が私に勝てるわけがないのはそーゆー意味だ。

まあ、悪魔の力が無くともお前に負ける気はしねーな」


そう言うと、クローリーは大笑いした。


クローリーが自分自身に憑依させている悪魔。それは、アスモデウス。

色欲の悪魔で激怒と情欲の魔神とも呼ばれている。

アスモデウスはまた、愛と欲情の悪魔とされており、クローリーはそこに付け込み自分自身の身を捧げることによりアスモデウスを憑依させ力を手に入れた。


クローリーは自分の体に流れる魔女の血を呪っていた。


汚い呪われた血、自分は汚れた人間。


自分自身を刃物で切りつけ、全ての血を出し尽くす。そして、悪魔の血と入れ替える。


魔女の血が薄まったことにより髪の毛の色が紫から銀色に近い薄紫色になったのだ。


クローリーがなぜそんなにも魔女の血を嫌うのか。彼女がいつどこで生まれたのかなどは謎である。


分かっていることは、アスモデウスはクローリーの身体を乗っ取り自分の欲を満たしているということだけだ。


人間の女性の弱く脆い心と体を内側から蝕んでいく。最後は自分色に染め、悪の心で満たす。自分好みの拠り所(コレクション)を作るのだ。


クローリーは悪魔に支配されることは、承知の上で全てを捧げている。


しかし、簡単に支配されるつもりは無い。

利用するだけ利用する。

せっかく悪魔の力を手に入れたんだ。

この力を最大限に活用し理想郷を手に入れるこそがクローリーの目的だ。



「この悪魔の力を最大限に使うときはそれなりの覚悟がいるからな。だから普段はほんの少し借りる程度だ」


「・・・いずれ悪魔に支配されるのか?」


「どうかな?このまま死ぬまで飼ってるかもしれないし、悪魔に食い殺されるかもな」


クローリーはニヤリと笑みを浮かべた。


キルケーはなぜそこまでして、クローリーが力を手に入れたいのか疑問だった。

悪魔の力を使わなくても多分、世界でもトップクラスの魔導士だ。

別に悪魔の力を手に入れなくても良かったのではないかと思っていた。

そして、何より哀れに思うのがその容姿だ。

キルケーがクローリーと出会ってから二年が経過し、キルケーは背が伸び体力もついた。

少しだけ大人っぽくもなった。

しかし、クローリーは出会ってから何一つ成長はない。


「なあ、、その見た目が変わらないのは、

やはり悪魔の影響なのか?」


キルケーに言われ自分の身体を改めて見つめ直し、


「ああ、悪魔と契約したその日からずっとこのままだ。もう、何十年もな」


「・・・・・・」


キルケーが言葉に詰まり困惑な表情を浮かべていると、


「ククク、そんなに同情しなくてもいいぜ。

私はこの姿でも何とも思わねーからな」


それよりもと、キルケーに背を向け後ろで腕組みをしながらゆっくりと歩き出す。


「アヴァロンに行く準備しろよな」


キルケーは立ち上がり、この二年間の感謝の気持ちを込めてその背中に一礼した。

クローリーはそれが分かったのか照れ臭そうに鼻を掻いた。




「自分でアヴァロンまで行けるな?」

「ああ」

「分かってると思うが、お前の仕事はアヴァロンの内部事情を探り、こちら側に情報を知らせる事だ。絶対にバレるなよ」

「分かってる」

「ヘマしたら殺すぞ」

「ヘマなんてやらねーーよ」


キルケーはクローリーにべーっと舌を出して見せた。


クローリーはそれを見てくすりと笑った。

その笑顔をキルケーは初めて見たような気がした。

これが本当のクローリーの姿なのかもと心の中で思った。


「なあ、私にも同じローブをくれないか?」

「ん?こんなローブでいいのか」

「ああ。なんか黒ローブって魔導士っぽいじゃん」


クローリーは微笑んで指をパチンと鳴らした。


一瞬にしてキルケーの服装が変わる。

黒いとんがり帽子と同じく黒いローブ姿に変身した。


「へへへへ、似合ってる?」

「孫にも衣装って感じだな」

「それは褒め言葉?」


複雑な表情を浮かべたキルケーは指をパチンと鳴らした。

すると、キルケーの右手に箒が現れた。


「じゃあ、行くよ」


キルケーは箒に跨り、悲しそうな遠い目をした。


「ああ」


クローリーも表情こそ変えないが少し、ほんの少しだけキルケーには悲しそうな表情に見えた。


キルケーがレムリアを飛び立った。

クローリーはその姿が消えてもずっと見えない姿を見つめていた。


その日は、青だけがどこまでも眩しい空だった。



その後、キルケーとクローリーが出会う事は無かったーー。


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