極秘スクープ
「はあ、はあ。何としてもこの情報を本社に届けなければ」
彼は必死に走った。
喉は枯れ血の味がする。
「この日の為にずっと耐え忍んで、やっと掴んだ本当の真実だ」
彼は走りながら何度も後ろを振り返る。
ーーしかし、そこは闇。何も見えない。
それでも、何度も、何度も、何度も振り返る。何もないはずなのに・・・
「追われてる・・・ヤバイ、ヤバイ!!」
暗闇の中、全力で走り続け彼の心臓はバクバクで破裂しそうだった。
とっくに限界なんて超えていた。
ただ、「真実を世界に伝えたい」彼の中の使命感だけで今動いているのだ。
一瞬でも気を抜けば倒れてしまい、もう立ち上がる事は出来ないだろう。
「逃げ切れない。もう無理だ、ならばせめて」
彼は立ち止まりカバンの中から紙とペンを素早く取り出すと、殴り書きのように何事かをスラスラと書き込む。そしてーー、何とカバンの中には鳩がいる。
「はあはあ、託した頼む」
鳩の足に紙を結び付けると鳩は暗闇の大空へ翼を広げ飛びだった。
「まぢか・・・」
安堵感に浸っていて彼は気付かなかった。
すでに彼は、白装束に身を包んだ集団に囲まれている事に。
足音などしなかった。
こいつらはどこから?
そんな事を考えている間に白装束の一味は、飛び去った鳩目掛けて無数の魔法を放つ。
「ーーーーっ」
目を閉じ必死で祈った。
ーー 頼む、頼む無事届けてくれ!!ーー
ドサッ
彼の首が地面に転がった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
世界新聞社に伝書鳩が辿り着いた。
「その手紙にはなんて?」
「・・・口にしたらマズイ事が書かれていますね。これが本当なら大スクープです」
新聞社の所長の問いかけにパウロが答える。
「信頼性は?」
「この鳩が命を燃やして届けてくれた。そしておそらくこの手紙の彼はもう・・・」
パウロの視線の先にはテーブルのタオルの上で血塗れで命が燃え尽きた鳩が眠っている。
パウロの手には血が滲んだ手紙を持っていた。字はほとんど解読は不可能だろう。しかし、パウロの特異能力・左手は触れた物の記憶の一部を読み取る事が出来る。右手は自分が見た記憶の断片を念写し、写真のようなクリアな絵を描くことができるのだ。まさに、新聞記事に打って付けの能力だ。
パウロはこの左手の能力「サイコメトリー」で手紙の内容を読み取っていたのだ。
「近いうちに大規模な世界大戦が勃発しますよ。・・・必ず」
「せ、、世界大戦!?」
「ええ。影にいた黒幕が表に出てきたようです」
パウロは鳩の亡骸を優しく撫でながら、
「本当に良くここまで届けてくれた。この情報は必ず世界の為に役立たせてもらうよ」
☆
世界にはいくつかの宗教が存在する。
そして、それを崇拝する教団がある。
その中でも最大の勢力があるのは、
『新聖教団』実態はまるで掴めていない。
あの薔薇十字軍はこの新聖教だと言われている。
ゾロアスター教もまた、新聖教と関わりがあると言われている。
全ての宗教団体の始まりはこの新聖教団なのではないかと、囁かれている。
今回、世界新聞社の記者が数年かけて新聖教団の信者として潜入取材に成功した。
その中で手に入れた情報を今回パウロは入手したのだ。
その内容は大きく分けて三つ。
一つ目、新聖教団の教祖・設立者。
二つ目、薔薇十字軍の真の指導者。
三つ目、世界大戦への引き金と裏の人物。
以上の三つだが、全て繋がっている。
この情報を知っているのは恐らく世界で自分だけだ。
そしてこの情報を確実に信頼できる人物で尚且つ、世界大戦を阻止できる人物に伝える義務がある。
パウロは悩んでいた・・・。
なぜなら、この三つの人物の中でパウロも信頼し繋がりがあった人物の名があったからだ。
それにより、どこまでが黒でどこからが白なのか全くわからないでいたのだ。
もしかしたら、すでに引き金が引かれているのかもしれない。
パウロは頭を掻きながら、天井を見上げた。
ーー もう、引き金は引かれていた ーー




