レムリア国
「レーベンハートさんはなぜ、レムリアに手を貸しているんだ?」
「そもそも、何でゾロアスター教の信者がこんなにも・・・」
アルカナ・ナイツのメンバーは困惑の色を隠しきれなかった。
現在、反帝国バンディッツは帝国奇襲攻撃作戦、コードネーム グングニルを決行する為に帝国から約100キロ地点で集結していた。
この場所は、杉林に囲まれていて杉は原生林のように高くそびえ陽の光をさえぎるほどだ。
万が一でも帝国からは目視では確認出来ない場所である。
反帝国バンディッツのメンバーは全員総出で出陣している。
これだけ大規模な出陣は五年前の帝国クーデター以降初の事らしい。
ーーらしいとは、その頃はまだアルカナ・ナイツのメンバーはバンディッツに加入していなかった。
今回のバンディッツの出陣は規模が全然違うのだ。
ーーしかし、
そのバンディッツを囲むように不気味に白装束の軍団が混じっているのだ。
ゾロアスター教の件はバンディッツのメンバー誰一人として知らされていない内容だった。
「こんな不気味な集団と一緒に帝国と戦うって事??無理、無理」
ミモザが顔の前で手を振る。
「バッツ本当に何もレーベンハートさんから聞いてないのか」
ウィリアムスが厳しい表情でバッツに視線をおくる。
「ああ、マヂで何も知らねえんだ・・・」
銀髪の髪をくしゃくしゃにしながら、悔しそうにバッツは地面に唾を吐いた。
レーベンハートが何も話してくれなかった事には何か理由があるに違いないと思っていたのでそれは理解出来て納得してはいたが、バッツが納得いかなかったのは、バンディッツを信頼せずにゾロアスター教にも援軍を要請していた事に腹を立てていた。
「最初からバンディッツは信頼されてはいなかったって事かよ」
「ーーみたいだね。もしかしたらレーベンハートさんもこの事を知らなかったんじゃないかな」
アスベルの言葉に頷く、時折吹く冷たい風が肌に痛く感じたバッツだった。
ーーその頃、レムリア国では。
「どういうつもりだ?」
「どうつもりとは?」
真っ赤な絨毯に置かれた、上品な木材で作られた椅子に腰掛け太々しい態度と憎たらしい笑みを浮かべている少女がいる。
絨毯と同じような真っ赤な瞳に、銀髪に近い薄紫色をした髪の毛を肩くらいでカットしている。
前髪は真一文字に切り揃えられている。
レムリヤでその場所のその椅子に座れるのは国の最高位の人物だけである。
つまり彼女こそが国の王なのだ。
その目の前で、筋肉隆々の体格の良い男が必死に訴えていた。
「ふざけるな!!なぜゾロアスター教に援軍を要請したのだ」
「ああ、そんな事ですか。こちらも色々と理由があるんですよ」
「理由だと?このままゾロアスター教に援軍を要請するなら、我々は手を貸さない」
「まあ、それでも構いませんが・・・帝国に復讐するチャンスを永久に失うことになりますよ」
「ゾロアスター教だけで帝国に勝てると?」
「ーーゾロアスター教だけと言いましたっけ」
「どういう意味だ」
少女は不敵な笑みを浮かべ、
「勘違いしている輩が多いから言っておきますが、薔薇十字、ゾロアスター教、福音の会そして秘密結社アルファこれら全て一つの教団で繋がっているんですよ」
「・・・・・・」
レーベンハートは目を見開いた。
一瞬何を言っているのか理解が出来なかった。
何か聞いてはいけない事を聞いてしまっている感覚に陥っていた。
「新聖教クルセーダーズ。これらを全て丸め込んだ名称ですよ」
「・・・なぜ今それをここで話す?」
背中にツーっと、嫌な汗が流れる。
「なぜって、ここが新聖教クルセーダーズの拠点レムリア祭壇だからですよ」
地響きのような音を立て教会の鐘が鳴り響き、一斉に白い鳩が無数に飛び立つ。
「ーーさて、時間だ。グングニルの槍を突き立てに行こうか」
鳴り響く鐘が自分の中の何かが崩れていく音に聞こえていたのだった。
レーベンハートは後に、この事についてこう語っている。
「少女の紅い瞳が血の色にしか見えなかった」と。
ーー 始まりの鐘が鳴る ーー




